91. クルツ逃亡
食後、キャンピング馬車の中で、オッドちゃんの謎空間から、解毒薬を一種類ずつ、僕の魔法袋に入れたりしていたら、パンゲリア時間で昼の六時前になったので、馬車から出て、オッドちゃんの謎空間にしまってもらう。
外に出ると、相変わらず陰気なダンジョンの部屋で、なんか気持ちが沈む。
ダンジョンの中で難癖を付けてきた冒険者だけど、ああいう奴らは、基本的に取りしまれないらしい。
確たる証拠があれば、地上で罪を問う事もできるんだけど、基本的にダンジョン内でのトラブルはメイリン行政府も、全くノータッチだそうだ。
だから、ダンジョンの浅い階で一番の強敵は、普通に冒険者らしい。
とりあえず、被害者は殺してしまって、死体を放っておく、二時間ぐらいで、装備も死体もダンジョンに喰われて無くなるとか。
そんな感じで、ダンジョンの中は超無法地帯らしい。
ダンジョンとは、ひどい場所だなあ。
超無法地帯なんだけど、あんまりにも冒険者の評判が悪くなると、なぜか事故で死んでしまうらしい。
裏でベテラン冒険者が必殺仕事人をしているのだろうね。
その場合も舞台はダンジョンで死体は迷宮に喰われて出てこないらしい。
コワイコワイ。
ダンジョンレストランの前に行くと、コゼット先生と貴族学院の生徒達が待っていた。
お待たせしました、と頭を下げて合流。
ぞろぞろと、六階へ降りていく。
六階の暗さを見て、生徒達が息を飲むのが解った。
「先生、スライムが居ます!」
「危険なので触ってはいけませんよ」
さっきのスライムはまだ居たのか。
「魔物が出ても触ったり戦ったりしてはいけません。魔物が出たら先生が対処しますから」
魔物がコゼット先生の手に余るようだったら、力を貸そう。
生徒達は、緊張しながら歩き出した。
博物館みたいに照明はないのだけれど、十階までは罠も無効化してあるし、壁には順路標識も、かかっていて、ほぼ安全らしい。
僕らのパーティのモフモフ大魔神の方が生徒より心配だ。メグリンウサギが出ませんように。
小部屋を見学したり、戦っている少年冒険者を観戦したりで、貴族学院の一行はどんどんダンジョンを降りていく。
コゼット先生の所へ、柄の悪い冒険者がよってきてなにか言ってるので、近づいてみる。
「そんな事はできません」
「通行料だって言ってるだろ、先生、それとも何か、俺らが生徒をぶん殴って徴収してもいいのかい」
「おまえ~」
さっき追っ払ったダヤンたちであった。
「あ、勇者の兄貴っ」
「兄貴じゃないよ、治療院に行けって言ったろ、なにやってるんだよ、お前」
「いや、ここらへんは俺たちの縄張りだから、その、通行料をですね」
「いい加減にしないと、全員ぶっとばすよ。あっちいけ」
「ちえ、兄貴にはかなわねえなあ。命拾いしたな、先公」
ダヤン達はぶつぶつ言いながら、通路の方へ歩いて行った。
「あ、ありがとうございました、勇者ゲンキ」
「いえいえ。さっき揉めたばっかりの馬鹿冒険者たちでして」
「本当に同行してくださって助かります。例年ならベテラン冒険者さんが、ああいう人たちをおっぱらってくれてたんですが。やっぱり先生だけでダンジョンに入るのは危ないですね」
「そうですね、冒険者の護衛が見つからなかったら博物館だけにするのが無難だと思います」
「喧嘩になったら余が追っ払ってやったものを」
「お、トレ坊、頼もしいね」
「余は未来の領主であるからな、それくらいは当然なのだ」
僕がトレ坊の頭を撫でると、トレ坊は気持ちよさそうに目を細めて笑った。
階段を降りて、僕らは六階へと降りていく。
通路で少年冒険者が隊列を組んで、魔物の群れと戦っている所に通りかかった。
敵は、メグリンウサギ三匹とメイキュウオオネズミが二匹。
六階あたりになると、魔物もパーティを組むようだ。仲間というよりも、自然発生的な群れで、敵対優先順位が人なのだろうね。
先の曲がり角から、のっそりと、メイキュウオオカミが現れた。お、希にしか出てこないやつだ。大丈夫か、少年パーティ。
僕とパットは念のため、貴族学院の生徒達の前に出る。
あやめちゃんも前に出てきて、何をするのかな、と思ったら、
「みんな、がんばって~」
と、広域に掛かる【応援】を掛けた。
おっ、と、言う感じで、少年冒険者たちは、ちょっとビックリした顔をしたが、即座に隊列を組み、ショートソードなどで戦っていく。
ウサギとネズミの残りをかたづけて、盾持ちの少年が前に出て狼の攻撃を防ぐと、すばしこそうな少年が弓を射かけ、ローブの少女がファイヤーボールを打ち込んだ。
