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68. 夕食後にパットの涙

 やっと、ホテルに付きました。

 死にそう。

 この街作ったやつは馬鹿じゃないのか。

 ぜいぜい。

 というか、日本の温泉地って結構アップダウンが多くて、何故かというと、お湯が出るのは山地だからなんだね。

 同じようにメイリンも丘の上にダンジョンの入り口が出来たから、しかたがないのだ、そうなのだ。

 パンゲリアには、自転車も、バイクも、車も無いから、みんな結構、健脚なんだよね。メイリンぐらいの傾斜けいしゃの街は平地と変わらないらしい。

 なんとも健康に良い異世界と言えよう。


 あ、いかん、ベランダから直接飛んでいったから、僕の部屋の鍵は大丈夫だろうか、と思ったら、パットが僕に鍵を渡してきた。


「我が君の部屋は施錠せじょうして来ましたよ」

「あ、ありがとう、パット」


 パットは気がきくなあ。


 四階の部屋に入って、ベットに倒れこむ。

 やれやれだぜ。

 ディナーまで、ごろごろするよ。

 今、パンゲリア時計で、昼時間の九時半ごろ、地球だと五時半?

  昼時間の十時で日没、夜時間の零時が始まると覚えておくと簡単。

 地球時間との違いは、時間の起点が、日の出と日没にずれている事なんだ。だから昼でも夜でも五時は中点で、正午と零時に対応するわけさ。


 コンコンとノックがあったので、出てみると、良い匂いでつやつやした、あやめちゃんが居た。

 しまった、僕もごろごろしてないで行水するんだった。失敗失敗。


「げんきくん、ディナーに行こうよ」

「了解了解、いこういこう」


 あやめちゃんの後ろには、パットとオッドちゃんが居た。

 オッドちゃんも、パットも、つやつやしておる。

 みんなで階段を上がって、最上階にある展望レストラン、カルビンズレストに行く。


 落ち着いた高級そうな雰囲気のレストランで、僕たちは窓際の席に通された。

 窓が、まるで地球のお店のように大きなガラスで、外がよく見える。

 足下に広がるメイリンの夜景が綺麗きれいだなあ。

 街の外は真っ暗で、所々村なのか、光っている所がある。

 遠くルベル峠にも光点が動いている、あの難所を夜行する人が、いるんだなあ。


 きちんとした格好のウエイトレスさんが、前菜を運んでくる。

 フランス式だね、これは、パンゲリアでも強いなあ。洗練されているからかな。

 イタリアとか、ロシアとかもあっても良さそうだけど、中華屋があったから、パンゲリアのどっかではあるんだろうな。獣人国料理はタイ料理の影響なのか、この世界独自料理なのか。


 前菜は野菜のパテの上に、鴨肉? みたいな鳥系のあぶり焼きが乗った物。んー、なかなかの味。野菜が不思議な風味で美味しい。鳥系肉もジューシーで、香辛料が利いている。

 オッドちゃんとパットが、赤ワインをカプカプ飲んでいる。

 夜景を見ながら、お料理をパクパク食べていると、やっぱ幸せがじんわり感じられて良いね。


 スープはカボチャっぽいポタージュだった。味わいがねっとりして、うま味が強いな。美味しい。

 続くは魚料理、赤い身の魚にホワイトソースで目にも美味しい。あ、これは牛乳じゃなくて別の乳、味わいが違う、ふわっとした感じの不思議味。ソースが美味しいなあ。


 肉料理が運ばれてくる、お皿にこんもり乗ったローストした肉なんだけど、ナイフを入れると、ブブブと鳴いた。

 なにこれ、と口に運ぶと、口の中でぱちぱちと弾ける。

 サイダー肉というべきか。

 ビックリ料理だ。

 肉自体も風味があってとても美味しい。

 これはなんですか、と聞くと、ダンジョンで産出する、メグリンウサギの肉だとの事。

 ダンジョンに居る魔物の肉なんて、とも思ったけど、一度ダンジョンの中で籠城して外の国と闘ったメイリンでは、わりと普通に流通しているらしい。

 たくましいなあ。

 ダンジョン料理を開発するために、鍋釜包丁を下げてもぐってるパーティもあるらしい、すごい、漫画みたいだ。


 色合いの良いサラダが出る。白っぽい酢が強いソースが、かかってる。

 シャクシャク。

 フレンチソースっぽいなんかなんだけど、なんだろう、ちょっと甘いような感じがほのかにする、野菜が甘いのかな。

 しかし、美味い。

 なんでも美味いね、ここの地方。


 デザートに焼き菓子と豆茶が出て、ごちそうさま。

 美味しゅうございました。

 共和国料理とか、帝国料理も食べたいなあ。

 魔王領は飯マズだそうで、川島君は、お気の毒さまである。

 ご飯が美味しい異世界はイイネ。

 お米から探さなきゃならない世界より良いですな。


 階段を降りて、オッドちゃんの部屋を偵察しにいく。スイートだとどんな物なの?

