41. 東門で待つのは諜報部隊
四人パーティになった僕たちは、一路、東門突破を目指す。
キルコゲールを起動したら、もう、この騒動は解決だ。
伝説級搭乗型ゴーレムは伊達じゃあないぜ。
でも、一人でも仲間が死んだらアウト。
しかもコンテニュー無し。
大変、緊張する。
東門に近づくほど、敵の魔導機騎士の腕が上がるようで、黒風牙が強くなってくる。
ジョージに話を聞くと、神聖人類帝国は魔導機を自家生産するぐらいの工業力があるらしい。
聖堂都市の魔導機たちも、元はといえば、帝国製だ。
諸王国連邦と帝国は同盟を組んでるので、売って貰っているらしい。
神聖人類帝国の敵は魔王軍だけど、かの国の工作機関とかは、あちこちの国に諜報部隊を送って暗躍もしているとか。
人類同士でドタバタしてる場合じゃないと思うんだけどなあ。
二騎の黒風牙が剣を振り上げて、掛かってくる。
右の魔導機の懐に飛びこむ。
魔導機とかは、懐に飛びこんで闘う事はあまりないので、判断に迷うのか、一瞬、敵の動きが止まる。
手近な所を掴んで、重心を崩す。
投げ技というのは投げてる瞬間が派手で、あれこそ投げだと思われがちなんだけど、本当の投げは、前段階のバランスを崩す所で、投げモーションの時点は、取り返しがつかない結果なんだな。
重心がかかった左軸足を外側から払い、左に倒れるように投げる。
右の黒風牙が僕に投げられ、左の黒風牙を巻きこんで倒れる。
そこにジョージの三号機が電磁雷槍をぶち込む。
『しかし、何度見ても、ゲンキのジュードーはすげえな、手品みたいだぜ』
『なんのなんの』
僕はちょっとドヤ顔。
柔道は大地への叩きつけの衝撃で搭乗者を無力化できるので、人死にも出にくいから良いね。
平和な日本から来たものだから、悪者でも、ぶっ殺すのは抵抗がある。
良いスキルっぽい物を、もらえたものである。
黒い魔導機の抵抗を撤去しながら進んでいくと、前面ディスプレイに東門が見えてきた。
結構沢山の黒風牙が居る。
だいたい、十五騎ぐらいかな、部隊単位で動いてるっぽい。
こいつらは精鋭だな。
一番前に、腕を組んだ偉そうな黒い魔導機が居た。
頭に角があり、体のあちこちに黄色のラインが走っている。
これは黒風牙ベースの特型機な感じだな、
さらに、マントも着ていて、風にブワリブワリとひるがえっている。
見るからに隊長機で、中ボスだな。
『オッドの一行か、われわれに投降し、太古の爆弾をこちらに引き渡してもらいたい』
『所属と名前を言って下さい。知らない人に降参とかできないから』
『……、それはできない』
『なんでよ』
『いや、見ればわかるだろう、諜報部隊だから、名前なんか名乗れないよ』
『じゃあ、投降とか無理だ』
『それも駄目だ、上司に怒られちゃうし』
『じゃあ、闘うしかないでしょ、仮名でも名乗っておけば』
『そうだな、われわれは、暗黒轟風牙隊とでも名乗っておこう』
「む、格好いい……」
パットの趣味のど真ん中にヒットした模様だ。
『俺は隊長の、えーと、どうしようかな、なんか故事、うーん、銅鑼ェ門とでもなのっておこう』
『それはやめたほうがいい、異世界人に笑われるよ』
『そ、そうなのか、じゃあ、その、風の魔物、んー、風虎とでも名乗ろうか、うん』
『暗黒轟風牙隊、風虎さんね』
『それでたのむ、なにせ、我らは秘密の諜報部隊なのでな』
諜報部隊は諜報部隊って、諜報部隊は普通は名乗らないと思うな。
『では、ゲンキ君、一対一で、勝負といかないか』
『ほう、自信があるんですね』
『これでも……。おっと、その、修業を積んでるんだ、その、祖国で』
『そんだけ魔導機を出せる国って一つしか無いと思うけどね』
『そ、それは、思っても言ってはいけないよ。うん、国際的な非難が飛んでくるよ』
『解った、一対一の決闘だ、みんなは手を出さないで。僕が勝ったら、あなたたちの部隊を引いてくれる、で、いいですか』
『いいだろう、俺が勝ったら、君たちは投降、爆弾を引き渡すでいいね』
「応援は問題無いんだよね」
『応援 はいいんじゃないかな、あやめちゃん』
『大丈夫か、ゲンキ?』
『相手は精鋭で、普通に戦うと、全騎で連携しそうだ、分が悪い、誰かが怪我をしたり死んだりするのは僕は怖いんだ』
「わが君、ご武運を」
『ああ、がんばるよ、パット』
僕は、特攻型Vを一歩進ませた。
『では、いくよ、風虎さん』
『来たまえ、ゲンキくん』
じりじりと距離が詰まっていく。
隊長機の武器は、背中に大砲っぽい銃器、腰に剣。
銃器を抜く気は無いようだ。
なんだろう、なんか、嫌な感じがする。
いや、僕の柔道を信じよう。
「げんきくん、がんばって~」
あやめちゃんから【応援】が掛かる。
一瞬で視界がクリアになり、反応速度が上がるのが解る。
ぴんっ、とスイッチを弾くようにして、一瞬だけ、ローラダッシュ、一気に距離を詰める。
そして、左腕を掴んでっ!
