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79. 上廻り横路

 上廻り横路ストリートは下町すぎず、上流すぎず、なかなか僕の好きな感じの雰囲気ふんいきの町だ。

 ここは、メイリンの街の丘の中腹をぐるりと一周する道で、お店も高すぎず安すぎず、バラエティにんでいて、歩いていて面白い。

 なにか面白い料理屋さんは無いだろうかと、僕らはぶらぶらと歩いている。


 初日に入った両替商の前を通り過ぎる。


 あれ?


 僕はあやめちゃんの近くに寄って、お店の軒下のきしたに押した。

 パットが僕とあやめちゃんの前にでて、オッドちゃんがバリアを張ると、矢がバリアにパンッと当たってぽとりと道に落ちた。


「し、刺客しかくさん?」

「ですね」

「遠距離、屋根に二人、この先の道に何人かせてますね」

「先の道に五人、だと思う」

「武道の察知力さっちりょくも意外に良いわね、当たりよ」

「攻めて来ませんね、慎重しんちょうだ」

「ふん、だからって待っていれば衛士が飛んでくるわ」


「ど、どうしましたかっ!」


 笛を吹きながら、衛士が二人、こちらに走って来た。

 射手いしゅが店舗の屋根から、横路ストリートに飛び降りて、さらに、路地に逃げ込む。


 自然と、体が動いていた。

 目のすみで、異常を認識にんしきしていたらしい。

 衛士が剣を抜き、あやめちゃんに斬りかかってくるのを。

 振り下ろして来た手の甲を、僕は叩いてずらす、そのまま肩で体当たりして、横方向に重心を崩し、足をる。

 よし、もう一人の衛士の前に転ばせた。

 鬼の形相で、もう一人の衛士は蹈鞴たたらんで立ち止まった。

 パットが大剣を振るい、立っている衛士の籠手こてをズバリと切った。バッと血しぶきが上がる。

 悲鳴が上がり、剣を落とし、衛士は逃げようとするが、そこに火炎弾がぶつかって、横に吹き飛ばされた。

 オッドちゃん? と思ったが、彼女は横路ストリートの先に目が釘付けで、こちらの状況に気がついていない。

 あやめちゃんが青い顔をして、手を前に出していた。


「あやめちゃんが魔法を?」

「う、うん、ぶっつけ本番。し、死んじゃったかな?」

「いや、気絶しているだけだよ、アヤメ」


 はあ、と、大きい息を吐いて、あやめちゃんは僕にもたれかかって来た。


「大丈夫、僕がついてるよ」


 と、僕はあやめちゃんの肩を抱いた。

 僕の腕の中であやめちゃんが、ぷるぷると細かく震える。


 さっきの道の先の刺客はおとりで、本命は衛士だったようだ。

 衛士は一人は火傷をして気絶、一人は路上に倒れてパットに剣を突きつけられて固まっている。


「誰の差し金だ?」

「はっ、言えるかよっ!」


 オッドちゃんが、やっとこっちに気がついて、バツが悪そうに頭を、かきながら近づいてきた。


「衛士が本命なの?」

「そうみたいだ、我が君が異常に気がついた」

「アヤメの魔法も発動したみたいね、なによりだわ、でもちょっと威力が無かったわね。一発で即死させないと駄目よ」

「そ、そんな怖いことはできないんだよ」


「衛士さん、連行される前に聞きたいことがあるんだけど」

「はっ、馬鹿め、この俺が、しゃべるとでも思ってるのか」

「ここらへんに美味しい料理屋さん、無いかな」

「なっ、おまえっ、……あー、この先にある、カリ鳥車輪亭が安くて美味いぞ」

「ありがとう」


 意外に素直に教えてくれたな。

 別の衛士さん達がけつけてきたので、事情を話して、連れて行ってもらった。

 しかし、衛士にも裏社会の手が伸びてるのか、わりと上の方まで腐敗ふはいしてるのかもしれないね。

 行政塔の上の方にも、敵がひそむむのかもしれないな。


「あの、げんきくん、もう大丈夫ですからので……」

「あ、はいはい」


 僕はあやめちゃんを抱きしめていた腕を、といた。

 やわらかい感触と、良い匂いが残った。

 パットが物欲しそうな目で僕らを見ていたが、君は闘う人なので、こういう機会は無いでしょう。

 あやめちゃんの柔らかさが残した雰囲気で、僕の心はほこほこしたのであった。


「先に逃げた奴らは戻ってくるかな」

「どうかしらね。それで、ゲンキは、刺客の衛士が美味しいって言ってたお店に行くのかしら」

「衛士さんの情報ですからね、行きましょうよ」

「我が君は、大物です」


 カリ鳥車輪亭は、襲撃現場から、少し行った所に確かにあった。

 結構ぼろい店の前に車輪が掛かっていた。


「車輪はこれだろうけど、カリ鳥ってのは何?」

「諸王国連邦の北の方でれる鳥の名ですね。そんなに美味しいとは聞きませんが」


 とりあえず入ってみた。

 うお、昼時から、ちょっと過ぎてるのに、混んでるな、四人入れるかな?

