43. 旅のお休み
とりあえず、二日も続けて睡眠が阻害されたので、旅は一日お休みということで、大聖堂都市にもう一泊することになった。
サリアさんを通じて、エリス猊下に問い合わせると、彼女は、わざわざ僕の部屋にやってきて、満面の(まんめん)笑みで宿坊の連泊を了解してくれた。
まあ、整備基地のおやっさんにキルコゲールを見せるとか、やることもあるんだけど、とりあえず朝寝坊をする。
その後は大沐浴場で朝風呂。
僕は、食事処と温泉を往復運動する駄目観光客になってやる。
ということで、再びベットに入り、寝た。
ぐう。
……。
「ゲンキの部屋はここかぁ、ったく、良い部屋取ってやがるな、勇者様はよ」
「こ、困ります、ゲンキ様は昨晩の戦闘でお疲れで、お休みになってらっしゃいます」
「うるせえ、お疲れと言えば、儂なんざ昨晩から、ずっと壊れた魔導機の修理よ、どきやがれ仲居」
うるさいなあ。
「困ります、困りますっ」
どかんという音がして、ドアが乱暴に開けられた。
あら、鍵をかけるの忘れてたか、オートロックじゃないんだよね、ここ。
「よお、約束通り、ゲールにのせろ、ゲンキ」
整備基地のおやっさんであった。
サリアさんがおやっさんの背中に取り付いて、困ります困りますと連発していた。
「おはようございます、おやっさん」
「もうしわけございません、ゲンキ様、聖堂宿坊の名にかけて、この無法者を追い出しますので」
「あ、大丈夫ですサリアさん。この人、大聖堂騎士団の魔導機整備基地のおやっさんです」
「儂が、おやっさんだ」
「相手が誰であろうと、お客様の安眠と安全をお守りするのが、聖堂宿坊の仲居のつとめです」
ふわああ、と大あくびをして、ベットから起き出す。
パンゲリア式の掛け時計を見ると、だいたい十時頃。結構寝て、すっきりした。
服を目で探していると、サリアさんが持ってきてくれた、ありがとう、でも、お着替えの補助はいりませんので。
「聖堂宿坊のローブでもいいんじゃねえか?」
「あれ、はだけるからね、キルコゲールは東門の外だし」
サリアさんに行ってきますと挨拶をして、部屋を出る。
階段を降りて、お土産物コーナーを抜け、聖堂宿坊の外に。
ああ、良い天気だな。
「ゲンキの腰のひのき棒、なかなかのもんだな、見せてみろ」
「あ、うん、古着屋さんで貰ったんだ」
「おお、絶妙のバランスで良い仕事してやがるな、銘はあるかな」
ひのき棒というのはそんなに技術のいる武器なんですか、とおやっさんに内心つっこみ。
「やっぱな、木工のゲラン工房の作だ、良い物だ、大事にしろ」
「そんな良い物なんですか?」
「ああ、木製武器なんて、適当に削った薪ざっぽうで良いとか思ってる奴が多いけどよ、木の選び方、削り方、バランスの取り方とか色々凝るポイントがあんのよ。これを腰にして、王様の舞踏会に出ても恥ずかしく無い、ひのき棒だぜ」
まあ、僕が柔道を主力としていくかぎり、ひのき棒には出番が無いと思うけどね。
おやっさんとぶらぶら道を歩いて、東門へ。
東門広場には、昨晩の激闘の痕跡が残っていて、黒風牙の残骸とかが転がっていた。
「おやっさんは魔導機整備の勉強どこでしたんですか」
「帝国だな、今んとこ、自力で魔導機を作れる所なんざ、帝国以外ねえんだよ」
「じゃあ、なんで聖堂都市に?」
「神聖人類帝国が言う人類の中には、魔族は元より、ドワーフも、エルフも、ハーフリンクも、獣人も入って無かったんでなあ、冷や飯喰うよりも、金を沢山くれる方、って、生ぐせえ理由だ。あと、先々代の教皇猊下に引っ張られちまってよ」
「じゃあ、特攻型Vは」
「おうよ、先々代と儂が一緒になって設計して、帝国に作ってもらったもんよ。久しぶりに動いている特攻型Vを見て、嬉しかったぜ。ゲンキ、おめえは先々代より魔導機の操縦うめえな」
「それはありがとう」
門番の人にギルドカードを見せて通る。
街を通って出発する門と、散歩などで出かける門は違うみたいで、出発門は馬車とか徒歩の人たちで凄い列だ。
ちなみに、おやっさんは顔パスだ。
おっと、カードの裏をみてみたら、レベルが上がって7レベルになっていた。
なんだろうな、これ。
「おやっさん、冒険者カードの裏に、こんな表記があるんですか、何か解ります?」
「おおおおお、おまえっ! おまえっ! これっ! 搭乗者スキルじゃねえかっ! 本当にあるんだなあ!」
「搭乗者スキル?」
「魔導機に乗って、戦線で一ヶ月も戦うとよ、希に名前の横に数値が出る奴がいるんだ、たいていエース搭乗員だがよ」
「魔導機も戦線に出てるんですね」
「ばぁか、そんための魔導機じゃねえか。で、ごくごく希に、下の方になにか得意な技とかが出る事があって、それが搭乗者スキルって呼ばれてるんだ。とんでもねえ縁起物だぜ、こいつは」