ガッチャン!
なにっ! 払われたっ!
『ははは、自分だけが徒手格闘技が使えるとでも、思っていたのかねっ!』
組む手、組む手が払われる、やばい、格闘技経験者かっ!
特攻型Vの首に相手の手が掛かり、重心をくずされそうになる、擬似的な身体感覚で、すっと下に重心を下げて敵の足払いをいなすっ!
間違いない、投げ技のある格闘技、だが、柔道ではないっ、なんだ!
くっ、【応援】が切れた。
踏み込む。
視界が真っ暗になる。
あ、これは、マントかっ!
マントで視界を塞いで、その隙に投げる気かっ!
ローラーダッシュで後退!
ギャリリリッ。
ふうう、全身に水を打ったように汗をかいている。
さすが隊長クラスだ、強い。
『げんきくんのジュードーは、この世界のジュードーと少し違うね、異世界のオリジナルジュードーなのかな』
『僕の柔道は、学校で教わる、学校柔道だっ!』
『ああ、簡略型なのか、ふふ、それでは、俺の武道、バリツには勝てないなっ!』
『……』
『はははっ、僕がバリツ使いと聞いて恐れてしまったかな、異世界でもとても有名な武道と聞いているからねっ!』
『あ、うん、世界的な探偵が使うので、その、有名だよ』
『そう、僕はその、バリツをブラックベルトまで修めているのだよ、君に勝ち目はないっ! 投降したまえっ!』
『バリツは、探偵小説のシャーロックホームズって探偵が使う、架空の武道だよ』
『え?』
『だから、架空の武道で、実体とか無いから、だれか異世界から来た人が、洒落で色んな武道混ぜて作ったんじゃないの?』
『う、嘘だ、嘘だっ! 架空、架空の武道? 嘘をつけよ、俺はバリツで青春を費やしたんだぜっ!』
『それは、その、ご愁傷様、というか、うん』
僕は武道に詳しくないから、解らないが、どうも、風虎さんが使うバリツは、合気道とか、少林寺拳法っぽい感じがする。
そこらへんの技を適当に混ぜて作った武道なのかもしれない、バリツは。
『そんな馬鹿なーっ!! ちっきしょーっ!!』
風虎さんは、逆上して、僕に襲いかかる。
バリツは、すり足もしないんだよなあ、日本系武道の足運びでもないような気がする。
手を寄せるように、添える感じで相手の手を押さえ、風虎さんが掛けてきた、空気投げ系っぽい体重移動の投げ技をすかす。
すかした動きを繋いで、手を抱えて、懐に入り、背中に魔導機を乗せる。
特攻型Vの鈍目の動きにもなれてきた。
そのまま、一本背負いっ!
『ぐぬうううっ! なんのこれしきっ!』
バインンンッ!!
轟音がして、一本背負いが急加速した。
くっ! 機体の背中のバーニアを噴かしたのか!
