90. ダンジョン地下五階、迷宮レストラン
ダンジョンの五階まで降りて来た。
五階の展示は、メイリン戦役当時のダンジョン籠城生活の展示だ。実際にこの五階がメインの居住空間になっていたとのこと。
こんな狭い所に三年も暮らしたのか、大変だったなあ。
生活用品の展示の前で、コゼット先生が説明を始めた。
「ダンジョン籠城が始まって三年後に、メイリン戦役の終わりは唐突に訪れました、ゴーラン王が病で崩御し、ステイル王国軍との休戦協定が結ばれたのです。メイリンの市民はダンジョンを出て、撤退していく王国軍を見て、歓声をあげたと伝えられています。この戦役はとても沢山の犠牲を出し、苦しい戦いでしたが、メイリン市民の結束を固め、また、世界の各国にも、メイリンの民は独立してどこにも属さないという強いメッセージを与えました。メイリンの民は、ダンジョンと共にあり、どこにも属さない独立都市を誇りに思い、今でも独立独歩の生活をつづけているのです」
展示はその頃のベットや、生活用品や、実際の水場などが展示されていた。
こういうのを見たら、メイリン市民魂が刺激されるのだろうなあ。
五階の奥の方には、なんと、レストランがあった。
その名も、迷宮レストラン。
店の半分はお土産物屋さんになっていて、なかなか商魂たくましいことだ。
籠城戦時の抜け穴を利用して、地上にも出れるらしい。
迷宮の入場切符を回収する所もあるとの事。
ショーウインドウに並ぶ、さまざまな料理の模型を見て、食べたいなあと思ったのだが、死舞手が料理人に入って居る恐れがあるので、パス。
しかし、迷宮コウモリの姿焼きって、美味いのかな。
あと、結構お高い。
「迷宮料理を食べてみたいんだよ」
「死舞手を全員ぶっ飛ばしたらね」
「五階は展示で一杯だから、六階に降りて、空き部屋でキャンピング馬車を出しますか」
「そうね、あ、コゼット、生徒はこれから、お昼?」
「はい、迷宮レストランで昼食を取ります。みなさんもよかったらご一緒にどうですか?」
「ちょっと事情があるので遠慮しておくわ。食事は何時まで?」
「ええと、昼の六時まで、昼食と休憩ですね」
「わかったわ、それぐらいに、ここに来るわね」
「わかりました」
コゼット先生は一礼して、迷宮レストランの中に生徒の一連隊を連れて入っていった。
僕たちは六階への階段を降りる。
うおお、階段を一階降りただけで、雰囲気がぜんぜん違う。
照明も無くなって、うす暗い。
オッドちゃんが、魔法の照明光球を。僕らのちょっと前の頭上に飛ばして前を照らしてくれる。
「そりゃあ、そうだ、これこそがダンジョンだよね」
暗いしジメジメしてて、物陰をなにかの虫がささっと逃げる。
周りを警戒しながら、ゆっくりと歩く。
あ、スライムが壁に居る。じわじわ動いている。
ええと、六階から十階に出現する魔物は、スライム、メイキュウオオネズミ、メグリンウサギ、ジャイアントトード、ガスクラウド、希にメイキュウオオカミか。
まあ、ダンジョンアタックじゃなくて、単にお昼ご飯食べるだけだから、そんなに緊張してもしょうがないね。
六階は、大通りみたいな廊下に、小部屋が沢山ある構造になっていて、下手に開けると魔物がでるそうだ。
試しに近くのドアを開けてみると、戦士君の子供時代みたいな、少年冒険者のパーティがご飯を食べていた。
黙礼をして、そっとドアを閉める。
二つ目の部屋は空き部屋だったんだけど、馬車を展開するには狭そう。
ちなみに戸がある部屋と無い部屋がある。
ちょっと行くと、ぴょこりん、と真っ白なメグリンウサギが三匹現れた。
僕たちを見ると、ぴょんと逃げ始める。
ぼんやりと見ていた僕の横を超高速で駆け抜けたのはモフモフ大魔神だった。
ビュッと行って、あ、一匹抱きしめた。
「かわいいかわいい、もふもふ」
「きゅーっ!!」
「わあっ、アヤメ危ないぞっ!」
「大丈夫、ほら、怖くない……、いっつっ!」
「あやめちゃん噛まれてる噛まれてる、君はナウ○カじゃないんだから」
「平気よ、これくら……、いっつっ!!」
パットが無言でかけ寄って、メグリンウサギの頭を掴んでボキンと折った。
「わ、わたしのうさぎさん、うさぎさんがっ!」
「もー、怪我してるじゃないか、めっ」
そう言って、パットは、あやめちゃんの肩の怪我に手を当てて呪文を唱えた。
「迷宮の魔物は、どんなに可愛くても人に懐く事は無いわよ」
「そんな事はないんだよっ!」
「あやめちゃん、正気に返るんだ」
「いいか、アヤメ、メグリンウサギの歯はもの凄く鋭いから、よく初心者冒険者が噛まれて指を落とされるんだ」
「お、おとされないもん」
「だめっ」
と、一言言って、パットはあやめちゃんの脳天にかるくチョップを落とした。
あやめちゃんはぐぬぬと唸る。
「なにげに、一匹、メグリンウサギを捕まえましたね」
「お昼に食べようか」
「肉は、そんなすぐには食べられませんよ、熟成させないといけないのです。血抜きだけしておきますね」
