88. ダンジョン地下一階
僕はコゼット先生に話しかけた。
「学院の生徒達は、どこまで潜るのですか?」
「十階までですよ。五階までは博物館なので、魔物が出ないそうですし、十階までは、観光ルートを外れなければ危険は無いそうなので」
「やんちゃな生徒が、勝手にはぐれて冒険とかしたら困りますね」
「ええ、それが毎年頭痛の種なんです。学校迷宮見学の一番の恐怖と言われてますよ。一昨年はケレス大迷宮の修学旅行で騎士学校の生徒が勝手にダンジョンの深い所へ行ったせいで、十五人が死亡しました」
「それは怖いですね」
「あとは冒険者に生徒が襲われて身ぐるみ剥がされて殺された事件などがあります。教職としては、迷宮見学は危ないのでやめて欲しいのですが、子供達はみんな迷宮が大好きで、一生に一度、学校の迷宮観光でしか来れない子もいますし、頭が痛い所です」
ファンタジー世界でも先生は大変だなあ。
「もしよろしかったら、僕たちも同行させてもらっていいですか?」
「え、こちらとしては願ってもないお話しですが、良いのですか? 冒険者さんが稼げる所などには行きませんよ」
「ええ、今回の目的は稼ぐことでは無くて、ダンジョンの偵察なんです。だったら生徒さんに、まざって説明を聞きたいなと思いまして」
「まあ、助かります。本来なら冒険者の護衛を雇う予定だったんですが、予定していた冒険者さんが今朝怪我をしてしまって、急いで手配しようとしたのですが、信用できる方が見つからなくて。是非お願いいたします、お礼とギルドポイントもお支払いしますよ」
「いえ、お礼は結構です、安全と言われていても、護衛が無いのは不安でしょう、お手伝いいたしますよ」
「ああ、これはミシリアさまのお導きかしら、お願いします、勇者ゲンキ」
ミシリアさんところの教徒さんだったのか、コゼット先生。
よし、これで説明付きでダンジョン見学できるぜ。
「コゼット先生に色目をつかうなよ、勇者」
「そんな事しないよ、トレ坊」
「先生は学園でも大人気なのだからな、授業も解りやすいし」
「なんの先生なの?」
「コレット先生は歴史と地学だ。余のクラスの担任なのだ」
社会科の先生か、これはダンジョンの説明も期待できそうだな。
やっとゲートの順番が来た。
女子職員にギルドカードを提示する。
「はい、確認いたしました」
女子職員さんは、書類に記帳したあと、入場切符に機械で、ガッチャンと日付と時刻を刻みこんだ。
出る時はこれを渡すらしい。無くすと罰金とのこと。
魔法袋に入れておこう。
入場ゲートから一歩ダンジョンに入ると、ホールのようになっていて、そこでコーレンツ王立貴族学院の一行が待っていてくれた。
トレ坊があやめちゃんの方に近寄って何か言っている。
あれは懐かれたなあ。
「では、同行お願いしますね、勇者ゲンキ」
「はい、僕らはこの四人ですので」
「勇者風の娘さんと、……聖騎士さんと、……あの、もしやオッド師さまですか?」
「ええ、大陸一の大魔導師、オッドとは私の事よ」
ドヤ顔でオッドちゃんはポーズを取った。
「わあ、本当ですか、伝説のオッド師とお近づきになれるって、夢みたいですっ」
「ほほほ、それほどのことでは無いわよ」
「ゴーリンズの戦いでも参戦なさってらっしゃったんですよね、盟主ギーグ王を撃った矢は誰が放ったんですか?」
「え? 知らないわ、あの時は戦場の端でドラゴン殴っていたから」
「そうなんですか、歴史学者の中でも誰がギーグ王を撃ったのか、永遠の謎と言われていて、参戦なさっていたオッド師ならばお答えを聞けるかと思っていたのに」
「知らないわよ、ギーグの馬鹿の額に矢をぶっさした奴なんか。戦後に大もめになっていたけどね」
「額、前からの狙撃なんですね、やはり敵方ですか。しかし、本陣に居たギーグ王と戦線は三千キャベルもの距離が……」
「コゼット、あんた生徒はいいの?」
「あ、うっかりしてました。こんどご一緒に歴史のお話しをさせてくださいね」
コゼット先生は、生徒を引率して歩き出した。
僕らも最後尾について歩き出す。
コゼット先生は、あれだな。
歴女だ。
「五百年も前の戦いなんて、ほとんど覚えてないわよ」
「なんで戦争に出てるのよ」
「なりゆきよ」
「それは、オッドさん百の黒歴史の一つですよ」
「うるさいわねっ パットっ」
なんか、オッドちゃんのせいで大会戦に負けた感じになってる逸話らしい。
ホールから螺旋階段が伸びていて、これで地下に行くらしい、みんなでコツコツと音を立てて降りていく。壁は時代を経た石で出来ていて、綺麗に磨いてある。
