44. おやっさんと湖へ
うどんを食べ終え、食堂でおにぎりを三人分買っていると、着替えたあやめちゃんが階段を降りてきた。
おやっさんの話をしたら、わたしも行くと言ったので、僕がうどんを食べている間に着替えてきてもらったんだ。
ちなみに、うどんはおいしゅうございました。
不思議な食感の豆の天ぷらが乗っていた。
おっと水筒もっていこう。
あやめちゃんと一緒に五階まで上がり、部屋から出してあった水筒を取り出した。
廊下でサリアさんと遭遇して、お出かけですかと聞かれたので、お出かけですと言うと、水筒にお茶をつめましょうと言ってくれた。
仲居さんの待機所で、僕とあやめちゃんの水筒に入れてくれたのは冷えた麦茶らしい。
サンキューサリアさん。
この世界、麦茶もあるんだね。
あやめちゃんと一緒に東門までぷらぷら歩く。
「オッドちゃんとパットは?」
「オッドちゃんは沐浴場に行ったよ、パットちゃんはライサンダーさんと遠乗りしてくるって」
そうかそうか、みんな、休日を楽しんでいるようでなにより。
僕は、むさい鍛冶小人のおやっさんとデートだ、とほほ。
でも、あやめちゃんと一緒なら、楽しいだろう。
「遅いぞ、ゲンキっ!!」
キルコタンクについた瞬間に、操縦席のおやっさんに怒られたよっ!
そりゃ、うどん食べてたけどさあ。
あやめちゃんが操縦席まで上がって、ヘッドセットをおやっさんに渡した。
「おお、ありがとう、アヤメお嬢ちゃん、これか、これで会話が。あー、もしもし、おう、そうか、俺はゴンザレスだ、よろしくな、いろいろ聞きてえ事があってよ、おうおう、早速だが、上腕のマッスルシリンダーの形式はどうなってんだ、あ、カンタリア形式? どんなんだ、それは、おう、おう、え、それで、それで、あ、中央のバルブが、なるほどなあ」
なんか、おやっさんがキルコの中の人ともの凄い勢いで技術話を始めた。
あと、おやっさんの本名はゴンザレスというらしい。
名は体をあらわすだなあ。
「ふふ、おやっさんって、面白いよね。職人って感じで」
「面白いけど、迷惑だなあ」
キルコの中の人と激論を交わしているおやっさんを置いて、僕とあやめちゃんは聖堂都市の周りの、お堀端をぶらぶらと、お散歩。
都市の壁の外にも街は広がっているのだが、貧民窟なので絶対に行ってはいけないと、サリアさんが言っていた。
おっしゃるとおりに、ぼろい家というか小屋レベルのものが沢山並んでいるのが見えた。
街道沿いの家は、まだましで、安宿屋とか屋台とかが並んでいる。
壁を隔てて貧富の差が激しいなあ。
屋台で串焼き肉を買って、二人でもぐもぐしながら、散歩。
なんか、この肉、すげえ固い。
「おーい、ゲンキ、キルコゲールを人型に変えてくれ」
おやっさんが呼びつけるので、キルコゲールに戻る。
操縦席に入って、感覚球に手を当てる。
あやめちゃんも入って来て、自分の席におやっさんが居るので、オッドちゃんがいつも座っている席へ。
「チェェンジッキルコォゲェェェル!!」
「音声認識か、すげえなあ」
パッパッパパッパッパ~とBGMと共にキルコゲールが人型に。
周りで見ていた旅人たちが歓声を上げる。
「なんで、音楽が鳴るんだ、あ、ああ、そういう仕組みか、なるほどな」
「僕にも音楽がなる理由を教えてよ」
「あ? ああ、まあ、気にするな、たいした事じゃねえよ」
教えてよっ!
