61. 両替商と宿探し
朝ご飯が済んだので、両替商へ行くことになった。
メイリンの街の道は、螺旋を描いて丘の上の塔まで昇っている。
螺旋の道は四本あって主道と呼ばれている。主道 を割るように、横に連結する輪のような横路が二本ある。
主道は、それぞれ対応する出口の名前を付けられていて、僕らの目の前にあるのは、連邦口主道 だ。他に、共和口主道 、連合口主道 があり、あと、街口に通じていない、口なし主道 がある。
横路は、中腹にある上周り横路、最下層をまわる下周り横路がある。
塔直下の周りにも横路はあるのだが、それは、塔路と呼ばれ、横路としては数えないらしい。
主道と横路の名前を覚えたらどこでも行けそうだが、螺旋を描いて登っていくので、なにげに道はややこしく、迷子になりそうだ。
螺旋の主道 を上がれば上がるほど、高級住宅街となり、下がれば下がるほど下層の街となるが、門に近い所は繁華街でにぎわっている。
最下層の貧民の方々は街に入ることが出来ず、メイリンの外苑街と呼ばれるスラムに暮らしている。
スラムは宿代が安く、物価も安いらしいのだが、その分、ガラがとても悪いらしい。
両替商は、連合口主道 の近くの上周り横路にあった。
そこまで、よっせよっせと昇っていく。
まず、連邦口主道 をどんどん上がって、上がって、上回り横路まで行き、そこから、西へ四分の一周ぐらいしたら、店に着いた。
基本歩きの、この世界にも少しなれたのか、そんなに疲労もなく、たどり着けた。
街中にエスカレーターをつけるべきだとは、思ったけどね。
両替商の店内は暗くて漢方薬みたいな匂いがした。
鉄格子が入った窓口の向こうで無表情なお婆さんが一人たたずんでいる。
パットは窓の上の黒板に書かれたレート表を見て、うんうんとうなずいていた。
「レート高い?」
「そうですね、門の所の市営両替所より、気持ち高めという所でしょうか」
オッドちゃんが、手持ちの白金貨を何枚か出してトレイに乗せて窓の向こうに送ると、別の模様の白金貨と金貨銀貨がこちらに来た。
金貨と銀貨は、両替の端数らしい。
パットも金貨を何枚か交換した。
僕は金貨を十枚だして、トレイに乗せて送る。
帰ってきたトレイには鴨の絵が描いてある、金貨九枚、銀貨九枚、白銅貨八枚、銅貨七枚と鉄貨幣三枚が乗っていた。
あ、硬貨に描いてある、この鴨がグースさんなのか。
無限財布に入れておく。
あやめちゃんも金貨を十枚両替していた。
「あやめちゃん、グースさん」
「わっ、グースさんかわいい、いいなあ」
あやめちゃんに銀貨のグースさん面を見せて、二人で騒いだ。
両替店の奥には”古代金貨高価買い取り”というポスターが張ってあった。
「古代金貨?」
「ダンジョンの深い所では、古代のお金が、たまに出ますので」
「浅いところでは?」
「死んだ冒険者が持っていたお金が、知らないうちに宝箱に入ってるのですよ」
「あ、なるほど」
誰が、ダンジョンの宝箱とか罠のメンテナンスしてるのだろうか?
謎だな。
「まいどあり……」
僕たちが店を出ようと戸を開けた時、お婆さんは初めて口を開いて、礼を言った。
不思議な感じのお店であった。
まだ時間が微妙にあまっているので、メイリン塔まで昇って、ダンジョンの入り口を見学する事になった。
わっせわっせと足に力を入れて昇る昇る、といっても、そんなに小高い山でも無し、丘ぐらいの高度なんだけど、わっせわっせ。
てっぺんまで付くと、ぜいはあと息が荒い。
無限袋から水筒を出して飲む。あやめちゃんがくださいというので皮カップに入れてあげる。
水自体は、昨日の夕食を取った、トウサ村の井戸の物。
あやめちゃん水筒も僕の魔法袋の中だが、めんどうなので、僕の水筒の水をおごるのである。
塔の土台は、ちょっと高く上がっていて、そこからダンジョンに入るらしい。
どうやら入場料がいるようで、一回二千グース、銀貨二枚らしい。微妙に高い気がする。
入場ゲートの前には冒険者のパーティが並び、ざわざわと騒がしい、五六人のパーティが多い感じかな。
色々な人種がいて、みんな目が鋭い。
筋肉隆々(きんにくりゅうりゅう)な男の人が多いけど、マッチョな女の人、不気味な感じの魔法使いのお姉さんとかも居る。
甲冑の人もいるけど、騎士系な感じの人は見かけない。
みんな、ごつくて暗くてむさくて、薄汚れていて、目つきが暗くて、でもそこが、なんかプロっぽくて良い。
