58. 独立都市メイリン着
結構街道から離れてしまったので、キルコゲールを歩かせて帰る。
「カワシマ・ゲンキとミハマ・ミライが、魔王軍につき、敵にもゲールシリーズがあるなんて、なんてことなの」
しらない。
「これで、パンゲリア大陸の勢力図が変わってしまうわ」
しらない。
「こちらの棍棒に、彼らを呼ぶ事も出来なくなって、私はどうしたらいいのかしら、困ったわ、困ったわー」
困ればいいじゃん。
「ああ、やっとメイリンだ、日本に帰れるんだなあ、パンゲリアのバターを壺で買って、お母さんに持って帰ろう。妹のホットケーキにも乗せてあげよう、そうしよう」
「パンゲリアバター美味しいよね。私も買うから、魔法袋に入れてね」
「いいとも、あやめちゃん、お土産はみんな魔法袋に入れようよ」
後ろをちらりと見ると、オッドちゃんがたいそう膨れていた。
やっと街道に出たので、キルコタンクにチェンジして、パットのくつろぎ空間を作る。
あちこちに、まだ水が残っていたので、布きれを使ってぬぐっていく。
ミサイルハッチに入れた、ライサンダーさん用の藁が、全部ずぶ濡れで使えない。
路肩に、すててしまえ。
次の村で乾いた藁を買おう。
「おそれいります、我が君、アヤメ」
「なんのなんの」
「ライサンダー君も、わたしたちの大切な仲間なんだから、お礼とか言いっこ無しだよ」
あやめちゃんがライサンダーを、なで回すと、心地よさそうに彼は「ひひん」と鳴いた。
メイリンに着いたら、パットとも、ちゃんと話をしないとなあ。
最初の頃は強引に結婚を、せまられてたんで敬遠ぎみで、黙って日本に帰っちゃえと思っていたけど、最近はちゃんと友達だし、嘘をついて騙すのはなんか嫌だな。
また、泣かれそうだけど。
操縦席に付いて、再発進。
ゴトゴトゴト。
「メイリンに着いたら、日本に帰るの? げんきくん」
「うん、そのつもりだよ、転移の球がなおったらすぐ」
「ゲンキは、おねえちゃんを見捨てるのっ!?」
うーん、これは、パットの前に、オッドちゃんと真面目に話そう。
「オッドちゃん、あのね」
「な、なによう……」
「そこは、私に力を貸して、じゃないの?」
「え、だって……」
「僕に何かをして欲しい事があるのなら、素直にお願いするべきで、遠回しに困ったなとか、見捨てるのか、とか言うのは駄目だと思うんだ」
「あー、うー」
「困ってるのはオッドちゃんで僕らじゃないよね」
「カワシマとか、魔王軍にニホン人が関わってるのよ、心配じゃないの?」
「冷たいようだけど、川島君が魔王軍で理想をかなえたいなら、僕らは何も言えないよ」
「人が沢山死ぬかもしれないのよ、なんて冷血漢なの?」
「川島君が手を汚すなら、それを止める事なんかできないし、その行動を止めなかったからって、責任を問われる気もないよ。それは川島君の責任で、僕らの責任じゃないし」
「うう、だけどゲンキ、そのっ」
「だったら、あやめちゃん、先に日本に帰る? 僕しかキルコゲールは動かせないし」
「嫌だよ。げんきくんを置いて自分だけ日本に帰る事はできないよ。わたししか【応援】することはできないんだよ」
「だよね、僕もあやめちゃんが心配で、だから、これ以上、オッドちゃんの旅に、つきあう事ができないから、二人で日本に帰るんだ」
「あ、うん、そういう事なのね。げんきくん」
「あー、アヤメが心配なのね、なら大丈夫、私が守るし」
「大聖堂では居なかったじゃん」
「あ、あれはたまたまで、その」
「オッドちゃんとキルコゲールの組み合わせならば、この大陸の大抵の脅威は、はじき返せるけど、ミルコゲールには決定打を与えられないんだよ。キルコさん、キルコゲールで柔道で関節を固めたらミルコゲールにダメージ通るかな、」
「……んん、難しいって、キルコゲールの加える圧力では関節がちょっと痛むぐらいって、キル君言ってる」
「ビームとか、ビームサーベルはキルコゲールの装甲を抜ける?」
「直撃されると危ないって言ってるよ、一発ぐらいだと何とか傷ぐらいですむらしいけど」
「そ、そこは、私のバリアで、なんとかなるわよ」
「防御は出来ても、攻撃が通らないと、撃退はできないんだよ」
「僕にとって一番怖いのが、あやめちゃんが怪我したり、死んだりすることなんだ。だから、僕は日本に帰りたい」
「わたしにとっても、一番怖いのが、げんきくんが怪我したり、死んだりする事ね。だから、わたしも、日本に帰りたいです」
「な、なによなによ、死ぬのが怖くて、冒険ができるのっ!」
「冒険したくないよ」
「日本に帰って、おだやかに暮らします」
オッドちゃんは下を向いて、ぎゅうっと固まってしまった。
言いたい事が一杯あるのに、言葉にできなくて、いろいろなものが、あふれ出そうとしているような顔だ。
