70. 冒険者ギルドでパットと柔道
ぜいはあ、ぜいはあ、どえいどえい。
僕は、今、朝早くからパットにたたき起こされて、ぜいはー、メイリンの街をランニング中。
ふんぬーっ、隣には、あやめちゃんが、涼しい顔をして走っている。
ぜいはあ、ぜいはあ。死ぬ、死ぬっ。
ああ、あやめちゃんはスポーツ万能で、どえいどえい、ポテンシャル高いのを、ぜいはあ、忘れていたんだぜ。
ふごう、ふごう。
今、走ってるのは、ぜいぜい、上廻り横路。
ごほごほっ、ホテルの前の、共和国主道 を降りて、ぜいはあ、ぐるっと回って、口なし主道 を上がる、というのが、どえいどえい、鬼コーチパットの選んだ、ぜいはあ、ルートだ。
鬼コーチパットは、ぜいぜい、今、甲冑完全装備で、ぜいはー、平気で走っている。
死ぬ死ぬ死ぬ。
ふぬふぬふんぬーっ。
よろよろと、はうようにして、ホテルまで戻った。
死ぬかと思った。
ちなみに、運動着系の物は、何かの役に立つかも、と、聖堂都市で買っていた。
あやめちゃんとお揃いだ。
最初パットは、主道 の底まで降りて、街の下周り横路を一周、別の主道 で登ってくる、などと、意味不明の地獄コースを提案したので、僕は猛反対した。
反対して良かった。
よれよれと僕の部屋まで根性で登って、運動着を脱いで行水をする。
ぐあーっ、気持ちいい。
足がですね、プルプルと生まれたての子鹿みたいに震えるのですが、大丈夫なんですかね。
僕は自慢じゃ無いですが、生まれ落ちてのインドア派で、運動のたぐいは学校の体育の時間だけという情けなさで、体力の無さには自信があるぜっ。
身支度を調えたら、朝ご飯へ。
朝食も、展望レストラン、カルビンズレストで食べる。
僕たちの顔を見ると、ウエイトレスさんがにっこり笑って、窓側の席へ案内してくれた。
パンにスープ、スクランブルエッグのような物、分厚いハム系の何か、と、結構がっつり量が出てくる。これは、この街に止まる人が、大抵冒険者なので、朝食べてからダンジョンに行くために、量を食べるかららしい。
パンはクロワッサンみたいにサクサクしていて美味い。
朝から満腹である。
「我が君、私にもジュードーを教えていただけませんか?」
「いいよ、僕もパットと乱取りして、対剣の修業をしたい所だったんだ」
「この街で、武道の練習をするとなると、どこかな?」
「そういうのは冒険者ギルドね。塔路の、連邦と口なしの間にあるわよ」
「ご飯を済ましたら、すぐ行きましょう、アヤメも来るかい?」
「わたしは、オッドちゃんと図書館で魔法の座学だよ」
「実践とかしないの? 図書館じゃできないでしょ?」
「魔法の勉強の九割は、暗記なのよ。魔法の実践は、同じように冒険者ギルドでやるわね」
「了解了解、お昼に集まって、どこかに行く? 僕は共和国料理とか帝国料理が食べたいのだけど」
「帝国料理はメイリンには無いわ、そんなに飯ウマな国でも無いし。魔王領料理も無いわね、魔王領料理って、基本的にジャガイモを蒸かすだけだし」
魔王領って、ドイツみたいだな。ソーセージとかビールとか無いのかな。ビールは飲めないけど。
たぶん寒い地方なんで、食材の種類が少ないので、料理が発達してないんだろうなあ。魔王領では小麦が採れないのかな?