火球の光で、洞窟がバッと赤に照らされて、その光が消えると、メイキュウオオカミは通路に倒れて、前衛戦士君のショートソードで心臓にとどめを刺されて、その動きを止めた。
おー、頑張ったね。
少年冒険者隊は、僕たちに気がつくと、黙礼して、獲物を通路の端によせて道を空けた。
貴族学院の生徒が興味深そうに、獲物を解体していく少年冒険者隊を見ながら通行する。
「お姉さん、なんかバフ系の魔法かけてくれた?」
「え、わたしは知らないんだよ」
「そうなの、でも応援ありがとう。狼は強敵だから気持ちだけでも助かったよ」
「なんのなんのだよ」
生徒が全部少年冒険者隊の所を通過したので、少年達に手をふって、僕たちは生徒の列の後ろについた。
「子供なのに、あんなに頑張っているのだな、感心な平民だ」
「平民が頑張っているおかげで世界は回っているんだよ」
「そうか、そうなのかもしれないな。勉強になるな」
また階段を降りる。現在は七階。
階が深くなるごとに、だんだんと、ダンジョンの雰囲気が威圧的になっていくような気がするなあ。
ジャイアントトードが五匹、貴族学院の生徒の一団の前を塞いだ。
ジャイアントトードというのは、でっかいカエルだ。
僕らの前で、ゲロゲロ鳴いている。攻撃してくる気配はないが、逃げようともしない。
結構邪魔だ。
コゼット先生が短いロッドを前に出して、呪文を詠唱した。
アイスブラストという魔法らしい。
何本もの氷柱が空中に出現して、ジャイアントトードを串刺しにしていく。
もう一人の男の先生が、ひのき棒でトードを叩いて倒していく。
トードを全滅させて、道ばたに死骸を寄せて、一団はまた歩き出す。
この手の雑魚を解体しても、屑魔石しか出ないので、暗黙の了解で少年冒険者たちに残しておくのだという。
「コゼット、ガスクラウドが来るわ、風魔法を」
「あ、風は私が」
男の先生が詠唱を始めた。
結構ぎこちない。
ガッシュンと変な音がして、魔法は不発に終わった。
「くっ」
「へたくそね、ちょっとどきなさい」
オッドちゃんが男の先生を押しのけて前に出た。
ガスクラウドはゆっくりゆっくりこちらに漂ってくる。
ガスクラウドというのは、文字通り、毒気体の雲で、風魔法で簡単に吹き飛ばせる。だが、風魔法が無いときは対処が難しい魔物だ。
オッドちゃんが詠唱一発、空中に魔方陣が描かれて、……。
ドバウンと、背後から、もの凄い風が吹き、みんな吹き飛ばされそうになり、耳が気圧差でキーンとした。
「オ、オッド師」
「う、うるさいわね、加減を間違えたのよ。ガスクラウドはどっか行っちゃったから良いじゃないの」
なんとも、おおざっぱな大魔導である。
「オッド様って、あのオッド様ですか?」
「まあ、あの歴史に名を残す大魔導の」
「わたくし、オッド様のお話の絵本が好きでしたのよ」
「え? ああ、まあ、私がそのオッドよ」
「まあ、素敵、わたくし、家族に自慢出来ますわ」
「なんてことかしら、こんな場所で、あこがれの大魔導師にお会いすることができるなんて」
貴族院のお嬢様で、魔法系の子供達にオッドちゃんは人気のようだ。
子供にちやほやされて、オッドちゃんがにやけていた。
君たち、そんな人に憧れては、将来ボッチになるよ。
七階の水場で、しばらく休憩するようだ。
生徒達は思い思いの場所でシートを広げて、おやつ等を食べている。
僕も泉に行って、水筒に水を補給する。
オッドちゃんは女子魔法生徒のグループにお呼ばれされて、ご満悦のようだ。
あやめちゃんが、トレ坊のグループに呼ばれて、お菓子を奢られている。
僕は、パットと二人、水場広場の端で水を飲んだり、コゼット先生からもらったお菓子をかじっている。コーレンツ王国の特産クッキーらしい。ポリポリ、結構美味しい。
あ、白翼遊撃団の人に聞いた、お菓子とか果物とかを食料として持って行くといいという助言を忘れていたな。
たしかに甘い物を食べるとほっとするね。
ダンジョンを出たら買い込もう。
でも、オッド空間にお菓子は沢山入ってるような気がするな。
現に、今も、女の子にお菓子を出して一緒に食べてるし。
休憩が終わって、みんな立ち上がり、出発。
階段まで歩いて、八階に降りる。
前の方からドヤドヤっと冒険者がやってきて、先生が生徒に通路の端に寄るように声をかけた。
深い階層から還って来た冒険者の一団のようだ。
傷だらけで、汚れて、正直臭いが、彼らの目は生き生きとしている。
生きて浅い階まで来られた事で、気分が高揚しているようだ。
「メイリンダンジョン三位の闇の遠吠え団だな」
