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人型人外恋愛系

旦那様は蓮コラ

※蓮コラ……細かなブツブツ系のコラージュ画像等のこと、精神的ブラクラ、とにかくキモイ(単語検索に関しては自己責任の範疇でお願い致します。当方では責任を負いかねます。)



 奥様の名前は佐和子(さわこ)

 そして、旦那様の名前は大誠(だいせい)

 ごく普通の二人はごく普通の恋をし、ごく普通の結婚をしました。

 でも、ただ一つ違っていたのは…………旦那様は、蓮コラ系人外だったのです。




 これは、そんな夫婦のある日のお話。




「あら。おはよう、ダーリン」

「うん。おはよう、ハニー」

「今朝のごはんは焼きたてホカホカのフォカッチャと、最近は少ぅし暑くなってきたからオカズは冷製系で、エスカベース、スープにビシソワーズを作ってみたのよ」

「やぁ、今日もとても美味しそうだね。いつもありがとう」


 純ジャパニーズピーポーでありながら、まるでアメリカンなドラマのようにスムーズにイチャコラる旦那様と奥様。

 もちろん、旦那様のこのセリフも、奥様の腰を抱いて頬にキッスを贈りながら、ゲロ甘の笑みつきで吐かれたものです。

 いつものように、美味しい・天才・最高の妻を持って自分は世界一の幸せ者、などと非常にクっサイ褒め言葉を連呼しながらの食事が済めば、ごく普通の社畜な旦那様は身支度を整え、これまたごく普通に出勤します。

 すでに結婚から六年以上の時が経過し、新婚と呼ばれる時期も終わりを迎えている彼らですが、今も変わらず旦那様のネクタイを選び結ぶのは奥様の役割です。

 旦那様は自分のために一生懸命なところが可愛かったからなどと供述しつつ、飽きもせず頭上や頬や唇にキッスをしたりされたりと、全力で塩を投げつけたくなるようなイっチャらこき麻呂っぷりを見せつけています。

 当然のごとく、玄関前でもひたすら無駄に時間を消費することを忘れません。

 佐和子と大誠は、未だ爆発していないのが不思議なくらい、とてもとても仲の良い夫婦でした。



 さて、それから十と数時間。

 納期の関係で仕方なくも残業をこなし、夜の二十三時過ぎにようやくの帰宅を果たした旦那様。

 奥様はなぜか朝がやたらと早いので、旦那様は彼女の健康を考えていつだって先に寝ているように伝えてはいるのですが、どうしても彼におかえりを告げるのだと無理をして起きているパターンが常となっています。

 けれど、今日はちょっぴりいつもと違っていて、旦那様が扉を開けても奥様の可愛らしい声が玄関に響くことはありませんでした。

 珍しいと軽く首を傾げながら明かりの付いたリビングへ脚を向けてみれば、そこには彼の為の夕食を並べたテーブルの、その向かい席でこっくりこっくりと眠りこける彼女の姿が。

 連日続く深夜近くの旦那様の帰宅に伴い、それをけな気に待ちわびる奥様もまた、寝不足になってしまっていたのです。

 昼間は昼間で病的なまでに手の込んだ家事(毎日天井やタンスの裏、照明のひとつひとつまで丁寧に掃除するレベル)や料理の準備(例えばカレーならば本場の香辛料を揃えてオリジナル配合を模索)に忙しく、ごく一般的な主婦のように暇を見て仮眠するという手段も取れません。

 夜は夜で、遅くなると言われているにも関らず、奥様は「もしかしたら連絡のあった時刻より早く帰ってくるかもしれない」という希望を抱いて、ひたすらじっと旦那様を待ち続けているのです。

 そんなオブラートを十枚ほど重ねた上で敢えて無理やり良くいえば尽くすタイプな奥様の深い愛に、旦那様はメロメロメロリーナでした。

 優しく目を細めて居眠りする彼女の姿をしばらく堪能してから、彼は静かにその場を後にします。

 起こすのが忍びないと思った旦那様は、先にシャワーを浴びようと考えたのです。

 そして、さすがにそうなると、人間に擬態したままでは服を着ているも同然の状態であるので、本来の蓮コラ系人外の姿に戻る必要が出てきます。

 ちなみに四六時中イチャこいている奥様と旦那様に子がいないのは、この辺りの事情が関係していたりいなかったりするのですが、これは今現在において特にどうでもいい話でしょう。

