71. ザマスマダーム襲来
「ええ、柔道ですよ」
「帝国のメイジン、ミシマの弟子なのかい?」
「いえ、異世界の学校で習いました」
「あ、オッド様の召喚勇者でしたかいっ。ゲンキさんだね」
「はい」
「そうだったかい、なるほどね。なるほどオッド様の眷属だけの事はあるなあ」
やめてっ、なんかボッチ仲間みたいな気がするから、眷属呼びはやめて。
「素晴らしい武道ね、でも、土の上でやる物ではないみたいざますね」
冒険者を割るように、すらっとした中年の女性が現れた。
たわわに実ったオパーイ、きゅっとしたくびれを、薄いドレスで隠している。
胸が半分見えそうな感じ。
なんかすげえ、綺麗な有閑マダームな感じだ。
「こンにちわ、勇者ゲンキ。わたくしは、キャリー・ミーガン。メイリンでギルドマスターをやらせていただいてるものざます」
「これは、初めまして、勇者をやってる、飛高げんきです」
「どうざンしょ、ゲンキさんが良かったら、この裏庭に、ジュードーが出来る場所をお作りしましてよ」
「それは願っても無いお話しですが、無償ですか?」
「おほほ、お話しが早くて助かるざます。その代わり、冒険者たちに、ジュードーを教えてほしいざますの」
「あー、そういう事ですか。それは少し難があるというか」
「どうしてざますか?」
「柔道は非殺傷を目指す武道なので、ダンジョンアタックには少し向かないというか、衛士、警吏の人々ならば良いのですが、対人用に特化してますので、モンスターを倒すにはあまり向いて無いのですよ」
「ふむ。率直な方ざますね。素敵ざます。気に入りました。職員に好きな注文を付けて、ジュードーの場所を作っていただきたいざます」
「いえ、だから……」
「衛士や警吏達も、ここに来れば良いざますよ。簡単なウケミだけでも覚えれば、冒険者の役に立つざます。落馬して怪我する馬鹿は沢山いるざますから」
「ギルドマスター、我が君は、忙しいので、そんな沢山の人間の指導なぞ、時間が」
「おてンば令嬢はお黙りあそばせざます。なに、指導なぞいりませぬ。令嬢とゲンキさンの乱取りを見せればいいざます。あとはウケミを覚えさせるざます。それだけで、場所を作ると言っているンざますよ」
押しが強いなあ、さすがダンジョンの街のギルドマスター。
食い下がろうとした、パットを手で制して、僕は、キャリーさんに向き直った。
「わかりました、簡単でもマットが引かれた場所があれば、助かります。よろしくお願いできますでしょうか」
「もちろンざます。明日の朝までに手配しておくざますから、ジュードー講座は、朝の二時間ほどでよろしゅうございますね」
「二時間ぐらいならかまいません」
「場所が無いからと放っておくと、メイリン騎士団か、行政塔の警士局に、せっかくの逸材をかっさらわれるざます。こちらこそよろしくございましてざますよ、勇者ゲンキ」
キャリーさんは僕に右手を差し出した。僕はその手を握る。
ふっくらしてやわらかく、暖かい手だった。
ふと、パットの姿を見ると、白銀の鎧が泥だらけになっていた。
僕の方も、土埃で凄い。昭和のわんぱく坊主みたいになっていた。
キャリーさんに言いつけられた女子職員が来たが、僕らの姿を見て引き返し、ブラシを持ってきて、泥を落としてくれた。
すんません。
柔道の場所の注文を聞いてくれたのは、最初に会った女子職員さんで、メルクさんというエルフのお姉さんだった。
やったー、初エルフの知人だよ。
エルフというのは、森妖精とも呼ばれる、千年の寿命を持つという、亜人の人たちだ。美男美女揃いで、弓術と魔法に優れ、耳が尖っている。
「タタミという物がいるの? 聞いた事無いわね、聖堂都市にはあるかしらね?」
「いえ、絶対に必要と言うわけではないんです。ええと、パット、パンゲリアの長さの単位ってどんなの?」
「手の平の大きさがコルツ、手首から肘までの長さがミルツ、両手を広げた大きさがカッツですよ、我が君」
「そうすると、長辺が、一カッツ半ぐらいの長方形のマットが有れば良いんですが」
「マットねえ、あんまり柔らかすぎてもいけないんでしょ、足が沈まないぐらいの堅さで」
メルクさんは、魔力紙に思念でメモを書き込んでいく。
横で見てると面白いな、字が勝手に表示されてるみたいに見える。これを応用すればディスプレイが出来るのでは、と思ったが、キルコゲールのディスプレイが、たぶん、この技術のもっと凄い奴だな、と思いついた。
「その長方形のマットを組み合わせて場所を作るのね」
「あれが良いんじゃないざますか? 宿舎のベットに導入したら、固いから、みんなに非難囂々(ひなんごうごう)だった、あのマットレス」
「あ、ありましたね、あれなら数がすぐそろうわ」
職員宿舎から、固いマットレスを一枚持ってきてもらった。
おお、大体の大きさは良いな。堅さも、うん、畳と同じぐらいだ。
上で受け身を取ってみると、パアンッといい音が出た。
これこれ、こういうので良いんだよ。
宿舎から十枚持ってきて貰った。
「では、明日、朝の三時からよろしくおねがいするざますね」
「はい、ありがとうございます」
パンゲリア時間の朝の三時は、地球時間で、だいたい八時か九時ごろだ。
僕らはキャリーさんにお礼を言って、冒険者ギルドを後にした。
そろそろお昼なのだけど、この汚れだと、どこにも行けないので、ホテルに戻って行水して着替える事にした。
ホテルの行水場でざばざばと温水を浴びて体を洗う。
どうでも良いのだが、パンゲリアの石けんは何故、泡があまり立たないのだろう。水質の関係かな?
