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80. ジーナ薬品調合店

 美味しいお昼ご飯を食べ終えて、上廻り横路ストリートを歩いていたら、『ジーナ薬品調合店』という看板を出したお店を見つけた。

 これはしわ依頼いらいで、いつも依頼書いらいしょが壁にったままになっているジーナさんのお店かな?

 午後はプレダンジョンアタックの為に物資を買う予定なので、薬品が安ければここで仕入れてもいいんだけど。


「オッドちゃんは薬品とかくわしいの?」

「ぜんぜん知らないわ、使ったこと無いから」


 そうか、あなたはチートですもんね。


「パットは?」

「私もあまりくわしい訳では、騎士は騎士団がバックアップするので、薬品の購入・管理は別の人がやるのですよ」

「うむむ、良い薬か、良く無いのか、解らないのか、それは困るなあ」

「小説なんかだと、鑑定スキルで一発なんだよね」

「そんな便利なスキルを持っている人は、この中には居ないね」

「魔法書の鑑定ならできるわ」

「刀剣、甲冑かっちゅうの鑑定ならば」

「薬品のたぐいを使うのは、僕と、あやめちゃんと、パットか。オッドちゃんは薬品効くの?」

「毒と同じで、ぜんぜんかないわよ」


 オッドちゃんを世俗せぞくの役に立てようと思った、僕が間違ってました。

 とりあえず、中に入ろう。

 ドアを開けて調合屋の中に入ると、ちょっと刺激的な甘い感じの匂いがした。なんだろう、おばあちゃんの家というか、樟脳しょうのう系の匂い?

 こじんまりとした店内は三面に作り付けのたながあり、そこにつぼびんが沢山並んでいる。


「こんにちわー」

「……」


 ジーナさんらしい、年若い女性は返事もしないで、試験管から紫色の液体を、ビーカーの中の黄色の液体へ、ガラス棒を伝わせて慎重しんちょうに少量ずつ落としている。

 何滴か紫の液体が黄色の液体に混ざると、渦をえがいて混ざり合っていく。

 ポンッと音がしてビーカーから煙がもわっと立つとビーカーの中の液体は桃色になっていた。なんに使う薬なのだろうか。


「失礼、神経を使う調合だから、返事が出来ませんでした、いらっしゃいませ」

「いえ、お気になさらずに、それ、なんの薬ですか?」

「毒薬です、主に矢尻に塗布とふして魔物に打ち込みます。人間サイズぐらいまでの魔物なら、即死させる事が可能です。りますか」

「いえ、いりません」

「良い薬なのに。かすり傷でも麻痺状態を引き起こしますので、暗殺に最適なんですよ。なんだかメイリン中の薬局から毒薬のたぐいが品薄になってるので、追加調合していた所なんですよ」


 その売られた毒薬たちは、主に僕らに向けて使われるのだろうか。


「その毒薬は解毒薬とかはあるんですか?」

「大抵の毒薬には解毒薬がありますよ。この毒だと、専用解毒薬が必要ですが、広範囲に効く汎用はんよう解毒薬もありますよ」

「メイリンの市場で毒薬が動いているとの事ですが、買っていく人に共通点とかはありますか」

「ハーフリングとエルフが多いと聞きますね、うちにも目つきの悪いハーフリングのお客さんが毒薬を買いに来て、沢山買っていただきましたよ。共和国の暗殺部隊の死舞手しまいてが要人暗殺に動いているのでは、との噂がありますね」