「そろそろタンクの倉庫の連絡が来るかもしれないから、役人が来たら行ってちょうだいね」
「解った」
最後の豆茶を飲み干して、僕は席を立った。
部屋に戻って、鋼鉄のガントレットとグリーブを装着。
カコイイ、むふーっ。
パットとつれだって、ホテルを出る。
塔路を西に渡っていくと、なんだかでかい建物がある。あれがギルドかな。
「大きい建物だね」
「メイリンはダンジョンが主産業ゆえ、冒険者が多いので、大きい建物となりますよ」
冒険者ギルドは、村営の物しか知らないから、ちょっとびびってしまう。
三階建ての、日本の都市スーパーぐらいの大きさの建物だ。
ちょっとビビリながら、スイングドアを押して中に入る。
わあ、本当のギルドって酒場がついてないんだなあ。
市役所みたいな感じの窓口が、複数ならんでいる。職員さんも美人のお姉さんばかりだ。
壁のコルクボード一面に張られた冒険の依頼書とか、ソファーで談笑する厳つい冒険者なんかは、普通のギルドと変わらないな。
空いてる窓口の美人でエルフのお姉さん職員に話しかけた。パットが。
「武道の鍛錬をしたいのだが、このギルドではどこでやるのだ?」
「裏庭が運動場になっているわ、使用料は無料だけど、宴会とかすると追い出されるわよ」
「宴会した奴がいるのか」
「しょっちゅうよ」
「あの、荷物とか置く所は無いのですか?」
僕がそう聞くと、お姉さんは、うふふと笑った。
「お兄さんは、ダンジョンで荷物を置いて闘うつもりなの?」
あ、そうか、冒険者は基本的に荷物を降ろさずに闘うのか。
そうかそうか、スポーツジムじゃないんだから、身軽になって鍛錬はしないよな。
失敗失敗。
お姉さんにギルドカードを提示して、帳面に記録してもらった、鍛錬を熱心にやると、ギルドの覚えが良くなるそうで、色々と融通してもらえるらしい。
僕のカードの裏を見たら、またレベルが上がっていた、十五レベルになっている。
なんだろうね、これは?
お姉さんに教えてもらった通路に向かう。壁に矢印があって、裏庭と書いてあった。
通路を抜けるとドアがあって、そこを開けると、裏庭だった。
土がむき出しで、植物も植えられていない、四十畳ぐらいのグラウンドだ。
五、六人の冒険者が鍛錬をしている。
向かい合って、木剣で殴り合っている者、裏庭の隅で、鉄アレイ状の何かを上げ下げしている物、標的に向かい矢を撃っている物。思い思いの鍛錬を冒険者がしている。
わりと空いているのだが、土の地面で柔道かあ。
なんだかな。
まあいいや。ダンジョンには畳とか無いだろうし。
えーと、まず、何をしようか。
パットが柔道を教えてくれって言ってきたから、基本の受け身からかな。
「えーと、まず、柔道を教えるにあたって、基本的な倒れ方を教えます」
「は? 倒れ方ですか? 倒し方でなく?」
「はい、まず倒れ方を覚えないと、投げ技をともなう柔道は危ないので、最初は受け身です。いくつか種類があるんですけど、最初は一番基本的な、横受け身からいきますね」
「倒れ方とか、あるんですね」
僕は、体をねじりながら後ろに倒れ、左手で地面を叩いた。
ダンッ!
いい音がするなあ、これは【徒手格闘】の補正入ってるっぽい。
「これが完璧に出来るようになると、投げ飛ばされた時のダメージが相当、軽減されます。また、いろいろな状況で、体が飛ばされた時、転んだときの被害を少なくできる技です」
「え? そんな簡単な動きでですか?」
「はい、完璧に出来るようになると、結構応用が利いて、良い技術ですよ」
パットは後ろに倒れ込み、倒れた後に地面を手で叩いた。
「体が地面に付く、瞬間に、パンッと手の平で打って勢いを消す技なんですよ、今のは遅かったですね」
「こう、ですか?」
今度は良いタイミングで地面を打った、ダスッっと音がした。
「はいはい、そんな感じです。転ぶときに首を胸側に曲げて、頭が地面にぶつからないようにします」
「おお、衝撃が少なくなりました。へえ、こんな事で」
「地味ですが、大切な技術なんですよ。幾つか種類があります」
僕は、背面受け身、前受け身と、やっていく。
やっていくのは良いんだけど、土の上でやると、汚れるねこれは。
乾いた地面だからいいけど、土埃が凄い。
パットも真似をして、やっている。
上手い上手い。すぐ覚えるね。
気がつくと、冒険者たちが、横目でちらちらこちらを見ている。
なによ、見世物じゃないわよ。
「これは、ちょっと、目から鱗が落ちました。ウケミは落馬したとき等にも使えそうですね」
「騎士さんに良いかもしれないね」
僕は前に向けて一回転、背中が落ちる時にダンと地面を打ち、その反動でしゃがむ姿勢になる、前回り回転受け身をやってみた。
パットも、即座に真似る。
ダアン。
お、上手い、くるりと回転してしゃがんだ。
気に入ったのか、パットは、くるり、ダン、くるり、ダンところころ転がっていく。
「面白いです、ウケミ良いですね」
「受け身は柔道の基本中の基本なので、何度も何度も頭の中でイメージして定着させて下さい」
「はいっ、我が君」
パットの鎧の籠手に左手をかけ、右手にブレストプレートの肩紐を持って、組み合う。
ゆっくりと技を掛けていく。
まず、体勢を前に引いて、崩す。
思わず一歩、踏み込んだパットの左足を、右足で払う。
柔道におけるジャブみたいな技、出足払いだ。
「抵抗しないで、ゆるっと倒れて、受け身ね」
「はいっ」
パットの体が開いて、地面に倒れ込む。
綺麗に受け身が決まる。
「こんな感じ」
「おお、なるほど、受け身の大切さがわかりますね」
何回か倒し系の技をパットに掛け、受け身を取ってもらう。
しかし、パットは覚えるのが早いな、受け身はもう完璧なぐらいだぞ。
さすがは聖騎士。
おい、そこの冒険者、真似すんな、我流でやると危ないぞ。
なんで、みんなキラキラした目でこっち見てるんだよ。
「いっぺんに沢山技を覚えると混乱しますから、続きは明日にしましょう。これからは乱取りしましょう」
「乱取りというと?」
「パットは剣術で僕に斬りかかってください。それを僕が柔道でさばいて、投げられたら投げます。その時は受け身ね」
「実戦形式ですね。楽しみです」
「僕も、柔道での剣術のさばき方とか、開発しなきゃならないので、まず最初は、ちょっとゆっくり動いて行きましょう」
「わかりました」
なんか冒険者増えてない?
