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14 魔族料理VS人間料理

本日2話目です。長くなりましたがすみません。

次回、最終回……の予定です。

 ついてくると言って聞かないライラを、どうやって断ったものか。

 魔王様が頭を悩ませていたら、こちらに向かって走ってくる見慣れた人影が見えた。


 まるでバネのように髪を弾ませながら、リリーナが走ってくる。

 射程距離まで近づくと、逃がしませんというように、その髪である蛇を魔王様に巻き付けてきた。


「きゃあ!! 勇者様っ!!」

「魔王様! どうして人間の国で勇者の真似事をしていますの!?」


 ライラが悲鳴をあげるが、リリーナの目には魔王様しか映ってない。

 乱れた服装に、疲れの濃い顔。

 少し痩せたような気もする。

 

 忘れられてなんていなかった。

 それどころか、きっとリリーナは――ずっと魔王様のことを考えてくれていた。

 そうはっきりと分かれば、嬉しくなる。


 ――あんなにも暗く沈んでいたというのに、我ながら単純すぎる。

 しかし、嬉しいものは嬉しかった。


 魔王様は、だらしなく緩みそうになる表情を引き締める。

 久しぶりだなと話しかけようとした瞬間、ライラが麺棒を片手にリリーナへ襲いかかった。


「この化け物……っ! あの魔物の仲間ですねっ! 勇者様を放してくださいっ!」

「なんですの、この人間は? ワタクシは魔王様と話しているのです。邪魔ですわ!」


 蒼白になりながら麺棒で立ち向かうライラと、鬱陶しそうにそれを見つめるリリーナ。

 再会に浸っている場合じゃないと、魔王様は我に返った。



 ◆◇◆


 魔王様を迎えにきたのは、リリーナだけではなかったらしい。

 ドクターやシルヴィアも後からやってきた。


 1階にあるカフェを借りて、話しあいを持つことにする。

 すでにカフェは営業を終了していて、人はいなかった。


 順を追って説明すれば、リリーナとライラはなりゆきを理解してくれたようだ。

 魔王様は、ほっと胸をなでおろす。


「魔王様が勇者と呼ばれていた事情は理解しました。それで? 魔王様はこれから、この女と一緒に旅をするつもりですの?」


 リリーナの目がすっと細まる。

 ライラへのあからさまな敵意が、そこにはこめられていた。


(もしかして、嫉妬……してるとか? いや、そんなわけはないよな……)

 こんなふうに静かに怒るリリーナを、魔王様は見たことがなかった。

 つい自分に都合のいいように考えそうになり、それを打ち消す。


 過去に何度かそうやって期待しては、肩透かしに終わっていた。

 単にこの状況が気に入らないだけだだなと、魔王様は結論づける。



「そうです。勇者様……いえ、マオマオくんは、私と一緒にこれから旅にでるんです。そもそもマオマオくんは人間なんですよ? もう、解放してあげてください」


 ――実は魔王だということを言えば、怖がられるんじゃないか。

 そう思っていたが、ライラは柔軟に受け入れてくれていた。

 それどころか、魔族であるリリーナとやりあい、人間である魔王様を庇おうとしてくる。


「はぁっ!? 人間ごときに指図される覚えはありませんわ! 大体、その呼び方はなれなれしすぎるんじゃありませんこと!?」

「あなたこそ、こんなところまでマオマオくんを追ってくるなんてしつこいですよ! 料理が美味しくない国に帰る気はないって、彼ははっきり言ってるじゃありませんか!!」


 リリーナとライラの間で、火花が散る。

 いまにも取っ組み合いがはじまりそうな雰囲気だった。


「落ち着けって2人とも……」

「こうなったのも魔王様が原因ではありませんか! ワタクシが必死になって、魔王様の為に料理を開発していたというのに、人間なんかと仲良くしてっ……!」


 宥めようとすれば、リリーナがなじるように魔王様を睨んでくる。

 聞き間違えでなければ、あのリリーナが自分の為に料理を作ったと魔王様には聞こえた。


「料理って、魔族のリリーナが? 俺の……為に料理を?」

「そうですわ。料理が美味しければ、魔王様が出ていく理由は……なくなりますわよね?」


 確認すれば、不安そうな顔でリリーナが尋ねてくる。

 そうだと言ってほしいというように、リリーナの蛇の一匹が魔王様に絡みついてきた。


 いつもツンとしているリリーナの、少し甘えるような動作。

 たぶん本人も意識せずにやっているのだろう。

 蛇を巻き付かせてくるその動作を、かわいいと思ってしまうのは……どうあがいても、惚れた弱みというやつだった。


「リリーナは頑張ったんだぞ? 魔王様のために、魔族の国の食材を使って料理を作り出したんだ。ここは1つ、料理対決といこうじゃないか」

 くっくっと笑いながら、ドクターが椅子から立ち上がる。


「人間のお嬢さん。カフェの店員と聞いたが、料理に自信はあるか?」

「あります」

 ライラが即答すれば、よろしいとドクターが頷く。


「なら、こうしよう。人間のお嬢さんが作った料理と、リリーナが作った料理。どちらが美味しいか、魔王様に食べ比べをしてもらう。人間の料理が美味しければ、我輩達は何も言わずに引こう。しかし、リリーナの作る魔族料理の方が美味ければ……国へ帰ってきてもらう。どうだ?」


