46. ビアトーン家に行く
まだまだ、もっと徹夜でキルコの中の人から技術を引き出すと盛り上がってるおやっさんを放置して、僕らはキルコタンクを西門の馬車溜まりに駐めて、通用門から聖堂都市に入った。
ギルドカードを見せようとしたら、「知っております勇者ゲンキ」と敬礼されて、顔パスで通された。
ちょと嬉しい。
西門から大聖堂に向かって歩く。こっちから見ると、大聖堂の後ろ側になって、宿坊の方が見えるのね。
左右にあるのは、飲み屋さんとか、飲食店が多い。
ややや、中華の店がありますよっ!
焼きそば450ケル! ラーメン300ケル!
なんか1ケル=1円な感覚で行くと超物価安いです。
でも、ここが観光地聖堂都市である事を考えると、普通の都市だと、もっと安く食べられる可能性があります。
「チャーハンもあるんだよ、うわー」
「日本の人がやってるのかなあ」
世界中に中華はある、というけど、さすがに異世界にまであるとは、みんな思っていないだろうなあ。
大変心引かれるのだけど、お弁当のおにぎりが多すぎた。一人前五個入っていて、完食したので入らない。
ちぇ、お弁当持っていくんじゃなかった。
ちなみにあやめちゃんはおにぎりを二つ、おやっさんにあげていた。
大聖堂宿坊まで来ると、ジョージがピシリとスーツを着て綺麗な花束を持って、サリアさんと話しているのが見えた。
てめえ、ジョージのくせにっ。
「おお、ゲンキ、探していたぜ、じゃ、サリアさんまたね」
「またねじゃないよ、デートしてこいよ、こらぁっ!」
「いや、サリアさんこれから仕事だから、今度の休日にお芝居見に行く約束はしたぜ」
聖堂宿坊でのサリアさんのシフトはどうなっているのだろうか。何時でもいるな、あの人。
「探してたのはゲンキでよ、俺んちこない?」
「なんでジョージんち?」
「嫌そうな顔すんない、今回は世話になったからビアトーン家としてお礼したいらしいぜ、親父が」
「え、いらないよ、ジョージと僕は相棒で、そういうんじゃないし」
「あっはっは、そうだな、まったく、事情は道々(みちみち)話すからよ、たのむよ」
「しょうがないな、あやめちゃんも来る?」
「わたしはお風呂にいくよ」
「そうか、また後でね」
「うん、また後で」
あやめちゃんはパタパタと宿坊に入って行った。
ジョージと僕は歩き出した。
南の方だ。
「で、なによ」
「いや、ビアトーン家は今回の反乱騒動で、最初、枢機卿側についてたからよ、処刑とか覚悟してたんだけど、教皇猊下のご温情で罰金ですんでよ、一族郎党ほっとしたんだよ」
「まあ、金なんかまた稼げば良いしね」
「おうよ、だけど額がすげえから、いろいろ財産処分しなきゃならなくてな」
「それは大変だな、僕にお礼とか出してる場合じゃないじゃんよ」
「というか、家宝というか、国宝級の物で、勇者ゲンキの旅にいる物があれば譲るって話だ、売ると買いたたかれて業腹だからよ」
「ああ、そういうことか」
「で、教皇猊下に、これこれの宝をゲンキに渡しましたって言って、罰金を値切ろうって魂胆だよ。三方損無しってやつだ」
「こすいなあ、大貴族なんだろ、でも、まあ、そういう事ならもらってもいいかな」
「わりいな、相棒」
「まあ、良いって事よ、相棒」
南通りを南下して、しばらく行くと大きな屋敷街があって、環状路を曲がって少し行った、一角がビアトーン一族の家だった。
でかい。
小学校ぐらいの敷地面積があるぞ。
「ビアトーンは伯爵家かい?」
「いや、公爵家、一応ステイル王家の血が入ってる。なのに教皇に頭があがらねえから、ガエルの叔父貴は爆発しちまってさ」
「公爵家と教皇はどっちが偉いんだ?」
「聖堂都市はステイル王国に属してるけど、わりと独立領気味なんで、教皇猊下だ。権威もあるんで、ステイル王家とほとんど対等だぜ、教皇猊下は」
イタリアとバチカンの関係みたいなもんか、バチカンは独立国だけどね。
門をくぐると、引っ越しみたいな状態で、業者っぽい人と、貴族様と、メイドさんたちと、執事さんたちが右往左往していた。
「ああ、良く来てくださった、勇者ゲンキ」
ビアトーン父の髭マッチョがにこやかにやってきて僕の手を取り振った。
一族郎党がわらわらやってきて、順番に挨拶してくる。
もー、挨拶しても、明日は出発するんだからね、無駄挨拶なんだからね。
「それで、僕に何のご用ですか、ビアトーン公?」
「一応説明はしたぜ、親父」
「ビアトーン家としても、魔王討伐に向かう、勇者ゲンキの支援がしたくなりましてな、ご迷惑もおかけしましたので、お礼を差し上げますぞ」
