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66. わが内なるオッドちゃん

 なんかショックな事が続いたので、みんな言葉少なく、ホテルに帰ろうと、えっちらおっちら坂を登る。

 ここからだと、ショートカット用の階段を上り、連邦口主道 アベニューに出て、てっぺんまで登って、塔路を廻って、ホテルに帰る事になる。ぜいはあ。

 ダンジョンアタックとか考えるならば、走り込みとかしなくちゃ駄目かもしれない。ぜいはあ。主道 アベニューを降りて、別の主道 アベニューから帰ってくるだけで、相当な運動量がありそうだなあ。ステータス上昇で何とかならないだろうか。ぜいはあ。

 ふう、やっとてっぺんだ。平たい街が恋しいぜ。


 チェックイン時間を過ぎていたので、部屋を取る。

 ここのホテルは、メイドさんの制服が可愛い。

 オッドちゃんとあやめちゃんは最上階へ、僕とパットはその下の階の隣り合った部屋だった。

 部屋に入ると、大聖堂宿坊の部屋ほどは豪華では無い。

 まあ、当たり前だが。

 それでも、かなり良い部屋で、インテリアも重厚であった。十畳ぐらいの部屋に黒い天蓋付きベット。行水場、トイレ付き。窓の外はベランダになっていて、応接セットがある。

 座り心地がいいな、この応接セット。布イスだ。

 ベットに寝転んで、だらだらする。今日は疲れたよ。

 現在、地球時間だと四時ごろか。携帯電話があるので、時刻だけは解るが、そろそろ電池がやばいな。キルコタンクで充電できないだろうか、シガーソケット的な物で。


 コンコンとノックがあって、ドアを開けると、パットが居た。

「あ、パット、どうしたの?」

「いえ、たいした事ではないのですが、ちょっとお話しをしようかと」

「そうだね、例の話は、夕食後にね、ちゃんとパットに、あやまらないと」

「え、そんなそんな、初めて会った頃の事を思い出すと、数日前なのに死んでしまいたくなります。我が君があやまるなど」

「ま、そういうのも、ふくめて、後でね」

「はい、お待ちしております」


 パットはにっこりと笑った。

 ああ、なんか、最初の頃はすごく困ったけど、パットはだんだん素直になってきて、良い感じになったなあ。あやめちゃんの次に好きだぜ、パット。

 二人でベランダの応接イスに座ってまったり、良い感じの風が吹いてくる。


「さっきのパットは格好良かった、れ直したよ」

「え? ああ、さきほどの失礼な占い師にどなったアレですか、お恥ずかしい」

「二人はあまり仲が良いとは見えなかったから、おっ、という感じで、パットの友達であることがほこらしく思ったよ」

「やめてください、てれくさいです、我が君」


 パットはイスの上でてれながら、恐縮するようにちぢこまった。


「実はですね、私も、オッドみたいなものなんですよ」


 そう言ってパットはふんわりと笑った。


「どういうこと?」

「私は、ずっと強い騎士であれと自分で思い込んで、学校でも友達を作った事が無かったんです。アヤメが初めての同性の友達でして」

「そうだったんだ」

「す、好きな殿方が出来て、同性の友達とたわいのない事をおしゃべりするなんて、前の自分が見たら激怒する所ですね。『騎士としての覚悟が無い』って。でも、今の感じが凄く心地よくて、私は嬉しいのですよ。ああ、こんな時間を何時までも続けていきたいな、と、そんな事を考えて居る自分に気がついて驚いたりしてます」

「良い事だと思うよ。そういう事なら、僕だってオッドちゃんだね」

「ご冗談を、我が君の誰とでも仲良くなれる能力は、最近の私のあこがれですよ」

「みんなね、上手く言ってるように見える人でも、幸せそうに見える人でも、どこか心の隅にオッドちゃんを飼っていて、なんか、時々、ささやくんだと思うな。『あなたの気持ちは誰も理解してくれないわ、あなたは世界に拒絶きょぜつされてるのよ』ってね」