 ちょうど一グループが食べ終わって、テーブルが一つ開いた。

 女給さんが、テーブルを片付けたので、僕らは座った。

 あやめちゃんの顔色が悪い。


「大丈夫? あやめちゃん」

「あ、うん、その、初めて、人に暴力を振るったので、初体験でぷるぷるしてるんだよ」

「わかる、僕もメガトンゴーレムと初めて闘った時は、ぷるぷるした」

「うそー、げんきくん、あの時、凄くノリノリだったよー」

「ほんとだよー」

「火炎弾が発動してよかったわね、これで殺虫魔法までの長い一歩を初めて歩んだのよ」

「殺虫魔法はどんだけ高度な魔法なんだよっ」

「昨夜の広範囲ホーミング火炎弾が使えるようになったら、あれをダウンサイジングするのよ、殺虫魔法を極めると、この大陸でも有数の破壊力を持てるわ」

「そんな凄い殺虫魔法でなくても、風魔法に殺虫風もあるし、雷にも殺虫魔法があるぞ」

「アヤメがあの魔法を使いたいというから、順序立てて教えているのよ。その副産物で沢山の魔法が使えるようになるのよ」

「うむむ、あの綺麗な魔法まで、もの凄く道がけわしそうなんだよ」


 女給さんが、注文を取りに来たので、おすすめの日替わりランチプレートを頼んだ。


「あ、それと、甘いお茶か、ジュースは、ありませんか?」

「はい、連邦の北でれるブドウのジュースが季節なので昨日から来てますよ」


 それを頼んだ。

 パットはワイン、オッドちゃんはエールを頼んでいた。

 エールというのは、ビールの一種で、なんか作り方とかが違うらしい。


 ランチなんで、料理はすぐ来た。

 一枚のプレートに鳥のローストと野菜の煮た物とパンが乗っていた。

 スープの代わりに具だくさんのシチューが付いている。

 なかなか良い匂い。

 女給さんが持ってきたジュースをあやめちゃんの前に置く。


「え? なんで?」

「ショック受けてるときは、糖分を取ると良いらしいよ」

「あ、うん、ありがとう」


 あやめちゃんは笑って、カップから一口、こくりと飲んだ。


「わ、濃くて甘くて美味しい、これ」


 あやめちゃんから、貰って一口飲むと、口の中に豊潤なブドウの味が広がった。

 本当に濃くて、そしてさっぱりと甘い。

 これは美味しいね。

 女給さんに僕の分も頼むと、パットとオッドちゃんも頼んでいた。

 あやめちゃんが、こっくこくとジュースを飲んでいる、ちょっとだけ頬に赤味が戻ってきたね。

 鳥のローストを手に取る、おお、焼きたて、美味そう。

 かっぷりと噛みつくと、脂がじわっと口に溢れて、うま……。

 うわ、これ、なんだろう? 不思議な味、ちょっと香草みたいな癖があるんだけど、味わいがあって、美味しい鳥。

 これがカリ鳥かな?

 うまうまうま、とばくばく食べてしまう。


「これは、美味しいですね、癖があるけど、香草をして上手に消してます。でも消しすぎてないので、風味が残って良いバランスで美味しいですね」


 あ、シチューも同じ鳥かな、こっちはピリ辛にして味わいを増してる。

 美味しい。

 うん、野菜も苦しょっぱい感じで、良い味わい。

 パンが大きくて、うん、フランスパンっぽいけど、もう少し重い感じのパン。

 外はカリカリ、中はどっしり。

 結構お腹に溜まるね、バターをたっぷりつけると、とても美味しい。


 正直、刺客のお勧めだったから、どうかなと思ったけど、普通に美味しい。

 ここは、また来ましょう。


「このランチのローストとシチューの鳥肉がカリ鳥なんですか?」

「ええ、もう、主人がカリ鳥が好きで好きで、串焼き屋台を始めましたの。ただ、少し癖のある鳥肉でしょう、あまりお店としては流行はやりませんでしたの。でも、香草を工夫したり、シチューで煮込んで癖を弱めたら、だんだんとみなさんに口コミで広まりまして。今では大評判で大繁盛で、嬉しい悲鳴をあげてますの」

「美味しかったです、また来ますよ」

「はい、お待ちしております」


 ランチなんで、そんなに高い値段ではなかった、一人前、五百グースだったから、白銅貨五枚だ。

 夕食に来ても良いなあ。

 あー、美味しかった。

 ちなみに、車輪は屋台を引いていた時代の名残なごりだそうな。

 連邦門の外でカリ鳥の串焼き屋台を初めて中層まで成り上がったんだという。

 ご主人は偉人だなあ。


 あやめちゃんも、途中から元気がでたのか、ランチプレートを完食していた。

 なによりだね。


【次回予告】

プレタンジョンアタックの為に薬品を購入しようと、調合店に入るげんきたち。

店主のジーナさんは、毒物の専門家でもあった。

毒殺への対応を教えてもらうげんきたちだったが……。


なろう連載:オッドちゃん(略

次回 第80話

ジーナ薬品調合店

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