69. 会議は踊るよ どこまでも
会場を中の応接セットにうつし、ルームサービスの魔導の鐘をふって、来たメイドさんに豆茶をたのみ、会議開始だ。
豆茶は、すぐワゴンに乗せられて来た。
オッドちゃんが、こっそりと、たのんでいたケーキも四つ付いていた。
「それでは、第一回魔王討伐隊、方針決定会議を始めます」
「「わーわー」」
パチパチとあやめちゃんとパットが手を叩く。オッドちゃんは何が気にくわないのか仏頂面しながら、ケーキを、もしゃもしゃ食べている。
「えー、昼間、占い師サイマルさんの家で、主にオッドちゃん関係で衝撃的な事実が浮かびあがり、これから魔王討伐隊はどうするのかという問題が浮かびました。この点について、皆様の遠慮の無いご意見をいただけたら、さいわいです」
「会議とか必要無いわ、魔王をぶっとばす、これが世界の結論よ」
「オッドさんは、しばらく黙っていて下さいね」
「なによっ! ゲンキ、最近、私への扱いがひどいわよっ! なによ、下僕のくせにっ!」
オッドちゃんの下僕になんか、なった覚えは一つもありませんが。
「魔王とオッドの因縁が解ったのだが、どうしたものか、これは」
「なんで、僕らが魔王の所に行かなきゃならないんだ?」
「どうして、外の世界で部下を作って、闘わせる事になったのか訳がわからないんだよ」
「私と信頼と愛の絆をつないだ勇者こそが、魔王を唯一倒せる存在で……」
「黙ってなさい」
「寝言は寝て言え」
「自分が解って無い人は発言の権利なんか無いんだよ」
「きいいいいいっ!!」
オッドちゃんが切れた。
切れて、奇声を上げて、豆茶が入ったカップをふった。
じゃばりとテーブルに豆茶が降りそそぐ。
だが、僕たちは気にしない、彼女が切れるぐらいでひるむなら、オッドちゃんの友達とかやってられない。この鋼鉄のスルー力こそが、僕らの絆の力だ。
オッドちゃんがカップを振ったので零れた豆茶を、あやめちゃんが黙って布巾でふいた。
「私が、勝負で押さえていたから、魔王軍はあれくらいの進撃で止まっているのよっ!! あいつは馬鹿みたいに強いんだから、大陸を統一するのも簡単なのよっ!! 今のパンゲリアの平和は私のおかげなのよっ!!」
ふむ、それは一理あるかもな、オッドちゃんと同じ力の持ち主ならば、現場に出たら、簡単に軍などは壊滅する事ができるし、あの怪力ならば、砦も国境も城も意味が無い。
「しかし、困ったな、相手にミルコゲールが居る上に、頼みの綱の予言者まで魔王軍に取られてしまった」
「オッドちゃんが、魔王の部下をぶっとばすの禁止なのに、これまでの魔王軍への棍棒戦は、勝負的にどうなの?」
「え、まあ、その、暗黙の了解というか、手助けの一部というかしらね」
「バリアばんばん張って、自分でキルコゲールを棍棒にしてたら、ルール違反って言われてもしょうがないのでは?」
「そ、そういうところ、わりとあいつ、鷹揚だから、平気よ……」
なんか、魔王も、わりと適当な感じだなあ。
まあ、オッドちゃんと同等ならしかたがないか。
「我が君、こういうのはどうでしょう、ルールを変えるのです。千年、魔王が魔王軍をやって有利に闘っていたのですから、このあとの千年は、オッドが魔王軍で、魔王が愛と信頼の仲間を募って、攻めて行くように、ルールを変えるのです」
「そ、それだっ! オッドちゃんは魔王向きだしねっ」
「良い考えなんだよ、魔王さんと交渉できるかもしれないね」
「私が魔王なんて、絶対嫌よっ!」
「嫌っていったって、正義の味方側なんか、オッドちゃんに向いて無いんだから」
「魔王ならボッチでも恐れられてれば良いのだから、わがまま放題ですむぞ、ぴったりだ」
「不利な条件を変えるだけなんだよ、ここはまず勝利することをかんがえようよ」
「絶対に魔王とか嫌っ!! 嫌なのぉぉぉっっ!!」
オッドちゃんの金切り声で、窓ガラスがビリビリ音を立てる。
「近所に迷惑だから、……。下は僕とパットの部屋か。横は?」
「空いてるみたい、今日は迷惑は大丈夫じゃないかな」
「大きい声を出すな、オッド」
「だって、だって、みんな、ひどいわよ、どうして私がこんな事言われないといけないのっ!」
「このルールじゃ戦えないからだよ」
「オッドの能力が足りないからだ」
「自分の欠点は黙って聞いて、直すようにしないと、みんな怒るんだよ」
「わ、私は、大魔導師なのよ、凄いのよ、大学で何年も勉強したんだから、大陸に魔導で私にかなう人は少ないのよっ!!」
「対人能力が致命的」
「凄い魔導があっても、人付き合いも出来ない奴が、愛と信頼とか、笑止千万」
「いろいろ沢山駄目なんだよ」
「せ、千年生きてきて、こんなにずけずけ物を言われたのは初めてだわ、あなたたち、命はいらないの?」
「やってみなさい、オッドちゃんにそんな度胸は無いでしょう」
「友達を暴力で脅すのは最低だな」
「この程度の事も言えないぐらいの関係しか作ってこなかったんだね。駄目だよそれじゃ」
「いくらオッドちゃんでも、仲間に暴力をふるって従わせる事はしてないよね。さすがに」
「……」
え、あるのかっ! このコミュ障!
