幕間SSの1 パトリシア日本紀行4
改札ゲートを抜け、階段を降りると、そこは桟橋のようになっていて、人が沢山待っていた。
足下には二本の銀色のレールがどこまでも延びている。
なんとも凄いな。
壁に囲まれたレールがあって、そこへ、白くて真っ白の列車が通りすぎていく。
なんだか窓が小さいな。
一番前が水鳥のように平べったい。
なんの意味があるのであろうか。
何かの象徴的なモチーフなのか。
しかし、みな、私の事をジロジロ見るな。
甲冑姿は珍しいのか。
しばらく待っていると、青い列車がやってきた。
そういえば、パンゲリアにも魔導列車なる物が帝国にあると聞いた事がある。
こんな感じの物なのだろうか。
列車は止まり、ドアが開いた。
中に入る。
ふむ、椅子が壁沿いに据え付けられているな。
座れなかった者は立っているらしい。
幸い席は空いていたので、ナツミ嬢と並んで座る。
椅子はビロードのような生地で包まれて、なかなか座り心地がいい。
軽い音の音楽が鳴って、ドアが閉まり、列車は動き出した。
存外揺れないものだな。
列車は、タターンタターンと、リズムを刻みながら飛ぶように走る。
この音は、レールとレールの切れ目なのか、うむ、あの長さの鉄をつなぎ目もなく引く事はできないのだろう。
だが、なかなか快適な乗り物と言えよう。
「どうですか、電車は」
「なかなか凄い物だな、速度も速い。パンゲリアにも魔導列車なるものが帝国にあるらしいのだが、私は見た事が無かった。こういう物なのかもしれぬな」
「魔導列車! F○だわ。素敵」
「隣を走る列車はなんなのだろう」
「山の手線です、行き先が違うんですよ」
「ニホンには沢山の乗り物が走っているのだなあ」
「はい、網の目のように走ってますよ」
「それだけ、人間と物資の移動が多いのだろう。豊かな社会なのだな」
「そうかもしれませんね。たしかに昔に比べると格段に豊かなのかも」
人の移動、物の移動には金銭がついてまわる。
列車や車の移動の後には黄金がずっとついてくるのであろう。
すさまじいエネルギーの社会なのだな。
列車は時々止まり、人を吐き出し、人を迎え入れ、また飛ぶように走る。
行けども行けども人家が切れる様子は無い。
なんという人口であろうか。
川を鉄橋で渡る。
「そうか、我が君が歩くのもヒイヒイ言っていたが、この交通網のせいであったか」
「ははは、確かに現代日本人が中世みたいな世界に行ったら、歩くのが辛いかもしれませんね。乗り物に乗れば、ほとんど歩かなくても生活できますから」
駅は大きい物と小さい物がある。
賑やかに人が動いているのが見える。
人種はみな平たい顔の民族ばかりで、他人種は滅多にいない。
そうか、オッドが魔王と話をつければ、私はこの世界に留学に来るのだな。
一足早く体験していると思えばいいのか。
わ、我が君と婚姻して、永住するかもしれないしな。
うむうむ。
大きな川を越えていく。
なんという大きな橋を架けるのだろうか。
すばらしい創意工夫の国だ。
「もう川崎ですね、次の駅で降りますよ」
「そうか、ビックサイトからずいぶん離れた気がするな」
「ええ、もう歩いてはいけないぐらいの遠くですね」
「ふむ、歩きだと一日ほどかかりそうだな。まったく列車とは早いものだ」
街を抜け、先ほどよりも小さめの川を渡ると、ツルミの駅だ。
列車が止まると、ナツミ嬢と一緒に立ち上がり、ドアから外に出た。
「パトリシアさん、お腹空きませんか? 何か食べて行きません?」
「うむ、お腹は空いているが、その、迷惑をかける訳には……」
「気にしないでくださいよ、ご滞在のお世話は任せておいてくださいって」
「すまぬ、ではありがたく」
太陽を見ると、天頂に掛かっていた。
この世界でも、昼食の時間なのであろう。
駅の階段を上がり、改札ゲートに札を差し込んだ。