縁起物なのか。
ふむ、冒険者カードは、元々魔導機とかの搭乗型ゴーレムに関する何かっぽいね。
冒険者カードの発行機は、キルコゲールがいた時代と同じぐらいの地層から発見されるらしいし。
搭乗型ゴーレムの免許とかだったんじゃないかな。
レベルも搭乗者レベルなのかも。
しかし、搭乗者スキルってなんだろうか、
柔道をちょっと囓っただけの人間を、柔道の達人みたいにしてしまう効果。
声援を送ると、送られた人間の命中率と回避率を三十パーセントも上げる効果。
なんか強すぎませんかね。
ああもう、僕は鑑定スキルが欲しいよ。
「おおお、これかー、凄え、凄えっ」
おやっさんはキルコタンクが見えると、全速力でかけ出して、タンクの周りをぐるぐる回りながら、凄え凄えと連発して観察していた。
「なんだこれ、でかい上に、加工精度が違いすぎる、うへー、キャタピラはエイデン式だな。魔導エンジンはどこだ、くそー、ばらしてえ」
「ばらしちゃ駄目ですよ」
「ばっかやろう、専用工具がねえと元よりばらせねえよ、というより、おめえ、これ、蒸着構造っていってよ、魔導で金属を融合させてくっつけてあんのよ、なんて技術だ、うへえ、うへえ」
おやっさんはタンクの周りをぐるぐるぐるぐる回る。
そのうちバターになっちゃいますよ。
「おい、中みせろ、操縦席みせろ、急げ急げ」
「はいはい」
僕はキャタピラの上に登り、あれ、ハッチ開けるのどうしてたっけか?
と、思ったら、梯子に登り始めたら、勝手に開いた。
開けたのは、キルコの中の人だな。
「勝手に開いたな、どういう仕組みだ」
「キルコゲールの中の人が僕を見て、開けてくれたんでしょう」
「馬鹿、おめえ、魔導人格頭脳だと、どんだけ奢った機体なんだ、そりゃ何様だ、こんちくしょー」
「まあ、きっと、伝説の魔導王さんの設計なんでしょう」
おやっさんは操縦室に乗り込むと、迷わず僕の席に座った。
「おめー、なんだよこの豪華なパネル周りはよ、感覚球がオレンジピールじゃねえか、ばっか野郎、幾らすると思ってるんだ、この石。なんだよ、国家予算何年分の機体だ? こいつは」
オレンジのトラックボール的なものは、感覚球というらしい。
そういや最初に乗ったときに、そんな名前を言われたような気がする。
そして、キルコゲールの物は、とても良い奴らしい。
魔導機の感覚球は、藍色だったしね。
「オートマタはどうした、ゲールには一機につき一台、オートマタが付いてるって話だろう」
「美少女型操縦補助アンドロイドですか? なんか壊れて破棄されたみたいです」
「ちっきしょー、どこに捨てた、掘り出してくるっ! 今すぐ旅立つっ!」
「おちついてよ、おやっさん」
「魔導人格頭脳と話がしてえ、ヘッドセット、ヘッドセットはどこだっ!」
そういや、どこだろう。
あやめちゃんが、常時、頭飾りみたいにして着けていたが、当たり前になっていて気にしていなかった。
「あやめちゃんの所じゃないかな」
「今すぐ行って、もってこいっ! その間、儂は、操縦席を鑑賞しておるっ」
美術品じゃないんだから、鑑賞はやめようよ。
僕はため息を一つ、ついて、タンクから降りた。
あやめちゃんは、まだ寝てるのかな。
大聖堂宿坊まで戻ると、二階の食堂で、うどんを食べている、あやめちゃんを発見した。
「あ、げんきくん、おうどん美味しいよ、たべない?」
ふむ、小腹がすいたから、食べようかな。
おやっさんのあの調子だと、昼食も取らずに興奮して調べていそうだ。
簡単に食べられるおにぎりでも買っていこうかな。
ミシン豆の天ぷらのうどんを僕は頼んだ。
「あ、あやめちゃん、なんか整備基地のおやっさんが、キルコの中の人と喋りたいから、ヘッドセット貸してって言ってるよ」
「え? うーん」
あやめちゃんがヘッドセットを取られまいとするように押さえて唸った。
なんか呪いとか掛かっていて取れないんじゃ無いだろうな、そのヘッドセット。
「え、うんうん、キル君が良いって言ってるよ」
「じゃ、僕にも貸して、中の人と挨拶したい」
「んん、それは駄目だって言ってるよ」
「なんでよっ!」
「なんか恥ずかしいって」
乙女かよ、中の人は乙女なのかよっ!
整備工場のおやっさんは良くて、僕は駄目なのかよっ、なんか、すごい理不尽を感じる。
【次回予告】
キルコマリンの実験に出向いたリガン湖でゲンキはとてつもない存在に出会う。
視野を覆わんばかりの巨体と、戦えキルコマリン! その真価を示すのだっ!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第44話
おやっさんと湖へ




