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64. 予言の店 サイマル

 下周り横路ストリートをテクテクテクテク歩く歩く。

 それぞれの出国口のあたりの店とかは、それぞれ特徴が出ていて面白い。

 共和国口の周りは、ドワーフの鍛冶屋とか、ハーフリングの小間物屋とか、亜人さんのお店が建ち並んでいる。でも、みんな目つきは鋭い。生き馬の目を抜く独立都市だもんね。

 獣人連合国料理の店のウイルウイルが、どうして、口なし主道アベニューの一番下あたりにあるかというと、どうやら口なし主道アベニューは出口が無いので不人気で家賃が安いらしい。美味しいし安いし隠れた名店なのよっ、ってオッドちゃんが我が事のように自慢していた。


 共和国口の街門を通り過ぎる。

 この門の外には、やっぱりスラムが広がっていて、しかも難民キャンプも出来たので、すごい事になっているらしい。

 阿鼻叫喚あびきょうかんの野生の王国だと、オッドちゃんは言っていた。

 亜人の人は、エルフ、ドワーフ、ハーフリングと、結構温厚そうな種族な感じがするのだが、そんな人たちでも獣になってしまうぐらい、戦争とは怖い物なのだなあ。


 どんどん歩いて行くと、だんだん街が獣人臭くなっていく、独特の匂いだね。胡椒こしょうみたいな、ココナッツみたいな、不思議なにおい。お日様に干した布の匂いにも、ちょっと似てるかな。

 獣人の人が通りに出て、大きな声で客引きをしている。お土産物屋さんのようだ。


 大きなつぼを抱えた獣人さんが、よろよろとあやめちゃんに近寄ってくる。

 あ、ぶつかった。

 つぼが落ちる。

 僕はすり足発動で、一気に距離をめて、落ちる前につぼを受け止める。


「ばかやろーっ! どこ見ていやがるっ! つぼが……」

「割れてませんよ」


 イタチっぽい小ずるい表情をしたオヤジさんに、大きなつぼを渡す。


「お、ど、どうも……」

壺詐欺つぼさぎとは、また、なめてくれるわねっ、馬鹿なの、死ぬのっ?」

「う、うわあああっ、オッドさまっ!! ハイッ、ゴメンナサイッ!!」


 つぼを自分で放りだして、イタチオヤジはダッシュで逃げ出した。

 ガッチョンと音をたて、つぼ側溝そっこうで割れた。


「あやめちゃんだいじょうぶ?」

「あ、うん、だいじょうぶだよ、なんだったの?」

「無価値なつぼを割って、難癖なんくせを付けて、お金をたかる詐欺さぎよ」

「うわあ、ありがとう、げんきくんっ」

「どういたしまして」

「おっぱらったのは私よっ」

「まあ、つぼを割っても、私が叩き斬っていたから大丈夫だがな、アヤメ」


 うちのパーティの聖騎士と魔導師が、とても物騒ぶっそうで理性がありません。


 連合国口近くの路地を上に上がっていく。

 ここらへんは、まさに下町って感じで、小汚い小屋みたいな家が多い。

 鼻をたらした獣人の子供がわらわらと遊び回っている。

 石蹴りみたいな遊びをしていたり、くぎで地面に絵を描いたり字を書いたりしている。

 香辛料だろうか、ハーブだろうか、不思議な料理の匂いも、ただよってくる。

 雰囲気としては、アジアの下町っぽい。なんか懐かしい感じ。


 そんなごみごみした感じの下町の奥に、予言の店サイマルはあった。


 あったが……。


 なにこれー?

 基本的に建物がぼろい。

 ぼろいのは良いが、看板がでかい。

 でかい看板に「百発百中、神秘の占い。失せ物、恋愛相談、失踪しっそう人の行方、何でも占います。薄利格安はくりかくやす、業界最安値。冒険の行方についてお悩みの方、気になるあの子の気持ちが知りたい方、是非ぜひ、パンゲリア占い協会認定の当店をご利用ください」などのうさんくさいあおり文句があり、魔導灯がピカピカ光っている。


