38. ミシンガルドの暗雲
んー、なんだー?
外がうるさい?
ガッチャガッチャ?
魔導機が動いてる音? 夜中だよなあ。
掛け時計を見てみる。
うん、パンゲリア時間でも真夜中の六時、地球時間だと午前二時ぐらい。
ドンドンドン。
ドアが荒々しく叩かれた。
「やめてくださいっ! 退出してくださいっ!」
「うるさいっ! 獣人ふぜいがっ!」
ガンッ、と誰かが殴られるような音、うめき声。
目がくっきりと覚めた。
ドアに近づき、声を掛ける。
「どなたさまですか?」
「ゲンキさまっ! 開けてはなりませんっ!」
ガッ。と、音。
「やめろ、乱暴にするなよっ」
あれ、この声は三号機というか、ジョージじゃないか。
僕は魔導灯のスイッチを押して、ドアを開けた。
「なんですか?」
そこにあったのは、廊下に倒れて口についた血を拭いているサリアさんと、それを守ってるジョージ。
いきり立った兵隊が三人と、太ったカエルみたいな親父。
「ヒダカ・ゲンキだな、一緒に来てもらおうか」
三人の兵隊が部屋に入ってきて、カエル親父も入ってくる。
サリアさんが立ち塞がる。
ジョージがやめなさいというように、サリアさんの肩を押さえている。
どういう状況だろ。
「なんだい、ジョージ、この状況は?」
「いや、それがですね、ゲンキ殿」
「教皇猊下の肝いりのお客様を、何の権限で連行しようと言うのですかっ! ここは大聖堂宿坊ですよっ!」
「ふざけるなっ! 獣人っ!」
「やめろって、なっ」
兵士がサリアさんを槍の柄で殴ろうとする。
ジョージがサリアさんを庇う。
んー、あのちんぴら兵士は普通に敵だな。
偉そうなカエルのおっさんはなんだろ。
「事情が解れば、一緒に行っても良いですけど、説明いただけますか」
「うるせえ、黙って来いよ、オッドの奴隷が」
「僕は奴隷じゃ無いですよ?」
ずいっ、とカエル親父が出てくる。
「私は、ガエル枢機卿という、エリス教皇は不意の病でお倒れになって、私が現在、この聖堂都市の代表者代行として動いておる」
「えっ、本当なんすか、叔父さん、教皇さまが倒れたってのは」
「ああ、そうじゃ、つい一時間前にな」
「嘘ですっ! 教皇猊下がお倒れになるだなんてっ!」
「だまれと言ってるだろうっ、この畜生女めっ!」
「やめてください」
「なんだ、餓鬼めっ! 教皇猊下と懇意だったとは言え、お前も犯罪者オッドの仲間だろうっ!」
「ガエルさん、その人、ちょっと気が荒くなっているようなので、すこし廊下にお引き取りねがえませんか?」
「おいっ」
ガエルさんが、アゴをしゃくると、チンピラ兵士は、憎々(にくにく)しげに僕を見つめ、廊下に出て行った。
やろう、愛しのサリアさんを殴るなんて、あとでぎゅうという目にあわせてやるからな。
一番酷い兵士が廊下に行ったとはいえ、あとの二人の兵士も結構目が血走っているし、抜き身の槍を抱えている。
ガエルはデブで怪しい悪人面だ。
時代劇に出てきたら、あ、これ悪役やんと、お母さんが一目で指摘するぐらいの顔だ。
「ご用はなんでしょうか?」
「教皇が居ない今、大犯罪人オッドと、その仲間の存在は、聖堂都市として不味いのだ、なので、一所で管理しておきたいのだ、解ってくれないか」
こいつの目、嘘をついてる目だな。
何が欲しいんだ?
くそ、情報が欲しい。
「それで、その、昼に教皇猊下から渡された箱は、どこかね、隣には無かったようだが」
「となり? オッドちゃんと先に話を?」
「オッドは居なかったが、他の二人は、こちらで保護させてもらった。それよりも、箱は?」
「え、あんなもの、なにに……」
……バスターランチャーの弾狙いかっ?
あんなものどうしようと言うんだ?
オッドちゃんは隣にいなかったのか、パットとあやめちゃんは無事なのか?