「トレ坊物知りだな」
「新聞に書いてあったのだ」
膨らんだリュックを背負い、何人かで、戦利品の魔物の死骸を担いでいる。
これから宿に帰って、行水して、打ち上げで酒を飲むのだろうなあ。
ちなみに、ダンジョンは上がってくる人優先らしい。疲れてるからだろうね。
ドヤドヤと残響を残して、冒険者の一群は階段の方へ消えて行った。
魔物の血だけが点々と通路に残っていた。
「ここが、八階の魔物溜まりでっ、きゃっ」
あ、コゼット先生がジャイアントバットにたかられている。
ジャイアントバットはでっかい吸血コウモリだ。
男の先生がひのき棒で叩いて追い払っていた。
「こうもりさんこうもりさん、助けて」
いや、あやめちゃん、あのコウモリは敵で、金色バットとか呼んでこないからね。
安全な観光コースとはいえ、結構、魔物が出るなあ。
「あ、コゼット先生、天井にスライムが二匹居ますよ」
「まあ、危ない」
コゼット先生が、氷柱を飛ばして、スライムを天井から落とした。
天井のスライムは危ない。
地面に落ちたスライムは怖くない。避けて歩けばいいからね。
九階に降りる、だんだん、魔物も強くなってきてるっぽい。
これでも観光用の順路は早朝に冒険者さんが通って掃除をしてくれているらしい。
貴族学院の一行に、ジャイアントトードが寄ってきたり、メグリンウサギが来て、あやめちゃんが寄ろうとするのをパットと僕の二人で抑えて、コゼット先生が倒したり。
「意外に魔物が出ますね」
「去年はほとんど魔物が出なくて、物足りないぐらいだったんですけど、発生率は日によるみたいですね」
「たぶん、帰りは早いでしょう」
一時間とか二時間では魔物は補充されないようだから、帰りは楽だろう。
もうすぐ十階の階段だ。
観光客が入れるのは十階まで、それ以降はちゃんと準備をした冒険者の世界だ。
十階はビッグフロアと言って、全体の面積が大きい階になっている。迷宮の十階ごとにこのような大きいフロアがあるらしい。
ちなみに二十階前の十九階にはフロアボスの部屋がある。フロアボスは十階ごとのビックフロア前に必ず一つあって、その階に出てくる魔物よりも強い魔物が出て、冒険者を苦しめるらしい。
再生間隔は三時間ほどなので、運が良ければ先行パーティにフロアボスが倒されていて戦闘無しで通過する事ができるようだ。
十階のビックフロア南西には水場の広場があって、そこが迷宮観光の終着点でもある。
九階の階段を降りて、十階だ。
水場広場と標識が立っている。
僕らの偵察も、ここまでだ。
いろいろ足りない物とかがわかったな。
とりあえず、三十階までの売られている地図を買って、ルートを検討して、どれくらいの時間が、かかるか計画を立ててみよう。
「ここまで来たら一段落ですね、先生」
「そうですね、今回は結構、魔物が多くて辛かったです。勇者様にはお世話になりました」
「いえいえ、それは地上に出てからですよ」
「そうですね」
コゼット先生は微笑んだ。
歴女だけど、コゼット先生は可愛いな。
学校で人気があるというのも解る。
特に魔物もでなかったので、すんなり水場広場に着いた。
ここで、少し休憩してから、順路を逆に歩いて地上を目指すようだ。
何事もなく、と思ったが、そうでは無かった。
水場で休んでいる少年冒険者達の中にクルツが居て、それをトレ坊が見つけてしまった。
「貴様ーっ!! 余の財布を返せっ!!」
「わっ、やべえっ!」
クルツはダンジョンの通路をダッシュで逃げる。
トレ坊はそれを鬼の形相で追いかける。
「あ、トレバー君! いけませんっ、帰ってきなさいっ!!」
「僕が行ってきます!」
「我が君、私もっ!」
なんだか、オッドちゃんとあやめちゃんも一緒に走って来た。
トレ坊に追いつくと、クルツの奴は行き止まりに追いつめられていた。
「下郎(げろう! 我が母から、もらった形見の財布を返せっ!」
「うるせえっ! 糞貴族めっ! だれが返すかっ!」
「クルツ~」
「てめえ、勇者の癖に貴族の味方かよっ!」
「かっぱらいの味方じゃないだけだ」
「くっそーっ!」
クルツは突き当たりの奥の穴に身を投げた。
「まてっ!」
トレ坊もためらわず、穴に飛び込んだ。
「えー?」
なに、この穴?
【次回予告】
クルツとトレ坊の飛び降りた穴は、下の階へと続く縦穴であった。
子供を放っておくわけにもいかず、げんきとパットは縦穴へとダイブするのだが。
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第92話
ダンジョンの縦穴




