73. キルコタンクを倉庫に仕舞う
だらだら続く、口なし主道 を降りていく。
やっぱり連邦門へ行くには、この道筋が一番早いらしい。
メルクさんに色々とダンジョンの事を質問しながら、坂を下りていく。
階段を使ってショートカットすれば、すぐ、連邦門だ。
連邦門の横にある通用門でギルドカードを提示して通過、馬車溜まりにあるキルコタンクに向かう。
「わあ、大きなものね、これが戦利品のミスリルナックルかあ。すごいわねえ、一個で一財産よ」
キルコタンクを警備する衛兵さんにご挨拶。
彼らになんか差し入れとかした方が良かったかな。
パンゲリアの常識が解らないから、なかなか判断に困る所だなあ。
隊長さんに異常は無かったですか、と聞くと、異常は有りません、とハツラツと答えてくれた。
まあ、オッド大明神に逆らう貧民も、そうはいまい。
「動かしますから、メルクさん、パットの場所に乗ってください」
メルクさんは恐る恐る梯子を登って、くつろぎ空間跡地に立った。
地図をあやめちゃんに渡して、キルコマップで確認してもらう、そんなには遠くない。
街の外は全部スラムだと思っていたのだけど、商売に使う倉庫街みたいな場所もあるようだ。
そちらに向けて、キルコタンクを動かす。
ゴトゴト。
「ここかな?」
「ここみたいだよ」
パットがタンクから降りて、戸の鍵を合わせて確かめ、こちらに向けて手をふる。
ここのようだ。
簡単な屋根が付いた、古びた倉庫だった。
パットが、がらがらと引き戸を開ける。
「なんとか入るって、キル君は言ってるんだよ」
「結構ぎりぎりっぽいね、慎重に行こう」
「当たりそうになったら、警告音を鳴らす、って言ってるよ」
「了解了解」
自動操縦でキルコの中の人に入れて、もらえばいいんじゃね? とも思ったが、まあ、運転手は僕なので、ゆっくり信地旋回させて回頭する。
ちなみに信地旋回とは、キャタピラの片方を停止させて、片方を前進させ、回転する技術だ。
両方のキャタピラを互い違いに順回しと逆回しにして、高速で回転するのは、超信地旋回と言う。
ゆっくりとタンクをバックで倉庫に入れていく。
うん、特に何にもぶつからずに入った。
キルコタンクが倉庫のなかに入り、停止すると、オッドちゃんが白墨のような物を出して、地面になにやら書き込みをしている、結界を張っているのかな?
「あ、メルク、線を踏んだら駄目よ、パーティ以外の人間が入るとカエルにしちゃう結界を張ったから」
「そんな嫌な結界を張らないでください。ここら辺がカエルだらけになったらどうするんですか」
「蛇の養殖でもすれば良いと思うわ」
なんだか、メルヘンだが、超下衆い事を、オッドちゃんが言ってる。
「戦利品のミスリルナックル五本を確認いたしました。あとは、メガトンゴーレムの残骸を調査終了しましたら、三体分のポイントをパーティに授与いたします」
「わかりました、ありがとうございます」
引き戸を閉めて、施錠して、これで大丈夫。
倉庫の鍵は、オッドちゃんと、僕が持つ事にした。
またぞろぞろと、連邦門をくぐり、メイリン市街へ。
また、昨日の小汚い子供が、タタタと走ってやってきて、僕を見ると、ぴたりと動きを止める、にらみ合いになる。
やるかーっ。
「あら、クルツ君、なにしてるのかしら?」
「げぇっ! ギルド職員っ!!」
クルツと呼ばれた子供は、くるりと振り返り全力疾走。昨日と同じ塀を飛び越して逃げた。
「お知り合いですか?」
「銅冒険者の一人ですよ」
「彼は泥棒みたいですよ、ギルドから除名とかはしないんですか」
「えー、冒険者とは、言ってみればダンジョンに押し入って泥棒してくる集団みたいな物ですから、個人個人の犯罪歴は問題とされておりません」
「そうなんですか」
「登録職業に盗賊もありますので、そこら辺はお察しください」
「あ、技術的に犯罪的な物も冒険には必要なんですね」
「はい、なので、行政の方で逮捕処罰されても、冒険者ギルドでは、問題には出来ない訳です」
割り切ってるなあ、冒険者ギルド。
まあ、そうだからこそ、国際条約結ばれたボッチの人も、ミスリルカードを持って大手を振って歩けるわけか。
「メイリンダンジョンの事を調べたいのですが、ギルドの資料室は誰でも入れますか?」
「資料室は無料で公開していますよ。あとは、酒場で冒険者にお酒でも奢って、話を聞かせてもらうか。ああ、そういえば、迷宮観光というのもありますよ、ダンジョンの浅い部分を、旅行代理店が雇った護衛の冒険者と観光するという、ツアーがあります」
「それはまた、商魂たくましいツアーですね」
「メイリンに来る観光客の半分は迷宮観光ですね。近隣の学校の遠足にも組み込まれるぐらい、人気がありますね」
まあ、学校も、社会科見学なノリなんだろうね。在校生の将来として、冒険者を選ぶ子供とかも居そうだし。
言ってみればダンジョンはパンゲリア世界の油田みたいな物なんだし。
また坂を登る登る、ひいひい。
