93. ダンジョンの水場へ
水場を求めて、ゴツイランタンを抱えて地下迷宮を右往左往。
ビックフロアと言うのだから、たぶん広さもビック。
僕の手にある情報は、冒険者ギルドでもらった、ダンジョンの断面図。
縦穴も描いてあるので、どうも、ここは三十階ビックフロアらしい。
そして、大事な所が、イラストの冒険者坊主で隠れておる。
くそうっ、『君もダンジョンに挑戦しよう!』じゃないよっ。
しかも、断面図だから、真ん中あたりに水場があるとしか解らない。
迷宮をうろうろすると、当然、魔物とエンカウントします。ぬおー、こええ。
ゴツイランタンを床にぶっさす。
オークがまた三匹、戦闘です。
すり足で距離を詰めて、僕が一匹投げる。
パットが距離を詰めて、一匹斬る。
僕は、固め技を掛けて、オークのどっかを折る。
パットが進んで、もう一匹を真っ二つ。
僕が、オークの首を取ってねじる。
ゴキン。
おしまい。
今の所、トレ坊とクルツに出番は無い。
そして、一戦すると、僕は疲れてへたり込む。
やべー、地上に戻れるのかこれは。
「兄ちゃんは強ええけど、ひ弱だなあ」
「余は情けないぞ、勇者よ」
「すんません」
「我が君の体力が持ちそうにないですね」
「がんばります」
オークが倒れたら、クルツの出番。
ナイフを使って、器用にオークの胸を切り開いて、魔石を取ってますね。
血がどばどば出ています。
オークが着ている装備とかも取れれば取れるのだけど、品質が悪いし、重いのでダンジョンの隅に放り捨てている。
「結構金になりそうだ。これなんか五千グースは硬いぜ」
「オーク三体で一万五千グースか。なかなかだな」
「五千グースあれば、うちでは五日間、暮らせるからなあ、早く大きくなってここら辺で稼げるようになりたいな」
「一日、千ケルほどで暮らせるものなのか? 一人でか?」
「いや、俺と妹と母さんの三人暮らしだよ、喰っていくだけなら千グースあればなんとかな」
「母さんがいるのか、それはうらやましいな」
「そのかわり父さんはダンジョンで死んでしまったよ。遺体も戻らなかったよ」
「余は父上が健在だ、遺体が無いのでは葬式もだせないではないか」
「ああ、だから俺が頑張らないといけないんだ。母さんは病気でさ……」
「そうか、それでも、盗みは良く無いと、余は思うぞ」
「盗まねえとやっていけねえんだよっ! しかたが無いんだっ!」
「うむむむむ」
トレ坊が腕を組んで悩み始めた。
色々世界には問題があるんだな。
僕の体力問題とかね。
しかし、オークはまだ良い、いわば太ったおっちゃんだ、問題は、四つ足獣とか、カマキリとか出たらどうしようという事だ。
奴らに柔道は掛かるのかね。
へたれていても上には登れないのでランタンを抱えて歩き出す。
先行はクルツで、前方の警戒をしながらゆっくりと進む。
みんな音を立てないように静かに進む。
オーク達もランタンを持つので、結構遠くから解る。
「クルツ、こっちで良いのか」
「ああ、兄ちゃん、壁に白墨で矢印があるだろ、これの反対側がきっとキャンプ、つまり水場だよ」
あ、なるほどね。
確かに三十階あたりで探索するならば、目印は水場のキャンプから奥に向けてだろう。
これは助かる。
どれくらい魔物が徘徊しているのかは解らないけど、たぶん五匹以上のオーク級に囲まれるとやばい、死ぬ恐れがある。慎重に慎重に歩く。
と、クルツが立ち止まった。
「やっべー……」
クルツの前方の曲がり角に首だけだしているのは、ええと、なんと言いますか、竜じゃないんだろうけど、もの凄い大きい蜥蜴の頭。
舌をチロチロ出してます。
でかい、たぶん小型乗用車ぐらいあるね。
「下がって、まだ気づかれてないから……」
みなさん、静かに後退。
距離を取る。
どうするか、初の四つ足相手に柔道するか。
というか、奴は何者、毒とかあるの? 火を吐くの?
「確か三十階にはブレスを吐く敵は居ないと聞いたよ、気になるのは毒かな」
「ただのデカぶつという可能性もある」
「大きいのだ、余は恐れる」
今の所、他の魔物は居ない。馬鹿でかい蜥蜴だけだ。
あ、頭を引っ込めた。
どこかに行ったのか、それとも待ち伏せているのか。
殺気感知には何も引っかかってないから、気がついては居ないと思うのだが。
うむむ、鏡が欲しい。
というか、ランタンが点いてるのだから、普通に気がついてるのでは? 目もあったしなあ。
ばっと蜥蜴くんが曲がり角に姿を現すと、こちらに向けてどたどた走ってきたー。
ぎゃー!
足が六本ありますよ、この人!
ランタンを床に刺し、すり足で接敵し、前足を取る。
げ、重い。
持ち上がらない。
蜥蜴君はパットに向けて、何かのガスを吐き出した。
なにそれー?
