81. キャンピング馬車を買う
オッドちゃんの思いつきで、持ち運び小屋を作るべく、僕たちは工務店に訪れた。
「無理だ、嬢ちゃん」
「なんでよっ」
「家ってのはな、土台と建物で出来てんだ、土台から外すと、建物が歪んで床が壊れる」
「土台ごと運ぼうかしら」
「無駄な質量を、持ち歩くんじゃねえよ、馬車屋へ行って、宿泊馬車でも買えや。それなら車輪も付いてらあ」
「それもそうね、ありがとう親方」
そのまま、上廻り横路を進み、馬車屋で宿泊型馬車を見る。
うーん、馬車にベットを積んだだけの物だなあ。
「もっと大きいの、五人寝れて、行水場と台所が付いた物は無いの?」
「そんな馬鹿でかいものはありませんな。特注になります」
「特注だと、どれくらいの時間が掛かるの?」
「そうですな、三ヶ月は見ていただきませんと」
「遅いわね」
そういや、サイマルさんが、川島君ルートだと、キルコタンクにキャンピングカーみたいな箱馬車を引かせたって言ってたな。
でも、聖堂都市かあ、ルベル峠を越えるの大変だな。
ジェットで一飛び、うーん、魔力の溜まり方の関係で温存しておきたいな。
馬車屋から出て、連邦口の方を見てみる。
……。
なんだろう、あの馬車溜まりに居る、銀色の箱形な車は。
予言に出ていた箱馬車が欲しいと思ったら、メイリン市に運ばれていて、僕が見つける、そんなご都合主義があっても良いのだろうか。
「オッドちゃんが欲しがってる箱馬車が、たぶんあれ」
「えっ!?」
オッドちゃんが振り返り、箱馬車を視認したと思ったら、坂を、もの凄い勢いで、かけ降りはじめた。
弾丸みたいな速度だ。
えー?
「え、オッドはどこに行くつもりなんだ?」
「あの箱馬車を見に行くらしい」
「あれ、サイマルさんの予言に出ていた、居住馬車かな?」
僕らも、えっちらおっちら、坂を下って、連邦口の馬車溜まりに向かう。
ぜいぜい。
馬車溜まりに付いたら、オッドちゃんは、箱馬車の近くに居た、メガネで白衣の青年と交渉を初めていた。
「本当に売ってくれるの?」
「ええ、僕は聖堂都市で活動している発明家のトランクという者なんですが、このキャンピング馬車を作ったは良いのですが、誰も買い手が居なくて困ってたんです。そうしたら、一昨日、ミハマさんという方が、メイリンに、キャンピング馬車を買ってくれそうな人が居るよって教えてくれまして」
おー、美浜さん、ナイスアシスト、敵だけど。
聖堂都市に遊びに行ったんだね。
魔王軍のお金で、美味しいものと着る物を沢山買って帰りなさいね。
「未来ちゃん、偉いっ!」
「敵だが、良い子だな、ミハマは」
「安心するには早いわ、中を見せて、気に入らなかったら買わないわ」
「ふふ、そこには自信があります。見たら欲しくなりますよ、絶対」
おお、トランクさん、凄い自信だな。
話題の箱馬車は、結構大きい銀色の箱形の物で、ゴムのタイヤが四つ付いていた。
「外装は特殊合金で出来ていて、雨風から車体を守り、寒暖を和らげます、馬でも引けなくはないですが、馬力のある走竜で引いた方が良いでしょう」
トランクさんはそう言いながら、車体後部にあるドアを開いた。
「ドアを開いた部分に簡易行水場を作り付けています、水の魔石と熱魔石を組み合わせ、適温のお湯が出てきます」
「裸が見られてしまうわ、破廉恥だわ」
「ご心配なく、扉の上部に畳まれた、水生ワイバーンの皮膜で出来た蛇腹カーテンを、こう、下ろせば誰にも見られる事無く、行水可能です、引き出した部分は棚になっており、着替えとバスタオルを収納可能です」
