50. 聖堂都市ミシンガルドを出発
昨晩は平和で何もありませんでした。
ふんぬるー、と伸びをして、今日も良い天気、洗顔をすますと、サリアさんが来て洗濯済みの服を渡してくれる。
基本一般服セットに、ガントレット、グリーブ、胴丸と着けていく。
腰には忘れず、魔法袋と無限財布、そして、逸品のひのき棒。
完璧だ!
鏡を見て、自分に惚れ惚れして、かっこいいポーズ。
あ、サリアさんに笑われた。
廊下に出て、女の子部屋をノック。
「はい、おお、我が君、格好いいです。惚れ直しますよ」
「なんのなんの、ははは」
「ずっと、宿坊ローブ姿のゲンキだったから、なんか新鮮ね」
オッドちゃんも、パットも、いつもの格好だけど、久々(ひさびさ)だからやっぱり良いね。
特にオッドちゃんは、不吉なゴスロリ姿じゃなかったら、ただの、ぱっつんパツキンの子供だからキャラが弱くなるね。
「おはよー、げんきくん」
「おはよう、おお、あやめちゃん、可愛いね、素敵だよ」
「えー、そうかなあ」
あやめちゃんは、深い紺色のローブを着て、胸には皮のブレストプレート、腰にはサッシュベルトを巻いて、無限財布を着け、手には小さめの魔導棒、可愛いなあ。
「このローブは凄いんだよ」
そういって、あやめちゃんがフードを頭にかぶると、頭の両側にぴょっこりと三角形が、なんと、猫耳フード付きローブ!
「可愛いなあ、可愛いなあ」
「すごいでしょー、獣人さん用なんだって」
「あ、ファッションじゃ無くて、ちゃんとした実用なんだ」
あやめちゃんの可愛さを全力で堪能したあと、みんなで一緒に二階、宿坊大食堂へ、食堂仲居さんにチケットを渡して、朝食を頼む。
昨日は寝坊したので食べ逃したのだ。
出てきた朝食は、案の定、日本っぽくて、ご飯にお味噌汁、卵焼き、焼いた魚、あ、これ例のギラギラした白身魚だ、仲居さんに聞くとシダリナ河特産のギランという魚らしい。
美味しくてパクパク食が進む。
はー、ミントっぽい、ほうじ茶も美味しいな。
ご飯を食べ終わって、そのまま、出発。
玄関先で、サリアさんと、宿坊の女将さんが頭を下げていた。
「「いってらっしゃいませ、またのご利用をお待ちしております」」
「女将さん、サリアさん、ありがとうございました、おかげさまで快適に過ごせました」
「いえいえ、喜んでいただけたら、幸です。是非、また、大聖堂宿坊にいらしてくださいね」
「はい、機会がありましたら、また、来ます」
とはいえ、こんな高い所には、また来ても泊まれそうもないが。
あ、オッドちゃんに、たかればいいのか。
パットとオッドちゃんも口々に女将さんとサリアさんにお礼を言ってる。
「サ、サリアさん、最後に、一回だけで良いですから、モフモフさせてください」
「ん、もう、アヤメさんてば、一回だけですよ」
お、良かったね、あやめちゃん。
あやめちゃんは、満面の笑みでうっとりしながら、サリアさんの耳とか尻尾とかをモフモフしています。
というか、ちょっと目が怖いです、あやめちゃん。
「もっふもふなんだよっ!!」
はいはい、出発しましょうね。
「サリアさん、ありがとうございました、また来ますね、またモフモフさせてくださいー」
はいはい。
本当に可愛いくてふわふわなものに弱いんだから。
みんなで大聖堂宿坊の外に出る。
玄関の前では、エリス教皇猊下が待ち構えていた。
「勇者ゲンキ、このたびは聖堂都市をお救いしていただき、ありがとうございました。都市の長として、感謝の言葉もございません」
「いえいえ、なにもできませんでしたので、頭をお上げください。首謀者の枢機卿を討ち取ったエリス猊下が槍働き一番ですよ」
「まあ、教皇とあろうものが槍働 きもありませんけれども、勇者ゲンキのお力添えは何者にも、かえがたかったと思います。無礼とは思いますが、なにとぞ恩賞を受け取ってはくれませんか、今、ちょうど、伯爵位とその領地が一つ開きましたので、いかがでしょう、聖堂貴族として授爵していただく訳にはいきませんでしょうか」
ガエルさんの所だな、やだよ、そんな所。
「あ、あんまり爵位にも領地にも興味がありませんので」
「駄目ですぞ、教皇猊下、ゲンキ殿はケンリントンで私との婚姻が内定している、横からかっさらおうというのは関心しかねますな」
「くっ、ケンリントン伯ですか……。さすがはめざとい事ですね」
まあ、そっちも無いがな。
「猫さんも、助かりました。ありがとうぞんじます。諜報部隊を懲らしめるやり方、ほれぼれいたしましたわ」
「にゃあああああっ」
オッドちゃんもちゃんと挨拶しよう。
ボッチ脱出は挨拶からだよ。
「パトリシア様も、アヤメさまも、ご尽力ありがとうございました。どれほど感謝しても感謝しきれないぐらいですわ」
「いやいや」
「いえいえ」
「魔王の討伐、ご武運をお祈りしております。ご帰還のおりには、必ず聖堂都市にまたいらしてくださいね。盛大な舞踏会などを催しますので」
「楽しみにしています。では、我々はこのへんで」
「はい、本当にありがとうございました」
教皇猊下は深々と頭を下げた。
猊下は口八丁手八丁で、偉い人だなあ。どこかのコミュ障魔導師に見習わせたい。
「それでは失礼します、ありがとうございました」
「にゃああああっ」
僕らは再び歩き出す。
パットが宿坊の馬小屋からライサンダーを出してきて引く。
そのまま西門を目指して歩く。
ああ、聖堂都市は良い所だったな、またこの街に来たいな、そして今度は絶対、あの中華を試すんだ!