この人達は薄暗いダンジョンに入って、モンスターを倒して、日銭を稼ぎ、一攫千金で名を上げようとしているのだろうなあ。
入場の人と、見物の人で鉄の柵で隔てられていて、その距離は物理的な物以上に遠そうだ。
僕たちのいる側の人は、みんな小綺麗な服を着て、表情が緩んでる旅人たちだ。
柵のこっち側の人は、一生ダンジョンに入ることも、その必要も無いんだろうなあと、ふと思った。
後ろを見ると、ちょうど諸国連邦側で、越えてきたルベル峠がかすんで小さく見える。
陥没した地底湖の所も黒く見えた。
ここらへんは、メイリン平原といって、山と山に挟まれた広大な三角州平原の土地だ。
ああ、思えばずいぶん遠くまで来たんだなあ。
塔から下りて、周りを囲む横路、塔路を行く。
並んで居るのは、武器屋、道具屋、などの冒険者関係のお店。
街の上の方のお店なんで、高級品ばかりが並んでいる。
すごく武器の値段が高いなあ。
「あ、今日はここに泊まるつもりなのよ。ちょっと早いけど部屋が開いてるか聞いて見ましょう」
オッドちゃんがそう言って指さしたのは、どう見ても、どどんとした押し出しの超一流ホテル。
看板には、独立都市ホテル、カルビンとあった。
パットの顔がうむむと青ざめる。
オッドちゃんめ、嫌がらせか。
高さにして、五階建てくらいのどっしりとした石作りの洋風建築は格式の高さを見せつけていた。
くすんだ色の厚い木で出来たドアを開くと、そこは重厚なインテリアのロビーで、見るからに高級だ。
「ああ、これはこれは、オッドさま、お帰りなさいませ」
ここは、オッドちゃんの定宿らしい。
「いつもの部屋は開いているかしら」
「ええ、開いておりますよ、今回はお一人ですか?」
「あと、三人、一人は男の子だからシングルで、パットあなたはどうするの? 私はスイートを取るつもりだから、あやめと二人で寝るつもりだけど」
「我が主とツインで、いや、ダブルベットだっ!」
「却下よっ! 一人寂しくシングルで寝なさいっ」
「それは、駄目なんだよ。パットちゃん」
「ちぇっ、ご亭主、シングル一泊幾らかね」
「はい、丁度、一泊五金貨の部屋が、二つ開いたところですよ」
「ゲンキの部屋は私が払うわ」
「五金貨か、ぐぬぬっ」
パットが悩んでる。
「パット、持ち合わせがたりなかったら、ビアトーン家の武具を売って、たしてあげるから大丈夫だよ」
「わ、我が君。なんとお優しい」
うううとパットが泣いた。
泣くなよ、馬鹿だなあ。
パットは、状況しだいで、ここから、ケンリントン領まで帰らないといけないもんね。
オッドちゃんが「ちっ」と舌打ちをした。
実際シングル一泊五金貨は凄い値段だ。メイリンの天辺に立っているだけの事はある。
ダディのくれたお小遣いが四日で無くなるね。
「オッドちゃんのスイートルームは、一泊いくらなの?」
「たいした事はないわ、一人一泊たったの十二万グースよ」
「駄目人間の人にお金を持たせたら、やっぱり駄目って典型だよね」
「失敬ね、自分のお金をどう使おうと、私の勝手よっ!」
「ふわわ、そんなに高い部屋でなくても、わたしは良いと思うの」
まあ、オッドちゃんが、そんなに、お金使いたいならしかたがないね。
とりあえず、みんなでチェックイン予約をした。
地球時間で、だいたい二時半ぐらいからチェックインができるようだ。
パンゲリア時間だと、昼の七時だ。
パンゲリアの時間は一日を二十分割なのである。
昼時間は日の出の零時から十時で日没。
夜時間は日没の零時から十時で日の出となる。
時計も、夏冬時間有りの上、季節で可変するので、地球時間にとっさに換算しにくい。
パンゲリアのある惑星の一日の全体の時間は地球時間にすると、二十四時間とちょっとなんだけど、割り方が違うんだよね。
これも国によって結構ちがい、神聖人類帝国では、十二時間法を取っているらしい。
キルコタンクでは、オッドちゃんが地球時間を見て、「え? 昼の何時?」って良く聞くので、今は両方の時計をキルコの中の人が表示してくれている。
「そろそろ、転移の球を修理してくれるお店に行こう」
「……、しかたがないわね」
【次回予告】
魔導具の工房で転移の球をなおそうとするげんきたち。
しかし、無常にも素材の一つが足りない。
その時、げんきのくだした決断とは!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第62話
魔導具工房 カバラン




