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幕間SSの1 パトリシア日本紀行3

 護法忍者なる怪人を倒した私は、ナツミ嬢に連れられて、一休みできる場所へと向かっている。

 しかし、凄い建物だな。

 石作りというのに、継ぎ目一つ無い。

 いかように作られているのか、漆喰を塗っているのだろうか。

 そして、あちこちにあるガラス窓の多さよ。

 光りが差し込み、なんと明るい室内だ。

 日差しの割には、涼しい感じもする。

 この建物には、魔導空調機のような物がついているのだろうか。

 凄まじい技術力といわざるをえない。


 ぬおおおおっ!!

 なんだこれは、階段が動いておる!!

 なぜ、階段を動かすのだ、いかなる理由で動かすのだ。

 歩いて上がれば良いでは無いか!!


 なるほど、我が君がひ弱になるわけである。

 身体を動かす事を、こんなにいとう世界では、あの体力も無理はなかろう。


 動く階段を上がり、建物に二階に出る。

 まるで空中回廊のごとき通路の両脇に、飲食店とおぼしき店があり、我が君似の、アヤメ似の若人が群れ集まっていた。


「あ、思ったよりすいてますね。こっちですパトリシアさん」

「うむ、言いにくいのだが、この世界の通貨の持ち合わせが無いのだ」

「いいですいいです、おごりますおごりますよ」

「かたじけない」

「本当に、女騎士っぽいですねー。素敵ですー」

「そうか?」


 こちらの世界にも女性騎士は居るのだろうか。

 先ほど通路で、騎士のような格好の娘を見たが、甲冑も剣もまがい物であった。

 しかも、身体の動きからして、武道の経験もなさそうだ。

 なぜ、まがい物があのような格好をしているのであろうか。


 さらに、短いスカートをはいた、酌婦のごとき格好の娘や、下着にしか見えぬ格好の娘など、あられもない姿の子どもが笑い歩いている。

 その姿に羞恥する者が居ないのであるから、あれは当たり前の姿なのであろうか。

 風が吹いたら、お尻が丸出しになるではないか。

 けしからんっ。


 この世界の風俗に怒っていると、ナツミ嬢が私の肘を引いて、店内へといざなってくれた。


「何を飲みたいですか?」

「うーむ、このテーというものは、紅茶であろうか」

「そうですよ、紅茶あるんですか? パトリシアさんの世界」

「紅茶も緑茶も豆茶もあるぞ。異世界人が持ち込んだ物かもしれぬがな」

「え、そんなに異世界人がきてたんですか?」

「わが世界全体で、年に四五人は召喚されるようだ。ニホン人がなぜか多いがな」

「やっぱりトラックにひかれて、行っちゃうんですかね?」

「事故死する人間を呼ぶ召喚が多いと聞くな」

「わあ、WEB小説は、本当だったんですねー。すごいー」


 ナツミ嬢にアイステーをおごって貰って、われわれは店内の席についた。

 うむ、何とも柔らかい椅子だ。

 皮では無いようだが、なんの素材であろうか。

 テーブルも、なにか不可思議な素材でツルツルしておる。

 よほど腕のよい職人が作るのであろう、椅子も机も、寸分替わらず同じ物が室内に沢山並んでいた。シンプルであるが、落ち着くデザインのインテリアであるな。


 アイステーは、透明な薄い紙のような物のコップに入り、氷が沢山入っていた。

 麦わらを模した何かが刺さっている。

 回りを見回すと、これを使って飲むのであろうか。

 こういう物が生える植物があるのだろうか。

 縦に縞々である。


 麦わら状の物で、アイステーをすすってみる。

 うむ。

 紅茶だな。

 みれば、ナツミ嬢は、黒い豆茶を透明な紙コップで頼んでいた。

 そこに、透明な器に入った粘液と、白い器に入ったミルクを出して入れていた。


 この透明な物は、色々な物に使われているようだ。

 一見ガラスのように透けているが、触ると暖かくやわらかい。

 しかも、一回使うと捨ててしまうらしい。

 なんという贅沢な!

 勿体ないとは思わないのだろうか。

 見れば、紙なども平気で捨てていく。

 なんという、無駄使いな世界なのだ!