「ここか、オッド」

「ここよ」

「うさんくさいな」

「そうね、でも当たるのよ」

「オッド、断言していいだろうか」

「なによ?」

「おまえは確実にだまされている」

「し、失敬しっけいね、パットのくせにっ」


「なんやなんや、だれや、人の店の前で騒いどんのは?」


 獣人王国西方なまりで、犬耳で、ベールをかぶった怪しげな格好のお姉さんが出てきた。


「お、これはオッドはん、いらはい。冒険の首尾しゅびはどうですか?」


 怪しげなお姉さんは、もみ手をしながら、オッドちゃんにそう声をかけてきた。


「んー、だいたい、上手くいったんだけど、ちょっとだけ問題が、ちょっとだけ」

「なんですのん、問題って? や、上手いこと操縦士二人連れてきてるやないですか、カワシマ君とミハマちゃんやろ」

「えーとね」

「パトリシアはんも来てるやないですか、順調そうですな、ま、立ち話もなんやで、おはいりや」


 そう言って、怪しい占い師は、僕たちをお店の中にまねき入れた。

 白檀びゃくだんのようなお香の良い匂いがして、すこし薄暗い店内には、なんか、変な動物の木彫りの置物で一杯だった。その一角の応接コーナーのような所に僕らは通された。

 織物のかかった低いテーブルに、大きい水晶玉が置いてある。まさに絵に描いたような占い師の店だ。

 占い師はうるさそうにベールを取ると、戸棚にあったパイプっぽい物を取り、煙草の葉のような物を詰めて火を付けた。

 なんかチョコレートみたいな甘い匂いがするー。


 ベールを取ったお姉さんは意外と若い感じ、榛色はしばみいろの目をした、なんかふわんとした可愛い感じのひとで、犬耳は垂れ耳。

 民族衣装を着けた胸元が大きく盛り上がっている。

 本物か、本物のオパーイか。

 なんとなく癒やし系な感じのお姉さんで、こんなお姉さんに人生相談して、優しくされたら、この僕でも普通に泣いてしまう自信がある。

 お姉さんはパイプをぶわぶわっと吹かして、煙を出した。

 チョコくせえ。


「それで、なんやの、問題って」

「サイマルの言うとおりの時間と場所に行ったら、たしかに、コレという感じの少年がいて、呼びかけたら、棍棒に乗ってくれたわ」

「棍棒じゃ無いって、あれほど言うたのに、なんで聞いてくれへんの」


 あ、棍棒呼ばわりは、占い師さんのせいじゃなくて、オッドちゃんのせいなのか。


「でも、それは、カワシマ・ダイサクじゃなくて、ヒダカ・ゲンキって別の子だったの。べ、べつに問題ないわよね?」


 サイマルと呼ばれた占い師は、目を見開き、立ち上がった。


「なななっ! なんやてっ!! なんでヒダカ・ゲンキがっ! キルコゲールに乗っとんねんっ!!」

「し、知ってるの、サイマル?」

「知るも知らんもあるかいっ!! うちの幻視ビジョンでは、魔王軍に荷担かたんして、同型機ミルコゲールに乗る、カワシマのライバルのバカップルパイロットやないかいっ!!」

「「「は?」」」

「なんで、どう間違えたらそうなるんやっ!! マジかーっ!!」

「だ、だって、サイマルの指定した場所に転移したとき、あ、これだって子が居るって言うから、行ったら、あ、これだって、思ったんだもの……」

「え? もしかして女の子も、カキツバタ・アヤメなんかいっ!?」

「そうですよ、わたし、杜若かきつばたアヤメです」

「あーっ! このはんなりした、いらいらするしゃべりはっ、ほんまもんやっ! カキツバタアヤメやーっ!!」


 失敬な占い師め、あやめちゃんをdisる、とは何ごとだ、とっちめるぞ。


「あんた達が、ミルコゲールでいちゃいちゃするから、カワシマハーレムで、大変な……。な、なんで、パトリシア嬢が、こっち居るねんっ!! あんた、カワシマ君一筋って言ってたやん、なに浮気してんねんっ!!」

「浮気だとっ!! し、失敬な占い師めっ! わたしはゲンキ殿一筋だ、初恋なんだぞ、それを浮気なぞとっ!!」

「マジかいーっ!! カワシマ君の恋愛イベントを食い散らかして……。ね、猫耳幼女サツキとエリス猊下げいかはどこじゃーいっ!! リガンテン子爵と殴り合いの喧嘩をしてまで助け出したサツキと、部下にクーデター起こされて亡命目的で帝国まで同行する予定のエリス猊下げいかはどこに行ったんじゃーっ!!」


 どうやら、サイマルさんの見た幻視ビジョンでは、色々な面白イベントが発生していたようだ。本来川島君がやるべき道筋だったのね。この旅。


「リガンテン子爵は毒気が抜けて改心したよ。だからサツキって子も大丈夫じゃない?」

「だめだよ、げんきくんっ! モフモフッ子イベントを逃したんだよ、今から帰ろうよっ!」


 だまれ、モフモフ大魔神め。

 あやめちゃんよ正気を取り戻せ。


「エリス猊下げいかはクーデターを僕らが未然に阻止そししましたので、ついてきてませんよ。というか、キルコタンクにそんなに乗らないでしょうに、どうやって旅してたんですか」