「……我が君でもですか、それは、すこし怖いですね」

「自分の内なるオッドちゃんを飼い慣らして、暴れないようにするのが、人間の人生の目的、じゃないのかな、最近オッドちゃんを見て、よくそう思うんだ」


 オッドちゃんはボッチの呪いだ、人類は自らのオッドちゃん的な物を撲滅ぼくめつして、明るい未来をつくらなきゃだめなんだ。僕は強く、そう、ねがった。

 オッドちゃん本人に、こんな不埒ふらちな事を考えてるのを知られたら、逆上激情狂乱して怒るだろうけど、オッドちゃんはもう、僕の中では世界の概念だからしかたがないね。


 バンバンと荒々しくドアが叩かれたので、何事、と出てみると、血相を変えたあやめちゃんとオッドちゃんがいた。


「たたた、たいへんなのっ、キルコタンクがおそわれてるんだよっ!」

「なんだって!!」


 慌ててベランダに出ると、連邦口がはるかか下に小さく見えて、確かにキルコタンクの近くに人が群がっている。


「ミスリルナックル、あれを強奪しようと、人が群がってるって、キル君から緊急通信なのっ!」

「あ、しまった、ミスリルの塊なんて、金塊ぶら下げてるようなもんじゃんっ!」

「ゲンキ、飛ぶわよ!」


 え? と思ったら、僕はオッドちゃんに首根っこをつかまれ、空中にいた。


「うわあああっ! 高い高いっ!」

「飛ぶから高いわよ、あばれないでっ!」


 高いっ! 街が足の下に見えるっ! 早い、墜ちるように街の上を飛ぶ! お、おしっこ漏れそうっ!! 耳の横で風が轟々ごうごうと鳴る。死ぬ、死んじゃうっ、こんなの初めてっ!! だ、誰か助けて!

 僕たち二人は、街の上を、矢のように飛んだ。


 オッドちゃんはくるりと綺麗にキルコタンクの上に着地、僕は荷物のようにどさっと落とされ、お尻が痛い。


 人人人、あたり一面、馬車溜まりからあふれ出すように、貧民とおぼしき貧しい身なりの人がキルコタンクに群がっている。怒鳴り合って喧嘩してる人もいる。


「しずまれっ!!」


 オッドちゃんが大喝一声だいかついっせい! 指を天に揚げると、雷が鳴りひびき、辺りに雷光が光り散り、オゾンの匂いがただよった。

 群衆はぴたりと止まった。


「大魔導師オッドの持ち物に、手を出そうという命知らずは貴様らかっ!!」


「オッド……、オッドさま、貧民の味方、オッド大明神さまだっ!!」

「オッド様っ! オッド様っ!!」


 一転、貧民の群れは一人残らず地にひれ伏し、オッドちゃんをおがみ、たたえる声を上げる。

 なにこれ。

 オッドちゃんもなんかひそやかに困ってる感じだな。


「命を失わないうちに去るが良いっ、貧民共っ!! 我は寛容にして慈悲あふれる存在ではあるが、放漫な思い上がりには容赦はしないっ!! 雷によって焼き殺される前に立ち去れっ!!」

「わあっ、オッド様がお怒りじゃあっ」

みなごろしにされるぞ、みんな逃げろっ!!」


 ぷわーっと、蜘蛛の子を散らすように貧民の群れが逃げ出していく、あ、転んで折り重なってる、死人が出ないかこれは。


 六本のミスリルナックルのうち、二本はキルコゲールの手に付いてるので問題はない。あとの四本を二本ずつ、腰のアタッチメントの所に掛けていたのだが、それを狙われたらしい。

