51. 国境を越えて、ルベル峠へ
ゴトゴトと、スイスみたいな風景の街道を行く。
空はピーカンで、怖いぐらい蒼い。
良い空気で、ハッチを開けていくと、おやっさんのオヤジ臭い匂いがどんどん消えていく。
臭いといえば、キルコゲールの操縦席は僕一人が男なので、ずっとハッチを閉めていると、なんというか、女の子臭くなる。
良い匂いといえば、そうなのだが、ずっとだと、なんか、うぇっとしてしまう。
なんか、こういうリアルは嫌だ。
無臭がいいのだが、まあ、人間も生物なのでしかたがない。
「あやめちゃん、この先の町とかは、どんな感じ?」
「一時間ぐらいで、タリス公国との国境だよ、そのあと二時間、お昼頃、ルベル峠のルダンの村に到着かな」
「国境をこえて、ルダン村でお昼かな、あ、ジョージからおにぎり貰ったんだよなあ、走りながら食べるってのもありだなあ。あ、あと十分ぐらいでリガン湖だよ、オッドちゃん本当に寄らないでいいの?」
「セクハラ龍に興味はないわよ」
まあいいや、指輪が必要になったら取りに来れば良いし。
なんの指輪かしらないけど。
ファンタジーでの指輪ってのは超大事なアイテムと相場が決まってるから。
火口に一緒に放り投げに行っても僕はちっとも構わないよ。
リガン湖を左に見ながら、通過する。
水龍さんとは、また今度。
一時間ほど走って、山が近くに見えてくると、国境が姿を現した。
意外と簡素な作りで、思っていた万里の長城的な岩壁群とはちがい、木の柵がならんだ、牧歌的国境だった。
まあ、単に連邦国家の行政単位が変わるだけだしね。
国境ゲートは三メートルほどの踏切状の物に、小屋が付いていて、衛兵さんが検問をしているだけだった。
「ななな、なんだこれはーっ! こらー、降りてこい」
「はいはい、ただいま」
ハッチを開けて地上に降りる、なんかみんなも降りてきた。
「魔王討伐隊の勇者ゲンキと申します、独立都市メイリンに向かいます」
そういって、僕は衛兵さんに冒険者カードを差し出した。
「ああ? 銅カードで勇者だと?」
「僕は勇者を始めたばかりなんですよ」
「ランクの高いカードなら、私がもってるわ」
オッドちゃんが神銀カードを見せると、衛兵さんの背筋がぴーんと伸びた。
パットの見せた金のカードとあやめちゃんの銅のカードをチラ見していく。
「ありがとうございます、恐れ入ります! 何も問題は無いようです、どうぞお通りください」
衛兵さんにお礼を言ってから、タンクに乗る。
上がったゲートは何とかタンクが通れそうなので、慎重に通過した。
国境通過だぜっ。
国境を越えると、カイルベル山塊に入る。
九十九折りの山道をキルコタンクはぐいぐいと登っていく。
キルコタンクの駆動はキャタピラなので、キルコの中の人に言わせると四十五度角ぐらいの傾斜斜面は平気で登れるとの事。
性能的には道とか考えないでまっすぐ突っ切って登れるのだけど、街道の路肩を崩しかねないので道なりに登っていく。
ゴトゴト。
キルコタンクは馬車を追い越し追い越しして、どんどん山道を上がって行く、だんだん寒くなってきたな。
おっさん臭さも取れて来たから、ハッチを閉めるか。
パネルを操作して、ハッチを閉める。
だんだん道が細くなってきて、対面交通の馬車とのすれ違いが難しくなってきた。
人型になって、またぎこしたり、路肩に寄せたりで、いろいろ大変。
山間に入ってきて、山岳が間際にせまってくる。
今日は、よく晴れて、モヤが無いので、遠くの山までくっきりと見える。
「いい景色だね、げんきくん」
「そうだね、あやめちゃん、山の景色は雄大でいいね」