 あと数歩のところでまだ脱衣所にはたどり着いていませんでしたが、今日という日は奥様の目もありませんので、旦那様は暗い廊下を進みつつ無音で空間を歪ませ徐々に擬態を解き始めました。

 瞬間、背後で絹を引き裂くような女性の叫び声が上がり、旦那様の耳を貫きます。

 この家の中に唯一存在する女性といえば奥様です。

 うたた寝から目覚めた奥様が、帰宅したらしき旦那様の気配を追って、探しにきていたのでした。


 絶望的な気分に犯されながらも、即座に人間形態に化け変わる旦那様。

 しかし、奥様は血の気の引いた顔で再び悲鳴を上げ、彼の前から逃げるように走り去ってしまいました。

 たった今、目の前で起こった非情な現実を直視したくなくて、旦那様は呆然とその場に立ち尽くします。


 それからどれだけの時間が経ったでしょうか。

 ふと、己の元へ近付いてくるかすかな足音に気付いた旦那様が顔を上げてみれば、闇の中から染み出すように奥様が姿を現したではありませんか。

 一瞬、喜びの声を発っしそうになった彼はしかし、彼女の異様な雰囲気を見て取って、すぐに息を飲み込みました。

 ゆらゆらと幽鬼のように戻ってきた奥様は、右手に出刃包丁、左手に離婚届を携えて、ハイライトの入っていない瞳で静かに、しかし、圧倒的威圧感をもって口を開きます。


「……ねぇ、ダーリン、言ったよね?

 私の前で二度と元の姿には戻らないって……言ったよね??

 君が僕の本性を受け入れられないのならソレでもいい、ずっと人の姿でいるから結婚してくれ……って、言ったよね???」


 さながら自殺の名所で響いてきそうな、対応を間違えた途端に地獄の底に引きずり込まれそうな、そんなゾッとしない声でした。

 包丁の刃を縦ではなく横向きで構えている辺り、プロみを感じます。


「あ、あぁ、もちろん覚えているともハニー」

「……私、あの時……ダーリンの本当の姿を受け入れられなかった時、ダーリンを好きでいる資格なんてないんだって、本気で思ったのよ……だけど、大丈夫って、人の姿だけでも好いてくれているなら充分だって、ダーリンの全部を愛せない私に結婚しようって、言ってくれて、私、すごく愛されてるんだって、嬉しかったのに……なのに……なのに、こんなっ……ダーリンはもう私のことなんて、これっぽっちも愛していないんだわ!

 それならそうと言ってくれればいいのに! こんな遠まわしに嫌がらせみたいな真似して、酷いっ、酷いわ!!あああぁああぁああ!!」


 髪を悪霊のごとく振り乱す奥様へ、旦那様は怯むことなくこう叫び返しました。


「違う! 誤解だ! 君を愛していないなんて、そんなことあるはずないじゃないか!

 少し残業が続いて疲れていて、つい気が緩んでしまって……あっ、で、でも、もう本当に二度とこんなこと無いようにするから、これからは細心の注意を払うから!

 愛してる、すまない、ごめん、申し訳ない、本当に悪かった、許してくれ、頼む佐和子!

 本当に愛しているんだ……だから、まずはその包丁と離婚届を一旦置いてくれないか、お願いだ、一度だけでいいチャンスが欲しい、二度としない、頼む、君を愛してる、愛しているんだ……」


 全身から冷や汗を流しながら、必死に言い募り、青白い顔でその場に土下座する旦那様。

 奥様は仄暗い闇の底を覗き込んででもいるかのような空ろな目玉で、額を地に擦り付ける彼のことをじっと黙って見ていました。


 奥様は世間的な目で見て大変に面倒臭い女性ですが、旦那様が彼女を愛しているというのは本当です。

 それまでの恋のお相手は、旦那様の正体を知るやいなや彼を恐れ、逃げ出しました。

 旦那様がすぐに人の姿に戻ってみせたところで、彼女たちの恐怖に怯える瞳の色が変わることはありませんでした。

 しかし、そんな女性たちの中で、奥様だけは違ったのです。

 彼の蓮コラ系人外姿を前に、過去の恋人同様、腰を抜かしながら泣き喚いていた奥様は、けれど、彼が深い悲しみと共に再び人に擬態した瞬間、怖かったと叫びながらしがみついて来たのでした。

