42. 謀反の決着
『まだだ、まだ終わってないぞっ!』
轟風牙が、ゴワギャリギャリと嫌な音を立てながら、よろよろと立ち上がった。
『一対一なぞ、もうやめだ、俺たちは諜報部隊だからな、嘘ついても良いんだ』
そういって、轟風牙は残った右手を上げる。
後ろの黒風牙たちが、一斉に銃器をこちらに向けて構える。
『げんきくんが降参しないなら、残存の十五騎が全て銃器を使用する。この辺りを野次馬ごと血の海にしても良いのかね』
『卑怯だな、あんたっ!』
『ちょ、諜報部隊だから、諜報部隊だからしかたがないんだ、上司が怖いんだ』
どんだけ上司が怖いの、風虎さんっ!
ううむ、困ったな。
風虎さんが、こんなに恥知らずの人だとは思わなかった。
諜報部隊を盾にすれば何をやっても良いって訳じゃないだろ。
「あっはっは、私の出番のようねっ!」
あ、オッドちゃんがログオンしました。
このトラブルは、終わりです、終了です。
みなさん解散解散。
オッドちゃんは、大聖堂機の教皇猊下特別機の肩に乗って、ふんぞりかえっております。
ドシンドシンと教皇機が歩いてきます。
「この大魔導師オッドが来たからには安心よ!」
オッドちゃんは魔導機の肩にいて、足を開いて、こちらを見下して威張っているのですが、着ているものが浴衣ローブなんで、ヤバイかなと思っていたのですが、案の定、風がぴゅうと吹いて、裾がめくれ上がり……。
オッドちゃん……。
パンツはけよ!!!
「お、オッドちゃん、ぱ、パンツ」
「うわ、なんたる事だっ 大衆の面前で丸出しだぞっ、オッド!」
小声というほどじゃない声で、あやめちゃんとパットがオッドちゃんに驚愕の事実を教えます。
ばっと裾を押さえて、真っ赤になっていくオッドちゃんが、タコみたいだなあ、と、べたな感想しか沸いてきません。
「よ、よくも、私に恥をかかせたわねっ!」
びしっと、轟風牙をオッドちゃんは指さしますが、それはあなた、言い掛かりというものです。
『お、俺はしらん、諜報部隊だし、子供の下半身なぞ、興味が無い』
「死になさい、死んで自らの卑劣な犯罪を世界にわびなさいっ!!」
『えーっ!?』
オッドちゃんは、魔導機の肩から飛び降りました。
さすがに裾はしっかり押さえてます。が、風で後ろが膨らんで、可愛いお尻が丸見えです。
『ええい、撃て、撃てー!!』
バンバンババンッ。
銃声がしましたが、こちらには一発も来ません。
気がつけば、オッドちゃんと敵の魔導機が、六角形、蜂の巣状に展開されたメロウイエロー色のドーム状バリアに囲まれています。
よく見ると、地面に魔方陣、オッドちゃんの前に付きだした手の平にも小型バリア、一騎だけちょっと離れた所にいた黒風牙はお一人様用バリアにつつまれていますね。
これはバリア結界ですね、弾があちこちに飛ばないように暗黒轟風牙隊を、バリアで隔離したんですね、解ります。
「あやまれっ、あやまれっ、あやまれーっ!!」
オッドちゃんは轟風牙をの足を持つと、振り回し、敵の黒風牙部隊にガンガンとぶち当てています。
先ほどまでの、僕の緊張感あふれる徒手格闘戦闘はなんだったのでしょうか。
どっかんどっかん、あちこちにぶち当てられて、轟風牙はどんどん壊れていきます。
バリア結界の外で見ている観衆も、どん引きです。
五分もしない間に、敵の黒風牙隊は全滅しています。
風虎の隊長は、オッドちゃんの前に正座、他の隊員もみんな地面に正座させられています。
「ご、ごめんなさい」
「「「ごめんなさい」」」
半泣きで暗黒轟風牙隊が全員土下座です。
いや、いくらなんでも、可哀想です。憐れです。
それでもオッドちゃんは憤懣やるかたないのか、隊長機の轟風牙をどんどん腕力で物理的に細かく砕いていきます。
「や、やめろよお、そんなに壊す事ないだろお、俺の愛機なんだよ、国から貰った時、凄くうれしかったんだよっ、そんなに壊す事ないじゃないかよお。返してくれとは言わないけど、せめて修理して末永く使ってくれよ。なあっ」
「駄目よ」
オッドちゃんの狼藉は、轟風牙の全てを小石大に砕くまで終わりませんでした。
風虎さんは、子供のように声を上げて号泣しております。
いつしか、バリア魔法は解けていましたが、暗黒轟風牙隊の人間は身動きもせず、野次馬もどん引きで動きを止めておりました。
最後には、轟風牙の魔導エンジンが残ったので、事務机ぐらいある、そのエンジンをオッドちゃんは振りかぶって空に投擲、ぐんぐんとロケットのように空を行く魔導エンジンに向かい、ビーム魔法一発。
どでかい大爆発が真夜中の空を彩ります。
「これが乙女の純情を汚した報いなのよっ!」
どうみてもオッドちゃんの八つ当たりです。本当にありがとうございました。
教皇機から、エリス教皇猊下が降りてきて、こちらに、ぱたたと走ってきた。
「勇者ゲンキ、このたびは、本当にご迷惑をおかけしました」
