45. 湖の中で、水龍と遭遇
でかい、超でかい、お前もしかして戦艦? と思うぐらい水龍は馬鹿でかい。
<ふむ、まだゲールの名を持つゴーレムが稼働しているとはな。貴様らは何者か>
「えー、なんか勇者とか呼ばれる事もある、飛高げんきです。ギルドカードだと柔道家です」
「杜若あやめです。管制員をやってます」
「大聖堂都市で鍛冶をやっておる、ゴンザレス・ヨホイ・エンガルじゃ」
<何の目的で集まった集団か、わからぬ>
まあ、そうだろうね。
「この前、このゴーレムに乗り込んだのですが、マリンモードの実験をするところが無いので、この湖をお借りしました」
「お騒がせしてしまいました」
「水龍の、すまんが、鱗を五六枚くれんか、魔導機の素材にしたいんじゃ」
「おやっさん、自重しろよっ!」
「なんで、いきなりおねだりなんですかっ!」
<ふむ、害意は無いと言うのだな>
「ありませんありません、ぜんぜんありません」
<そうか、ならばよし>
ふう、寿命が縮んだよ。
温厚そうな水龍さんで良かった。
<そのゴーレムから、オッドの匂いがするが、かの者は息災か>
「お知り合いですか、普通に元気ですよ」
<昔、縁があり知り合った事がある。あれは、いつだったか……。お前達の乗るそのゴーレム達が何度も湖の上空を飛び過ぎていった頃だから、もう、果てしない昔になるのか>
つか、オッドちゃん何時から世界に居るのっ!
超古代魔導ロボ文明時代に、もう居るの?
<いまだ、あの娘はかなわぬ夢をみて、放浪しているのであろうな、憐れな小さき娘は>
「かなわぬ夢?」
<ふむ、口が滑ったようだ、それを語るのは我ではない>
意外とうっかりさんらしい、水龍さんは。
しかし、太古の昔から居るって事は、伝説ドラゴンというやつかな。
キルコゲールでも頭からバリバリ食べてしまいそうな迫力がある。
「まずいぜ、ゲンキ、あれはリガン湖の主のスバローグだ、何万年も前から湖に居る伝説ドラゴンだよ。キルコゲールでも、とても勝てねえ」
「いや、勝つ必要とか無いですからっ!」
「話聞いてたの? おやっさんっ!」
<オッドに伝えておいてほしい、かの指輪は未だ我が保管している、必要とあれば取りにこい、とな>
うむむ、ここは攻略ポイントっぽい、オッドちゃんが預けた指輪はリガン湖の水龍スバローグが持つ、とっ、メモメモ。
きっと、こう、何かの武器を覚醒させたりするのに、オッドちゃんが、あちこちに預けた指輪が必要になるに違いない。
そう、叫ぶんだ、僕のRPGゲーマーとしての血が!!
伝え終わると、水龍はまた、来た時みたいにゆっくりと湖の底へ沈んでいった。
「おーすげえなゲンキ! スバローグは百年に一回ぐらいしか見られないんだぜ。これは縁起が良いな」
「僕はおやっさんのフリーダムな会話に吃驚ですよ」
「職人さんは、技術以外の会話はだめだめなんだよ」
「なんだ、おめえら、ちくしょうっ」
キルコマリンを浮上させて、湖の岸を目指した。
湖も結構な観光地らしくて、旅人が岸に沢山居て、キルコマリンを指さして、わあわあ騒いで居た。
水中で、キルコマリンからタンクに変形させて、岸に乗り上げる。
ふむ、なんら問題ないね。
これで、ミサイルとかビームとか残ってたら良かったのになあ。
もう良い時間だったので、タンクを降りて、お昼にすることにした。
湖からの風が気持ちがいいなあ。
遠くに雪をかぶったカイルベル山塊が見える。あの向こうが僕たちが目指す独立都市メイリンだ。
手近な土手にシートを引いて、食堂で買ったおにぎりと、魔法水筒の中の麦茶で、みんなで昼食。
もぐもぐ、外で食べるおにぎりは、部屋で食べる物の三倍は美味いのは何故だ。
異世界麦茶も美味い。
「まったく、糞高い宿坊食堂の握り飯かよ、贅沢な事だな」
「じゃあ、おやっさんは食べなくていいよ」
「何言ってるんでい、べらぼうめ、麦茶くれっ」
「おにぎりの中身、おかかだよ、鰹節もあるの、この世界」
「ありゃ、なんだ?」
おやっさんが指さす方向を見ると、西の方の高空を、何かが飛行機雲をなびかせて、南の方へ飛んで行く所だった。
「UFO?」
「いや、そんなSFではあるまいし、とはいえ、旅客機な訳も無いし」
「空を飛ぶ乗り物はゲンキの世界には、あるのかい?」
