74. ここは冒険者の酒場です
調べ物が終わったら、すっかり夕方になっていた。
お世話になったメルクさんにお礼を言って、僕たちはギルドを出た。
「晩ご飯はどうしようかな。また、ホテルで食べる?」
「菜っ葉でなければ、何でもいいな、私は」
「冒険者の酒場に行きたい」
「え? なんであんな下劣な所に行きたいの?」
「ダンジョンの噂とか聞けるかもだし、冒険者が良く行く場所に行って雰囲気をつかみたい」
「それは楽しそうだね、げんきくん」
「あなたたち、お酒飲めないじゃないの」
「茶を飲んで、ご飯を食べる。無問題」
「塔路沿いの酒場ならば、そんなに荒くれては居ないでしょう」
「行った事ないのよね、冒険者向きの酒場」
ひとまずホテルに戻ると、フロントに行政塔から連絡が入っていた。ミスリルナックル売却の残りのお金を取りに来い。だそうだ。行政塔には明日行こう。
部屋に入ると、僕の普段着が、もう洗濯が終わって届けられていた。早い。
せっかくだから、行水をしてから、普段着に着替える。
鋼鉄のガントレットとグリーブを布で綺麗に磨いて装着。
カコイイ。
むふーっ。
ロビーで待っていると、みんな降りてくる。
パットは甲冑を再装備。
あやめちゃんは初期の町娘装備だ。
オッドちゃんは変わらず。
フロントで冒険者が集まる店を聞くと、三軒ほど向こうにあるとの事。
さあ、行きましょう。ワクワクするなあ。
冒険者の酒場、それは、トロワの車輪亭というお店だった。
重厚な店構えで、ドアの前には、シュッとした感じの男前な店員さんが門番のように立っている。
「ご来店ありがとうございます。しかし……」
店員さんは、僕とあやめちゃんをじろじろと見た。
「そちらの……」
「店ごとぶっ壊されたいの?」
「いえ、その。はっ! オ、オッド様のお連れ様でございますか?」
「私の使役勇者、ゲンキよっ」
「ははっ、これは大変な失礼をいたしまして、どうぞどうぞ、お入り下さい」
なんか、普通に悪役な行動だよね、オッドちゃんは。
魔王向いてるのに。
僕らは店内に入る。
落ち着いたサルーンみたいな感じの店内で、中央で楽団がムーディな音楽を奏でている。
なんか、想像した冒険者のお店と違うなあ。まあ、僕のイメージ源は、村の冒険者ギルドの酒場だからなあ。
腰が沈みこむ椅子に座って、お茶を頼む、あやめちゃんも当然お茶だ。パットはワイン、オッドちゃんはスピリッツを頼んでいた。
スピリッツとは蒸留酒の事だが、僕の脳はオッドちゃんが発音した、お酒の銘柄の名前をスピリッツと理解したようだ。
統一言語だから、誰とでも話が出来るのは良いのだけど、日本語の語彙に無い物は意味として理解する時と、単なる音として聞こえるときがある。
閾値はどこなのかな?
前菜なのか、ハムとかチーズを乗せたクラッカー状の物が出た。ぱりぱり。
このチーズ美味しいな。
山羊の乳のチーズらしい。コクがあって、それでいてキレがある。
なんだかオッドちゃんが、メニューを見ながら怒濤の勢いで、なんか頼んでる。
冒険者の酒場なのに、ムーディで静かだな。
スパゲッティみたいな麺類とか、サラダとか、なんかのフライとかが大皿でどかどか出てくる。
酒場だからか、テーブルが低いので変な感じ。
フライは、イカ? タコ? 軟体類の揚げ物でした。柑橘系の汁を掛けて、バクサクシュワ。
美味しい、揚げたて。
ほこほこ。
高そうなお店だけあって、お料理も美味しい。
スパゲティ系は、ニンニクかなんかの辛味が効いたピリ辛挽肉ソースが掛かってる。
フォークで丸めてチュルン。
うんうん、いいね。
これはアレです、獣人国の魚醤入ってるね。
みんなもパクパク食べて満足そうだ。
僕らの憎悪をかき立てる、菜っ葉料理が出たと、思ったら、下に肉がひかれていて、上に甘辛ソースが掛かってる。美味い、美味い、菜っ葉もこうすると美味しいね。
ここの料理は獣人国料理ですか、とウエイトレスさんに聞いたら、メイリン風無国籍料理との事。
なるほど。
ウエイトレスさんの制服も背中が、がばっと開いてセクシー。
スパゲティ状の料理は、クワンドルという、連邦の南の方の麺料理らしい。
早くも大皿一皿が無くなったので、別の味のクワンドルをオッドちゃんが注文している。
僕らがばくばく料理を食べていると、だんだんお客さんが増えてきて、店内が活気づいていく。
店員がドレスコードチェックをするだけあって、皆さん身なりだけは良いんだけど、目がみんな鋭い。
隙とかある人が、ぜんぜん居ない。
ふと、気がついたが、薄手の絨毯を引いているのもあるんだけど、店内に音楽以外の音がしない。
お客さんの足音がぜんぜんしない。
みんなフワッと歩いている。
ダンジョンで魔物の注意を引かないためなんだろうなあ。
プロっぽいなあ。
綺麗なお姉さんの顔にざっくり傷があったり、ほがらかなハーフリングさんの片手が無かったりで、そういうところも冒険者っぽいね。
お客さんたちは、どう見ても異物のこちらのテーブルをチラチラ横目で見ている。
まあ、こちらは、パットを除けば、みんな子供みたいだしね。
十人ぐらいで入って来た身なりの良いパーティの先頭のイケメンが、まっすぐ僕らのテーブルに近づいてくる。