「私は構いませんよ。ちょうど夕飯にと作っていた、特製のスープをお出しします」

 ドクターの提案に、ライラは強気で応じる。

 魔族の国に帰りたくなっていた魔王様は、正直に言うと……迷った。



「家出した手前、素直に帰るとは言いづらいんだろう? 我輩の案に乗っておけ」

 ドクターが側に来て、魔王様に囁いてくる。

 すでに魔王様が帰る気でいることも、ドクターにはお見通しらしい。


「それはそうなんだが……リリーナの料理がライラに勝てるとは思えない」

 泊まっている間にライラの料理をご馳走になったが、母親がカフェを経営しているだけあって、なかなかの腕前だった。

 それにいくら城に帰りたいからといって、魔王様は料理に嘘をつきたくはなかった。


「大丈夫ですわ魔王様。人間ごときの動かない料理に、負ける気はしません!」

「それなら、うちのキッチンを自由に使って作ってください。食材は……どうしますか?」


 しかし、魔王様の心配を余所にリリーナはやる気満々だ。

 対するライラも負ける気がしないのか、余裕の表情だった。

 

「食材なら問題ないぞ。リリーナがどうしても魔王様に食べてもらいたいというからな。最初から持参してきている」


 ドクターがライラに答え、一旦外に出て口笛を吹く。

 空から鷲と猿をかけあわせた合成獣キメラが3体現れ、箱をそれぞれそっと地面に下ろして飛び立っていった。


 大きめの箱は布がかけられていて中は見えない。

 少々重量がある感じだった。


 中くらいの箱は、どうやら食器のようだ。

 キメラが地面に置くときに、陶器の擦れる音がした。


「うぅぅぅ……」

 小さめの箱からは、悲愴感の漂う声が聞こえる。

 一体何が入っているのか……魔王様は不安でしかなかった。


 

「調理が終わるまで、入ってこないでくださいね!」

 リリーナは箱を抱え、キッチンへと消えていく。

 どうやら魔王様が頷く前に、料理対決の火ぶたは切って落とされたらしい。


「ギャァァァ!!」

「なんだよこの悲鳴? おい、リリーナ! 本当に料理を作ってるんだよな!?」

 不安になって魔王様がキッチンに入ろうとすれば、リリーナによって追い出された。


「料理中ですっ!」

「いや、でもさ……!」

 ダメですとリリーナは眉を吊り上げる。

 魔王様の首根っこを、後ろからシルヴィアが掴んだ。


「お嬢様が集中しているのですから、邪魔はしないでください。大人しくあなたは、最後の食事を待てばいいのです」

「最後ってなんだよ!? なんでそんな気の毒そうな顔してるんだ!?」


 同情たっぷりの視線を、シルヴィアは魔王様に送っていた。

 どうやらシルヴィアは、リリーナの料理がどんなものか知っているらしい。

 

 耳をつんざくような悲鳴に、何かが放出されるような「ぶびゅるる……」という妙な音。

 リリーナの料理が大方できあがってから、ライラがキッチンでスープを温めて、2人の料理が魔王様の前に並んだ。


 それぞれの料理には、銀色のフタが被せられている。

 そして、リリーナの料理からは、何故かうめき声が聞こえてくる。

 

「なぁリリーナ。本当に料理したんだよな? 生きてるやつを丸かじりじゃあ、料理とは言わないからな」

「分かっていますわ。ちゃんと茹でたり、炒めたりして、火を通してあります」

 魔王様が確認すれば、ふふんとリリーナは得意げだ。


 

 まずは、ライラの料理から食べることになった。

 ライラがフタを開ける。

 白い器は、クリーム色をしたポタージュスープが入っており、ハート型に切られた小さなカロテアがぷかぷかと浮いていた。


「カロテアのポタージュスープです」

 ライラの用意したそれは、見た目からしてかわいらしい一品だった。


 飲んでみれば、優しい味が口の中に広がる。

 生クリームのコクと、カロテア本来の甘さがうまくハーモニーを奏でていた。


「これは文句なしに美味いな。なめらかな舌触りがとてもいい。スープはまろやかで味は控えめなんだが、飾りのカロテアと一緒にいただくと丁度いいな」

「いつも店で出してるものなんだけど、マオマオくんのものはハートを増量してみました!」

 褒められて嬉しかったのか、ライラは照れながら笑った。


「皆さんの分も用意しましたから、どうぞ。もちろん本物のカロテアであることは、ちゃんと確認してありますから、安心して飲んでくださいね!」


 ライラは、スープを他の人にも配り出す。

 魔王様の分だけ飾りのカロテアを増量したと言っていたが、そこにはわかりやすいくらいの差があった。



 ◆◇◆


(くっ……あのライラとか言う女、やるじゃありませんの……!)

