83. 食料品のお買い物
「というか、自炊するなら、ホテルを引きはらって、家を借りたら、よいのではないだろうか」
「却下。私は洗濯と掃除ができないわ」
「同上、私もやったことがあんまりありません」
行政塔から出て、これからどうしようかと相談し始めた時の、駄目女子カミングアウトである。
君ら~。
「キャンピング馬車を出して、ためして見たい気もするんだよ」
「ミニキッチンもあるし、実験は必要だね」
「外の馬車溜まりはやめた方が良いわ、貧民が攻めてくるし」
「ホテルの馬車置き場に出して……」
「ホテル代が勿体なくありませんか、我が君」
「うむむ、どこか良い所はないかな」
「まあ、こんな時間だし、今からホテルを引き払っても今日の分は発生するのよ。ホテルの馬車置き場でいいんじゃないかしら」
今は、そろそろ夕暮れだ。
明日のプレダンジョンアタックと今晩の夕食用に、食料品の買い出しに行こう。
あと、正確な魔導時計とか、生活用品とか細かい物が結構いるね。
食器類は、ミニキッチンに備え付けの物と、あやめちゃんの野遊びセットがあるから問題無い。オッドちゃんも持ってるらしいし。
おトイレの落とし紙は、市販の物が置いてあったから、そのまま流せるっぽい。
ちなみにパンゲリアには、巻いたトイレットペーパーという物が無い。昔の日本風の薄茶色の落とし紙が束で売られている。
しかし、メイリンで食料品の買い物はどうすれば良いのだろう。スーパーは無かったようだが。
「オッドちゃんメイリンで食料品はどこで買えばいいの?」
「しらない、食料品とか買った事がないわ」
ああ、あなた様はホテル住まいのセレブさまでしたね、質問した僕が馬鹿でございましたよ。とはいえ、パットもメイリンの街の事情は知らなそうだしなあ。
ここは現地の人に情報を聞こう。
と言うわけで、上廻り横路を歩いて、ジーナさんの店まで来ました。
「こんにちわー」
「あら、オッド様に勇者さん、何かお買い忘れですか?」
「いえ、薬はもう良いのですが、食料品を買おうと思ったら、この街のどこで買えば良いか解らなくなりまして」
「あ、そうですか。そういう事ありますよね。ちょっと待ってください、安くてお勧めのお店をメモしますから」
ありがたい。ジーナさんは有能だ。
ジーナさんにお礼を言って、メモを頼りに買い物進行である。
どうも、食料品や生活雑貨を、まとめて買える場所というのは存在しないようで、それぞれの小売店を回って買い物するらしい。
メイリンの主婦は大変、すごい坂の上り下りで足がたくましくなっちゃう。
まずは、今晩のパンと明日のパン。だから四食分を四人分。
パン屋さんにレッツゴー。
ジーナさんの、おすすめのパン屋さんは、上廻り横路の共和国主道 の交差点近くにあった。近くに寄ると、香ばしいパンの匂いがした。
お腹空いた。
店に入ると、沢山の棚にパンが置いてある。いろんなパンがあるなあ。
日本のパン屋さんと違うのは、菓子パンとか調理パンが無くて、全部結構大きいパンばかりであることだ。
主食だからかな。
壁に大きく、金の紋章が、かかっていて、何かと思って字を読むと、メイリン市のパン屋免許証だった、パンは勝手に売ってはいけないのか。
店の奥には大きな石窯があった。あそこでパンを焼くのだな。
しかし、値段の差があるなあ、安い物から高い物へ十倍ぐらいちがう。
と思ったらもっと安くて大きい物があった。
貧民用?