今度は出てこなかった。
回収されたのであろう。
ゲートの向こうは空中回廊のようになっていた。
大きな建物が幾つも並んでいる。
回廊を渡り、建物の中に入った。
突き当たりあたりに、エレベーターがあった。
「エレベーターは驚かないんですね」
「メイリン市にもあったのだ。魔導エレベーターだがな」
「こちらのは魔導つきませんけどね」
ナツミ嬢と一緒に、エレベーターに乗り込んだ。
彼女は地下に向かうボタンを押した。
ズウンと身体が重くなると、箱が下に向かう感じがした。
チンと涼しげな音がすると、扉がひらいた。
外にでると、そこは地下通路のようで、飲食店が沢山あった。
世界樹の街の地下街のようだな。
この世界にもドワーフはいるのだろうか。
「こっちこっち、このお店が美味しいんですよ」
「ふむ」
おごられる身であるから嫌も応も無いが、不思議な匂いのする飲食店だな。
自動的にスライドするガラスのドアを抜けて、我々は店内に入った。
意外に客が沢山いて、テーブルはふさがっていた。
奥のテーブルに女給さんに案内してもらう。
「さあ、パトリシアさんは何が食べたいですか、なんでもごちそうしちゃいますよ」
「何と言われても……」
私は、何か綺麗な絵がついた冊子を見てみた。
なるほど、絵で料理を表しているようだ。
うむ、だが、どんな料理なのか、想像も付かない。
「このお店は、湯麺と焼きそばが美味しいですよ、あと餃子」
「ヤキソバ! 我が君に作ってもらった事がある、大変美味であった」
「では、焼きそばと餃子ですね、私もそうしようっと。あ、注文お願いします、焼きそば二つと餃子二つ、あと、お土産に焼きそばと餃子を一つ」
清潔な格好のおばさんが注文を取っていた。
「おねえちゃんにも買っていってあげないといけないんですよ。おねえちゃん漫画家だから、作業に入るとずっと仕事して、ご飯とか気にしないので」
「マンガ家、それは、漫画という物を書く芸術家か、すごいな」
「いえいえ、あんまり売れて無いんですよ、アンソロに年に四回とか、そんな感じで、プロとアマの中間みたいなー」
「それでも凄いじゃ無いか」
私はナツミ嬢のついでくれた、水を飲んだ。
ふむ、柑橘類の汁が入っているのか、かすかに酸味がしてさっぱりする。
色々と、ナツミ嬢の事、おねえさんの事を聞いていたら、料理が出て来た。
おお、この焼きそば、白いぞ!
ソースの匂いはしない、別の料理なのか?
もぐもぐ。
うむ、うむ。
これはこれでなかなか。
淡泊な味であるが、美味い。
「これは美味しいな」
「わあ、口にあって良かった。私、このお店小さい頃から来てるから大好きなんですよ」
「ギョウザとは、どう食べるのだ?」
なにか、豆の一種のように繋がって焼かれている。
これは、皮をむいて食べる物か?
「これは、こうやって、たれを作ってですね」
ナツミ嬢は、赤い油、白い液体、黒い液体を皿で混ぜ合わせた。
「ここに付けて食べます」
ふむ、赤い油は刺激臭がするな、これはあまり入れてはならないものっぽい。
白いのは、酢だな、黒い物は、おお、ショウユではないか。
混ぜ合わせて、付けて、食べる。
モグモグ。
うむ、なるほど、なるほど。
小麦の皮で、肉の餡をくるんだものであるか。
「うむ、ギョーザ、これも美味い。良い味だ」
「良かった、お口にあって」
ナツミ嬢はギョーザを頬張りながら、花のように笑った。
うむ、なんとも親切な娘だ。
なんのご恩も返せぬのが心苦しくてならないな。
別れの時は、手持ちの純銀のナイフでも手渡そうか。
【次回予告】
うむ、まだナツミ家につかないので、次回も日本紀行であります。
まあ、良いよね幕間だし。(イクナイ)
ちなみに、今回のモデルのお店は、鶴見の満州園って中華料理屋さんです。
ギョウザとヤキソバが美味しいのでござる。




