67. 馬術散歩とダンジョンの負傷者
とりあえず、連邦門の衛兵責任者の人に怒られた。
門を飛行魔法で飛び越すのは都市法違反です。
だそうだ。
まあ、そうなるよね。オッドちゃんがふくれっ面で罰金を払っていた。
メイリンの門は、入ってきた門に限り、出入りに通行料は掛からない。別の門から出入りしたい場合は新たに門に接した国の通関手続きが必要だそうだ。
キルコタンクに手を振って門の方へ歩く。キルコの中の人が、ウインカーをピカピカさせて挨拶をしてくれた。ああ、中の人としゃべりたいなあ。
パットが馬屋へライサンダーの様子を見に行くというので、ついて行く。
オッドちゃんは一人でホテルに帰った。
まったく協調心のカケラもないお姉ちゃんだ。
ライサンダーさんは馬屋でお手入れ中であった。連邦主道 の中腹ぐらいにある、黄金の飼い葉という馬屋さんで、パット曰く、店員の馬の扱いを見て丁寧だったので選んだ。だそうだ。そんなに豪華な店ではないが、清潔で店員さんもキビキビしていて、いいお店のようだ。
パットはライサンダーさんの運動のため、街をうろうろするそうだ。
面白そうだなあ、と思っていると、貸し馬もありますよと、店員さんが言うので、即決する。
僕はこの黒馬に乗るぜ。
あやめちゃんも話にのってきて、灰色の馬を選んだ。貸し賃は半日で二千グース、銀貨二枚だね。
店員さんの手を借りて、馬の上によっこいしょと乗る。
うーん馬上は目線が高くなって良いね。
黒馬さんは、マルチスパークという凄い名前が付いてる割には、温厚そうで素直なお馬さんのようだ。
いくぜ、マルチスパーク!
三人でポックリポックリ街を行く、あやめちゃんのセルウインドウという名前のお馬さんも大人しそうだ。
だいたい自転車ぐらいの速度で連邦主道 を上がって行く、ポックリポックリ。
パットに馬術の基本技術は教えて貰ったので、僕もあやめちゃんも結構手慣れてきた。
速歩になったライサンダーを、パカランパカランとマルチスパークで追いかける。やあ、楽しいなあ。
主道 は、馬車二車線ぐらいの太さで行政塔まで上がっているので、馬を走らせやすい。路の両側に並ぶ店の前にも、馬を止めるバーが付いている。この丘の都市だと、馬が居ると便利かもしれないなあ。
原付感覚だ。
塔路まで上がったら、共和主道 まで横切り、下りていく。もうすぐ夕刻で空がだんだん赤くなっていく。
パッカラパッカラ。
下りで少し直線気味になったときパットが拍車を入れて、襲歩に移り、駆けはじめた。僕らも拍車を入れて、襲歩。
ドガガッドガガッ。
慣れてないので、早くてちょっと怖いね。
自転車で坂をブレーキ無しで走るぐらいの速度が出る。
あっというまに共和国口に付く。
手綱を引いて、馬速を速歩に緩めて、ぷらぷらと下周り横路を走らせる。
連合口まで来ると、エスニックな匂いがして夕ご飯なんだろうなと思い、お腹が空く。
「げんきくん、乗馬楽しいね、日本に戻ったら習おうかな」
「ははは、あやめちゃん、乗馬はメチャクチャお金かかるよ」
「異世界では馬はあまり居ないのですか?」
「うん、ほとんど見ないぐらいに居ないよ、かわりにキルコタンクの小さい物みたいのが沢山走ってる」
「あんな物が沢山走るとは、異世界とは凄い所ですな」
まあ、キルコタンクと自動車は大分違うのだけどさ。
パカランパカランと連合主道 を登っていく。
ああだんだん暮れて来て周囲が赤くなる。
なんだかパンゲリアの景色の中にいると、子供の頃の夕暮れを思い出す。
遊び疲れて、もうすぐご飯だなあ、というあの感じだ。
そんな思い出の風景の中で僕の隣にいつも居るのは、あやめちゃんだった。
いまでも彼女は僕の横でお馬さんを、パカランパカランと走らせている。
てっぺんまで行かず、上廻り横路に入り、連邦主道 の馬屋をめざす。
パカランパカラン。
到着。
馬だと早いね。
馬を下りて、マルチスパークさんを撫でる。
君は良い馬だな。
手綱を店員さんに渡す。
パットがライサンダーについて、店員に色々な注文を付ける。