「な、なかなかやるじゃない」
「入ったすぐの所がミニキッチンになっています。魔導コンロとミニシンク、小型魔導オーブンを完備、食器類は、足下の棚に収納しています。炊事に使う水や温水は簡易行水場の物を共用しています」
うわ、なんか凄く工夫されていて便利そうだなあ。
「気になるお手洗い関係ですが、そのお隣のドアとなります。少々狭いですが、そこはご勘弁ください、トイレ、キッチンから出る汚水はひとまとめにして、最下部にあるタンクに溜められ、汚水処理スライムによって分解、害の無い水と固体となって廃棄可能です」
「凄いわね」
「本体の真ん中には、ダイニングを兼ねた応接室を設けました。対面するソファーには最大六人が座り談笑可能です。壁に設置されたテーブルを倒せば、ディナーも可能ですね」
そう言って、トランクさんは、応接室の壁にあるテーブル板を倒し、支柱を噛ませて設置した、意外にがっちりしている。
「その奥のフロアでは、寝転んだりするスペースとなります。そして夜間には、真ん中に床を設置し、上下で四人が寝ることが出来るスペースが生まれます」
「最大で六人が寝泊まりできるのね」
「はい、平均パーティ数である六人の生活を支える事を設計目標としました」
「それでお値段は?」
「は、その、あのですね、凝りに凝りまくったおかげで、材料費がかさんでしまいまして、その、五千万ケルほどとなります……」
五千万ケルかあ、凄く高いね。良い物なんだけどなあ。
「買うわ」
さすがはお金持ちオッドちゃん、一言、即決であった。
「ほ、本当によろしいのですか」
「お金ならあるから、それで、五千万ケルって、材料費で足が出てないかしら」
「い、いえその、正直、出ていますが、その、それはこんな物を発明しようとした私の責任ですから、材料費さえ戻ってくれば借金も消せますし、その」
「六千万ケル払うわ。この車は、王侯貴族向きに需要が絶対あるから諦めないで開発を続けなさい」
「オ、オッドさまっ」
トランクさんは泣き出した、その胸をぽんぽんとオッドちゃんが叩く。
ちなみに胸を叩くのは身長の差が大きいから、頭に届かなかったらしい。
オッドちゃんは無限財布から、赤茶色の大きい硬貨を出して、トランクさんに渡している、あれは一枚百万ケルの赤竜貨かな?
キャンピング馬車はその場で引き渡しが完了し、オッドちゃんが謎空間に飲み込ませた。
魔法は便利だな。
これで、ダンジョンでの寝泊まりが快適になったわけだ。なによりだ。
通関を済ませていたトランク氏と一緒に市内に入り、彼を金融機関まで護衛した。
泥棒小僧クルツがまた、連邦門近くを、うろうろしている。
朝に取ったギルドの仕事は終わったのかね。
「二三日、メイリンに居りますので、何かありましたら対応いたします。このたびはお買い上げ、誠にありがとうございました」
そう言って、連邦口近くのホテルの前で、トランク氏は頭を下げた。
ここのホテル、ダルバスの二階に泊まっているそうだ。
「良い買い物をしたわ」
「これで、ダンジョンアタックが、かなり快適になるね」
「行水場にキッチン、ちゃんとベットとお布団で寝られるんだね」
「オッドは金持ちだなあ」
あれ、泥棒小僧クルツが近づいてきてるな。
なんだよ、やるかーっ。
「に、兄ちゃん、警戒すんなよ、仲良くしようぜ、へへへ」
うさんくせえ、これは嘘を付いている顔だ。
「な、なあ、兄ちゃん、良い所に連れて行ってやろうか、すげえぜ」
「……。おまえな、それ、凄く目つきの悪いハーフリングに持ちかけられただろ」