「暗殺部隊が現地で毒を買うのですか?」

「鉱物毒はあまり変質しないのですが、魔法効果のある生物由来の毒は一週間ぐらいしか効き目が持たないんですよ、酵素こうそで分解されてしまうので」


 なんかプロっぽい事をペラペラと喋るジーナさんは、黒髪でメガネの華奢きゃしゃな感じの人だった。

 これは、薬物オタクの人だな、なんか心情が良くわかる。

 薬と毒の話だったら何時までもしゃべっていられるんだろうなあ。

 店も清潔だし、ガラス器具もピカピカで指紋一つ無い、これはレベルの高いオタクの人の仕事だ、なんか僕の仲間って感じがする。


「とりあえず、この店で売られた毒薬の解毒剤をください」

「あら、お兄さんはねらわれている方ですか?」

「たぶん、僕と彼女です」

「それはそれは、ええと、ふんふん、カフタンとシリアは、両方あの薬が効くから、五種類ほどでこの店からの毒は解毒できますね、結構お高いですが、お持ち合わせは?」

「私が全部出すから、必要な物を売ってちょうだい」

「メイリンで売られている毒を全部解毒させるとなると、種類は増えますか?」

「んー、三種類増えますね、こちらも必要ですか?」

「おねがいします、全種類を四つずつ」

「まいどありがとうございます」


 ジーナさんは棚を回って、つぼから小瓶こびんに薬品を移した。

 机に並んだ解毒薬の小瓶こびんは色とりどりで、とても綺麗きれいだった。

 四本ずつまとめておいて、ジーナさんは紙に薬品名を書いて小瓶こびんる。


「暗殺者に狙われているのなら、まず、仲間以外は近くに、よせない事です、小さな針に塗布とふしてちくりとやるだけで死にいたる毒薬も売りましたから」

「それは怖いですね」

「あと、食べる物に気をつけてください、自炊した方が良いですね、料理屋に忍び込む、女給として料理に垂らすなど、以外と経口けいこうからの毒殺は簡単なので」


 うわ、恐ろしくやっかいな事になったな。


「もっとも経口けいこうからの毒の場合、死ぬまで時間が、かかりますので、解毒薬を飲むか、解毒の魔法を、かけてもらってください、そちらの聖騎士さんは解毒の魔法は?」

「あー、一類いちるいは使えるのだが、二類にるいはちょっと」

一類いちるいだと、魔物の毒ぐらいしか消せませんね、三類さんるいまで上がれば、どの毒でもほぼ解毒できるので便利なんですが」

るいってなに? パット」

「解毒魔法はレベルがあって、それぞれ違う魔法なのです、私は前衛タイプの聖騎士なので、解毒は一類いちるいまでしか使えません。いやまあ、勉強すれば使えるのですけどね」

三類さんるいを使えるのは、治癒院ちりょういん僧正ビショップぐらいにならないと駄目ですね」

「魔法なら、どんな毒でも消せるの?」

「大体は消せませますね、生物由来ゆらいの毒は、実態じったいが魔法効果な場合が多いですので」


 あ、魔物の毒って、化学的な効果じゃなくて、物質の組み合わせで起こるの遅効性ちこうせい魔法のようなものなのか。


「この症状が出たら、この薬を使うという説明書を書きましたのでお持ちください。症状が解らなかったら、急いで治療院ちりょういんへ、かけ込んでください。上廻り横路ストリートのケストナ治療院ちりょういんが名医さんで良いですよ」

「ダンジョンの深い所で、不明な毒を受けた場合は?」

「……あきらめましょう」


 うは、マジか。

 レストランでご飯も食べられなくなって、敵からのかすり傷もまずい。

 毒ってやっかいなものだな。


「あなたをやといたいわ、いくらかかるの?」

「え、調合師を? え、それは……」

「私たちは五十三階まで、ダンジョンアタックをするつもりなのよ、薬師がいれば安心よ」

「私は戦闘力がありませんよ、お荷物になりますよ」

「戦闘方法は弓矢かしら」

「ええ、短弓と投げナイフ、吹き矢もつかいますけど」

「後ろでビョンビョン矢をっていれば良いわ、契約は五十三階まで、店を閉める時間の保証もするわ、医薬品も空間魔法で持ち運び放題、調合器具も運べるわよ。使った薬品は別途精算で、いかがかしら」

