75. 白翼遊撃団というパーティ
四人だけで広かったボックス席は、白翼遊撃団のパーティメンバー十人が入って、きゅうきゅうになってしまった。
一流パーティの冒険者の話なんか、滅多に聞けるものじゃ無いので、色々と聞こう。
「僕はダンジョンには入った事が無いのですが、ある事情で五十三階の純晶水が必要になりまして、取りに行かなきゃならないんですよ」
「初タンジョンが五十三階かい、それは大変だよ」
「三十階までは楽勝よ、問題はその下ね。一回だけなら、強いパーテイにお金を払って後をついて行くという手もあるわよ」
「いや、オッド師とおてんば令嬢が居れば、五十階ぐらいなら、なんとかなるんじゃないかね?」
「オッド師は一人でキルークダンジョンの底まで潜って、搭乗型ゴーレムを手に入れたって話を聞いたぞ」
僕の周りのパーティの人が、いっぺんにワアワア喋るので大変。
その中で、オッドちゃんはニーナさんに、はり付いておべんちゃらの言葉を引き出しては、ご満悦だ。
みんな酒をガンガン飲んで、料理をじゃんじゃん頼んでいた。
だんだん、みんな顔が赤くなり、声が大きくなる。
オッドちゃんが、ニーナさんに自分の飲んでいたスピリッツを、ガンガン注いで飲ませてる。あれは、めちゃくちゃ強いお酒では?
ぐったりしたニーナさんを、これ幸いと、あやめちゃんが隣に座ってモフモフしている。
「気をつけなきゃならない魔物? 浅い階では、スライムだなあ」
「え、スライムですか?」
「笑うけど、本当に怖いのよスライム。上からべったり降ってくるし」
「ほらほら、これ、スライムの火傷跡。あはは、赤くなった、もう、君、初心だなあ」
「我が君に、不浄な肌を見せるな、盗賊め」
「スライムは液状だから、物理攻撃ではどうにもならないんだ。魔術師が居ないと大変な事になる。迷宮初心者が浅い層で死ぬ原因はスライムが多いよ」
「深くなってくると、毒スライムとか麻痺スライムとか嫌らしいスライムが増えてくるんだ、しかも倒しても魔石は小さいときてる、天井とか注意して、見つけたら逃げるのが良いよ」
そんなヤバイのか、スライム。
ゲームでは、ほがらかにぷよぷよしていたけど。
よく考えたら、液状生物に目や口が必要とは思えない。
あれは漫画家の絵の腕が超よかったのが良く無いよね。
色々なダンジョンでの失敗談、苦労談を聞く。
やっぱり、バランスの良いパーティで挑むのが良いらしい。
「長期間のダンジョンアタックになると、野営はどうするんですか?」
「安全そうな部屋でテントを張って休むね、魔法使いの結界が無いと、いろいろとヤバイ。駆け出しの冒険者パーティは魔法使いが、いない時があるので、そういうときは時間を決めて番をするんだけど、つらいもんだよ」
「結界代わりの使い捨て魔導具も売ってるわね」
「何にせよ無理は禁物だね。危なくなったら一目散に地上に逃げる事だよ、怪我は治るけど、死んだらそこまでだからね」
「あと、正確な時計は絶対必要よ、昼夜の区別がないから、四日も潜っていると体感時間が狂うの、なるべく地上と同じ時間を過ごしてないと体調が凄く崩れるわ」
「食料はなるべく好きなもの、あと甘いものと果物は持っていくと良い。あまりに疲れてると食べられなくなるときがあるから」
「荷物のまとめ方一つで疲れ方が違うから工夫してみるべき、重いものは腰の近くに、良く使うものは背負子の上の方に詰めて左右のバランスを取るんだ。重い荷物を一日担いで動いていると、魔法袋が欲しいなあって痛切に思うね」
なんか、ためになる話が多いなあ。さすがは一流の冒険者。
白翼遊撃団は、諸王国連邦のタリス公国で生まれた戦士のセストルさんと、魔法使いのお姉さんのミランダさんが出会って、タリスで一旗あげたいという冒険者を募って出来たパーティらしい。しばらくはタリス公国の首都パデリアで活動をしていたのだけど、ダンジョンアタックの為にメイリンに移ってきたそうだ。
色んな仲間と出会い、死に別れ、頑張ってダンジョンに潜って潜って、メイリンランキング一位のパーティになったという。現在は白金冒険者三人を抱える一流冒険者パーティになり、総勢二十人の団員を数えるほどになったんだって。
「僕らの夢かい、それはもう、大陸中のダンジョンを全部制覇することさ」
「早くメイリン迷宮の底が見たいわね」
「メイリンの底を見たら、どこへ行くんですか?」
「この大陸には十三の大ダンジョンがあるから、それのどれかだね。獣人連合国のピッシャ迷宮か、ギグギグ迷宮かなあ」
ニーナさんが真っ青な顔でお手洗い方向へ、口を手で押さえながら、よろよろしながら向かって行った。
が、がんばれ。
僕は高校生なので、飲み会経験は無いんだけど、きっとこんな感じなんだろうなあ。
未成年がやれて、飲み会に近いのは、カラオケ屋さんでのコンパなんだろうけど、こっちもあんまり行った事が無い。