ショートカット階段が地味に疲れる。
メルクさんが、こちらを見て苦笑している。
僕ほど体力の無い勇者はおるまい。三千世界一の虚弱勇者げんき、それが僕だ。
口なし主道 に入り、魔導具のお店、カバランさんちを通り越す。
あとはギルドまで、えっちらおっちら登る登る。
「大丈夫ですか、勇者ゲンキ」
「どどわいじょうぶです。体力が、無い、だけ、なので」
ぜいはあ、と、やっとてっぺん、ギルド到着。僕は水筒から水をのむぜ、かぷかぷ。
「我が君、汗をふきましょう。そして鍛えましょう」
「はい、すんません」
ハンカチをパットに借りて、汗をふく。
ふうふう。
ギルドに入って、メルクさんの案内で、二階の資料室に行く。
十畳ぐらいの部屋に、本棚と、なんか怪しげな標本が置いてあった。
メイリンダンジョンに出る、小型モンスターの中で、珍しい物を標本にして飾ってあるらしい。
「これが、初心者向きのダンジョンのパンフレットです。これが、メイリンで冒険者登録したときに頒布される小冊子です。どうぞ、差し上げます」
パンフレットには、メイリンダンジョンの簡単な構造図が載っていて、『君もダンジョンに挑戦しよう!』と太い文字で書いてあった。
現在の到達最深階層は百八階だそうだ。
地下五階までは、メイリン市立のダンジョン博物館になっているらしい。
小冊子には、ダンジョンアタックの初歩的な説明、パーティメンバーの組み方の基本、持っていくべき物資、など、色々参考になりそうな事が書いてあった。
「この百八階の記録は何時のものですか?」
「五年前ですね。白金冒険者を中心としたパーティ十人でアタックして、三週間の行程の後、百八階の大物モンスターと交戦、敗退して帰ってきました。帰還者三人という結果で、白金冒険者のカタリナ・ミステルはその時の怪我が元で冒険者を引退しました」
「それは、きつい話ですね」
「深い階層の方が、良質の魔石が取れるので、ギルドとしては、もっと走破が進んで欲しいのですが、なかなか進みません。現在、地図が完全に出来ているのが三十階層までで、それ以上はだんだんと未走破地域が広がり、マップも不完全になっていきます」
「五十三階まで事情があって潜る予定なんですが、この四人でなんとか到達できますか?」
「まあ、オッド師は一人でどこまでも潜って行けそうですが、パトリシア様は、聖騎士、ゲンキ様は、勇者ですが、前衛ですか?」
「一応、武道で戦うつもりですが」
「ジュードーですね。アヤメ様は……?」
「わたしは、応援と、魔術をするつもりなんですよ」
「応援というのは、補助魔法のような、アップ系の効果の何かですね」
「あ、バフ系の何かがあるのですか、そうですね……」
メルクさんが、僕らを見て、考え込んだ。
「途中にある宝箱は全部無視ですか?」
「私がぶっ壊すわ」
あ、オッドちゃんが、物理でぶっ壊すのか。
「五十三階だと、食料や薬品などの物資の量も馬鹿になりませんが、それもオッド師の空間魔法で問題無しですね。現行の編成で特に問題は無さそうですが、ゲンキ様の体力と、アヤメ様が心配ですね。念のため、斥候役と、回復役を入れて六人編成なら、鉄板ですね」
「斥候役……。盗賊系はあんまり好きじゃないのよね」
「偵察兵上がりでも、地図師でも、盗賊系ではない斥候はおりますよ」
「そうねえ、あと回復系は僧侶かしら」
「信仰回復系の職種か、薬物回復系で、調合師か、薬師か、という所ですね」
「五十階越えとなると、金カードね、雇うのにお金がかかりそうね」
「オッド師はお金持ちなのですから、安全をお金で買いたたくべきだと思いますよ」
なんだか、パンゲリアには、色々な職業があるのだなあ。
オッドさんチームでの戦闘がイメージ出来ない。
オッドちゃんが魔法とバリアとパンチで、出てくるモンスターを全部ボコって、他のみんなが暇、というイメージはでるけど、みんなで連携して闘う姿が解らない。
パットは大剣で、盾役はしなさそうだし、というか、パットの盾を見た事無いが、持ってるのだろうね。僕もガントレットを使って盾役かな? 前衛だし。ううむ。盾持った方が良いのかな。
前列は僕とパット、真ん中があやめちゃん、最後列がオッドちゃんかな。
とりあえず、四人で装備とか物資を持って、一回、一日ダンジョンに潜るべきだな。
僕らのチームの問題点が、今の時点では見えてこないね。
「明日、物資の買い込み、明後日、ダンジョンアタックのテストでダンジョンに一日潜る。で、いいかな?」
「そうしましょう、我が君」
「お買い物リストを作るんだよ」
「とっととダンジョンに入ってしまえば良いのに、ゲンキは心配性だわ」
【次回予告】
ダンジョンを調べるために、一流処の冒険者が集まる酒場に潜入するげんき一行。
そこで出会った白翼遊撃隊とは、いったい……。
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第74話
ここは冒険者の酒場です




