65. 本当に本当の理由
「あかん、あかんわ、どっちもこっちも、あらゆる枝が全部世界の破滅を向いとるっ、なんやこれっ!」
「ちょっとまって、そのまえに、サイマルさんの幻視について教えてよ、それは絶対確実な予知なの?」
「うちの幻視はな、うちの元々の予知能力に時空間魔法で強化を加えたものや、現時点での状況からあらゆる可能性の未来を視ることが可能やねん」
「可能性の未来って?」
「過去はもう変えられんのだけど、未来は変えられるねん、だから、状況状況で木が枝を伸ばすように沢山の可能性に繋がる未来があって、その枝の一本一本を追えるねんよ」
「なるほど、可能性の高い未来が視えるんですね」
「ヒダカ君が、キルコゲールに乗る枝は、ほとんどが世界の破滅に向かってるんや。なんでまた……」
そうか、未来は確定してないのか。
「破滅の大枝は……。げんきくんが死んで、オッドはんが切れる、やな」
「ゲンキが死ぬの、そんなの駄目よっ!!」
「魔王とガチンコで喧嘩が始まって、大陸が平べったくなる未来や……。阿呆ちゃうかこの二人?」
「魔王って、オッドちゃんとガチンコできるほど強いの?」
三十メートルのロボを棍棒にして振り回し、バリア張りまくりのオッドちゃんとガチのセメント勝負が出来るって、魔王ってなによ?
「ま、魔王と初めて会った時はお互い裸ん坊で、アイツの顔見たら、いきなりむかついたから、拳で殴り合ったわ」
「な、なんだ、そのシュールな状況は、なぜそうなった?」
「しらないわ、千年前、一番古い記憶だから。なんで裸だったのか、なんで、同じ顔の奴が居るのかわからなかったわよ」
同じ顔? 殴り合った?
「なんでそこに、いたか解らないの? どんなところ?」
「わからないわ、場所は魔王領のサランシナ山脈のど真ん中よ。なんか白いドームみたいな丸い大きな部屋に、気がついたら、アイツと二人でいたのよ。きっとアイツが私に猥褻な事をしようとして、あそこに連れ込んで、服を脱ぎ、脱がされた所で、お互い記憶を失ったのよ、そうに違いないわ」
……たぶん、それは違うだろう。
なんだよ、その変な状況。
というか、衝撃的な事実がどかどか降ってきて、解釈が追いつかない。
なにやってんだ、この人は、魔王と。
そして、恐ろしい事に、魔王はオッドちゃんとほぼ同じ力を持っているっぽい。その気になればロボも振り回せるのだろう。
ああ、魔王がオッドちゃん並の駄目人間で、キルコゲールとミルコゲールで棍棒合戦とかはじめたらすごく嫌だなあ。
おべんちゃらバーグさんが出世したのも解るわ、きっと魔王もオッドちゃん並にちょろいのだろう。
「三昼夜ぐらい、あの野郎と殴り合ったわ、殴っても殴ってもむかつきが消えないで、さらにむかついたんだけど、さすがに疲れたので、二人して、大の字になってのびたのよ」
「魔王さんは、男の子だったの?」
「男よ、チンコあったし、私みたいに胸もふくらんでなかったわ」
オッドちゃんのどこが、ふくらんでいると言うのだ、つまらない見栄をはるんじゃありません。
「オッドちゃんと同じ顔で、男の子、ショタなんだよっ」
いくら顔が可愛いオッドアイのショタでも、中身はオッドちゃんと同類だぞ、目を覚ますんだ、あやめちゃん。
「そこで、あの馬鹿が、偉そうに言ったのよ。『これ以上やっても勝負はつきそうもない、どうだ、外の世界を使って勝負をしようではないか』ってね」
てねっ、じゃないよっ。
「『余は、力と恐怖こそが世界をまとめる力だと信じる。覇道にて世をまとめて貴様に勝負を挑もう』私は言ったわ『愛と信頼こそが、世界をまとめる力よ。あなたは間違っている、私は信頼と友情で世界をまとめて、あなたに勝負を挑むわ』ってね。それで、千年、一生懸命仲間を集めて、魔王の野望をくじくために私は頑張っているのよっ!」
ビキン、と僕の中の何かが千切れた音がした。
パットを見ると、額に青筋が立って、口が歪んでいる、僕と同じ意見のようだ。
あやめちゃんを見る。無表情で、わずかに眉に皺がよってる、知ってる、これはあやめちゃんが、ぶち切れた時の表情だ。
「「「愛と信頼で勝負してるあんたが、なんで、国際的ボッチになってるんだっ!!」のだ!!」なんだよっ!!」