ここは馬主が来なくても一日に数回、店員さんが乗って走り込みとかしてくれる模様。
適度な運動は馬の健康にとって重要らしい。
「長い逗留になるなら、たまに、セルウインドウくんに乗りにきたいなあ」
「あやめちゃんの馬はセルウインドウくんか、僕のはマルチスパークくんだったよ」
「両方とも、大人しくて良い馬でしたね」
「夜までお使いかと思ったら早く帰ってきましたね。半日貸しですから大分時間が余ってますよ」
「うん、ちょっと乗りたくなったんだけど、もうすぐ夕食だと気がついたんだ」
「また今度乗りに来てください、あまりの分、二時間ほどは無料で良いですから、これを見せてください」
と、若い店員さんがメモ書きを、僕とあやめちゃんに渡した。
時短の為発行、二時間無料。
とそこには書いてあった。
ここの二時間はパンゲリア時間の二時間なので、地球時間にすると、ちょっと長くなる。
ありがたくいただき、また乗りに来ますと店員さんに別れを告げて、ホテルに向かう。
サービスの良いお店は好きだな。
ここからホテルカルビンまでは、道なりに連邦主道 を上がって塔路を回るか、上廻り横路を少し行って、ショートカット階段を上り、口なし主道 を行くのか、迷うところ。
結局、行ったことのない、ショートカットで口なし主道 ルートを選択。
わっせわっせ。ふうふう。
くそう、オッドちゃんよ、僕を飛行魔法で持ち上げてホテルまで運んでくれい。
ふんぬー。
オッドちゃんを呪いつつ、階段を上り、口なし主道 と行く。
というか、マジに鍛えないと、いけないな。
ダンジョンで体力不足で死ぬね、これは。
ぜいはー。
息も絶え絶えの、汗びっちょりで、てっぺんへ着いた。
塔路を行く、水平なので、ある程度楽。
どうして、パットはともかく、あやめちゃんは涼しい顔なんだー。
「どいて、どいてくださいっ!」
担架を担いだ人たちが、わっせわっせという感じで早足で来た。
なんだろと見ると、冒険者たちみたいだ。
担架の上には顔を真っ青にして、頬に血を付けた若い兄さんが寝ていた。
彼らは僕らを追い越すと、口なし主道 をまっしぐらに下っていった。
血の臭いだけが、後に残った。
「ダンジョンからの急患ですね。彼は運が良い」
「え、怪我してたのに、運がいいの? パットちゃん」
「戦力がぎりぎりならば、一人倒れただけでパーティは簡単に全滅します。たぶん浅い階で怪我を負ったのでしょう、外に担ぎ出される重傷者は滅多に居ません」
「深い所で大けがしたら?」
「苦渋の決断ですが、重傷者に止めを指したあと、パーティーは最速で地上を目指します」
「い、生きてるのに? 仲間が殺しちゃうの?」
「はい、重傷者を運ぶ手が無いため、そうしないと、パーティ全員が死にます。ダンジョンとはそういう所なのです」
僕は彼らが降りて行った先を見つめた。
「どこまで降りて行ったんだろう、治療院はてっぺんにもあったよね」
「我が君、塔路にあるような治療院は高いのですよ……」
「あ、それで口なし主道 を降りていったのか」
口なし主道 は出口が無いので地価が安いんだ。
「口なし主道 の底に、行きつけの治療院があるのでしょう」
うわ、ダンジョン入る前に、テンションが落ちる物を見ちゃったな。
「まあ、我が君はご心配なく、私が治癒魔法を使えますし、だいたいがオッドのバリア魔法を破ってくる魔物はメイリンダンジョンには存在しないと思いますから」
「ああ、うん、そうだね」
「ダンジョンは厳しいところなんだね」
オッドちゃんってチート存在が居るせいで、結構ダンジョンを気軽に考えていたけど、チートが居ないと相当ヤバイ所なんだな。
オッドちゃんが居るだけで僕らはイージーモードだ。
【次回予告】
辛くても伝えねばならぬ話もある。
漢の道を貫く為には、女の涙などは不要なのだ。
行けよげんき、パットに口で負けるなっ!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第68話
夕食後にパットの涙




