教父のプレゼント
ん、何…………?
なんか、物音が…………。
「おっはよー」
…………ミユちゃん…………?
………………………………。
「…………えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっ!!」
「しーっ、静かにして!まだ夜明け前なんだから!」
そう言って私をたしなめるのは、最近知り合った同い年の女の子、ミユちゃんだ。
私が目を覚ました時には、既にマウントポジションをとられていた。その状態の中、私は彼女の人差し指で口を塞がれているのだ。
ミユちゃんは上半身を起こして言った。
「ごめんね、こんなクリスマスの夜に、というか朝に押し入っちゃって。迷惑だった?」
「全然迷惑じゃないよ!むしろ嬉しいくらい!だって、お化けになってまで私に会いに来てくれたんだもん!まるで、サンタさんからのプレゼントだよ!」
「…………そう。わたしはこんな体になってまで此処に来たんだよ」
“さあ、一緒に遊ぼうか、ユミ……………………”
◆◆◆
南芽家のインターホンが鳴る。
中からは、南芽家のの主である芳成と、妻の遥が現れた。
「はい…………。ああ、刑事さんですか…………」
◆
「どうぞ、お掛けください」
「失礼します」
刑事は小さなシャンデリアのあるリビングへと通された。
三人全員がペルシャ絨毯の上のソファに座ると、刑事はゆっくりと口を開いた。
「…………今回の娘さんの事件について、進展がありました…………」
「娘を殺した犯人が、わかったんですか!?」
「誰が、一体誰がユミを!?」
「旦那さんも、奥さんも、落ち着いて聞いてください。…………先日、この町でとある女子高生が自殺した事は、知っていますか?」
「ええ、知っていますよ。娘と同じ高校の同級生だったので、よく覚えています。それと娘の事件に何の関係が?」
「実は、その少女のスマートフォンにこんな音声メモリーが記録されていました…………」
刑事はポケットから携帯レコーダーを出してテーブルに置き、再生ボタンを押した。
すると、スピーカーからは二人分の声が聞こえてきた。
「さあ、もっと大きく脚を広げて、両腕ももうちょっと胸に寄せようか」
「うっ、うっ…………もう、やめて…………」
「ダメだよ…………ミユちゃんは今までで一番絵になるんだから、そんなミユちゃんには私の額縁に収まる義務があるんだよ…………」
カメラのシャッター音が何回も鳴り続ける。
「…………うーん、やっぱり最後はいつも通りヌードかな。下着、全部脱いじゃおうか」
「やめて…………、やめてぇぇぇぇぇぇぇっっっ!」
「泣き叫ぶミユちゃんもかわいいなあ。大好き。愛してるよ」
なにか、布地が裂ける音が聞こえて、そこで録音は終了していた。
「「………………………………」」
南芽ユミの両親はあまりの衝撃に黙りこくってしまい、部屋は沈黙に包まれた。
少しためらいながらも、刑事は続けた。
「…………少女の自室から、遺書が見つかりました。…………読みますね…………」
お父さん、お母さん。先立つ不孝をお許しください。
今まで報復が怖くて言えなかったけど、わたしは、同じ高校の女の子にいじめられていました。
いろんな格好で、写真を撮られました。
コスプレをさせられて、恥ずかしいポーズを命令されたこともありました。
制服のボタンをちぎられて、床に寝かされて、上から牛乳をかけられて、口や体中の穴に剥いたバナナを挿されて、ビデオに撮られたこともありました。
下着を破られて、縄で柱に固定されたまま、全身を舐められたこともありました。
親や先生に言ったら、撮った物を実名付きでネットに流して、別荘のひとつに一生監禁すると言われました。だから、ずっと誰にも相談できませんでした。
今やわたしの子宮の中は、あの子が管で流し込んだ牛乳やヨーグルトでいっぱいです。
指で掻き出しても、また新しく詰められました。
わたしは、撮影されている時はまるで妊婦さんのようなお腹にされて、事が済んだらバキュームで膣の中身を吸い出してから上着だけを着せられて帰されました。
そんなことが続きました。
毎日毎日。何度も何度も。
犯されました。壊されました。
心も、身体も、将来も。
全部、全部。
もう、耐えられません。
ごめんなさい。
遺書には、少女の悲痛な叫びが綴られていた。
刑事は続けた。
「遺族の同意を得て解剖したところ、彼女の体内や胎内は凄惨な状態で、なかには娘さんのDNAと一致した粘っこい物質まで発見されたそうです…………。それで……………………」
父親はそれを手で制した。
「もう、いいよ…………これ以上は、聞きたくない…………」
「そうですか…………」
刑事は無言でその場を去って行った。
南芽ユミの両親は、ただただうなだれるしかなかったのだった……………………。