準備中の札を下げた、中華料理屋を僕は見つめる!
ラーメン、ラーメンからのチャーハンセット、そして、餃子も付ける!
完璧だ。
西門の出発門の列に並ぶ。
人の列は、結構並んでる、荷馬車とか幌馬車も多いね。
ここから出るって事は、この人達は、国境を越えて、ルベル峠を抜けるのかな。
しばらく待っていると、僕たちの番。
「勇者ゲンキご一行ですね、確認いたしました。聖堂都市に、またおいでください、勇者ゲンキ」
「ありがとうございます、またきますね」
顔パスだった。
僕は英雄として顔を売ったみたいだなあ。
オッドちゃんは逆に何か不満気、オッド一行が、ゲンキ一行に変わったからかな。
西門を出ると、ジョージが待っていた。
「おう、相棒、昼にでも食べな、握り飯を四人分だ」
「おう、ありがとうね、楽しかったよ」
「いろいろ世話になったなあ、また来いよ、今度はジュードー教えてくれよ」
「おうさ、来れたら行くよ、サリアさんと上手くやんなよ、相棒」
「えへへ、がんばるぜ、俺は」
僕たちはがっしりと握手を交わした。
相棒の手はでっかくて、あたたかくて、ゴツゴツしていた。
またね、ジョージ。
手を振って、ジョージと別れる。
西門の外に駐めてあったキルコタンクに向かう。
キャタピラカバーに上がり、操縦席に上がろうと梯子を踏んだ時に、ハッチが開いた。
「ああ、ゲンキか、ちょ、ちょっと待てな」
うわ、おやっさん、本当に徹夜で情報教えてもらってたのか。
そして、操縦席が、おやじくさい……。
「あと、一本、これを教えて貰ったら、儂は帰って寝るから、なっ」
「まあ、それくらいは良いですけど、早くしてくださいね」
「お、おう、それで、潤滑油に付与するミスリル粉末の濃度は、ああ、そうか……」
んもう、先にキルコタンクの上にパット用のくつろぎ空間をチャッチャと作り、ライサンダーを入れる。
「よし、こんなもんかっ、キルコありがとうなっ」
そう言っておやっさんが、ぐいいっと伸びをするのが上から見えた。
おやっさんの方は終わったようだ。
「どうだい、ゲンキ、俺も旅に連れていっちゃくれねえか」
「乗るところがありませんよっ」
「駄目か-? あの嬢ちゃんと馬の居る所でも良いんだぜ」
後ろを見ると、パットが手で×印を出していた。
「駄目です。降りてください」
「ちえっ、つれねえなあ。じゃあ、また来いよ、今度来るまでに、すげえ魔導機作っておくからよっ」
「楽しみにしてますよ、おやっさん」
おやっさんはよろよろと降りていった。
臭いので、しばらくハッチを開けたまま走ろう。
「あっ! おやっさん、ヘッドセット返してくださいっ!」
「ああ? 記念にくれ」
「駄目ですっ!」
「ちえっ」
あやめちゃんが、おやっさんからヘッドセットを受け取り、座席について、ハンカチで、せっせと、拭いていた。
ま、気持ちはわかる。
右を見る、あやめちゃんが笑っている。
左を見る、オッドちゃんはいつもの仏頂面だ。
後ろを見る、パットが笑って手を振る、ライサンダーさん、はいつものように大人しい。
さあ、旅を続けよう。
僕はキルコタンクの操縦桿を握り、ペダルを踏み込んだ。
ごごごと音を立てて、キルコタンクは動き出す。
まわりの旅人が歓声をあげて手を振る。
僕は振りかえして、笑顔で発進。
ゴゴゴゴゴゴ。
目指すは、国境、そして、ルベル峠越えだ。
僕らの前には、雪を抱いたカイルベル山塊が広がっていた。
【次回予告】
キルコタンクは国境を越え、峨々(がが)たるカイルベル山塊へと分け入っていく。
九十九折りの街道で、一行は正体不明の魔物からの空襲を受ける。
戦えげんきっ! 荷馬車隊を守るんだっ!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第51話
国境を越えて、ルベル峠へ