 五メートルほどもある超重量のミスリルの塊をよく盗もうって気になるなあ。

 しかし困った物だ、どこかに収納するのも難しいし、売っちゃうかなあ。


 キルコタンクの周りをぐるっと回って異常はないか確かめたけど、特に何ともなっていないようだ、まあ、魔導超合金製らしいから、貧民が叩いた所で傷一つ付かないけどね。


 馬車溜まりの他の馬車では、盗難にあったり壊されたりした馬車があったようだ。損害を弁償しろとめ寄ってきた人も居たが、そんな事をいわれましても。


「おめえらの車が居たせいで、こうなったんだっ、謝罪と賠償をしろっ!!」

「なによ、あんた、それ、本気で言ってるの?」

「え、いやその、オッド様に言ってるんじゃなくて、そこの小僧にですね」

「ゲンキは私の下僕よ、下僕への攻撃は私への宣戦布告と取っても良いのね?」

「ええ、だってさあ、俺の、積み荷とか、馬車とかよう、どうしたらいいんだよう」


 もー、こっちこそどうしたら、いいんだ、だよ。


 馬車溜まりのお客さんたちと僕たちが、もめていると、役人が一列になってぞろぞろとやってきた。


「オッド師、お帰りなさい、メイリンにご帰還したばかりで、もう大騒動ですね。さすがはオッド師です」

「イヤミ良いに来たなら、ぶっとばすわよ、シーガル老」

「ははは、これは怖い怖い。勇者ゲンキも独立都市メイリンにようこそ、元老委員会の議長、シーガル・ウォートレスと申します。お見知りおきを」


 シーガルと名乗った優しそうなおじいさんは、ふかぶかと頭を下げた。

 なんか都市に来るたびに偉い人と知り合えるな。オッド大明神の御利益だろうか。


「このミスリルの塊を市に一個売るから、このタンクの保管倉庫を探して、あと被害に遭った人の保証をして、残りは現金でちょうだい」

「ふむ、市内の貴金属商に売るよりも、すこし割安になりますが、よろしいですか?」

「多少は構わないわ、スラムに逃げた貧民のうち、犯罪を起こした奴を捕まえる費用も取っていいわよ」

「あと三つは売ってもいいけど」

「そっちは、別に貴金属商に売った方が良いわ、ミスリルがいっぺんに大陸市場に出ると暴落するから、一年に一個ぐらいが良いわよ」

「あ、そういうものか」

「シーガル老、捜査員に言いなさい、犯罪を起こして逃げた者は、オッド師が不思議な力で恐るべき呪いをかけ、地の果てまでも追いかけるから、自首した方が絶対に良い、って噂を流せって」

「それは、すばやく悪人が捕まりそうな方法ですな。面白いですな」

「倉庫の手配が済んだら教えて、宿はいつものカルビンよ」

「わかりました、オッド師、今回は長く御逗留ごとうりゅうですか?」

「用事があって、ダンジョンに潜るわ、しばらく居るわね」

「ダンジョンですか、最深層に挑まれるならば、生え抜きの冒険者をご紹介いたしますぞ」

「五十階ぐらいまでよ、必要な物を取るだけだから」

「それは残念ですな。では、ごゆっくりご滞在たいざいください。なにかありましたら、お気軽に行政塔にいらっしゃいませ、話は通しておきますので」

「ありがとう、助かるわ、シーガル老」


 てきぱきと要件を済ますオッドちゃんを見て、これだけスムーズにオッドちゃんが動けるようになるまで、どれくらいの迷惑をメイリンに掛けたのかが気になった。

 

 押っ取り刀で、パットとあやめちゃんがやってくる頃にはもめ事は全部片付いていた。

 倉庫に入れるまで、キルコタンクは市から派遣されてきた衛士さんが守ることになったのであった。

 これで一安心。

【次回予告】

貧民からのキルコタンクへの攻撃をなんとかしのいだ、げんき一行。

馬を借りて、メイリン見物としゃれ込むのだが……。


なろう連載:オッドちゃん(略

次回 第67話

馬術散歩とダンジョンの負傷者

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