 一歩、オッドちゃんの部屋に入ると、まあ、豪華。

 ホテルカルビンの基調カラーは、焦げ茶と黒とクリーム色のようだ、この色を合わせて、黒で引き締めて重厚感出してる感じ。

 スイートは居間とツインの寝室の二部屋。

 当然応接チェア完備のベランダ付き。

 居間には柔らかい焦げ茶のソファーの応接セットが置いてあって、今、オッドちゃんが、ころりんと寝転ねころんだ。


 僕がベランダに向かうと、パットも自然に付いてきた。

 イスに腰を掛けて、対面する。なんか、変な緊張感が漂うな。

 おっと、オッドちゃんが割り込んで来ようとするのを、あやめちゃんが止めてる。

 GJグッジョブあやめちゃん。


「は、話ってなんでしょうか、我が君」


 僕は立ち上がって、パットに頭を下げた。


「パット、ごめんね、僕は黙って、日本に帰るつもりだったんだ」

「あ、あわわ、やめて下さい、頭をあげてください我が君」

「パットをだまして、さっさと転移の球を直して、日本に帰るつもりだったんだよ」

「そ、そうだったんですか、その、なんとなく、気がついてましたけど、正直に語っていただいて、うれしいです、我が君」

「最初の頃は黙って帰ろうと思ってたんだけど、だんだんパットと仲良くなって、これはちゃんと、あやまらないと駄目だなって思ったんだ」


 パットはふんわりと笑ってくれた。


「良いんですよ、そんな事は。私でも、あの初めて会った頃のような行動をされたら、黙って逃げると思ってます」

「なんか、パットは、だんだん変わって来たよね、すごく良い感じになってる」

「アヤメにしかられたんですよ。『げんきくんはビビリだから、あんまり押すと逃げちゃうよ、素直な子が好きな人だから、素直が一番だよ』と、話を聞いた時は、アヤメが我が君を独り占めにしようとしてるのだ、と邪推じゃすいもしましたが、ためしに、言うとおりにやってみると、たしかに私を見る我が君の目が、だんだんとやさしくなってくるのを感じて、ああ、そういう事なんだなあと、思ったのです」


 ああ、あやめちゃんは偉いなあ。パットが更正こうせいしたのは、あやめちゃんのお手柄だったのね。更正こうせいの見込みの無いもう一人はどうしたものか。


「我が君は、転移の球が直ったら、すぐ、ニホンにお帰りになるのですか?」

「んー、今夜の会議次第だね。すぐ帰りたかったんだけど、オッドちゃんの話を聞いたら、ほっとけないというか、でも、危ないしという感じ」

「そうですか、場合によっては、すぐお別れなのですね」


 パットは悲しそうな顔をして、唇をかみしめる。


「本当に我が君には、たった五日間だというのに、すばらしい事を色々教えて頂いて、本当に、なんと言いますか、人生が変わったみたいな……」


 パットの目から、涙がこぼれる。

 馬鹿だなあ、泣いちゃだめだぜ。

 僕ももらい泣きしそうだからさ。


「我が君と別れるのは、身を切られるように辛いですけど、ずっと貴方の事は、私は……」

「僕も最初はびっくりしたけど、こんなに他人に好意を直接ぶつけられたのは初めてで、すごく嬉しかったよ。僕の中であやめちゃんの次に好きだよ。パット」

「その一言だけでも、私は、私はっ」


 わあ、ぼろぼろ泣き出した。

 でも、最初の頃の泣き方と違って、今の泣き方は共感出来る。

 好意をありがとうパットと言える。

 胸が痺れるような感じだ。


「パットちゃんも日本に来れば良いんじゃ無い?」


 いつのまにやら、あやめちゃんとオッドちゃんが戸をあけて、近くに来ていた。


「え?」

「転移の球で、一緒に来れば良いと思うんだよ」

「あっ! その手が!」

「めんどくさいけど、ライサンダーごとニホンに送ってあげるわよ。馬鹿ね」

「アヤメ、オッド、良いのか、それは」

「僕も賛成だよ、パットさえ良ければ、僕らが帰るときに一緒に来てよ」

「ただ、伯爵とケイン君とはしばらく会えなくなっちゃうけど、それは大丈夫かな?」

「それは大丈夫、聖騎士というのは、ケンリンバーグにぞくしているのではなく、ステイル王国にぞくしていて、魔物を撃つために諸国を放浪するのが職務しょくむなんだ。何ヶ月も帰らない事も良くあるから」


 そっか、パットを日本に連れて行くって手はあるんだ、僕らが帰るのは確定だからね。

 身分とか、いろいろ大変だけど、上手くすれば留学生という事で、向こうでもやっていけると思うな。パットは優秀だから、日本にも溶け込めるだろう。


「うん、じゃあ、げんきくんは、渡さないからねっ、勝負よ、パットちゃん」

「う、うん、正々堂々、勝負だ、アヤメ、私は、私はっ……」


 パットは手で顔を覆い、泣き始めた。

 あやめちゃんはパットの肩に手を置いて、うんうんとうなずいている。


「これで一段落ね、良かったわ、うんうん」

「いや、なに言ってるの、会議はこれからで、矛先ほこさきはオッドちゃんだけど」

「そうだ、なにを全部終わったような事を言ってるんだ」

「え? も、もう良いじゃないの、ま、まとまったんだし、そんなに一日で全部決めなくても、ほら、順々にね、だから、今日は解散で、ねっ」

「「「駄目っ!」」」

「えーっ?」

【次回予告】

ついに、容赦の無い糾弾の矛先がオッドちゃんに向かう。

いっそ、君が魔王になれ、との究極のアイデアに顔をしかめるオッドちゃんなのだが……。

いや、君、魔王向いてるよ。


なろう連載:オッドちゃん(略

次回 第69話

会議は踊るよ どこまでも

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