87. ダンジョン入り口
ぞろぞろと連れ立って、行政塔の下へ行く。
チケット売り場でダンジョン入場券を四枚買い、列に並ぶ。
もう、結構人が並んで居て、朝の挨拶とかしている人たちもいる。
僕ら四人の前に居るのは、小学生ぐらいの同じ制服を着た子供の集団だった。
学校の修学旅行かな?
なんか先生っぽい小柄な女の人が一生懸命、子供の数を数えていた。
おっと、目の前の豪華な制服を着た子供の足を蹴ってしまった。
「ごめんね」
「無礼者っ! そこになおれっ!!」
なんだろう、この時代劇君は?
「余を誰だと思っておる、下郎っ! 冒険者風情が近寄る事も出来ぬ尊い存在なのだぞ」
「そうですか」
どっかの王子様かな。
「余はコーレンツ王国のトーレンツ子爵が嫡男、トレバー・トーレンツなるぞ、頭が高いっ、ひかえおろうっ!!」
「あ、これはご丁寧に、異世界から召喚されてきた勇者、飛高げんきです」
「なっ! なにいっ! ゆ、勇者は、ど、どれくらい偉いのだ、王族級か?」
「え? どうなのオッドちゃん?」
「知らないわよ、基本的に世俗の身分の外にいるから、貧民あつかいとも、皇帝とため口きけるともいえるわね」
「え、偉いか偉くないのか、どうなのだ?」
「我が君は、誰よりも偉い、ケンリントン伯爵令嬢の私にとってはなっ」
「げええっ! は、伯爵令嬢さまにあられますか、ご高名なおてんば令嬢パトリシアさまでございますね、これはこれは、ご尊顔拝したてまつり、恐悦至極に存じます」
トレバー君は身分差に超弱い、げんき覚えた。
「ここは独立都市メイリンであって、諸王国連邦ではない、無用な貴族風を吹かして、他国の者の物笑いの種にならぬよう、気をつけたまえ、トレバー卿」
「はっ、ご忠告、心にしみましてございます。パトリシア様」
「ダンジョンの中って治外法権なの?」
「まあ、あまり関係は無くなりますね。というより、ダンジョンの深くまで潜る貴族は、そんなにはおりません」
「トレバーくんは学校の修学旅行でメイリンに来たのかな?」
「な、なんだ、平民の娘の癖に、こ、声を掛けるでない。だ、だが、お前は、少し綺麗だから、今夜、我が宿に、来てもかまわんぞ」
「あはは、もうちょっと大きくなったら誘ってねー」
あやめちゃんはトレバー君の頭をなでなでした。
トレバー君は、なんかショタって感じの子供イケメンだからなあ。
あやめちゃんは、獣人の次にショタが好きなのだ。
「や、やめよ、破廉恥な、町娘めっ。名、名をなんという娘よ」
「杜若あやめだよ、よろしくね、トレバーくん」
「う、うん、いや、わかった、記憶に止めておこう、美しき娘よ」
「トレバーくんの領地はどこらへんなの?」
「大陸の東の端の方だ、良港を有しており、漁業が盛んで裕福な土地だぞ、美味い魚が沢山捕れる」
「へえー、良いねー」
「アヤメも足を運ぶがいい、領主の館で歓待してやらなくもないぞ」
「お魚大好きなんだよ。行きたいなあ」
お、列が動いた。
と、思ったら止まった。
「いつもこんなに混んでるのかなあ」
「いや今日は特別だ。修学旅行のガキどもが、三校も来てやがるせいだぜ、にいちゃん」
「そうなんすか」
柵を挟んだ向こうにいたマッチョな冒険者さんが教えてくれた。
たしかに、制服の違う子供が沢山いるな。
「トレバー君の学校はなんて言うんだい?」
「……」
「お姉さんも知りたいな」
「コーレンツ王立貴族学院であるのだ」
「なんで、僕を無視するのよ、トレ坊」
「ト、トレ坊とはなんだっ! 貴様は男子の名前を愚弄するかっ!」
「トレ坊が返事しないから」
「よ、余は、平民とは口をきかないと決めたのだ」
「わたしも平民だよ」
「ア、アヤメは別だし、その、余は女の平民とは口をきくのだ」
「エロトレ坊」
「ちがうっ! そうではないのだ、男の平民とは口をききたくない理由があるっ」
「なんでまた?」
「……。連邦口の所で、汚い小童に無限財布を盗まれたのだっ、もうその時から、余は平民と口をきくまいと誓ったのだ」
「うわあ、幾ら入っていたの?」
「八十万ケル入っていた」
「お金が無くなったら旅行もつまらないね、大変だったねえ」