 ライラから振る舞われたスープは、悔しいけれどとても美味しかった。

 言うだけのことはあると、リリーナは思う。


「これは美味いな。くくっ、どうだリリーナ?」

「悪くはないですわ。でも……生きのよさではワタクシの料理が勝っています」

 ニヤニヤ笑いのドクターに尋ねられ、ツンと答えたがリリーナは内心焦っていた。



(けど、ワタクシの料理だって負けてはいませんわ! あの後、何度も練習をして、さらに美味しく改良したんですから!)

 大丈夫だと、自分に言い聞かせる。

 自信満々なふりをして、リリーナは料理のフタに手をかけた。


「次はワタクシの番ですわね。どうぞ魔王様、食べてくださいな!!」 

 バッとリリーナがフタを取れば、魔王様が唖然とした顔をした。


「……これは?」

 ギギギと壊れたおもちゃのように、魔王様がリリーナのほうへ顔を向けてくる。


「ナゲキの実ソースのナマココパスタです!」

 元気よく料理名を答えたのに、魔王様はパスタを見つめたまま固まってしまう。


「動いてるんだが……?」

「気づきました? 魔族の国の生きがいい食材を使っていますからね! 人間の料理とは違って、生命力にも魔力にも溢れていますの! もちろん味だってばっちりですわ!!」


 さすが魔王様はお目が高い。

 リリーナが得意げに答えれば、そうかとだけ魔王様は呟いた。


 触れれば魔物が動きを止める術式を刻んだフォークで、魔王様が真っ赤なパスタをくるくると巻いていく。

 真っ青なソースがそこに絡み、黄色の粒が目に痛いアクセントを添えていた。


「うぅぅぅ……」

「ソースに顔があるの、おかしいだろ……なんか呻いてるし……」

 魔王様はリリーナのパスタを前に、溜息を吐く。

 なかなか食べてくれようとしない。


(やっぱり、魔族の国の料理では……食べてももらえないのでしょうか)

 しゅんとしたリリーナに、魔王様がそんな顔するなと溜息を吐く。


「初めてみた料理で戸惑ってるだけだ。ちゃんと食べるから」

 そう言って、魔王様がリリーナのお手製パスタを口にする。

 その目が大きく見開かれた。


「嘘だろ……美味い……」

「……魔王様っ!」

 有り得ないというように呟かれた言葉に、リリーナは歓喜する。

 魔王様はもう一口と、リリーナのパスタを食べてくれた。


「見た目はアレだけど、トマトソースのパスタみたいな味がする。少しピリ辛で……うまい」

「前に魔王様が食べさせてくれたもの参考にしましたの! ですが、全く同じ味にはなってないはずですわ!!」

 わかってくれたのが嬉しくて、リリーナは前のめりになる。


「パスタの材料にはナマココを使いましたの。海で捕獲するのが大変で……」

 リリーナがこの料理を作ったときの苦労を語れば、魔王様は楽しそうに耳を傾けてくれる。


「慣れないのに……頑張って作ってくれたんだな」

 ふっと魔王様が笑えば、リリーナの胸がどきりと跳ねた。

 滅多に見ることができない極上の笑顔に、リリーナは体温があがっていくのを感じる。


 この間から、何かがおかしい。

 魔王様に笑顔を向けられると、落ち着かなくなってしまう。



「そんなの、魔王様の補佐として当然のことをしたまでで……」

 リリーナが慌てて謙遜すれば、何故か魔王様はむっとした顔になった。


「……リリーナはいつもそれだよな。俺が魔王だから、こうやって料理も作ってくれる」

「それは違います! 魔王様だから何かお役に立ちたいと思うのですわ!」

 冷たい魔王様の声に、リリーナは思わず声を張り上げる。

 

「何が違うんだよ。俺の言ってることと、リリーナの言ってることは同じだろ?」

「全然違います! 他の方が魔王様だったなら、ワタクシはここまでしません!! あなたが魔王様だったから……ソータだからここまでするのです!!」


 魔王様というからややこしくなる。

 そう思い名前を呼び捨てにすれば、魔王様――ソータはビックリした顔をしていた。


「名前……リリーナに呼ばれたの初めてだ。覚えてもないのかと……思ってた」

 魔王様は手で口元を覆い、リリーナから視線を逸らす。

 その顔は、リリーナの作ったパスタの麺並に赤かった。



「もちろん覚えているに決まっていますわ。ただ、魔王様のお名前を一補佐であるワタクシが呼び捨てにしては、皆に示しがつきませんから……」

「そんなの、気にしなくていい。リリーナには、俺の名前を……呼んでほしいんだ」

 おねだりするように、魔王様がリリーナを見つめる。

 照れを含んだその顔を見ていたら、何故かリリーナまで気恥ずかしくなってきてしまった。 


「ですが、魔王様」

「じゃあ、ふたりっきりの時なら……別にいいだろ?」

 それでもリリーナが渋れば、魔王様が妥協案を出してくる。


「魔王様がそういうのなら……しかたありませんわね」

「約束だからな」

 リリーナが了承すれば、魔王様は子供のように笑った。

 また胸がうるさくなって、知らない感覚にリリーナは戸惑う。


 甘酸っぱい空気を醸し出す二人は、その場に他の人達がいることを完全に忘れ去っていた。

 

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