まあ、綺麗になるからいいだけどね。
さっぱりしてから、ホテルの玄関ロビーに行くと、あやめちゃんが備え付けの新聞を読んでいた。
この世界、新聞あるんだ。
「あやめちゃん、どう? 面白いニュースあった?」
「地名が解らないので、半分ぐらいわからないんだよ。魔王軍との戦線は、いぜん膠着状態だって」
「戦況が載ってるのか、どこの新聞なの?」
「メイリンウイークリーニュースだって、週刊っぽいよ」
「図書館はどうだったの」
「本が一杯だよ。勉強そっちのけで、本を読んじゃうから、効率がわるいんだよ。ギルドの方はどんなかんじなの?」
「結構良さそう。なんか偉い人に柔道教えてくれって言われたよ」
「あら、たいへん」
ロビーであやめちゃんと話していると、パットがさっぱりとした姿で降りてきた。さすがに甲冑は着ていなかった、普段着でもパットはキリッとしていて良いな。
オッドちゃんが最後に出てきて、僕らはホテルを出た。
「オッドちゃん、共和国料理のお店は、どこか知ってる?」
「しらないわ、共和国料理は菜っ葉ばっかりで好きじゃ無いから」
意外にオッドちゃんは肉食のようだ。
エルフさん主体だと、菜食になるのだろうか、でもドワーフさん主体だと、肉食も多そうだ、ハーフリンクさん主体だとお菓子だろうか。
うむむ、共和国料理の想像がつかない。
「共和国料理と言ったら、エルフ料理なのよ、ドワーフ料理とか、ハーフリング料理は別ジャンルになるわ」
まあ、共和国門の方に行けばあるでしょう、と、僕らは連合口主道 を降り始める。
メイリンの街は主道 が螺旋を描いて降りている関係上、徒歩だと左隣の主道 を降りて、階段でショートカットした方が、目的の門に着くのが早いのだね。
共和国門あたりで、良さそうな共和国料理屋さんに入った。
うんうん。
なるほどなるほど。
うん、菜っ葉料理。
「だから、私が言ったでしょっ!!」
「ここまで菜っ葉とは思わなかったな」
「なんか、お料理が全部菜っ葉なんだよ」
「菜っ葉でしたね」
多種多様の菜っ葉料理、菜っ葉スープ、菜っ葉パンがでてきて、困りました。
美味しかったかって? うん、その、悪くはないけど、菜っ葉だし。
オッドちゃんが正しかったよ。珍しく。
なんか物足りないので、ウイルウイルに行って、肉詰めパンのトカンを買って食べた。
共和国料理に行ったら物足りなくてと、言ったら、笑われた。
エルフ料理はエルフ以外よっぱどの菜食家でもないと、口に合わないらしい。
あー、トカン美味い。もぐもぐ。
亜人共和国の首都、世界樹の街に行くと、辺り中、菜っ葉料理屋で他国の人は大変らしい。
そういうときは数少ないドワーフ料理屋に行くらしい。
ドワーフ料理は豪快な焼いた肉と、各種お酒が売りらしい。
菜っ葉はもう勘弁だけど、世界には色々な食文化があって面白いな。
【次回予告】
ホウレンソウは大事だ。
報告を忘れていると、いろいろと大変な目にあうぞっ!
社会人になったら報告連絡相談でホウレンソウを忘れるな!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第72話
ギルドに色々報告する。