「飛行機って物があるよ、ちょうどああいう感じに雲を作って飛ぶんだよ」
「こっちの世界で空を行く魔導機とかあるの?」
「研究はされてるけどよ、まだまだだな。飛ぶのは、ドラゴンやワイバーンに乗った竜騎士ぐらいだ……。ああ、そうだ、ちょうどキルコジェットが飛ぶと、下から見たら、ああ見えるんじゃねえか」
「ゲールの同型機? だって十二体しか無いんでしょ? しかもほとんど大破して無くなったって聞きますよ」
「だけどよ、超古代魔法文明でも、飛ぶのはゲールシリーズか、その下のクラスの機体だけだったって話だぜ」
「なんだろうね」
「なんだろ」
僕は、その遠い飛行機雲が、なにか大変な災厄を連れてくるような気がしてならなかった。
お昼ご飯を済ませて、タンクモードで聖堂都市の西門を目指して、ドコドコ行く。
どうせ明日西門から出るのだから、西門に駐めておけという、おやっさんの助言に従ったのである。
キルコタンクで、地上を走っても聖堂都市まで十五分ぐらいだし。
「くそう、タンクモードでも揺れが少ねえ、なんてすげえ完成度だ。おい、ゲンキ、キルコゲールを一ヶ月で良いから、預けていけ、おまえらは徒歩で旅をしやがれ」
「イヤだよ、おやっさん、なによその無茶振りは」
「キルコゲールの技術を学べば、聖堂都市で魔導機が作れるようになるんだぜ、帝国製よりももっとすげえ奴が、ワクワクしてこねえかよ」
「ワクワクよりも、僕らがかぶる迷惑が酷いよ」
「まったく、夢も希望もねえやつだなぁ。ああ、もう、キルコ、お勧めの技術を語れ、全部書きとめる、ああ、いいんだ、全部。今夜は徹夜で書きとめるからよ」
「おやっさん……」
キルコタンクが西門に近づくと、広大な敷地に無数のテントが張られた場所が近づいてきた。
「ああ、ありゃ、亜人共和国からの難民キャンプだ」
難民キャンプの人たちは、みんなエルフやドワーフやハーフリングで、うす汚れて、目が死んでいた。
「酷い状態ですね、聖堂都市は援助とかしてるんですか?」
「場所だけだ、都市としては食料援助はしていねえ」
「え、それじゃあ……」
「おっと、酷いとか言うなよ。おめえら異世界人はなんだか博愛主義者が多くて、甘っちょろい事ばっかいうけどな、聖堂都市が守るべきは壁の中の民だけであって、それ以上の責任は持たないし、持っちまってはいけねえんだよ。出来る事は有限だから、壁の中の民に使うべきで、しらねえ民にまで施しをして共倒れをすることじゃねえんだ」
おやっさんの言う事は解る。
だけど、気持ちが納得できない。
けど、僕らに何ができるかと言うと、何も無い。
難しい問題だな。
僕らが辿ってきた異世界の道は、わりと恵まれた所ばかりだったみたいだ。
子爵領が良く無いと言っても、改善策が出せるぐらいの状況だった。
でも、この難民キャンプには、僕らは何も出来無い。
異世界の知恵も、オッドちゃんの怪力も、キルコゲールだって、戦争が生み出す不幸と悲しみには無力だ。
僕は政治家でもないし、内政を担当してる訳でも無く、ただの旅の柔道家だ。
人は世界中の貧乏や不幸を、その小さい自分の背中に背負うことは出来ない。
たとえそれが、オッドちゃんでもだ。
それは、解っているんだけど、なんだか割り切れなくて、切ない。
「ゲンキよ、お前は優しい奴だな、だけどな、しょうが無い事もあるんだよ、あと、都市としてはしてねえけど、ミシリア教が、毎日、炊き出しとかやってるからよ、そんなに気にすんなって」
「はい」
オッドちゃんは、こういうのが嫌だから、魔王をテロしに行くのだろうか。
彼女が戦線に参加すれば、魔王軍を押し返す事もできるだろう。
だけど、それは、魔王領の方へ不幸と悲しみを押し込んでいく事でもあるのだろう。
だから、彼女は伝説のロボを棍棒にして、一人で殴り込みに行こうとしてるのかもしれない。
……、ま、まあオッドちゃんの事だから、何も考えて無いかもしれないけどね。
【次回予告】
リガン湖から帰った、げんきたちはジョージの家に誘われる。
反乱の罪を逃れ、教皇からの罰金刑をなるべく軽くしたいビアトーン一族の陰謀とは!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第45話
ビアトーン家に行く