「パトリシアさんは、どうしてこの世界に来たんですか?」

「迷宮で罠にかかったのだ。思いの外魔力が溜まっていたらしく、異世界のここまで飛ばされてしまった」

「ひだかげんきさんって、パトリシアさんの何なんですか?」

「我が君にして、最愛の人だ、結婚の約束もした」

「まー、まー、異世界転移した日本人と出会って、恋をなさったんですね、わー、ロマンチックです」


 私は、ナツミ嬢に我が君と自分とのなれそめを語った。


「まあ、なんという事でしょう。なんて素敵なお話しなのかしら、日本人が異世界に行って、巨大ロボで冒険を重ねるだなんて!! ところで、その、バーグさんと、ヒダカさんのお話しをもっと詳しくおねがいしますか?」


 なぜか、ナツミ嬢は、バーグのたわけと我が君のお話を詳しく聞きたがった。

 顔を赤らめて、なにやら興奮しているような……。

 これは、あれだろうか、王都などで流行っているという、男性と男性の退廃的な関係を好むという腐れ淑女という者であろうか。


「そうですか、パトリシアさんは、ヒダカさんの身代わりになって、転移をされたんですね。ああ、なんという純愛でしょうか。私、感服いたしました」

「ありがとう、一刻も早く、私はパンゲリアに帰還せねばならないのだ。なにか方法はないだろうか、怪しげな噂でもかまわん」

「うーん、異世界転移の話なんて、さっきまでお話しの中の事だとばっかり思ってましたからねえ」

「先ほどのニンジャとやらは、また別の世界から来た者だと言っていたな。しまった、尋問をするべきであったな」

「あ、たしかにそうですね、気絶していたから、医務室に居るかもしれません、行ってみましょう」

「そうだな、転移の事を奴が知っているかもしれぬ」


 我々は、飲食店を出た。

 その時、恐るべき光景を見た。

 あの透明な紙のコップ状の物を、全て、ゴミ箱にナツミ嬢は捨てていた。

 洗って、また使わないのか!

 なんという無駄使いな世界なのだっ!!


「あ、これは、プラスティックと言って、安いんですよ、使い捨てです」

「あ、洗えば使えるではないかっ」

「回収して、今度は服に作り直したりするんですよー。フリースとか」

「器を、服に変えるのか? なんという不思議な世界だ」

「そう言われてみれば、なんか贅沢な事ですねえ」


 贅沢に慣れた世界では、気にならない物なのかもしれぬな。

 店を出て、また、動く階段で、下にいこうとしたとき、窓からニホンの街並みが見えた。


「!!!!! 街が、地平線の向こうまで続いている!! な、なんという広大な都なのだ」

「地平線の向こうまでは、さすがに、あそこに見える山の麓あたりまでですよ」

「そ、それにしても、どれくらいの人口があるのだ。恐ろしい世界だ」

「そうですかー?」

「しかもだ、高い建物が多い。石作りで、ガラス張りだ。どれほどの時間と、どれだけの資材をつかえば、このような巨大都市ができるのか?」

「だいたい五十年ぐらいだとかいう話ですよ、昔、戦争があって、あたりは焼け野原になったって聞きますから」

「五十年で、ここまで? いかん、胸がどきどきしてきた。なんという世界なのだ、住民はどれほどの働き者なのか!」

「それほどでもないですよー」


 動く階段をおりて、一階にいく。

 階段を降りるのに、なぜ、動かすのだ。

 そこまで、動くのが嫌か、この世界の人間は!


 一階の奥に医務室はあった。

 ぐったりとした男女が座り込んでいる。

 そういえば、通路にも、座り込んでドウジンシを熱心に読んでいる人々がいた。

 買ったとたんに読みふけるとは、なんという勉強熱心な民族であろうか。

 家まで待てなかったのだな。


 ナツミ嬢が、奥の役人風の男と話し、首を振りながら戻って来た。


「カ○シ先生、もう、気がついて、行っちゃったそうですよ。どこのサークルかも解りませんでした」

「しまったな、手がかりを逃した」

「パトリシアさんは、お泊まりの場所とかは?」

「……無い、手持ちの現地通貨も無い。困ったな」

「安心してくださいっ、私がお泊まりからお食事まで、全部お世話します。どーんと頼ってくださいっ!」

「いや、見ず知らずの方に、そこまで世話になるわけには……」

「良いんですよ、日本人のひだかげんきさんと相思相愛になったのならば、パトリシアさんも、いわば日本人の身内ですっ、身内の世話をするのは、日本人の義務なんですっ! 喜んでお世話させてくださいっ」

「……ああ、そうか、我が君の民族なのだな。やさしく、思いやりのある態度は、そういう所から生まれたのか。なるほど」


 私の胸の奥がビリビリと感動に打ち震えていた。

 ああ、優しい我が君の態度は、この優しい民族性から生まれた物であったのか。

 すばらしい国民だ。


「かたじけない、世話になる」

「なんのなんのですよー。さあ、私のお家に行きましょう。私のおねえさんも、げんきさんとバーグさんのお話しに興味があると思いますので、また詳しく話してくださいねっ」


 ふむ、ナツミ嬢の姉も腐れ淑女であるのか。

 業が深い姉妹よの。


【次回予告】

パトリシアの日本紀行は、本編でパトリシアが合流するまで、間欠にやりますざます。

ナツミ家着で、いったん終わって、別の幕間SSを二本ぐらいやって、あとは、五章を始めましょうぞ。

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