パットは寒くないかな、と、ふりかえると、くつろぎ空間で毛布にくるまってる。
外は結構、温度が下がってるっぽいからなあ。
あやめちゃんがヘッドセットにもそもそ言うと、温度計が表示された。
現在、外気温十五度、室内温度二十五度らしい。
イカスぜ、キルコの中の人。
だいぶ標高が高くなってきて、オッドちゃん側の窓に、平野部が見えるようになった。
リガン湖の横を街道が走り、その向こうに聖堂都市が小さく見える。
「いい景色ね、大聖堂がオモチャみたいだわ」
おっと対抗馬車だ、さすがに路肩に逃げても無理か。
パットに合図をして、降りてもらい、チェンジキルコゲールで人型にチェンジ。馬車をまたぎこす。ちょっと馬車が固まって来ていたので、そのまま路肩の崖をキルコゲールの手と足を使って登る。
ショートカットじゃい。
タンクに変形する頃に、パットが追いついてくる。
上に乗るかなと思ったら、しばらくライサンダーさんで併走するとのこと。了解了解。
ライサンダーさんと併走していく。
パットの騎乗姿は、きりっとして格好いい。
「前方一時の方角、上空より識別不明存在が三体、降下してきます。ねらいは前方の幌馬車! 種族名確定! ワイバーンですっ!」
「ワイバーン! 飛竜か!」
前方の五百メートルぐらい先に、薄いグレイの飛龍が幌馬車を、ねらって降下してくるのが見えた。
くっ、急げ!
僕はキルコタンクのペダルをふみ込んだ。
ライサンダーさんが全速力で駆け、パットが背中の大剣を引きぬいた。
「チェンジッキルコゲールッ!」
BGMが鳴りひびき、キルコゲールは、鋼鉄の巨人へと変形していく。
早く早く。
先頭のワイバーンが幌馬車の屋根に着地して、押したおした。幌の中から女の子が転げでてきて、恐怖の絶叫を上げる。
なむさんっ!
伸ばしたキルコゲールの手の甲が、女の子を襲おうとしたワイバーンの攻撃をぎりぎりで受け止めた。
オッドちゃんが背後で低く詠唱し、幌馬車がバリアで包まれる。
「オッドちゃんナイスっ!」
「ここは私が……」
「それは、ご遠慮なんだよっ」
ワイバーンを一匹、キルコゲールの手で掴みとる。
だいたい三メートルぐらいの翼長なので、キルコゲールで掴めれば、両手で握りつぶす事ができる。
ああ、飛び道具があればなあ。
ゴシャリという音とともに、ワイバーンはグロい事になり動きを止めた。
素早く飛び込んだパットが剣を虚空に向けて振ると、剣先から稲妻がほとばしり、二匹目のワイバーンを撃って落とした。
最後の一匹は恐れをなしたのか、高空に飛んで逃げてしまった。
「一匹、逃がしたのはまずかったわね」
「街道が危なくなるかな」
戦闘は始まった時と同じように、唐突に終わった。
キルコゲールの手で、倒れた幌馬車を起こしてあげた。
恐怖でひっくひっくと引きつる少女を、大丈夫だとばかりにパットが抱え上げ上げて、ぎゅっと抱きしめている。
両親とおぼしき人たちが、パットにぺこぺこと頭を下げていた。
キルコタンクにチェンジして、僕は地面におりる。
「大丈夫でしたか、お怪我は」
「はい、おかげさまで、なんの怪我もございません」
「我が君、お手柄でしたね」
「馬車とかも大丈夫ですか」
「だ、大丈夫です、ありがとうございました、ありがとうございました」
「それは何よりです」
「ワイバーンはここらへんに、良く出るんですか?」
「いえ、あまり聞きませんね、ルダン村のギルドでも、魔物の警報はでておりませんでした」
「おかしな話ね」
「とりあえず、国境まで出て、衛兵にワイバーンの出現をつたえてくれ、こちらはルダン村のギルドに一報を入れよう」