 その瞬間の旦那様のビックリ仰天具合といったらありません。

 だって、蓮コラ系人外と旦那様は、姿は違えども全く同一の存在なのです。

 混乱しながらも、何とか彼女を落ち着かせてみれば、出てきたのは謝罪の言葉でした。

 なんでも、旦那様を愛する気持ちは少しも変わらないが、あの姿だけは生理的に受け付けられない、とのことで、奥様は自分自身が不甲斐ないと嘆き、彼の腕の中で幾度も謝り続けていました。

 人間の姿に対する奥様の態度がちっとも変わらなかったことで、恋に破れ続けていた旦那様は大層感激し、当然の流れとして、それまで以上にもっともっと彼女のことが大好きになって、また、自分の相手は世界でたったひとり彼女しかいない、と思い込むようになります。

 そして、彼の全てを許容できない自分は恋人として相応しくないと言って身を引こうとする彼女に、旦那様はそれでも構わないとプロポーズをしたのです。


 土下座の状態で更に「君と別れるなんて耐えられない」や「僕の愛を信じられなくなってしまったのなら離婚と言わずいっそ殺してくれ」などと通常人の間隔からすれば重すぎるドン引き必至のセリフを吐き出す旦那様。

 しかし、生来の愛されたがりな奥様は引くこともなく、逆にそんな旦那様の様子に私ってば愛されてるのねメーターが満たされて、段々と目の光を取り戻していきます。


「……本……当に? 本当に……まだ私のこと、愛してくれている?」

「もちろん! 心より愛しているともハニーッ!!」

「そう……そうね、ダーリンってば最近は残業続きだったから、私も変に不安になってしまっていたのかも。

 ごめんなさい……疲れているダーリンのこと疑ったりして、私、悪い妻でした」

「いや。ハニー、分かってくれて嬉しいよ。

 やっぱりハニーは僕の最高の妻だ。僕の妻はハニーしかいない」

「ダーリン……ッ」


 反省し項垂れる奥様を、旦那様はそっと優しく抱きしめました。

 そんな彼のあたたかな腕の中で、彼女は小さく呟きます。


「ねぇ、でも、ダーリン。

 本当にもうずっと一生、約束破らないでいてくれる?」

「約束するとも! 二度とハニーを怖がらせるような真似はしない!

 もしまた僕が何より大事なハニーとの約束を破るようなことがあったら、その時は今度こそ、その包丁で僕を刺し殺してくれ!!」


 言って、奥様の右手を静かに掴み、出刃包丁の刃を自らの首に誘導し添える旦那様。

 完璧に研磨された鋭利な刃が僅かに彼の首を傷つけ血が流れ出していたけれど、それは全く二人の意識の外の出来事でした。

 旦那様の真剣な様子にすっかり感激した奥様は、あっさり物騒な刃物と離婚届を後方に放り捨て、その空いた両腕で彼の胸に力強く抱きつき叫びます。


「あぁっ、ダーリンっ! 愛してる!!」

「僕も愛してる! マイスイートハニー!!」


 イチャラブちゅっちゅラブちゅっちゅ。

 すっかり二人は仲直り(糖度当社比五割増)です。

 ……なぜ爆発しないのでしょうね?




 と、まぁ、そんなこんなで、とあるメンヘラ夫婦のある日の茶番劇はこれにて終了。

 御粗末様でした。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] ただぶつぶつなんだったらひっどいニキビ面と変わらないから、きっと身体中にタピオカくっつけたみたいな感じですかね?
[一言] 蓮コラ...思い出しただけで鳥肌が( ノД`) でも怖いもの見たさで、この小説を読んでしまいましたがw 個人的に苦手な物が多いので、許容できる心の広い奥さんが旦那さん諸とも末永く爆発します…
[一言] 気になって蓮コラ検索してしまいました……orz 初めて知ったのですが、これは無理乂-д-) 生理的にアウトです。 さや様の人外恋愛小説でこんな気持ちになったのは初めてです。描写がないのが、…
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