パットの動きが一瞬止まった。
「麻痺ブレス! ゲイズハウンドだっ! 気を付けて兄ちゃんっ」
パットが崩れ落ちた。小声で何か唱えている。
蜥蜴君あらため、ゲイズハウンド君は、口を大きく開けて、パットに噛みつこうとしている。
そっちに向かう動きを片足を持って、動きを足して、足して、足して。
うわ、質量が多すぎ。
それでも、重心がぐらついたので、前足の軸を、足で蹴って払う。
ぐりんと、ゲイズハウンドの上半身が回った。
そのまま、二本目、真ん中の足の軸を払う。
さらに、ぐりっと回る。
なんかガスを僕にはきかけようとしたのだが、口が上に向いていて、明後日の方角へ、まき散らされる。
ガスを吸わないように息を止める。
ゲイズハウンドはもう、半分ぐらい、ひっくり返っている。
さらに胴体に潜り込むようにして、重心をさらに崩す。
だあん!
ゲイズハウンドの巨体は通路に完全にひっくり返った。
どたどた暴れて立て直そうとしている。
パットが起き上がった。解毒したようだ。
ゲイズハウンドのお腹に、なにか弱点は。
見つけるんだ柔道アイ!
魔力の流れているとおぼしき線がうっすらと見える。
見えているのか感知してるのか。
前足の付け根あたりに、大きな溜まりがある。
そこへ、ナックルの鉄拳をぶち込む。
どかん!
重い音がして、僕が殴った部分が凹んだ。
ごぎゅありあああ!
ケイズハウンドが醜い悲鳴を上げて、暴れる。
尻尾が来たので避ける。
質量が質量なので、当たったら吹っ飛ばされる。
もう一発、凹んだ部分に、ナックルパンチ!!
どかんっ!
いつの間にか、僕の動きは、マダームが見せた、正拳突きの動きをなぞっていた。
補正が、かかっているな。
バチュリと嫌な音を立てて、ケイズハウンドの胸板に僕の拳が潜り込んで、血がぶわっと散った。
ここに何かあるっ!
そのまま手を広げ、魔力の中心の何かを握りしめ、引き抜く。
グヘッ。
間抜けな鳴き声を一声出して、ケイズハウンドの動きが止まった。
はあはあ。
「僕の、勝ちだっ!」
「我が君、我が君、凄いです、さすがは我が君」
「ケ、ケイズハウンドを殴り殺すなんて、聞いた事ないぜ、兄ちゃん!」
「勇者よ、よくやった、褒めてつかわすっ!」
「うあー、疲れた」
僕は通路に尻をつけて、へたれた。
手には、血にまみれた、大きな碧の魔石があった。
「パット、麻痺は大丈夫?」
「魔法で解呪しました。まだ少々痺れてますが、大丈夫です」
「クルツ、こいつはなんか他に素材取れる?」
「図体でかいから、丸ごと持っていったら高く売れるけど、あんまりないな。あっ、そうだ」
クルツは短剣の柄で、ケイズハウンドの牙をガンガン殴って折った。
「ほら、上の牙は兄ちゃんと、パット姉ちゃんの分。下の牙は、俺と、トレバーの分。こうやって強敵はみんなで記念にするんだ」
「ほお、それは良いな」
「ありがとう、クルツ」
「うむ、ありがたく頂戴するぞ、クルツ」
それぞれに記念の牙を握って、みんなにっこり微笑んだ。
……?
魔法袋に入らないか、ケイズハウンド君?
入れてみた。
普通に入った。
通路には血が散らばっているだけになった。
「魔法袋すげえなあ。やっぱ欲しいよなあ」
「ケイズハウンドの死骸は、丸ごとギルドで売りましょう」
その後、オークを三匹倒してから、水場に到着した。
結構湿っぽい広場になっていた。
壁には白墨で色々な情報が書かれている。
ここから左のほうに向けて矢印があり、二十九階階段、と書いてあった。
ふう、やっぱりここは三十階のビックフロアか。
やれやれ、一休み一休み。
水場で手を洗って、水筒に水を入れる。
結構冷たくて澄んだ水がチョロチョロと流れている。
ごくごくと水を飲む。
うまいうまい。
なにかすぐ食べれるものと、魔法袋の中を探ってみたが、調味料とお米とかばっかりで、結局パリムぐらいしかない。
一個出して、みんなで分割して食べる。パリムの残りはあと二つ。
ついでに、お米を出して、鍋に入れ、磨いでおく。
ショキショキと磨ぐ。
米は、一時間ほど水に浸しておかなきゃならないので、すぐには炊けないのが欠点だよな。
研ぎ終わったら、水を目分量で量って入れて、魔法袋に入れておく。
魔法袋の中は、振動が伝わったり動いたりしないので便利だよな。
鍋だと火加減が解らないな、飯盒でもわからないのだけど。電気炊飯器が恋しい。
「美味い! こんな美味いパンは食べたことがないぜ!」
クルツが普段どんなパンを食べているのか、想像すると泣ける。
食料はある、だから、ここで野営しながら、深い階から帰る冒険者が通りかかるまで待つ手もあるなあ。一緒に帰還すれば、相当楽だろう。
しかし、トレ坊はなるべく早く地上へ返してあげないといけないしなあ。
あと、オッドちゃんが遅いのに苛立って降りてくる事も考えられる。
大丈夫かなあ、オッドちゃんとあやめちゃん。死舞手に襲われてなければ良いのだけど。
懐中時計を見る、今パンゲリア時間で昼時間の八時。
地球時間だと四時頃かな。
ふう、疲れたなあ。
【次回予告】
迷宮の奥深く、三十階層から、地上への脱出は始まったばかりだ!
二十九階のフロアボスを目の前に、げんきの脳裏に映るものは、生か死か!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第94話
二十九階のフロアボス




