60. 通関審査、そして都市内へ
みんなでキルコタンクを降りて、通関門に並ぶ。
あたりは馬車だったり徒歩だったりの旅人達が結構列び、のろのろと進む。
結構大きい門だけど、さすがにキルコタンクは通らない。馬車溜まりで長期駐車しておくしかないね。
ゲートは二つ、ぱっぱと手続きをしているようだ。
途中、係員さんが、出入国届けの用紙を配って来た。
結構書く場所が多いなと、ながめていたら、オッドちゃんが引ったくって、ふった。
魔力用紙だったようで、書くべき場所が全部うまっていた。
あやめちゃんの用紙と、パットの用紙も、オッドちゃんが、引ったくってふる。
魔力用紙は魔力に反応して黒く変色するので、オッドちゃんみたいな魔導師だと、念じただけで、一瞬で書けるのだ。
オッドちゃんプリンターだね。
「あ、ありがとう、オッドちゃん」
「書き込みも意外に時間がかかるから、毎回毎回、参ってしまうのよ」
「ありがとう、オッドちゃん」
「すまぬな、オッド」
ふん、と鼻を鳴らしたオッドちゃんだけど、ほんのり嬉しそうだ。
どんどん列が進む。
独立都市メイリンの場合、外から来る物も、中から出る物も無税だそうだ。
本来なら、諸王国連邦の出国窓口があって出国手続きをして、メイリン側の入国窓口で入国手続きのはずなのだが、どうやらメイリン通関が、出入国手続きをいっぺんにやっている模様だ。
出入国に必要なのは、出入国届け、冒険者ギルドカード、あとは通関料に銀貨五枚だから五千ケル。
メイリンでは通貨が変わり、独立貨幣のグースとなるが、通関ではどちらで払っても良いようだ。
ちなみに、硬貨の種類は、百グースの白銅貨が増えるだけで、だいたい一緒。
通貨のレートは、メイリンのグースの方が1.2倍ほど高い。
「両替するよー、両替両替、中よりレート高いよ-。ケル、トラン、ミラ、どの貨幣もグースに替えるよー」
妙な節回しで、鉦をカランカランと鳴らして両替商が列の横を歩いて行く。
ケルが諸王国連邦通貨で、トランが亜人共和国の通貨、ミラが獣人連合国の通貨だ。
「ホントにレート高いのかな?」
「アヤメやめておけ、わざわざ、やってくるという事は、その分、利益を足してると言う事だ」
「パットの癖に、解ってるわね。街中の良いレートで信頼のおける両替商を知ってるから、後で行きましょうね」
魔法袋の中のビアトーン家からもらった武器防具も、この街で売っちゃうかな。
日本に持って帰ってもなんだし。
列が進んで、僕らの番となった。
「あ、オッド師、おはようございます。どうぞ」
あんなに待ったのに、顔パスかいっ!
「今回は、あと三人通るわ」
「はいはい、ギルドカードを拝見、はいはい、銀さんが二件、金さんが一枚と」
僕らは入国書類を渡し、通行料を払い、諸王国連邦門をくぐった。
門をくぐると、そこは異国だった。
街の空気が違う、匂いが違う、ざわめきもまた違った。
街を歩く人たちも、ごっつかったり、目が鋭かったりで、みんな完全武装だ。
「わりと荒んだ感じの街なのだな、メイリンは」
「ダンジョン中心の街だから、冒険者が多いのよ。生産地方の街や、観光と信仰の街とは、また雰囲気が違うわね」
小汚い子供が走って来た。
走って寄ってくる。
なんだね? と思ったら、僕の腰の無限財布に手を伸ばし、がっちりと掴んだ。
知らない間に柔道が発動していたらしく、僕は子供の腕をがっちり握っていた。
子供は無限財布をがっちり掴む、僕はその子供の右手をがっちり掴む。
無言で睨み合いだ。
「これはっ、俺の財布だっ! 泥棒っ!!」
「いやその、僕の腰にがっちりと君の財布が付いているのかい?」
「そ、そうだっ!! 俺の財布だっ!! どろぼうっ、泥棒だっ!!」
「小僧、我が君に無礼を働くとただでは置かんぞ」
パットが小汚い小僧の後ろにぴたりと付いて、怖い声を出した。
というか、パットの目も怖いからっ。
「掏摸も多いのよ、アヤメも気をつけてね」
「わ、怖いね」
「俺の財布を返せよっ!! ぶっ殺すぞ」
「君のじゃないから、返せないよ」
ちょ、パット、無言で大剣抜くなよ、コワイッ!
貴族は平民を切り捨て御免なのか、この世界っ?