「みなさんが降りているこの階段は、三百年前のメイリン戦役の後に作られた物です。歴史を感じますね」
千年の時をへた歴史を感じないロリババアが一行の後ろについているけどね。
「三百年前のメイリン戦役は、メイリンダンジョンの独占を狙うステイル王国のゴーラン王が、ルベル峠を越えて三万もの軍勢をメイリンに攻め込ませる事から始まりました。対するメイリン軍は一万ほど、多勢に無勢、旗色悪く、市街をどんどん占領されてしまいました。メイリンの独立の火は消えると、その当時の世界各国は思っていましたが、メイリン行政府議長タータルは味方全軍を、ここ、メイリンダンジョンに引き込み、前代未聞のダンジョン籠城戦を始めます」
生徒たちが、周りを見回す。
こんな所に軍隊が一万人も立てこもったのか。
いや、軍隊だけじゃない、市民もいたはずだからもっとか。
「ダンジョン籠城は三年にもわたり、ダンジョンの深部から水を引き、魔物の肉を食べ、凄絶な独立の覚悟を持って、メイリン市民は戦いぬきました。もう今は枯れてますが、この泉が、メイリン市の命をつないだと言われる、独立の泉です」
独立の泉は、壁に穴を開けて、水盤を置いた簡単な物だった。
「泉は、五階にある水場から魔法力によって引き上げられました。といっても、本隊は五階に居ましたので、この泉は象徴的な物なのですけどね」
一階の独立の泉から、道は四方に繋がっていた、空気はひんやりしていて、ほのかに青っぽく明るい。
「ダンジョンを照らす、ほのかな灯りは、ダンジョン苔と言われる地衣類の光です。これは、ダンジョンの魔力を吸収して、光魔導交換作用により、ほのかな灯りをともします。メイリンなどでは、この苔があるので、ランプなどは最悪無くても良いのですが、この苔の生えていないダンジョンなどでは、灯りが無くなる事は全滅を意味しますので、将来ダンジョンに冒険に行こうと思っている人は気をつけましょう」
「コゼット先生の説明は解りやすいですな」
「同行を申し出て、当たりだったね」
ダンジョンの一階には魔物はおらず、ダンジョン博物館として、展示が色々してあった。
五階までは、博物館にしてあるらしい。
明るい照明もあるし、なんだかダンジョンという感じはしないなあ。
でも、地中で石の壁に囲まれていると圧迫感があって、ちょっと息苦しい。
生徒さんの後をぞろぞろついて行くと、そこは展示の部屋だった。
『メイリンダンジョンの魔物』という展示で、深層からとれた魔物の剥製や、浅層の生きた魔物などを展示してある。
ほえー、こんな大きいキマイラなんかも居るのか。
採れたのは、七十八層か、出会うことは無かろう。
五十階あたりの敵は、大鬼とか、アークデーモンかあ、強そうだなあ。
まあ、最悪オッドちゃんにワンパンしてもらえば良いんだけど、出来れば僕も倒したいな。
柔道は効くだろうか。
「パットは大鬼は倒せる?」
「そうですね、我が君と二人で攻撃を防いで、アヤメがファイヤーボールを当てれば、まあ、勝てなくもない、ぐらいですね」
「一応人型だから、柔道も掛かるかな、ちょっと大きすぎるか。うーん」
「サイズの問題がありますから、掛けられる技が限られますね。ギルマスに掛けたスミオトシなどは効くのでは?」
「あの手の重心移動系の技しか無いかなあ」
浅層の生きている魔物も見ていく。
浅くなるごとに、魔物の体格が小さくなるのね。どうしてなんだろう。
迷宮の魔物って不思議だね。
お、スライムがいる、ガラスの標本箱の中を、ゆっくり動いてる。
地球のオモチャのスライムと色がそっくりだ、肌触りもきっと同じだろうね。触ると火傷するらしいけど。
沢山居ない限り、避けるのは簡単みたいだね。
天井から落ちてくるとヤバイらしいけど。
メイキュウオオネズミとか、メグリンウサギとかが、十階までに出る物か。
あの炭酸肉のウサギは、意外と浅いところに出るんだな。
「知っておるか、勇者、メグリンウサギは食べると、口の中でシュワーっとするのだ」
「知ってる、食べた食べた」
「余は昨日食べて、ビックリしたのだ」
「あれはビックリするよな」
トレ坊も、目をキラキラさせながら、魔物の展示を見てる。
口調は時代劇だけど、やっぱり子供なんだな、と思って、ほのぼのする。
【次回予告】
この世界のダンジョンには幾つもの謎がある。
なぜ、こんなにも魔物が沸くのか、誰が作ったのか。
幾つもの仮説を乗り越え、真実にたどり着け、げんき!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第89話
ダンジョンの謎