「な、無いわよ、最初の一回だけよ、ちょっとぶったら、そのあと逃げられて、悲しかったから、二度としてないわよっ! 本当よっ!!」
「あったのか」
「というか、その人にあやまって来い、オッド」
「ふう、予想以上なんだよ」
「もう、たぶん、お墓の中だから、あやまれない……」
「お墓参りに行って、あやまってこい」
「もう、どんな人たち、だったか、覚えて無い……」
はあ、と室内に、ため息が三つ重なった。
「別れた街ぐらい覚えて居るだろう、そっちの方に向いて謝罪しろ」
「な、なんでそんな事しなきゃならないのよ……」
「死者の霊が、きっとその方向に居るから、あやまれば通じる」
「そ、そうなの?」
オッドちゃんはソファーから立ち上がり、共和国方向に向いて、頭を深々と下げた。
内心は悪いとは思ってるんだね。
「ぶってごめんなさい……。あの時は私、旅が進まなくてイライラしていて、ほ、本当に私、わ、悪かったって、思って、ずっと、ずっと、あやまらなくちゃって、思って、でも、機会とかなくて、だから、本当にあの時はごめんな、さい……」
そう言うと、オッドちゃんは顔をゆがめて、エグエグと泣き始めた。
やめろーっ! こんなの泣いてしまうだろっ!
「げんきくん、涙をふこう」
「そういう、あやめちゃんもふこう」
「……見てる方がつらい」
なんだか、会議の空気は地に落ち、どーんと暗くなった。
オッドちゃんはまだ、めそめそ泣いてるし、なんだかなあ。
「とりあえず、僕の希望は、僕だけ残って、あやめちゃんを日本に返して、魔王の所までは、オッドちゃんに付き合う、だ」
「わたしの希望は、げんきくんが心配なので、一緒に居たいんだよ」
「私は特に希望はありません、乗りかかった舟なので、我が君がニホンに帰還した後も、オッドに付き合っても良いですし、我が君とニホンに行っても良いですし、我が君と魔王の所まで行ってもかまいません」
「問題は戦力か、とりあえず、僕はダンジョンアタックに備えて、明日から少し鍛える事にする。朝と夕にマルチスパークくんに乗馬でトレーニングだ」
「我が君、乗馬では、あまり運動には……。走り込みをしましょう」
「えー」
走るのだるいよ。
「わたしも、魔法をオッドちゃんに習って、自分の身は守れるぐらいにはなりたいんだよ」
「とりあえず、目の前の目標は、転移の球を修理する。だね。その後に、どうするか本格的に決めようか」
「そうですね、五十三階に到達するには、最速でも一週間は掛かりましょう、その間、どうするのか考えましょうか」
「賛成だよ」
「うう、私のパーティなのに、私に何の決定権もないのだわ……」
うるさい、オッドちゃんは黙ってなさい。
その後、行水して、僕は寝た。
【次回予告】
柔道の稽古をしようと、ギルドに向かうげんきとパット。
気を付けろげんき! 土間で柔道をやると、パンツの中まで泥だらけだ!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第70話
冒険者ギルドでパットと柔道




