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4. 接敵! 初めての魔王軍幹部

「まさか僕たちはもう二度と日本に帰れないのかい」


 映画の前売り券の期日が今日までなのに。


「べつにそんな事はないわ、異世界転移の球は珍しいけど絶対に手に入らないってほどじゃないし、この球も修理すれば大丈夫だし。でもどちらにしても時間がかかるわ」

「映画の公開期間が終わっちゃうんだよ」

「球の準備がととのうまでの少しの間、私に協力しなさい」


「どうするあやめちゃん」

「どうしようげんきくん」

「たしかに映画の事やデートの事も気になるけど」

「気になるんだよ」

「こう考えたらどうだろう、とまりがけの異世界デートだって」

「そ、そんな、げんきくんったら、とまりがけなんて私たち高校生でまだ早いし、困っちゃうんだよ」


 あやめちゃんは真っ赤になってくねくねしております。

 なんだかそんなあやめちゃんを見ていると僕も頬を熱くしてくねくねしてしまう。

 どこまでも続く草原に風がわたり、ざああと音をたてて波のように、こちらに迫ってくる。

 空は青くて日もあたたかい。


 どっちにしろ転移の球が、なおらないかぎり、僕たちはこの世界にいるしかないわけで、だったらちょっと観光ついでに旅をしても良いんじゃ無いかなあって気がどんどんしてきた。

 あやめちゃんの方を見ると、あやめちゃんも僕を見ていて、にっこり僕が微笑ほほえむと彼女は返事をするようににっぱり笑った。


「わかった、オッドちゃん、一緒に旅をしよう」

「いいの?」

「うん、その代わり旅費と宿代食費はオッドちゃん持ちで」

「いろいろ観光案内をおねがいしたいんだよ」

「わ、わかったわ」


「というか、オッドちゃん怪力なんだから、べつにロボいらなくない?」

「わ、わたしは怪力じゃ無いわよ……。普通の非力な女の子だから」


 普通の非力な女の子は三十メートルのロボを持って、ふり回せません。


「ほ、本当よ、疑っているのねっ! わたし非力だから一所懸命魔法を覚えて魔導師になったんだからっ!」

「いやその」

「すごい魔導師だから大陸中に名前が売れているのであって、怪力だからじゃないわ、私、怪力じゃないし」

「そ、そうなの……」


 あやめちゃんも僕も、オッドちゃんから目をそらす。


「そうなのよ、だから人に怪力とか、いわれもない中傷ちゅうしょうをしてはいけないのよ、なんのいわれもないんだからっ」


 オッドちゃんは怪力がいやなのね。


「この棍棒だって、普通の物だと二三発ですぐ駄目になっちゃうから使ってるだけで、その、とにかく頑丈がんじょうなのよ」


 あくまでキルコゲールを棍棒と言い張るのか。


「僕らが乗ると、キルコゲールでの戦闘が強くなったりするの?」


 なんとなくキルコゲールが動くと重心とか変わって、ふり回しにくそうな気がするのですが。


「その、あの、気持ち強くなったような気がするわ……。うん、いろいろピカピカ光るし……。うん」


 ……たぶん何の関係も無い。単に物理で殴っているだけだな。

 僕たち二人が乗り込む事によるタクティカルアドバンテージは何も無いのであろう。

 たぶん。


「棍棒にもたましいが必要なの、そしてそのたましいはあなたたち二人なのよっ!」



「ふわっはっはっ、笑わせるなっ!! 金剛力こんごうりきのオッドよっ!!」

「なんですってーっ!!」


 あ、オッドちゃんが一瞬で切れた。

 ちょっと向こうの高い岩の上で怪しげな黒いよろいをきた。赤い目白い髪のイケメンがポーズをつけて立っていた。


「お前を魔導師と認めているヤツなど、この大陸に一人もいないっ!! 超剛力ちょうごうりきのオッド、三千世界くだきのオッドよ!」

「取り消しなさいっ! なんなのその脳筋キャラみたいな二つ名はっ、私は魔導師よっ!」

「ははは、魔王軍でも……」


 はっとして、黒いイケメンはマントをひるがえして後ろへ飛びすさった。


 轟音ごうおんと共に彼が立っていた岩は、オッドちゃんが、ふり下ろしたキルコゲールによって木っ端微塵こっぱみじんに砕かれていた。

 巨大ロボを高速で振った影響の轟風ごうふう一拍いっぱくおいて後にきて、あやめちゃんがにゃーんとか言いながらスカートを押さえた。

 ち、もうちっとだったのに。


 黒いイケメンは目をまるくして、胸を押さえて深い息をはいた。

 やあやあ、びびってるびびってる。


「取り消しなさい……」

「……、そ、そうでございますね、オッド様は魔王軍でも大魔導師として有名なのでございますです」


 あ、黒イケメンの目がもう負け犬になってる。


「え、そんなに」


 あ、オッドちゃんなんか嬉しそう、つかちょろい。


「そ、そうでございますとも、不詳ふしょうこの私、魔王軍四天王バンパイアのバーグめも、オッド様のご尊顔そんがん一目ひとめはいしたてまつりたく、参上さんじょういたしました次第しだいであります」


 黒イケメンはバーグさんと言うらしい。

 彼は、ものすごい汗、とてつもない汗だくになり、綺麗なレースのハンカチでひたいをこすりまくって一所懸命いっしょけんめいよいしょをしている。


「我々の四天王たちの中でもとても話題になっておりまして、物理もなかなかだけれどもオッド様の魔導の質の高さは大陸一では無いのか、魔王軍の中でも匹敵ひってきするものはいないかもしれない、なんとも恐るべき敵だなあ、困ったなあ、困ったなあ、と大評判でござります」

「な、なによ、ほ、めても何も出ないわよ、もうっ」


 うわ、オッドちゃん、ちょれえ。


「ええい、こんな茶番につきあっていられるかっ!」


 と、思ったらバーグさんは、背中からコウモリウイングを出して空に逃げ出した。


「なによっ! 嘘なのっ!」

「う、嘘ではありませんぞ。きょ、今日の所はあなた様のすさまじい魔導の高さにめんじて出直してくるといたしましょう。次にあった時があなた様の最後だ、さらばだっ!」


 そういうともの凄い勢いでバーグさんは山の方の空に逃げ出していった。

 いったい何しにきたんだ、あの魔王軍幹部は。


「敵ながらなかなかあっぱれな奴ね……。バーグというのね、覚えておくわ」

「あっぱれとかないから」

「たぶんバーグさんは、おべんちゃらで出世したタイプだよう」

「そ、そんな事は無いわよ、敵だからってあんまり悪く考えるのは良く無いわよっ!」


 ほんと、もの凄くちょろいなこの人。

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