「は、はあ」
「とりあえず、主な物をまとめて、目録を作っておきました、見て下さい」
そう言うと、ビアトーン父は庭の一角にまとめられた荷物を手でしめした。
そこにあったものは、なんというか、煌びやかな剣とか槍とか盾とか甲冑とかが山のように積まれていた。
「これなんかは歴史的な業剣ですぞ、骨董価値も高く資産としても申し分がありません」
「あの、僕、柔道家なんで、剣とか使えないんですけど」
「え?」
「荷物になっても困るので、その」
さすがに、武具のたぐいは幾ら高価でもいらん。
断られるとは思っていなかったのだろう、ビアトーン父は絶句してぶるぶる震えている。
「い、一本だけでも、その、駄目?」
「重いし、ひのき棒もってるし」
「貰って、売っちゃえばいいんじゃね?」
「貰ってその場で売るって、お金を貰うのと一緒じゃんよ。道具ならまだしも、お金は賄賂じゃん」
「あー、そうなるなあ、どうする親父」
「わ、賄賂で何が悪いんですかーっ! 自慢じゃ無いですが、ビアトーン一族は適切な賄賂で成り上がってきた一族なんですぞっ!」
「親父、親父、ぶっちゃけすぎ」
「僕、一応勇者なんで」
「で、では、その、娘、娘はいりませんかっ!」
ビアトーン父が指し示したのは、栗色の髪で十五歳ぐらいの可愛い少女だった。
指し示されて、ちょっと赤面してる。
「もう、お父様ったら、直接的すぎるわよ」
「これ、妹、カレン・ビアトーン。いるか?」
「え、その、結構、間に合ってるというか」
「だよなあ、剣ではじゃじゃ馬令嬢がいるし、可愛いのはアヤメがいるし、馬鹿は間に合ってるだろうし」
うわ、カレンさん、すげえ、がっかりした顔した。
ごめんね。
「貰っても重いものはちょっと、車に入れる所がないですし」
「入れる所が無い? じゃあ、お父様、あれをさしあげては?」
「えー、あれはすぐ換金できる物だぞ、カレン、換金しにくい物をお譲りしないと、こちらが困る」
お父さん、ぶっちゃけすぎじゃね?
カレンさんが、ぱたぱたと家に駆け込んで、なんかウエストポーチみたいな物を持ってきた。
「これを差し上げますので、ここの物を一切合切持っていってくださいな」
「いえ、だから……」
「これは、宿屋のシングル一部屋分ぐらいの荷物が入る、魔法の袋です、ここの物を全部入れても持ち歩きは簡単ですよ」
「えええ、それって、メチャクチャ高いものでは?」
「ええ、高いものですので、猊下に罰金を負けてもらうときも、沢山負けてもらえます」
すげえ、オッドちゃんの謎空間と同じ仕組みの高価な魔法道具だ。
ためしにお勧めの業剣を入れてみた。
袋に入れると、剣は消えた。
手を入れると、剣の柄の感じがする。
引っ張り出す。
剣は出てくる。
「すごいでしょ、勇者様、これに、ここの物を全部入れて持っていってくださいな。お金に困った時にどこかで売れば良いんだし」
「そ、それは心そそられる提案ですね」
「ついでに私も、もらってくれると嬉しいですわね」
「それはお断りします」
「カレン、勇者には、もう、彼女と、嫁と、馬鹿が付いてるんだ」
ジョージ、君、実はオッドちゃん嫌いなのか?
「それは残念だわ、こんな家は出て行って、学校もやめて、冒険の旅に出たかったのに」
「そういうのに他人を巻き込んじゃ駄目ですよ」
「そうかもしれないですわね」
カレンさんは、にっこりと笑った。良い笑顔だ。
魔法袋に、ビアトーン父のお勧め武具セットをどんどん入れていく。
全部入った、しかも、重くない。
魔法袋すげえ。
これあると、聖堂都市の日本食材とか買い放題だなあ。
うおお、旅先でお醤油とか使えて、米と、お味噌汁が食べられるのかっ!
なんかテンション上がるなっ!!
教皇猊下に送る嘆願状にサインをさせられた後、僕はビアトーン家を後にした。
相当、罰金額が減るそうで、ビアトーン父が喜んでいた。
「なんか、ごめんな、迷惑かけてよ」
「気にすんな相棒、というか、魔法袋だけでも旅が凄く助かる、ありがとうな」
「へへへ、ゲンキの役に立てたなら嬉しいぜ」
ジョージ良い奴だよなあ、日本に遊びに来いやあ。
僕んちに泊めて日本観光させてやりたい。
僕は相棒と別れて、聖堂宿坊に向かった。
【次回予告】
げんきという男は決して好色漢ではないっ。
だが、世界の選択が、刻の流れの無常さが、時に彼を魅惑のパラダイスに誘うのだっ!
決して彼に罪は無い!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第46話
混浴イベント、再び