猊下はぺこぺこと頭を下げる。
僕もハッチを開け、特攻型Vから降りる。
「いやいや、お気遣いなく、こちらも念願の魔導機に乗せていただきましたし。それで、ガエル枢機卿は捕まえましたか?」
「え、ああ、彼は逃亡中にお亡くなりになりました、罪を問えなくて残念な事です」
大筒でドカーンとやっちゃったのね。
「ビアトーン一族は、途中で寝返りましたので、なにとぞ、処罰の方は、ご配慮ねがえればと思います」
「まあ、ほどほどにいたしますよ」
「あと、ジョージは最初から僕に味方をしてくれましたので、罪に問うのはやめていただきたく。出来れば報償を」
「あ、猊下、俺、褒美いらないっすから、一族の罰を弱めてください」
「んもう、困っちゃうわね。まあ、勇者ゲンキの顔を立てて今回は穏便にしておきますね。あとジョージ君は出世ね、隊長よ、おめでとう」
「えー、マジッスか、兄者たちを飛び越していいんすか」
「一号二号は反乱組に乗ってたから、文句とか言わせないわよ」
「猊下、ごっつあんです」
ああ、なんだかもうすぐ夜が明けるよ。
二日続けてゆっくり睡眠が取れないのはきついなあ。
「げんきくん、げんきくん、この魔導機、返しにいくの?」
「いくよ、あやめちゃんも操縦したい?」
「したいしたい、ローラダッシュしたい、パイルバンカーしたい」
「パイルバンカーはどうかなあ、じゃあ乗って乗って」
特攻型Vの背中には、ちゃんと梯子があって上れるのだ。
搭乗体勢って形があって、ちょうど足を折って、orz、みたいな格好になって乗りやすくなる。
あやめちゃんも問題無く搭乗できて、三号機に先導されて、ローラーダッシュで行ってしまった。
ローラーダッシュは浪漫だからなあ。
かかとにあるスパイクを打ち込んでの急ターンとかやれなかったなあ。機構自体はあったみたいだけど。
「やあ、我が君、今夜も大活躍でしたね。ジュードーはやっぱり凄い」
「バリツに負けるかと思ったけど、意外にいけたよ」
ライサンダーにも慰労する、首筋の細い毛をモシャモシャ。
君は、今晩も頑張ったな。
「ライサンダーはどこにいたの?」
「食事の後、東門を出たところの馬の預かり所から出してきて、宿坊の馬小屋に預かってもらってました」
「そうかそうか」
パットはライサンダーに乗って、大聖堂の方へ向かって行った。
帝国兵の捕虜を検分しているエリス教皇猊下の方へ行く。
「この人達は、どうするんですか、死刑?」
「まさか、身代金と引き替えに返還したり、政治的取引に活用しますよ。猫さんが無茶苦茶に壊さなければ、鹵獲機体も期待できたんですが、あの惨状だとねえ。でも一機ぐらいは組めるかもしれませんね」
風虎さんはまだ、オッドショックで、しくしく泣いている。
しっかりしろよ、諜報部隊なんだろっ。
「今回の騒動で死者とかは……?」
「巡礼者の方の被害は幸いな事に軽傷までで、死者はありませんね。戦争してた人たちは、双方に何人か死者がでてますけど、まあ、しかたがないですね、被害無しで、謀反とか、謀反を鎮圧とかは甘いですし」
「無関係のお客さんに被害が出ていなくて何よりです」
ノーパン大魔導はどこへ行った?
きょろきょろしていると、炊き出しのコーナーでおにぎりをぱくついているオッドちゃんと目があった。
浴衣ローブ姿だと、紛れて分かんないっての。
ゴスロリが無ければ、ただのおかっぱ金髪ロリだからなあ。
近寄っていくと、オッドちゃんは僕におにぎりを黙って突きだした。
受け取って食べる。昆布の佃煮。
聖堂都市は、どんだけ日本文化に侵略されているのだ。
お茶は、なんかの木で出来たコップに入っていた。
バルサ?
中のお茶は、ほのかにミント味のほうじ茶?
さっぱりとして美味しい。
「言いたい事は沢山あるのだけど、とりあえずパンツは履こうね」
オッドちゃんはぴらりと裾を持ち上げた。
薄桃色のパンツが見える。
「通りすがりのお母さんがくれたわ」
「お母さんに感謝だね。最初部屋にいなかったけど、どこに行ってたの」
「寝苦しいから、温泉に行って、浸かってたら寝ながら流れていたの」
オッドちゃんらしいというか。
「ゲンキ、眠いからおぶりなさい」
「はいはい」
「はいは一回よ」
「はい」
僕はオッドちゃんに背中を向けた。
お、思ったより軽い。
彼女は、凄いパワーだから、鉛のように重いかと思っていた。
うつらうつらしている手の掛かる、小さいおねえちゃんを背負って、僕は宿坊へ向けてぶらぶらと帰った。
体温が暖かいな、オッドちゃんは。
【次回予告】
いかに強靱な勇者といえど、休日は必要だ。
諜報部隊との激闘の翌朝、寝不足のげんきを襲うのは髭男だった。
戦えサリア、仲居の意地をみせるんだっ!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第43話
旅のお休み