白翼遊撃団のメンバーをだんだん覚えてきた。
リーダーはイケメンのセストルさん。
戦士で前衛。
サブリーダーは美人のミランダさん。
魔法使いで後衛。
斥候は猫の獣人のニーナさん。
ダンジョンでも夜目が利くので便利らしい。
盗賊のシルビア姉さん。
スライムに焼かれたオパーイ近くの傷を見せてくれたのがこの人だ。
あと盾役のドワーフのヤンさん。
遊撃のすらりとした戦士で槍使いのジンガさん。
飄々とした爺さん魔術師のジュアンさん。
はんなり笑う僧侶のマリアさん。
あと荷物を運搬する牛獣人の若者、リリンさんが居る。
最後は、セストルさんのメイドさんのアリスさんで、白翼遊撃団の一軍は出来ている。
荷物を運搬するリリンさんやメイドさんは、後方支援で、迷宮へは入るが、基本的に後衛の後ろに居て自分の身を守るだけで戦闘には参加しない。
白翼遊撃団の二軍は別のパーティを組んで、中層階で訓練がてら、魔石狩りをしてるとの事。
戦闘編成は、前衛の盾役が、戦士のセストルさん、ヤンさん。
真ん中に遊撃のジンガさんと斥候のニーナさん、盗賊のシルビア姉さん、僧侶のマリアさんが入る。
斥候と盗賊は弓で遠距離攻撃。
遊撃のジンガさんは槍で後列から攻撃したり、前衛が崩れかけたら交代したりする。
僧侶は戦闘中に回復したり、支援魔法を掛けたりする。
後衛は、魔術師のミランダさん、ジュアンさんが務め、後方から魔法で遠距離攻撃や支援をする。
ダンジョンを探索移動の時は、戦闘時の編成から、一番前に斥候のニーナさんと、盗賊のシルビア姉さんが先行して、罠や索敵に務めて、ゆっくり移動するとのこと。
斥候と盗賊の違いは、鍵開けなどの技能の違いで、斥候は宝箱の鍵開けが出来ない分、戦闘力が少々高い。
回復役は僧侶のマリアさんが信仰回復系の呪文を使い、メイドさんのアリスさんが薬物医療治療をするとのことだ。
うーむ、パーティ編成の話とか聞くと、ゲーマーの血が騒ぐね。
さすがは一流パーティ、編成に隙がない。誰かが一人倒れたら予備の職がある。
魔王討伐隊も負けてはいられまいっ。
「ねえねえ、勇者、勇者は、どこに泊まってるの、ねえねえ」
「え、ホテルカルビンですよ」
「おー、さすがはオッド師の下僕、お金持ち~」
「私が全部出してるのよ」
「オッド師、お金もち~」
「ふふん、それほどでもないわよ」
「ねえねえ、シングルよね、誰かと泊まってないわよね。ゲンキ君はお姉さんとか興味ない?」
こ、これは、シルビアさん、個人的にスライム火傷を見せてくれるという話ですかっ!
「あー、盗賊よ、我が君には、もう、私という嫁がいて、アヤメという彼女がいて、オッドという……。保護者?」
「なんで私だけ親がわりなのよっ」
「が、居るのだ、だから割り込んで来ても無駄だ」
「愛人がまだね!」
「そ、そういうのも、嫁のつとめだ」
「愛人と、愛の無いセック……」
シルビアさんはミランダさんにパカリと殴られた。
「おほほ、ごめんなさいね、この人はお酒が入ると年下の男性をくどく癖があって」
「今年はもう、五人食べました~」
なんという肉食系女子!
そして、その、お断りを、なぜパットが代行してるのか、僕はわけがわからないよ。
いや、パットがお断りしてなくても、あやめちゃんが凄い目してるし、オッドちゃんも肩をコキコキ鳴らしているので、当然、僕もお断りを入れるのですけどね。
色々みなさん酔っ払って、場が凄い事になっていった。
うちの家ではお母さんが、お酒を飲まないから、酔っ払った人がどうなるかはあまり見た事なかったんだけど、こうなるのか。
オッドちゃんはスピリッツをラッパ飲みする勢いで飲んでいたのだけど、なんかまったく酔ってない。ニーナさんは沈没してあやめちゃんの太ももの上に俯せておる。
パットも顔は赤いが、酔ってる感じは薄いな。
あーもう、シルビアさん、僕の手を取って、自分の太ももに置くのはやめてくださいよ。
すべすべじゃないですか、けしからんっ!
けしからん、と、なでなでしてたら、パットに見つかって手の甲をつねられた。痛い。
「オッドちゃんって、お酒強いんだね」
「何飲んでも酔わないわ。毒も効かないし」
「じゃあ、なんで、それ飲んでるの?」
「味が好きなのよ」
「オッドさん百の黒歴史の中に、オッドを毒殺しようとした王家の者が、毒を強くしすぎて、香りで王家一家全滅という話がありますね」
「あの時は吃驚したわね。朝起きたら、城中みんな死んでるのよ。なにかの祟りかと思ったわ」
なんというか、とんでもなく嫌な逸話である。
【次回予告】
深夜、路上で出会った凶相の少女の正体は?
新たなる敵は、その邪悪な目的を、月を背に宣言する!
漆黒なる悪の組織に立ち向かえ、げんきっ!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第76話
凶相のハーフリング




