82. 行政塔の最上階の一階下
すっかり忘れていたが、ミスリルナックルを売った残金を、もらいに行政塔に行こう。
うん、行こう、行こうとも、行く時、行けども行けども、長い坂。
超めんどくさい。明日にしようかな。
ああ、でも、そろそろパットの路銀もやばいな。
残金をみんなで頭割りしたら、パットの宿賃が助かるなあ。
「どうしたのですか、我が君、行政塔を見つめて絶望的な目をして」
「ミスリルナックルの残金を、もらいに行こうと思って」
「おお、それは良いですね、さあ、行きましょう」
「坂登るのだるい。ライサンダー君出してきて」
「我が君っ!」
そんな怖い顔するなよう。
わかったよう。
あやめちゃんに、くすくす笑われながら、僕はこの坂を登りだした、この長い長い行政塔坂をな。
いや、そんな坂は無いので、口なし主道 へ続くショートカット階段だけどね。
ぜいはあ。
明日ダンジョン行くのはやめて、お休みにしようぜ。
ああ、だけどそうすると、ギルドでマダームにしごかれそうだ。
行くしか無いのか。
わっせわっせ。
そろそろ、連日の上り下りで足がぱんぱんでございます。
腰とか足とか死んでしまうね、きっと。
うちが檀家のお寺の住職が、坊さんのくせに自転車が好きで、ロードバイクとか乗ってぶいぶい言わせていたら、筋肉を痛めてしまって、しばらく二代目に法事を頼んでいたエピソードを思い出す。
きっと僕も、筋肉をやってしまい、悲しい思いをするんだなあ。
とか何とか考えてたら、上廻り横路に出た。
ぜいぜい。お水飲もう。
水筒を出して、クピクピ飲む。
ああ、すごい汗。
行政塔に上がるまでが冒険だね、これは。
ぜいはあ、ぜいはあ。
なぜ人は坂のある街に住もうとか思うのか。
街はすべからく平べったくあるべきなんだよ。
ぜいはあ。
なんとか、根性でてっぺんまで付いたよ、お母さん、ひかり、僕はやったよ。
ああ、人間頑張れば何でもできるんだなあ。
達成感で清々しい、さあ、塔路を行って、ホテルに帰ろう。
え、駄目?
ホテルの方に行こうとしたら、パットにがっしりとサッシュベルトの後ろを掴まれたよ。
その後、行政塔の受付に行ったら、最上階の一階下の議長室まで行ってくださいと言われ、僕は卒倒しそうになった。
だが、ここにはあった、魔導エレベーター。
よかったよかった。
ボタンを押すと、ピンポンと音が鳴り、ずずずと上昇する。これだ、これをこの街全部に付けるんだ。
行政塔の最上階はスカイレストランと展望台になっている模様。
展望室で洋食を食べてもなあ、ホテルカルビンのレストランは結構美味しいし。
あー、そういえば、死舞手のせいで、外食ができないんだった、くそうっ!
おのれ、あのギョロ目め、ゆるさないぞ。
食べ物の恨みは恐ろしいと言うことを思い知らせてやろう。
目的の階に付いたので降りる、議長室は、どこだろう、あ、表示がある。
なんか、立派な建物で、金がかかってんなって印象だ。儲かってるんだな、メイリン市。
「ようこそいらっしゃいました、オッド師、勇者ゲンキとお仲間たち」
街の評議会議長のシーガル老はにこやかに僕らを迎えた。
というか、早くお金を下さい。
でも、きっと死舞手の話とかされたり、衛士に柔道を教えろとか言われるんだろうなあ。
「昼に、我がメイリンの衛士が、勇者一行に斬りかかったと聞き、驚き、かつ、悲しく思っております。街の評議会を代表して、勇者殿に、公式に陳謝いたします。誠に申し訳ありませんでした」
「行政塔に腐った奴が居るみたいね、なんとかして」
「はい。金に目がくらんだ評議員が居るようです、ただちに調査して、然るべき処罰をお約束いたします」
「死舞手の動きは止められないの? メイリンの諜報部隊は出せないのかしら」
「申し訳ございません、メイリンには諜報部隊と呼べるだけの組織はありませんので」
「たしか、メイリンには諜報員は三人ぐらいしか、いないのよね、全滅されたら困るってわけね」
「はい、死舞手と言えば、大陸の闇の世界で、名高い凶悪で、手強い部隊でして」
「政治的になんとかして。あと、あとで私が手紙を書くから、向こうの総族長に渡しておいてね」
「わかりました。私としては、影でバスターランチャーの弾を共和国に渡すのも手だと思いますが」
「馬鹿ね、共和国の総族長なんかに、あつかいきれる力じゃないわよ。新聞とかに、ばらすのも手かも知れないわね」
「メディアにばらすのはいかがかと、共和国は国を半分奪われ、破れかぶれになっておりますので、国民上げて、バスターランチャーの弾を要求されかねません」