「聖堂都市で、頑丈がんじょうな金属製の馬車をあつらえてタンクで引いっとったよ。キャンピング馬車やらいう新発明の試作品やったかな。って、そんな事はええねんっ! あんたら、何してきたんやっ! くわしく話しっ!!」


 これまでの事を、くわしく話した。


 占い師は死んだ。

 いや、死んだみたいに机に突っ伏して、ウエッグウエッグと、声を出して泣いた。

 特に、川島君と美浜さんが、魔王軍に荷担かたんして、ミルコゲールに乗ったというのがショックだったようだ。


「ヒダカ・ゲンキくんは、魔力がカワシマ・ダイサクに比べて低いんや、それが、武装の無い、キルコゲールに乗って、どうやって勝つと言うんや」

「僕だって、装備の充実したミルコゲールに乗りたいですよ。オートマタ完備だし」

「ははは、でも、魔王軍でバーグやらいうホモに迫られて大変や、とか、カワシマにぼやいておったよ」


 バーグさんはビジョンの中でも僕一筋なのか、それはそれで、すごく、嫌だな。


 しかし、あれ? なんか変だな。

 サイマルさんのビジョンの世界の僕は、なんでまた、この世界に来て、闘ってるんだ?

 帰れるなら帰るよな、川島君みたいな革命闘士じゃないんだから、僕は。

 あやめちゃんも居る以上、日本へ帰還きかん以外の選択は無いはずなんだけど。

 なんか嫌な感じがする。

 なんだ、と言われると、解らないんだけど。


「という訳で、最速で、魔王をぶっちらばるコースは無いわ、オッドはん」

「困ったわねえ」

今回・・は負けやな」

「今回は、って何?」


 あ、オッドちゃんの目が泳いだ。なんだろ。


「オッドはんと魔王は千年に渡って、何回も勝負してんねん」

「は?」


 なにそれ。


「どっちが勝つかって勝負。本人同士の戦闘は禁止で、連れている子分を闘わせて、どっちかの親玉に攻撃できたら勝ちや」

「え? なにそれ?」

「に、二勝、八敗だけど、か、勝てない訳じゃ無いわ」


 しかも、負け越してんのかいっ!!


「え? オッドちゃんと魔王って、ゲームしてるわけ? 魔王にテロりに行くとかじゃなくて?」

「ゲ、ゲームって、失礼ね、ちゃんとした真剣勝負よ。遊びじゃ無いのよ」

「勝つとどうなるの? 負けるとどうなるの?」

「勝負が終わったら、その、話し合いで、一個ずつ、相手の要望ようぼうを通す感じで。前回は負けちゃって、亜人共和国に攻め込まれちゃったけど、今回は勝つわ、勝って、要望ようぼうで魔王軍を撤退てったいさせるからっ」


 いったい、この人、何言ってるんだ?

 なんか、目の前のオッドちゃんが見知らぬ人で、なにか僕には解らない言語でしゃべっているような感じがした。

 ゲームみたいに、大陸の大事な事を魔王と二人で勝手に決めてるのか?


「と、とにかく、ゲンキを棍棒に乗せた未来をてよっ!」

「ああ、しょうがないな、けど、期待すんなや」


 ちょ、ちょっとオッドちゃん、ちょっと待ってよ、何言ってるわけ?

 パットを見る、なんか理解しがたいという表情だ。そうだよね。

 あやめちゃんを見る、困惑こんわくの表情を浮かべている。

 え、こんな事、聞いてない。

 オッドちゃんが言ってた事と違う、というか、彼女は大事な事を隠してたんだ。


 サイマルさんが、息を吸い込み、呪文のような物を唱える。

 あちこちに色々な色の魔方陣がふわりふわりと開いては消える。


「あああああああっ!!」


 いきなり、サイマルさんの絶叫ぜっきょうが室内にひびいて、僕はびくっとした。


「あかんっ!! 世界は破滅するでっ!!!」

「「「なんだってーっ!!」」」

「え?」

【次回予告】

怒濤どとうのような信じられない現実が判明し、言葉も無いげんきたち。

占い師の打開策が語られる瞬間、真っ赤な鎧の男が飛び込んで来たっ!


なろう連載:オッドちゃん(略

次回 第65話

本当に本当の理由

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