「箱の中身は、持ってても使えないものですよ。大陸を全滅させて……」
「どこにあるんだっ!! 答えろっ!!」
「大事に保管してありますよ」
「出せっ! あれさえあればっ、ミシリア教はっ!! おまえらごときが持っていて良い物じゃないっ!! 出せっ!!」
……。
よく考えたら、バスターランチャーの弾って、一発一発が核爆弾みたいなもんじゃん。
欲しがる人は普通にいるのか。想定外だった。
昼間の東門での教皇猊下との会話を、誰かが聞いてたのか。
不用心だったな。
「ちょ、ちょっとまってくれ、叔父さん、目的は伝説の武具なのか? あれは女神さまも勇者に引き渡すと決めた物で」
「だまれっ! ジョージ!! ミシリア様も、教皇も、その価値が解って無いのだ、大陸を焼きつくせる力を背景にすれば、ミシリア教を大陸での唯一神教とすることもできる! それだけの価値の物を勇者を自称する坊主にくれてやるなどっ、狂気であるとしか言えぬ。あれはわしが、わしが使ってこそ、価値があるものなのだっ!」
「叔父さん、あんた、まさか、反乱を!」
「そうとも、教皇猊下は甘い、女神さまも解ってくれるはずだ、これはチャンスなんだ、ミシリア教が大きく拡大する、そうでなくても、その力が欲しい組織はいくらでも居る、巨万の富も手に入る。だからわしは、なんとしてでもその伝説の爆弾を手に入れる」
これは、意外にシリアスな状況だな。
どうしよう。
ガエルのおっさんを騙してキルコゲールまで行って、起動して蹴散らす……。
だめだ、パットとあやめちゃんが人質になる。
オッドちゃんがいれば大暴れで、血の山河を築いて鏖だろうけど、オッドさんの黒伝説を一つ増やす訳にもいかないしな。
「……叔父さん、叔父さんが、真面目にそんな事を言うのなら、俺はゲンキの味方だ」
「マジかジョージ」
「マジだぜ」
「馬鹿な、ビアトーンの当主には話を付けてある、父と兄たちを敵に回すのか、ジョージ!」
「おうっ! 親父も兄者たちも、そんな馬鹿な事を考えてるなら、俺がぶっとばす!」
「おお、かっこいいぞ、ジョージ」
「そうかい、へへへ」
ガエル枢機卿との緊張は意外な形で破裂した。
ドアを蹴り開けて、チンピラ兵隊が叫びながら、サリアさんめがけて飛び込んできたのだ。
「あぶないっ!」
ジョージがサリアさんを狙った槍の柄を掴んで、外した。
その背中を、別の兵士が槍で狙って突っ込んできた。
こういうときこそ、柔道だ!
すり足で飛び込み、兵士の手首を取って、懐に飛び込み、体落とし!
ジョージと同時に二人の兵士を制圧すると、ガエル枢機卿が、くそっ! と叫んで、逃げ出した。
もう一人の兵士も、枢機卿を追って去った。
追いたかったんだけど、たおした兵士二人をきっちり制圧しないと、色々危ない。
個人的にチンピラの兵隊は、少々アレな部分を踏ませてもらい、ぎゅうという目にあってもらった。
僕は約束を守る男なんだぜ。
サリアさんにロープを出してもらい、がっちりと兵士を縛った。
ジョージが。
ベランダに飛び出して、街並みを見ると、何台もの走っている魔導機が見える。
あれは聖堂騎士団の魔導機と違うぞ。
「馬鹿な、あれは、帝国製の黒風牙シリーズじゃねえか、何でだっ?」
「枢機卿が呼び込んだとか」
「ちっ、そうすると、相手は帝国の諜報部隊だ、やばいぜゲンキ、これは」
「東門へ徒歩で行くってのは」
「無理だろ、門を押さえるのは基本だ、それにゲンキのスゲエ車が止めてあるんだ、主力がそちらにいるだろうな」
「聖堂騎士団の魔導機の数は?」
「せいぜい五機だな、教皇様の魔導機は専用機だしな」
「意外と数が少ないんだね。ここから見たところ、帝国製の黒い魔導機が十から二十機いるけど?」
「魔導機は高いんだよ。裕福なケンリントン領でも三機しかいねえっ」
あ、それでケンリントン城では見なかったのね。
「俺は、魔導機に乗って、黒風牙と兄者たちをとっちめる。ゲンキはどうする?」
「余ってる魔導機ないかな?」
せっかくだから、個人的に魔導機に乗りたい。
「無いだろ、高いって言ってるだろ」
「教皇機は?」
「声紋照合の起動キーだ。無理に決まってる」
「とにかく、魔導機の基地に連れてって」
「わかった、駄目だったらそこで隠れてろ。お前さんまで捕まったら大変だ」
僕たち二人が、部屋を出ようとしたら、サリアさんが近づいて来た。
「あの、ありがとうございました、お名前をお教えねがいませんか騎士さま」
「あ、聖堂騎士団魔導機隊の三番機です。ジョージって言います、お嬢さん」
「サリアと申します、ありがとうございました」
「さあ、気分出してないで早く行く」
「いいじゃんかよう、俺は弁が立たねえから、こんなこと滅多にないんだよ」
クスッとサリアさんが笑った。
「ゲンキ様、ジョージ様、ご武運を」
「生きて帰れたら、その、サリアさん、えー、お話しをしにきても良いですか」
「ええ、構いません、お待ちしております、ジョージさま」
「そこはデートに誘って、受け入れて貰って、死ぬフラグだろう」
「縁起でもねえな、ゲンキ。おまえというやつはー」
「うるさいよ、行くよ、ジョージ」
「おうっ!」
僕たちは、魔導機の整備基地に向け、走り出した。
【次回予告】
聖堂都市の危機に焦燥を覚えるげんき。
その、苛立つ心に答えるかのように、整備基地奥の眠れる機体が、今、目を覚ます。
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第39話
その名は、大聖堂機特攻型V