「ほ、本気ですか、空間魔法……。あっ、あなた、オッド師ですかっ?」

「そうよ、大陸一の大魔導師、オッド・アイとは私の事よ」


 なんか、オッドちゃんがほこらしそうだ。


「なんなら店ごと空間魔法で運べる……。あら、私良い事を思いついたわ」


 なんか、オッドちゃんが、やっかいな事を思いついた模様。


「私は何時いつもテントとかを空間魔法で運んで、ダンジョンで出していたのだけど、私が使える空間なら、家も運べるわね。持ち運び用の小屋を持って、快適かいてきな迷宮生活ってどう?」

「どうって言われてもなあ」

「迷宮の中で、ベットで休めたり、行水場を使えたり、お台所で料理出来たら、素敵すてきですね」


 なんかそれは、とてもキャンピングカーだなあ。


「あとで大工の所に行って注文しましょう。所で、あなた」

「ジーナです、ジーナ・オーエンです」

「ジーナさん、私たちは明日、ダンジョンにちょっともぐって、すぐ帰ってくるわ、本格的なアタックはその後なの、それまでに考えておいてね」

「は、はい、良いお話しとは思うのですが、五十三階までは行った事が無くて、すこし自信が」

「何事も経験よ、深い所なら、良い調合素材もあると思うわよ」

「そ、そうですよね、で、では、お返事は明後日あさってで」


 うむ、なんだか魔王討伐隊に新しいメンバーが増えそうだ。


「おっと、明日行く分の傷薬とか買わないと」

「明日は何階ぐらいまでのご予定ですか?」

「一日だからね、十階ぐらいまで見て帰ってくるよ」

「十階まででしたら、ほとんど危険な魔物は居ませんから、基本的な物で大丈夫ですね」

「回復系の薬って、どんな速度で、どこまで直る物なの?」

「初心者の方が勘違いしやすいのですが、物語に出てくるような死人でも直すような蘇生薬そせいやくは、ほぼ存在しておりません、大国の王宮の宝物庫の奥に一本ぐらいあるような物です。手足が欠損けっそんした物を直す薬も、同じぐらいしかありません。深い傷を軽減けいげんさせる薬はございます。ただし流した血は戻りませんので別途べっと増血剤ぞうけつざいも必要となります。軽い傷を治す、ライトポーション、重傷を中傷に軽減けいげんさせるヘビーポーション、増血剤ぞうけつざい、の三種ぐらいでしょうか」

「何本ぐらいずつ必要かな」

「十階ぐらいまででしたら、ライトポーションを何本かですね」

「では、ライトポーションを、ええと、二十本と、念のため、ヘビーポーションを五本ずつ、増血剤ぞうけつざいも五個ください」

「かしこまりました」


 ジーナさんは、注文した品を机の上にそろえてくれた。

 ポーション類は良く出るのか、すでにラベルをったびんの物があった。

 僕が魔法袋に全部つめようとしたら、オッドちゃんが手でせいして、ポーションを僕の無限財布の中につめ込んだ。


「ライトを二本、ヘビーを一本、増血剤ぞうけつざいを一本、非常時の為に、それぞれのお財布にいれておきなさい」

「あ、なるほど、咄嗟とっさに出しやすいね」


 パットとあやめちゃんも、それに習って無限財布にポーションを詰める。

 なるほど、無限財布といっても、別にお金だけ入れなくても良いのか、ちょっとしたかばんの容量だもんね。


「ポーションの使い方は、ぶっかけるのですか、飲むのですか?」

「ポーションの効果の四分の三は、純水じゅんすいかした治癒魔法ちゆまほうですから、飲んでも、かけてもかまいません。飲むと四分の一の遅効性ちこうせい薬効やっこうがあるので、私としては飲む方をお勧めします」

「いろいろありがとうございました、本番のダンジョンアタックでは、是非ぜひジーナさんと一緒にもぐりたいと思います、よろしくお願いいたしますね」

「は、はい、よく考えておきます」


【次回予告】

オッドちゃんの思いつきで、持ち運びが出来る小屋を買おうと店を転々とするげんきたち。

どれもこれも注文に合わない物ばかり、その時あやめが何かを見つけた!


なろう連載:オッドちゃん(略

次回 第81話

キャンピング馬車を買う

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