「ちょっと歩いてくんな、アブソーバ魔法の具合が見てえ」
「はいよ」
僕は感覚球に魔力を流し、キルコゲールを歩かせる、特攻型Vの後なんで、どれだけキルコゲールの感覚伝達精度が高いのかがわかる。
ズシーンズシーン。
下で、子供達が笑顔で手を振っている。
まあ、ロボの歩行なんて、普通に大イベントだよな。
「なんだ、これ、全く揺れねえ、なんて制御の高さだ、すげえ、すげえよ」
「もういいかい?」
「おう、もう十分だ、この魔法は魔導機に取り入れてえなあ」
感心したようにおやっさんは言うと、ガリガリガリと偉い速度で紙に数式と文章を書き始める。
「ああ、ああ、うん、あ、ここの数式が、あ、なるほど、盲点だったぜ」
「もう、降りていい?」
「いや、今度はジェットとマリンを試したい」
「ジェットは良いけど、マリンはまずくない」
東門前の広場に、ごろりとキルコマリンが横たわってもな。
堀に入るサイズでもないし。
「近所に湖がある、そこまでジェットで行って、マリンのテストをすりゃいい」
「おお、僕もマリンは試して見たかったんだ、そうしましょう」
「異議無しだよ」
『キルコゲールが変形します、危険ですから周囲の方は離れてください、繰り返します、周囲の方は離れてください』
僕が外に向けて、こう言うと、あたりの人々がダッシュで逃げていった。
湖の位置をキルコマップで調べる、そんなに遠くないな。
「なんだ、この精密な地図は、えっ、おまっ、なんてすげえ仕掛けだ。おうよ、この時代には、もう影も形も残ってねえよっ」
「チェィンジッキルコジェエッット!!」
もいーんとホバージェットがタンクの下部から出て、空中でキルコゲールは変形していく。
「変形機能も、本当に馬鹿みてえな技術の無駄使いで、本当にすげえなあ」
「キルコジェット、発進!」
ゴワアアアアアアッ、っと後部からジェット噴射がでて、キルコジェットは空を行く。
なにげに、これが初飛行っぽい。これまでの村とか飛び越すのは単なるジャンプだしね。
眼下に聖堂都市がパノラマのように展開される。
やっぱ大聖堂は大きいよなあ。
お、宿坊の窓の中、お掃除をしているサリアさんが小さく見える。
そういうものが、どんどん後ろに飛び去っていく。
すぐ目の前にエメラルドグリーンの水をたたえた大きな湖が見えてくる。
僕は、湖近くの広場へと着陸体勢をとった。
「おい、そのまんま湖の真ん中に着水、変形しろ。陸に降りると一手間増える」
それもそうだと、ホバーを吹かして湖の上に移動、着水した。
「おお、水の上だよ。ちょっと揺れるよ」
さすがに水の上だとアブソーバーの魔法は聞かないらしく、舟のように動揺する。
「チェェィンジッキルコムワリンンッ!!」
パッパッパ~パッパッパ~。
BGMは何故鳴るのか、おやっさん教えてよ。
ガチャリガチャリと、足パーツとか、腕パーツが複雑に組み上がり、なんとなく流線型っぽい感じのキルコマリンに変形した。
「お、揺れがおさまったんだよ」
「水中用のフィンが出たんだな。水上をちょっと走って、そのあと潜水してみてくれ」
「了解、キルコマリン、ゴーッ!」
感覚球に魔力を流し、ペダルを踏み込むと、バワワンという感じに背後に水しぶきが上がり、キルコマリンは水上を走り始める。結構速い。
ハッチを少し開けると涼しい風が入って来て快適だ。
目の前を水鳥たちの群れが飛ぶ。
きゃわきゃわと奇声を上げて、水鳥の群れは飛んで行ってしまう。
レバーを曲げると進行方向が変わる。
ザザザと波を蹴立てて、キルコマリンは斜めになり四分の一の円を描いていく。
快適快適、水の上の旅も普通に出来そう。
「ふーむ、動力はシキザン式プロペラか? あ、魔導誘導水流ジェットだぁ? なんて贅沢な推進装置なんだっ」
スイッチを押して、ハッチを閉めて、潜水用意。
「では、潜水行動に入ります」
ええと、操作は、ああ、なるほど、左右上下で舵を切り、前後で上昇、下降か、ジェットの時と変わらないのか。
操縦桿をぐいっと押し出してみる。
目の前のガラスに水が押しつけられていくのが解る。
おお、沈んでいく沈んでいく。
操縦席の上は透明で、その上、全周モニターなんで、なんか怖いね。
ゴボゴボゴボという音と共に、キルコマリンは潜って行く。
おースゲエ、魚が一杯いるね。あのギラギラしたやつは食べたことがある。
地図ウインドウを見ると、上から見た図と、その下に断面的な図があった。
この湖は結構深いっぽいね。
ひゃあ、水中散歩、楽しい。
<何者か?>
うん? なんか頭の中に声が聞こえたような。
あやめちゃんの方を見ると聞こえた? って顔をしている。
<リガン湖の静寂を乱す者は何者だ>
「ええ、ええとお、こちらの声は聞こえていらっしゃいますか?」
「なんだ、この念話は、やべえぞ、ゲンキ」
<聞こえておる、今そちらへ浮上しよう>
沢山の泡が、下から無数に上がって来て、下の方のディスプレイを見てると、なにやら大きな大きな物が、ゆっくりと上がって来た。
オリオンブルー的な色合いの鱗がみっしり生えていて、爬虫類の頭部を持ち、長い髭がある、大型タンカー並の大きさの物が上昇してくる。
ジーザス!!
「ゲンキッ!! 魚雷を発射しろっ!! あれは水龍だっ!!」
「残弾無いです」
「なんだってーっ!!」
「凄く綺麗な龍だよ」
【次回予告】
リガン湖の巨大古代水龍スバローグを目の前にキルコマリンに何が出来るのか。
そして、何万年も生きていた古龍が語る、衝撃の事実とは!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第45話
湖の中で、水龍と遭遇