「え、それは、その、みんながわがままで……」
「ちょっとそこに座りなさい、オッドちゃん!」
「正座だよっ!」
「根本的に、おかしいぞっ!!」
「愛と信頼でみんなをまとめ上げるって、憎しみと不信で、黒歴史作りまくりじゃないですかっ!」
「コミュ障の人が、身の程をわきまえろなんだよっ!」
「基本的に勝負の前提が、オッドに合って無い、はじめる前から気がつくべきだっ!」
「な、なによ、そ、そんなにみんなでギャアギャア言わなくても、いいじゃないの、よ……」
オッドちゃんは涙目になった、だが、僕たちの怒りは、おさまらない。
「そんな勝負に人を巻き込んで、沢山死なせたんだ……」
「そ、そんなには死んでないわ、魔王にたどり着く前に、その、たいてい、いなくなってしまうの……」
「え?」
「その、朝、宿屋さんで起きると、その、パーティの人が、誰もいなくなってて、あの、ああ、またかって、その……」
僕は目頭が熱くなってきた。駄目だ、泣いてはいけない。
誰も居ない宿屋の部屋で、ひとりしょんぼり肩を落とすオッドちゃんとか想像してはいけないっ。
その時のオッドちゃんの気持ちとか、我慢をして下唇を噛んで涙をこらえる様、とか想像してはだめだ、僕っ。
それはオッドちゃんの術中にはまっているんだ。
仲間を街中を捜し回り、門番の人に、みんな街を出て行ったよって言われて、肩を落として、一人で宿屋に帰って、枕に顔を埋めて泣くオッドちゃんとか想像しちゃだめなんだっ!!
「どうしてそういう事情を、ちゃんと僕たちに話さなかったの?」
「正直に話すと……。またみんな、いなくなっちゃうし……」
まあ、そうだろうなあ。
こんな馬鹿馬鹿しい事に命を賭けられる人はそうそういないだろう。というか、こんなオッドちゃんについて魔王に勝った二組の人たちを僕は凄く尊敬する。
あなたたちは優しすぎる。
なんか、どんよりとした沈黙が肩に落ちてきて、いやな感じにみんな黙り込む。
サイマルさんだけが、なんか小さな魔方陣を出しては消して、なにかしている。
「そうかそうか、せやかて……、うぬうっ。あっ、このラインかっ!! みんな、魔王打倒の希望はあるで、針の穴にドラゴンを通すぐらいの確率やけどなっ!!」
それって、不可能って事じゃ無いの?
「まずはな、早急に……」
ドガッシャーンッ!!
窓を突き破って真っ赤っかな鎧を着た怪人が部屋に飛び込んで、着地するための回転の途中でサイマルさんをかっさらい、その細い首に剣を当てた。
「そこまでだっ! うごくなよ、貴様ら」
「な、何者だっ!! 貴様ーっ!!」
「くくく、俺はバーグに変わって貴様らの相手を魔王様から直々(じきじき)に承った、魔王軍四天王の一人、コルキス・インチオスだ、よろしくな、貴様ら」
「バ、バーグさんは?」
僕が問いかけると、コルキスは首に親指をあて、引くような身振りを取った。
「処刑されたの?」
ああ、変態馬鹿ホモとはいえ、死んだとなると、ほんの素粒子レベルで、ちょっと可哀想だなという感情がわいた。
「あ? いや、四天王を首だよ。降格されて事務職に回された。しかも減俸三ヶ月だ」
ちっ。
というか、魔王軍は恐怖と力で押さえつけて、覇王の道を行くという割には、なんかほんわか組織な感じもある。魔王さんは徹底できてなくて、なんとなくほのぼのムードなんだろうなあ。
コルキスは、物語の悪人みたいに、サイマルさんを抱きとめて、彼女の首に剣を突きつけている、うかつに動くと危ない。
コルキスの背丈は、サイマルさんと同じぐらい、男性にしては小柄だ。
真っ赤な燃えるような髪に、真っ赤な鎧で、とても派手だ。少年と見間違うばかりの若さで、というより、普通に少年だな。
僕よりちょっと上ぐらい、気の強そうな顔をした、結構なイケメンだ。
剣を使う武闘派っぽい感じで、僕の柔道アイで見ても隙が無い、武道の高さが推しはかれる。
これで、バーグ、チャリア、コルキスと四天王のうち三人が僕たちの前に姿を現した。
「死にたくなければ、今すぐサイマルを離すのね」
「くくく、ご挨拶だな、オッド、だが、こいつはお前達にとって、大きな力になりかねない、もらっていく」