「それもそうね、新聞はやめておくわ。まったく面倒ね。死舞手は何人入って来ているの?」
「こちらの調査では、精鋭が十八人と読んでおります」
「死舞手と魔王軍が手を組むとやっかいだけど、それだけは無いのが救いね。魔王軍がやってきて、ギョロ目と闘ってくれないかしら」
「ギョロ目……、隊長の凶相のエルザですね」
「あいつ、思ったより可愛い名前なのね」
「帝国の魔導列車駅、爆破事件の時の名前です、コードネームに近いと思われますな」
「何をやってるのかしらね、帝国も共和国も」
「まったくです、人類社会が一本にまとまれば、魔王軍など物の数ではありませんのに」
「魔族だって人類よ。ほんとにもう、仲良くしなさいよね」
オッドちゃんは肩をすくめた。
「そういえば、条約があるのにオッドちゃんとメイリン行政府の接触は問題にしてないんですね」
「ええ、あの条約はメイリン市だけは批准しておりませんから。独立都市なので、そういう無理はきくのですよ」
ああ、それで、メイリン市がオッドちゃんのホームタウンみたいになっているのね。
よかった、三千世界に、オッドちゃんが帰るところが無いと思っていて、悲しく思ってたところだよ。
でも、そんな事、どうでもいいんで、お金ください。
綺麗な秘書さんが、重そうな袋を持ってきた。
それが、ミスリルナックルを売った残金であった。
キルコタンクの倉庫を借りて、馬車溜まりの被害者に保証して、スラムのこそ泥を捕まえる捜査費を出した残りである。
その額、なんと、一億二千万グース。
キャンピング馬車が二台買えますよ。
ほわー、大金だ。
どうも、市に売らなかったら、ミスリルナックル一個で二億グースは固いらしい、貧民が鬼の形相で盗ろうとするわけだよ。
そりゃバーグさんも降格されて事務職にされた上に減俸三ヶ月なわけだ。
ほくほく。
この現場に持ってきたのは、白金貨で二千万グース分。二百枚であった。
あとの一億グースは金融機関に口座を作ってくれたら、そこに振り込むそうだ。
まあ、そんなに硬貨持って歩いても大変だからだね。
僕らは五百万グース、白金貨五十枚ずつを貰って、無限財布に入れた。
パットとオッドちゃんは、もう銀行口座を持っているので、振り込み用の口座番号を秘書さんに教えている。
ちなみに、オッドちゃんはメイリン中央銀行、パットはステイル振興銀行であった。
魔法の世界で、オンライン化とかしてないのにどうするのかな、とか思ったが、なんか符帳とかを使って何とかしているらしい。まあ、銀行は地球でも昔からあるしね。
「それでは早速銀行口座を作りましょう、我が君」
「行政塔の二階で口座は作れますわよ」
美人秘書さんが教えてくれた。
僕たちは、エレベーターに乗って、二階へ降りていく。
よかった、連邦口まで降りろとか言われなくて。
行政塔の二階にあったのは、メイリン中央銀行の本店で、立派な応接室で通帳を作ってもらった。
魔法が複雑に掛かった通帳とのこと。
認証はサインだった。
一番後ろのページに、パンゲリア文字でヒダカ・ゲンキとサインすると、キラキラした魔力が散って、通帳は僕の専用の物となった。
最初のページに、燦然と輝く、二千五百万グースの文字。
うっひっひ。
一年に三百万グース使っても、八年ちかく持つな。
「これでパットのお財布も安心だね」
「ええ、我が君にもご心配をかけまして。これでオッドにお金を借りるという屈辱を受けなくてすみます」
「べつにお金ぐらい、普通に貸すわよ」
「オッドに借りを作るのが、なんか嫌なのだ」
「はー、お金が一杯だよ。何に使おう。あ、オッドちゃん宿代を返すよ」
「絶対に受け取りませんからねっ! あなたたちは私が召還したから、私が払うのっ!」
「いや、悪いし」
「悪い気がするんだよ」
「あ、あなたたちの、お金の世話をすると、その、なんというか、う、嬉しいのよ、私が、お願いだから払わせて……」
オッドちゃんが頬を赤らめてまで払うというのだから、まあ、しかたがない。
あやめちゃんと、しょうがないねとアイサインを交わして、微笑みあった。
【次回予告】
知らない世界では、食料品を買うのも一苦労だ。
パンは政府統制品、肉屋さんはむき出しでグロイ風景である。
がんばれげんきっ、足を使ってお買い得品を探すんだっ!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第83話
83. 食料品のお買い物