入り口から鈴なりなんすけど。
まあいいや。
僕と、パットは距離を置いて対峙した。
彼女は大木剣を中段から、大上段に構え直す。
うわあ、すげえ、パットと初めて対峙したけど、ぼんぼんとは当然大違いだな。
さすが白金腕輪だ。
僕の柔道アイでも、隙が無いのが解る。
柔道アイってのは冗談でもなくて、どうも【徒手格闘】の補正が目にも来ているものみたいだ、知らないうちに剣筋とか殺気とかが感じられるようになってる。
ゆるゆると、すり足で近づく。綺麗な構えだなあ。
結構ゆっくりと、ふられた上からの大木剣を、ガントレットを寄せるような感じで受けて、外側に押す。
ガチーン。
体勢を崩したパットの懐に体を回しながら入り込み、腕を取って、パットの重心を腰にのせる。
体落としで、落とすときは気持ちゆっくり。
タアンといい音がして、パットが受け身を取る。
剣を持っても受け身取れるようになってるっぽい。
パット恐ろしい子。
おおっ! と野次馬冒険者が歓声を上げた。
「良いですね、少し剣の速度をあげますか」
「そうだね、パットも思いついたら迎撃の工夫をしてみてください」
「はいっ! 我が君」
二本目。
裏庭に緊張が走る。
というか、なんで、冒険者どもは固唾を飲んで観戦してるんだよ。
パットは中段に慎重に構える。
僕は両手を胸の前にあげ、するするとすり足で近づく。
パットは軽く振り上げ、切りおろす。軽い速度。
僕の腕を取ろうとした動きを、パットは剣を引き上げる動きで外す。
僕はさらに踏み込んで、パットの手が上がりきった肘を押さえ、甲冑のベルトを取り、足を大きく刈る。大外刈りだね。
「くっ!」
ダンッといい音がして、パットが剣から片手をはなして受け身を取る。
裏庭を囲んだ沢山の野次馬さん達から、おお、すげえとか、歓声が飛ぶ。
うわ、いつのまに、こんなに。
「んん、悔しいですね。また投げられました。さすがです」
「まだまだ、剣の速度がゆっくりだからね。腕を取られまいとした動きは良いですよ」
「ところで、我が君はジュードーになると、どうして口調が丁寧になるのですか?」
「え? あ、そうだった? なんか先生に教えられた時の感じを思い出してたら、つい」
「解りやすくて、凄く良いと思いますよ。我が君」
それから何本か、パットと乱取りをした。
とても面白く、対剣術の勉強になった。
だが、しまいには、体力が尽きて、僕は座り込み、ひいひいと情けない声出し、水筒から水をかぷかぷ飲んだ。
「我が君は、動きは超一流の武芸者ですが、体力が無さ過ぎです」
「精進しますー」
僕らの周りを囲んだ冒険者から割れんばかりの拍手がわき起こった。
冒険者の中から、髭モジャマッチョな奴がこちらに近寄ってくる。
「すげえな、あんた、それ、ジュードーだろ」
【次回予告】
ギルドの中庭で柔道をやっていた、げんきとパットの前に、謎のざますマダムが現れる。
彼女は、敵か、味方か! 二人に緊張の色が走る!!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第71話
ザマスマダム襲来