そういうとパットはナイフで、ウサギの頭をすっぱり落として、逆さにした。
あやめちゃんはそれを見つめてホロホロと涙をながしている。
「うさぎさんうさぎさん、げんきくん、パットちゃんが意地悪を言うの、なんとかして」
「なんともなりません、正気にかえりなさい」
「えーん、えーん」
そんなこんなで、丁度良い大きさの空き部屋を見つけたので、オッドちゃんにキャンピング馬車を展開してもらう。
しかし、お昼ご飯の当番はあやめちゃんなのだが、大丈夫だろうか、僕が代わろうかな。
馬車の中に入って、魔導灯を点けると、ほっとした。
やっぱり暗い所は、なんか気分が悪くなるもんだな。
「あやめちゃん、気分悪いならベットで寝てなよ。ご飯当番は僕が代わるから」
「……、え? 気分悪くないよ、平気だよ。ごはん作るよ」
「そう、じゃ、お願いします」
「うんうん、まかせておいて」
モフモフ大魔神が去ったかな。
僕はシート冷蔵庫の蓋を持ち上げて、牛乳を……。ない。
もう、十本飲んじゃったのか、早いな、もっと買っておけば良かった。
むう、と思っていたら、パットがお茶を入れてくれた、ありがとう。
あやめちゃんは何を作るのかな、と思ってたら、なんか麺をゆでてる。
パスタ系のものかな。いつの間に乾麺を買ったのだ。
黄色いトマト系の物を刻み、ベーコンを刻み、ぱっぱとサラダを作る。
やっぱり、あやめちゃんは家事技能が高いね。
「しかし、迷宮の中とは思えない快適さですね」
「良い買い物をしたわ」
「まわりが明るいと良いね」
のんびりお茶を飲んでいたら、ドカドカと扉が叩かれた。
「おらーっ! 出てこいっ!」
「良い物持ってんじゃねえか、観光客っ! 俺らが使ってやるから、置いて出てけよっ!」
なんたる言いぐさ。
僕は戸をあけて、外に出た。
「なんですかいったい」
外に出たら、ガラの悪そうなゴリマッチョが五人、こちらを見てニヤニヤ笑っていた。
「おめーら、ダンジョンなめてるだろ、こんな良い物を持ってきたらどうなるか、教えてやんよ」
「殴られるのが嫌なら、全部置いて出て行けよ。これは俺らのもんになったからよお」
うはー、頭悪そう。
……そうじゃ、ないや。
五人の後ろに少年が居た。
目つきの悪いハーフリングがニヤニヤ笑っている。
死舞手だ。
すり足で五人の足下をすり抜けて、少年の胸ぐらを掴む。
「ぐっ!」
くぐもった声を上げた少年は、針を手に持って、僕を刺そうとしたので、左に崩して足をかけ、放り出す。
小部屋の隅までころころと転がって、少年はするっと立ち上がる。
「な、なにやってるんだ?」
「お、おい?」
後ろで馬鹿冒険者が何か言ってるけど、無視。
死舞手が相手だと、ちょっと気が散っただけで、致命傷を負いかねない。
少年は一挙動で、五本のナイフを僕に投げつけてきた。
「げんきくんがんばっ!」
あやめちゃんの【応援】が入った。ナイスっ!
カキンカキン、と、ガントレットに当てて投げナイフをたたき落としていく。
「つっ、てめえっ、ナイフが当たったろうがっ!」
しまった、はね返したナイフが、冒険者に当たったのか。
僕が気を抜いた瞬間、少年はドアを開け、するりと小部屋から出て行った。
ふう。
「あが、あがががっ、しびれっ!」
「お、おい、ダヤン、おまえ、どうしたっ!」
「あの子供のナイフに特殊な毒が塗られていたんだ、ちょっとまって」
僕は魔法袋から、ジーナさんの書いてくれたマニュアルを出して、毒を特定する。
炒り豆のような香ばしい匂い、泡、痺れ、これはカリカナの毒だ。
解毒薬は、リーカン調合薬。
僕はオッドちゃんに解毒薬を出して貰い、ダヤンという冒険者の口から飲ませた。
「これで、ダヤンは大丈夫なのか?」
「たぶんね、歩けるようになったら、地上に出て、治療院に見てもらえばいいよ」
「そ、そうか」
「なんで、あんたらは僕らに狼藉を働きにきたんだい?」
「え、あのハーフリングが、馬鹿な金持ちが観光に来てるから、襲うチャンスだって言われてよう」
「そう言われたら、襲うじゃん、普通」
「襲わないよ、普通」
街のごろつきかお前らは。
動けるようになったダヤンのケツを蹴り飛ばして、ごろつき冒険者たちを小部屋から追い出した。
その間に、あやめちゃんのお昼ご飯はできあがっていた。
トマトっぽい物のパスタであった。
一口食べると、それは美味しい。
みんなで取り合うように食べたのであった。
ちなみに、このパスタの乾麺は、冒険者の酒場に行ったときに、食べたクワンドルの麺だった。あやめちゃんが帰りに何袋か買っていたんだってさ。
やるなあ、あやめちゃん。
【次回予告】
迷宮を十階まで降りて来て、色々な知識を得たげんき一行。
水場で一休み、という所で、トレ坊が、泥棒小僧クルツを見つけて駆けだした!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第91話
クルツ逃亡