「えっ、いや、そ、そんな事は無いぜ、本当に良い所だから」
「おい、クルツ、あいつらの話だけには乗るなよ、暗殺部隊だから、お前なんか平気で殺すぞ」
「いいからっ! 黙ってついてこいよっ! てめええっ!!」
「たぶんついて行ったら、お前も一緒に、魔法でドンだぜ」
「くううううっ! 付いてこいっ、付いてこいったらっ!!」
「お前、幾らもらうことになってるんだ? それを安全に貰える保証を取ったのか?」
「うるせえっ! 畜生っ!!!」
クルツは怒り狂って殴りかかってきた。
僕が、すり足で避けるとドタンところんで転がった。
「ヒヒヒ、勇者ゲンキの言う通りだよ、もしも上手く連れて来たら、お前も一緒に殺してたぜ」
「なっ! 金くれるって言ったじゃないかっ!! お前っ!!」
建物の物陰に、凶相のハーフリングが居て、こちらを見て、あざ嗤っていた。
「いやいや、イイネ。勇者の武道もすげえな。殺しがいがあるぜ」
「あんた名前は?」
「語る名前なんざねえよ、好きに呼べ」
「合法ロリ」
「……なんかヤダ」
「好きに呼べって言ったじゃん」
「ああ、そうか、そうやって、なんとなく緩い雰囲気に巻き込むのか、それはそれでイイ手だな」
「これは、げんき君の元々の性格なんだよっ」
凶相の少女は、きゅっと笑った。
「イイ世界なんだろうなあ、異世界ってのは、行ってみてえ、んで、コイツみたいな緩い奴らを大量虐殺してぇ」
「なにか用? ギョロ目」
「ああ、そう呼ばれる時も多いな、じゃあ、ギョロ目でイイや」
「何しに来たのだっ、貴様っ!」
「勇者と小僧のやりとりが笑えたので、茶化しに来ただけだぜ。本格的な攻撃は、雇われ刺客が、そろった明後日ぐらいからだ、今のうちにほのぼのしてな」
「貴様は、卑劣な手ばかり使いおって」
「ご通行のみなさんっ! この凶相のハーフリングが、共和国の暗殺部隊、死舞手の隊長ですっ! お金で物事を頼まれても、支払われる事は保証されてません! 始末される可能性が高いですっ! 注意しましょうっ!!」
「ぷっ、くはははっ! お前っ! 勇者! なんだよ、暗殺部隊を公衆の面前に晒すってっ! お前、そりゃ、反則だろうっ! ぎゃっはっはっはっ!」
とても愉快そうに、ギョロ目は大笑いした。
たんっ、と軽い音を立てて地を蹴り、オッドちゃんがギョロ目に近寄った。
バッと後ろに跳んで逃げようとしたギョロ目を、オッドちゃんのバリアが包んだ。
「目障りだから、あなたから潰すわ」
「おや、捕まっちまったな、はははっ!」
ギョロ目は懐から、ハンマー状の物を取りだし、バリアの端に打ち当てた。
パリーン。
軽い音を立てて、バリアが砕け散り、その破片の中を跳びすさってギョロ目は逃げる。
ぴょんぴょんと跳ねて彼女は塀を蹴り、商店の屋根の上に立つ。
「バリアを使うと解ってんのに、対策してねえわけがねえだろっ、じゃあ、またなっ」
そう言って、ギョロ目は建物の影に、溶けるように消えた。
「くっ、すばしこい奴」
「追わない方がいいな、あの手の奴は、十重二十重に罠を仕込んでるはずだ」
「あのハンマーは?」
「武器というより、魔導具ね、結界破壊の道具でしょ」
あれ、いつの間にやら、クルツが居ない。
やれやれだぜ。
【次回予告】
げんきたちは、ミスリルナックルの代金をもらいに、行政塔へ上がる。
目指すは最上階の一階下、議長室だっ!
ちなみに最上階は展望レストランだっ!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第82話
行政塔の最上階の一階下