「そうですな、あの、なにかお礼をさせていただきたいのでございますが。貧しい行商人ゆえ、貴族さまには笑われるような物しかありませんけれど」
「ああ、そういうのは良い、気にするな、魔物を狩るのは聖騎士のつとめだからな」
パットは格好いいぜ。
ワイバーンの死骸を路肩によせて、渋滞状態になった馬車を通していく。
先に行く馬車に、ワイバーン出現の報告を入れてもらうように、お願いした。
しかし、小型車ぐらいの大きさがある飛竜の死骸が路肩に二つ並ぶと、なかなかの迫力がある。
ワイバーンというのは小型の竜で、手に当たるところに羽が生えている。
コウモリっぽい感じかな。
長い尻尾に毒針があり、口にはとがった牙が沢山はえている。
騎士が二人がかりで倒すぐらいの魔物で、一般市民は逃げる他は無い。
ボウガンなどの飛び道具で、羽の皮膜を破り、何人かでタコ殴りにすれば、なんとかなるらしいが、その場合は人間側の被害もすごいそうだ。
「ワイバーンの死骸は捨てて行っちゃって良いの?」
「普通は魔石だけ取って、埋めるのが普通ですが、こちらには空間魔法が使えるオッドと、魔法袋持ちの我が君がおります。魔物の死骸を持っていくと、冒険者ギルドで丸ごと買い取ってもらえますし、なにより、我が君とアヤメの冒険者ランクがあがりますよ」
「冒険者ランクが上がると何か良いことあるの?」
「銅と銀では信用が天と地ほど違うのです、我が君が銅カードなぞを出すのを、内心悔しく思っておりました所です」
「そうね、冒険者ランクは、なるべく上げておいた方がいいわ」
とりあえず、パットにワイバーンの魔石の位置を教えてもらい、ナイフを入れて……。
血に酔って目眩で中断。
「げんきくん、顔が真っ青だよっ!」
「うーむ、血に酔ったっぽい」
「だらしないわねっ」
とりあえず、ワイバーンの心臓に近い位置にある緋色の魔石を取り出した。
パットが。
魔石というのは、魔物を魔物たらしめている証で、魔力の塊が、魔物の体内で石になったものだ。
これが無いものは、どんなに獰猛な猛獣でも、野生動物なのだ。
そして、どんなに弱くても、魔石が発生していれば魔物だ。
魔石は魔力タンクみたいにも使えるし、魔導具に応用すれば電池みたいにもなる。
魔導機にも魔石はわんさか必要で、高価な魔導エンジンの場合、ドラゴンとか凶悪な存在の超大型魔獣の魔石を使わなければならない。
それを、空に放り投げられて粉々(こなごな)にされたら、風虎さんでなくても号泣したくなるというものだ。
とりあえず、ワイバーンの死骸を丸ごと、オッドちゃんの謎空間に入れてもらった。
僕の魔法袋には魔石を二つ入れた。
気分が悪くなったので、聖堂都市の方を向いて、魔法水筒からサリアさんが、つめてくれた麦茶を飲む。
ああ、いい景色だ。
超遠くに小さく見えるのは、ケンリントン城ではあるまいか、ダディとぼんぼんは元気かな。
ふう、ちょっと座って、すずしい風にあたっていたら、気分が直ってきた。
さあ、気を取り直して出発だ。
僕らが発進すると、襲われていた馬車も国境目指して下っていくようで、幌馬車の後ろから女の子が笑顔でこちらに向けて手をふってくれた。
【次回予告】
峠にある村で一休みするゲンキたち一行。目的地メイリンは目視出来る距離だ。
村のギルドで、ゲンキとあやめはついにギルドカードのクラスアップを果たす!!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第52話
ルダン村にて