「これはこれはオッド師、こんな所でめずらしいですね」
オッドちゃんは、クワンドルを頬張って、もぐもぐしながら、黙って男を見つめている。
「やや、これはケンリントンのじゃじゃ馬大英雄とは、めずらしい取り合わせですね」
「だれだ、貴様」
「これは失礼しました、初めまして、メイリンのランキング一位パーティ、白翼遊撃団、リーダーのセストル・マイスと申します」
セストルさんは深々とお辞儀をした。
綺麗な装飾の全身鎧を着けて、大きな盾と大きな剣を背負ってる。
前衛職の人だな。
オッドちゃん、何か挨拶しなよっ。
「何か用かしら?」
「いえ、このメイリンをホームタウンにする偉人、オッド師を意外な所でお見かけいたしましたので、ご挨拶にと」
「ふーん、そうだあんたたちは、最高何階まで潜ったの?」
「八十五階までです、オッド師」
「へえ、結構潜ってるのね」
なんか、普通に喧嘩を売ってるようにしか見えないのだけど、これがオッドちゃんの普通なんだろうなあ。
後ろの魔術師っぽい格好のお姉さんの額に青筋が立つのが見える。
その後ろから、獣人族の娘がすたすたとオッドちゃんの前に出てきた。
「お前、うちの団長に失礼な口きくんじゃないにゃ」
しん、
と、沈黙が物理的な塊になって酒場を満たした感じになった。
楽団も演奏を止めた。
「あなた、盗賊?」
「斥候にゃ」
「そう、セストル、この子ちょうだい、あと僧侶もちょうだい」
「な、なにいうのにゃ、お前っ!」
「あ、あの、申し訳ございません、ニーナはうちの大事なメンバーでして、明日からの遠征に欠かせない者でして、僧侶職のマリアも、申し訳無いですが」
「団長!! なんで、こんなチビにぺこぺこしてるにゃっ! 団長はもしや小児愛者にゃっ!!」
「ニーナ、オッド師って知ってる?」
「知ってるにゃ、千年前から生きてるボッチ大魔導にゃ」
ビキンッって空気が割れる音がしたぞ、主にオッドちゃんの方から。
他の団員が、本人とジェスチャーで教えようとしてるけど、ニーナさんは頭が残念なのか、なにそれ? という顔で、団長とメンバーの方を見てきょろきょろしている。
「し、失礼しました、オッド師、この者は少々頭が不自由でして」
「そ、そうみたいね」
「なんか団長は変にゃ、オッド師といえば、千年前から生きてるババアにゃ、こんな子供のはずは無いのにゃ」
なんかもう、どの時点でオッドちゃんが暴れ出すのかというゲームみたいになってるな。
「その人が本当にオッドちゃんだったら、君はどうするの?」
「なにをいうのにゃ。というか、なんだ小僧、お前は、黒目黒髪で勇者みたいにゃ、勇者なのかにゃ? にゃははは」
こいつ……。助け船だしてやろうと思ったら、僕を笑いはじめた。
「この人が、もしもオッド師だったら、その……」
ニーナさんの顔に、ぶわっと汗がにじんだ。
手が、ふるふるぷるぷるぶるぶるぶると震え始める。
「ど、土下座するにゃ。何しろオッド様といえば、偉人にゃ、僕の育った町でも大評判な凄い大魔導師にゃ、そ、そんな人はこんな酒場で飲まないにゃ、も、もっと凄くて豪華な夢のような酒場で、崇拝されているイケメンに囲まれて、焼き魚をつまみに黄金酒とかカプカプ飲んでるにゃ」
やっと気がついたようだ、ニーナさんの命は風前の灯火であった。
おべんちゃらモードに入ったニーナさんの言葉に、オッドちゃんは、まんざらでは無いという顔をした。
「何しろ、オッド様といえば、大陸一の大魔導師だから、その、一目会ったら、目が潰れてしまうほど美しいはずにゃ、にゃからー……、ぼ、僕のあこがれの人が、こんな子供の訳がないにゃ、団長は嘘付いては駄目にゃ、オッド様の代わりに僕が怒るにゃっ」
わあ、セストルさんに責任をなすりつけはじめた。
セストルさんは、なんとも言えない渋い顔をしている。
「ふふ、あなた少し解ってるようね」
そして、オッドちゃんは、いつも通り、ものすごくちょろい。
「実は、私がオッドよ」
「わあ、それはしらなかったにゃー、しつれいなことをいってしまったにゃー、むかしから、あなたさまの、大ファンだったにゃー、あくしゅしてほしいにゃー」
「いいわよ」
青ざめたニーナさんは、オッドちゃんと固く握手をした。
尻尾の毛が逆立って膨らみまくってる。
その尻尾は千切れんばかりにブンブンブンと振られている。
猫が尻尾を振る時は、ご機嫌ではなく、超不快の時だと僕は知っている。
「セストル、あなたたちも、ここで飲まない? うちの下僕が冒険者にお話しを聞きたいらしいの」
「はい、オッド師と一緒に飲めるなど、望外の喜びですよ。みんな、座れ座れ」
「あなたは、私と私の評判についてお話ししましょう」
「よろこんでー、にゃ……」
ニーナさんは涙目で、セストルさんに助けてー、と目で合図するが、彼は非情にも手の平を上に向けて上下に振り、オッドちゃんを持ち上げて、さらに持ち上げろ、とのゼスチャーで拒絶した。
【次回予告】
さすがに一流冒険者パーティともなると、色々と凄い。
げんきたち一行は、白翼遊撃団のダンジョン冒険の秘密に引き込まれるのであった。
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第75話
白翼遊撃団というパーティ