「ほんまっ?」
「あ? ああ、そうだ。お前の予知能力は魔王軍にとっても役立ちそうだしなっ」
「年俸幾らくれる? 社会保障は? 福利厚生はどうなってん?」
「え、あ、そういう事は、総務と相談しないと、俺は決めらんねーよ。い、いいのか?」
「うち、魔王軍に就職するわっ!」
「え、ちょっと、サイマル?」
「くはは、面白い、やつらを裏切るというのか?」
「裏切る? なにいうてん、もー、オッドはんの面倒を見るの、うんざりしてたんよ、渡りに舟やっ!」
「ちょ、サイマル? あ、あれよね、予言の為に魔王軍に裏切ったふりをして、潜入とか、そういう」
「素で、うんざりなんや、すまんなあ、うち、もう限界やねん」
「な、なによ、サイマル、あんたは友達だと思って……」
「うちは、あんたの事、友達なんて思ったことはないわ、お金沢山くれるから、持ち上げてただけやん、なに勘違いしてんの、自分はずかしなあっ」
友達と思っていた、サイマルの裏切りに、オッドちゃんは顔を真っ白にして動揺している。前に出した手がプルプル震える。
「あんたの話を聞いて、友達と思ってくれる人なんか、パンゲリア大陸のどこにもおらんよ、短気でいばりんぼで、だらしない、お金持ってるから、ちやほやしてくれる人は居るかもしれんけど、友達と思ってる人なんか、一人もおらんでっ!!」
聞いてられなかった、僕は机を蹴飛ばして立ち上がる。
パットが抜刀して、飛んだ机と水晶球をたたき切った。
あやめちゃんがふくれて立ち上がる。
「私の友達のオッドを悪くいうなっ!!」
「僕が、友達だっ!!」
「オッドちゃんは悪い所ばっかりだけど、良い所もあるんだよっ!!」
「あ、あなたたち……」
「勇者さまたちは、お優しくていらっしゃいますのなっ、あんたたちもどうせ、うんざりしてオッドはんから離れていくんやっ! 幻視つかわんでも解るっ!!」
「ちょ、おまえ、その、言い過ぎじゃね? そんな喧嘩売ったらさ、頭が冷えてから、仲直りしようかなって時に困るんだぜ」
「なんやっ! 常識家やな、コルキスはんっ、それでも魔王軍かいっ!! ええんやっ! うちはもう、魔王道を邁進し、悪の限りをつくす女になるんやさかいっ!」
「魔王軍でも、悪の道を走る困ったちゃんは、普通に、しめられるから、落ち着けな、そんなんじゃ面接落ちるぞ」
「面接あるのん?」
「一応、俺が推薦してやるけどよ、やっぱ、入軍にあたっては、簡単な試験と、面接がな、その場でそんな事言うと一発で落ちるぞ」
「ちょっと、後で、詳しく教えてや」
「ああ、わかったから。じゃ、俺らは帰る、またな貴様ら」
コルキスはそう言うと、サイマルさんを抱きかかえたまま、ぶっ壊した窓から飛びだそうとした。
パットが移動に合わせて両断しようと大剣をふると、片手の小刀で弾き返して、窓の桟を踏み台にして跳んだ。
やるなっ、僕の柔道アイでも、動きを追うのが精一杯だった。
コルキス、奴は強い。
オッドちゃんが目をキラキラさせながら寄ってきた。
……。
あれだな、さっきは流れで友情パワーを爆発させてしまったが、こうして寄ってこられると、この人、普通にウザイな。
「あなたたちっ、あなたたちは、本当の親友ねっ! 私、感動したわっ!」
「そ、そう? まあ、そうかもね」
「というか、さっきのは勢いだ」
「オッドちゃんも反省するべき点が山ほどあるんだよ」
「な、なによ、なんで急に冷たいのっ!!」
「とりあえず、夜に、オッドちゃんの反省会だね」
「たっぷり反省してもらわなければ」
「賛成なんだよ」
「わ、私は、悪くないわよっ! なによっ、あんたたちっ!! 私には反省しなければいけない点なんか無いわよーっ!!」
オッドちゃん、うるさい。
【次回予告】
魔王軍四天王のコルキスに占い師サイマルを奪われ、意気消沈するげんきたち。
ホテルの一室で、げんきとパットは、内なるオッド的な物について検討をするのであった。
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第66話
わが内なるオッドちゃん