急速回転で特攻型Vの手が離れ、敵魔導機はくるりと一回転、足で地を踏みしめ、しゃがみ込む。
相手の両足のサスペンションから、バシューッっとガスが出た。
『バリツが架空の武道でも、俺が流した汗は本物だっ!!』
『たしかに、風虎さん、強いよ!』
技を掛ける為の、手の取り合い、かわし合い。
お互いの鋼鉄の両手が、ガチンガチンとぶつかり合い、文字通り火花を散らす。
「げんきくん、おきばりやす~」
時々、まったりした、あやめちゃんの【応援】が入り、視界が綺麗になったり、切れて曇ったり。
バリツも、なかなか考えられた武道だな。
いつしか人垣で輪になった、東門広場で、僕と風虎さんは踊るように、闘っている。
「魔導機で、あんな動きができるなんて、二人とも化けもんだぜ」
「帝国の黒い機体は、黒風牙の発展系、轟風牙だね。隊長機専用に作られた機体で、良質の魔導エンジンに積み替え、各部魔導神経をチェーンしてある、乗る物が乗れば、竜さえも倒せるという、帝国の傑作機だ」
「対する大聖堂機は、特攻型Vと呼ばれる特型機でござるな。古い機体ゆえ、先進的な機構は付いておりませんが、五十年の年月を経て、古びた感じは全くしない、殿堂入りの名機体でござる。元は先々代の教皇猊下用に作られたため、魔力必要量が異様に高く、起動だけさせてのメンテナンスをしていたと聞きます。あの機体を動かせる勇士がいたとは。殿堂入り機体が稼働、それも武道をやってるのを目の当たりに出来て、拙者は感動のあまり、あふるる涙を止めることができないでござる」
「魔導機は闘ってなんぼのものだからね、徒手格闘戦とは、本当に渋い、通好みのものを見せてくれる」
いつもの魔導機オタクさんたちが来ているな。
詳しい説明ありがとうございます。
しかし、この世界にジュードーがあるとしたら、風虎さんは対峙したことがあるはずだ。
事実いくつかの技を的確に外してくる。
研究してるのか。
対してバリツは未知の武術だけど、ちょっと技の完成度が、ちぐはぐで、流れるように戦えてない。
技の一つ一つは良いんだけど、技が連携する時に、一拍ほどの隙ができる。
それで、僕の方も、初見だけど、技が外せる。
そろそろ、あやめちゃんの【応援】も十本を数える頃だろう。
次の、【応援】が来たら、勝負を掛けてみよう。
「げんきくーん、ふぁいとだよ~」
がっちり相手の手を掴んで組み合う。
組み合え。
よしっ!
後方へ向けて轟風牙の体勢を崩し、送り足払い。
……をすると、狙い通り、風虎さんは、前に重心を移動した。
いまだっ!
そのまま、機体を後ろにわざと倒して、轟風牙の腹を蹴る。
ガイン、と鈍い音がする。
これが巴投げだっ!!
特攻型Vの背中が完全に地に付き、僕の機体の上を轟風牙が半円を描くように飛ぶ。
『くっ! こなくそっ!』
轟風牙の魔導ブースターが着火、それも織りこみ済みだっ!
僕は機体を半身立ち上がらせ、そのまま、フレームの脇にぞんざいに着けられたボタンを叩く!
バゴドギャギャリリィィギイイインンッ!!
轟音と共に、パイルバンカーの杭が高速発射され、轟風牙の左腕をえぐり突き抜ける。
衝撃で、轟風牙の運動方向が上へと変わった。
杭を突き刺したまま、特攻型Vの腰を捻らせ、右腕にねじる回転を伝え、轟風牙を地に叩きつける。
ヒネリを加えられた轟風牙は、腰を横にして大地に激突した。
ゴグシャリとなんとも嫌な音を立てて、ねじ曲がった轟風牙の左腕が折れた。
ふう。
しんと満場に音もなし。
轟風牙はまだ動くか?
隊長機だから、ショック吸収装置があるかもしれない。
ゆらり、轟風牙は蠢いた。
ギョリイリリリリリ。
と、耳障りな音を立てて、轟風牙は立ち上がり……、
そして、ゆっくり、バタリと倒れた。
『僕の、勝ちだっ!!』
そう言って、僕は、かっこいいポーズを特攻型Vに取らせた。
【次回予告】
勝負に負けた風虎の卑劣な選択が、あのお方の怒りに火を点ける。
東門前広場に、激怒する不可触の暴風雨が吹き荒れるっ!!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第42話
謀反の決着