「我が君、それは馬用のパンです」
「馬がパン食べるの?」
「飼い葉を焼き固めて、穀類を入れてあります。バランスが良いんですよ」
そういうものなのか。
パンゲリアの馬は専用のパンを食べる。げんき覚えた。
人用のパンで、美味しいのはどれかなあ。
あ、この緑色のは、憎むべきエルフの菜っ葉パン! 多民族都市国家だからだなあ。
黒いのは黒パン、ハイジの主食だな。
「おばちゃん、美味しいのはどれ?」
「うちのパンはなんでも美味しいさ」
うむ、店員のおばちゃんも、あてにならん。
「連邦から来たんだね、だったら、このパリムかね、あ、ライ麦パンはやめとき、ドワーフ御用達だから固いよ。ダンジョンに行くなら、ビスキュイが日持ちもするしいいよ」
ビスキュイというのは、堅パンっぽいもので、四角く焼いてある。だが、固そうだ。一個買って食べてみよう。
パリムの焼きたてを四つ、バレーボールの半分ぐらいの大きさだから、二食分にはなるだろう。
カリ鳥車輪亭で食べたパンがパリムらしい。あれは中がみっしりしていて、お腹に溜まるね。
パンの前の札に日付が書いてあって、日付が大きくなるごとに安くなっていく。
「ああ、焼きたてが一番高くて、だんだん安くなるんだよ。五日を超えた物は、業者に下げ渡して、外街とかに売られていくね」
なるほど、エコだな。無駄が無い。
パンはこれでゲット。次は、肉屋。
とはいえ、まだケンリントンで貰ったハムとソーセージがオッドちゃんの空間に余ってるはずだから、そんなにはいらないか。
お肉屋さんは、三軒隣、店の前に立つと、むわっと、なまぐさく血の臭いがする。
店の中には洋服をつるすみたいに、肉の塊がつるしてあって、なんか、首を落としただけで、元の形が解る感じで、超グロイ。
うむむ。
肉の種類は、ベガリ牛、デタム豚、ダムダム鶏、らしい。
カリ鳥も売っていたが、安い。
なるほど、原価の安い肉を美味しく料理して、カリ鳥車輪亭はのし上がって来たようだ。
「あやめちゃん、ここの肉で何か作れる?」
「ふふふ、ぜんぜん自信がないんだよ」
だろうねえ。
結局、無難に、ハムの塊とソーセージを一繋がり十本を買った。
お隣は牛乳店、乳製品とチーズの店だ。
おっと、バター買おうバター、壺で買おう、あやめちゃんのお土産用のも買おう。
オッドちゃんとパットが、チーズをあれこれ選んで買っていた。
瓶に入った牛乳を買って、店先で飲んでみる。
うっは、なにこの濃さ、生クリームを飲んでるぐらい濃い。
濃いのだが後口さっぱりで美味しい。
明日の朝ご飯用に、牛乳十本入りの木箱を買った。
野菜の店は、共和国主道 をちょっと下りた所にあった。
八百屋さんだ。エルフの綺麗なお姉さんが「やすいよやすいよ」と声をあげているのは違和感がある。
エルフは菜っ葉星から来た、菜っ葉星人だから、野菜にはうるさいんだろうなあ。
ジーナさんのお勧めだけあって、どの野菜もツヤツヤして新鮮そうだ。
簡単なサラダ用に、キャベツ系の菜っ葉、サニーレタスみたいな菜っ葉とタマネギらしい物と、あと、トマト的な物、ジャガイモっぽい芋と、黄色の人参的な何かを買う。
あれ、卵が売ってる、買おう。
あー、ドレッシングがないなあ。ここで売ってるかな?
「ドレッシングのたぐいはありませんか」
「野菜は、お酢を掛けて食べるもんです」
「美味しいお酢とかは?」
「酒屋さんだね」
オッドちゃんとパット用に、お酒もいるな。
横路に上がり直して、酒屋へ。
荷物はポンポンとオッドちゃんが謎空間に放り込むからラクチンだね。
パットがワインを二本買って、オッドちゃんがスピリッツを買った。
僕はお酢を買う。ビネガーって奴だね、これ。
植物油も売っていたので、甕から瓶に詰めて売って貰う。
ホーリンという木の実の油だそうだ。
お酢に油を足して、塩を加え、香辛料を入れて振れば、ドレッシングが出来る。
オッドちゃんと、パットには菜っ葉をたべさせないとね。
彼女たちは肉ばかり食べ過ぎだし。
さて、ちょっと歩いて、口なし主道 を少しおりて、今度はカルバン魔導具店へ。
時計はどれがいいかな。
腕時計ほど小さい物は無く、結構大きい懐中時計しかない。当然パンゲリア式。
無いよりいいだろうね。
青い蓋の時計をを買ったら、あやめちゃんも桃色の蓋の物を買い、パットが黄色の蓋の物を買った。
そうなると、当然のようにオッドちゃんも赤い蓋の時計を買った。
チームワーク抜群。
カセットコンロみたいな魔導コンロも売っていた。うーんと考えたすえ、買った。鉄板も買った。焼きそばとか作れないかな。
麺の調達が難点だよね。
「キャンピング馬車に冷蔵庫とか付いてた?」
「ちょっとまってね」
オッドちゃんが謎空間からキャンピング馬車のマニュアルを取り出してめくった。
「あるわね、ソファーの下に収納ですって」
「なんでも付いてるなあ、高くなるわけだ」
「凝り過ぎなのよ、トランクは」
隣の雑貨屋さんで、歯磨き用のランドの枝を買う。歯で噛んでモシャモシャにして磨く奴なんだけど、わりとすぐ無くなってしまう。一箱十本入りをとりあえず二つ買っておいた。
あと、落とし紙と、石けん、ヘチマ、シャンプーと買っていく。
ホテル住まいだと、ここらへんは全部出てくるので楽なんだけど、外で泊まるとなると結構大変よね。
雑貨屋さんを出たら、外はとっぷりと暮れていた。
さあ、ホテルへ坂を登ろう。
【次回予告】
食材を買ったら調理だ!
異国食材を手際良く処理していくあやめ。
その頃、げんきはキャンピング馬車の行水場を試すのだが……。
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第84話
初めての異世界自炊