たぶん、オッドちゃんが本当に言いたいのは「さびしいから一緒にいて」なんだろう。
でも、そんな事はオッドちゃんのプライドが邪魔をして口が裂けても言えない。
言えなくて、悔しくて、だから、なんだかぎゅっと圧縮したような表情で下を向いて、下唇を、かみしめるしか無いんだ。
僕も昔、お父さんが、いないことでからかわれて、こんな表情をした事があるような気がする。
ぐっぐっと変な声がオッドちゃんの方からして、彼女の目から涙がぽろぽろ出てきたけど、僕とあやめちゃんは見ないふりをした。
それを指摘したら、オッドちゃんが、もっと傷付くような気がして、僕は黙って、キルコタンクを走らせた。
走りながら、川島君の事を考える。
僕は草食系のオタクだから、政事に関わろうとか、戦争に参加しようとかは思わない、けど川島君は違うみたいだ。
川島君が尊敬する、チェ・ゲバラさんは、革命の闘士だ、アルゼンチンで生まれていて、キューバ革命に関わった。
チェさんの故郷を革命したんじゃなくて、彼は自分に関係の無い国に行って、自分と関係の無い人々のために闘ったんだ。
そして、キューバの革命を成功させると、コンゴに転戦、そのあと、ボリビアに渡り、政府軍に捕まって三十九歳の短い生涯を閉じた。
一生を革命闘争に捧げた人だ。
そういう人生も、僕は否定しない。
でも、僕はやらないし、憧れもしないけどね。
川島君が、パンゲリアのチェ・ゲバラになりたいというならば、僕には止める権利も無いし、批判する言葉も無い。
世の中には、そうやって、世界を良い所にしようと頑張る人も必要なんだろう。
でも、僕にはそれは出来ない。
僕はどこか世界を信頼してない気がする。どんなに僕が頑張って世の中につくくしても、たいした変化は無いんじゃないかって思っている。僕は凡人だからね。
僕が出来るのは、近くて親しい人が、危なかったりする時に、なんとかしたい、というだけの小さな願望しかない。
聖堂都市で、魔導機に乗りたかったのも、パットとあやめちゃんが、なんか感じ悪い奴らに連れて行かれ、オッドちゃんが行方不明だったからだ。
しかも、それも、なんか何時もの僕じゃなかったような気がする。
ジョージに、気持ちが引っばられたのかもしれない。今にして思えば、僕にしては、思い切りが良すぎる気がする。
なんだか、ロボに乗るようになって、時々、変なモードに入る感じもあって、なんか、だんだん変わって来てるのかもしれないな。
搭乗者レベルの影響なのかもね。
そんな僕だから、オッドちゃんが泣いても、旅を一緒に行く事が出来ないんだ。
ごめんね。
夕方、トウサ村に着いた。
みんな、黙ってキルコタンクから降りる。
オッドちゃんの目が赤い。
パットもおりてきて、僕の後ろにそっと近寄って、小声で問いかけてきた。
「オッドめはどうしたのですか?」
「ん、ちょっと意見の相違でね」
「こんな事をいうのは何ですが、オッドめは、ちょっと人との交流に、なれてないようなので、我が君に、少し気をつかっていただけたらと、ほんの少し思いまして、その……」
パットの言葉を聞いて、僕は胸の奥がほっこりと暖かくなった。
「大丈夫、大丈夫だよ、パット、ありがとう」
「え、いやその、別に、オッドのことを心配したわけじゃ、無いのですからね」
ツンデレさんだなあ、パットは。
僕がにっこりとパットに微笑むと、照れたのか、ふにゃっとした顔でパットは赤面した。
忘れないうちに、馬屋で、ライサンダーさん用に藁を買いこみ、物陰で魔法袋に入れた。
そのあと、宿屋に行って、夕食を食べる。
僕たちは、言葉少なく、このあたりの名産の品で出来た夕食を取る。
美味しい、美味しい。
沈んだ僕らの雰囲気も、すこし上向く。
タンクに上がり、ライサンダーさんの藁を出して、寝心地をよくしてあげた後、夕暮れの街道を走る。
空がだんだんと橙色に変わり、青みがかり、紺色に変わっていく。
遠くにメイリンの街が見える頃には、空はとっぷり暮れていた。
メイリンの街が、どんどん大きくなり、東門、諸王国連邦門が近づいてくる。
門の前に付いた。
ふう。
やっと、着いたよ。
近くの衛兵っぽい人に、たずねると、今日の通関は、もう終わっているとの事。
僕らはキルコタンクを馬車溜まりに駐めて車中泊をして、寝る事にした。
近くには同じように、馬車泊をしようとしている人々が沢山いた。
こうして、僕らは、目的地、独立都市メイリンに着いたのだった。
【次回予告】
夜半にメイリン市に着き、通関開始まで車内で仮眠を取ることにしたげんき一行。
げんきは、その夜、不思議な夢の続きを見る。
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第59話
僕の中の僕の夢 Ⅰ