「お金は良いのだ、先生に、借りればいいし、父に帰って怒られればいい、だが、財布が、去年死んだ、お母様のくれた形見の財布が」
ああ、トレ坊泣き出した。
そりゃ辛いよなあ。
手口からして、かっぱらったのは、クルツだなあ、きっと。
「せっかくの旅行だから、平民にも親しく声を掛けてやろうと、考えた、余が、馬鹿だったのだ、もう、お母様のお財布が、二度と還ってこない、そう、思ったら、余は、余は……」
「泣くな、トレ坊、僕が取り返してやるよ」
僕はトレ坊の頭を撫でた。
トレ坊は、はっとして、僕を見上げた。
「ほ、本当か、勇者!」
「ああ、まかせておけ、犯人には心当たりがある」
柵の向こうに並んで居た、冒険者さんが、声をかけてきた。
「連邦口で、財布を狙うのは、奴だよな、クルツ」
「そうだな、まったく、盗賊の風上にもおけねえ。金をちょろまかすのはかまわねえが、大事なかあちゃんの形見をかっぱらうのは駄目だ」
「へ、平民ども……」
「どもはねえだろ、坊ちゃん。俺は盗賊ギルドにツテがあるから、財布だけでもなんとかしてやるよ」
「ほ、本当か、ありがとう、平民」
「ああ、見学終わったら、この酒場に来な、あ、一人でくんなよ、勇者の兄ちゃんと一緒にな、外町で物騒だからよ」
盗賊さんがトレ坊に渡したメモには、ラッチンという名前と、酒場の住所が書いてあった。
「ありがとうございます、ラッチンさん」
「感謝するぞ、ラッチン」
「いいっていいって、またなっ」
そう言うと、ラッチンさんは列を進んで離れていった。
「よかったな、トレ坊」
「よかったね、トレバーくん」
「うん、うん」
トレ坊はしっかりとメモを握りしめて、ヒーンと泣いた。
泣いたトレ坊を見て、先生があわててやってきたので、事情を説明した。
「まあ、それはそれは、ありがとうございます。なんとお礼を申してよいやら」
「いえいえ、まだお財布が還って来たわけではないので、お礼には及びませんよ」
「本当に、メイリンは治安が悪いと言われていたのに、指導を徹底できなくて、本当に」
「コゼット先生は悪くはない、悪いのは油断した余なのだっ」
貴族学院の先生も大変そうだな、お偉いさんの子供ばっかりで。
おっと、列が動いた。
もうすぐ入場だな、ギルドカードをチェックしている所が近づいてきた。
「もう、遅いわね、ギルドカードをチェックしても、遭難しても救助隊とか出さないんだから、無チェックで入れちゃえばいいのよ」
「なんで、入り口でチェックするのかな」
「主に魔石を乱獲されないためですね。他国の高位の冒険者が沢山来て無制限に魔石を持ち出さないようにチェックしていると聞きます」
「せこいわね、そういえば、キルーク大迷宮から棍棒を持ち出す時も大変だったわ」
「ああ、あんな物が出たら、なんとか現地で確保したくなるだろうね」
「なんだか、もの凄い難癖をつけてきたから、棍棒の試し打ちで、キルーク迷宮の入り口と、キルシアの街の門をぶっこわしてやったわ」
「なにしてんの、オッドちゃんは。……キルークって、どこのダンジョン?」
「キルークは……、あ、共和国ですね」
「それで、共和国が怒ってるんじゃないの?」
「な、なによっ、ダンジョンで拾ったものは、拾った人の物なのよっ、これは世界の大原則で八つ当たりに死舞手とか送ってくる奴がおかしいのよ」
ギョロ目さんが来るのは、だいたいオッドちゃんのせいと判明しました。
そりゃあ、魔王軍に国を半分とられて、それを挽回できる可能性が高い超古代ロボを、自分の所のダンジョンで発掘されて、挨拶無しで持って行かれたら納得できないわな。
でも、キルコゲールが共和国の手に入らなくてよかったな。
【次回予告】
念願のダンジョンアタックであったが、地下十階までは迷宮博物館であった。
げんきたちは、貴族学校の生徒と混じって、ダンジョンについて学ぶ。
歴女のコゼット先生の講義が冴え渡る!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第88話
ダンジョン地下一階