騒ぎを見つけた衛士さんがどたどたと駆けつけてくる。
汚い子供は、ちっと舌打ちをして、僕のお財布から手をはなす。
その瞬間、財布の中に指を突っ込もうとしたので、僕は手で払う。
「覚えてろ、ちきしょうっ!!」
汚い子供は路地の方へ駆けていき、板塀をぴょんと身軽に乗り越えて姿を消した。
僕がぼんやりとそれを見ていると、衛士さんが二人駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか?」
「特に問題はありませんよ」
「そうでしたか、申し訳ありませんが、調書を取りたいので、詰め所まで同行ねがえませんか」
あれ、なんか二人の衛士さんが、僕を確保するがごとく寄ってくる。近い。
「それでですね、その財布、証拠品として、お渡しいただけませんか」
「申し訳ないですな、ぼっちゃん、ギルドカードもお渡しください」
悪徳衛士?
「まだそんな事してるの、またぶっ飛ばすわよ、あんたたち」
「ひっ、オッド様っ!」
「オ、オッド様のお連れさまでしたかっ!」
衛士たちはオッドちゃんを見つけると、下卑た笑いで、ぺこぺこと頭を下げて帰っていった。
「基本的にここの街の人間は全部信用しちゃだめよ。ウザイ事を言ってきたら、蹴飛ばして大丈夫」
「野生の王国みたいね」
「大通りでこれか、治安の悪い街ですね」
「子供と衛士はグルだったのかな?」
「さあ? でも衛士も泥棒みたいな物だから、注意しなさいよね。あと、乞食にはお金を渡さない。知らない人から、もらった物をのんだり食べたりしない。なんか怪しい奴が来たら、物理で殴る。いいわねっ」
ちょっと不安なので、あやめちゃんを三人でガードするように囲んで移動する。
インペリアクロスだよっ、って言って、なんかあやめちゃんのテンションが上がった。
「まずは朝ご飯ね、その後両替商に行きましょう」
「そうだね、そうしよう。転移の球を、なおしてくれるお店は?」
「まだ開いてないと思うの、お昼からにしましょう」
なんか、オッドちゃんは転移の球を、なおすのが嫌そうだなあ。
そこはわりきろうよ。
みんなで小綺麗な喫茶店のような所で朝ご飯にすることとなった。
豆茶とクロワッサンみたいなパン、大きいゆで卵とコンソメ系のスープを食べる。
豆茶というのは、完全にコーヒーだな。牛乳とシロップを入れて飲む。
この世界、粉砂糖とか角砂糖のたぐいはあまり流通してないらしい。
そのかわり、木から獲れるシロップが主流らしい。
クロワッサン風のパンもサクサクして美味しい。
ゆで卵は、なんか十五センチぐらいある馬鹿でかい卵だった。中身は普通のゆで玉。
どんな鳥の卵なんだろうか、気になる。
もぐもぐ、美味い美味い。
メイリンの都市は、よく見ると、真ん中の塔がある部分に向けて、大きく螺旋を描くように坂が連なっている。
その坂を繋ぐように間に横路が付いている。独特な構造だなあ。
「塔の下がダンジョンの入り口よ。塔は街の行政施設で、最終的防衛戦として籠城するために、坂は斜めに、螺旋型についてるのよ」
そりゃまた大がかりな。
「この街は王様いるの?」
「居ないわ、長老会議と議会の併用で色々決めてるの」
「何回か、独立都市を疎ましく思った国が攻め滅ぼそうとしましたが、最後にはダンジョンの中に潜ってまで籠城したので、これまで一度も独立を侵された事はないんですよ」
「根性入った国なんだね」
「パンゲリア大陸中の荒くれ者が集まるので、治安はこの通りですけどね」
「街道を繋いで、交易の中心地にもなったから、都市国家の割には発言力があるわ。魔王軍が亜人共和国を飲み込んだら、次はここが狙われると噂されているわね」
「ダンジョンってそんなに重要なんだ」
「この大陸には、大小合わせて十三のダンジョンがあって、どこも都市になってるわ。魔石の産出はそれだけ大きい資源で、産業なのよ」
「ここのダンジョンの底はどうなってるの?」
「さあ? 百階ぐらいまでは走破されたって聞くけど、まだ底ではないみたいよ」
「オッドちゃんは、潜ってないの?」
「結構一人で潜ったけど、五十階ぐらいであきたわ。薄暗い所に何日も潜るのは、うっとうしいのよね」
「何百年もずっとみんなで潜って、まだ資源とかは、つきないんだね、なんでだろう」
「さあ、魔導王か誰かが、なんかしたのじゃないかしら、この大陸の不思議のほとんどは、魔導王と妹のせいよ」
「魔導王ってどんな人なの?」
「不死に近い寿命を持って、魔導技術のほとんどを妹と二人で開発して、搭乗型ゴーレムは作るは、トンデモない人物だったと伝わってるわね。ゲンキたちの言う、チートね」
オッドちゃんも大概チートだとは思うが。
でも、転移の球の修理に時間がかかるなら、ちょっとタンジョンも、のぞいてみたいな。
【次回予告】
新しい都市での習慣の違いに戸惑うげんきたち。
そんな時、オッドちゃんが超高級ホテルに宿を取ってしまう。
困惑するパット、お財布を心配しろ、浪費は厳禁だ!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第61話
両替商と宿探し




