幕間SSの1 パトリシア日本紀行2
気がついた瞬間、私は、大聖堂のような建物の中にいた。
ドーム状の大きな建物で、中には人が大勢いた。
全部、我が君のような平たい顔の若い人々だった。
ワーンと、音が反響している。
みんな笑顔で、生き生きとしている。
何かの宗教行事であろうか。
聖堂都市の大聖堂のように大きなドームの中に、見渡す限りの若人が居る。
もの凄く大量の若人だ。
我が君に似た人。
アヤメに似た人。
目がチカチカするほどの沢山の平たい顔の人々だ。
『コミ○クマーケット90、開催致しますっ』
どこからか声がそう告げると、視界いっぱいの若人たちが、一斉に拍手をした。
ここはどこだ?
この者どもは何をしている?
見れば、床に机を沢山ならべ、書籍を売っているようだ。
書籍市なのであろうか。
むせかえるような人いきれである。
ドームの中空には、雲がかかっているかのようだ。
暑い。
そして、私は目立っている。
みんながジロジロと私を見る。
当然だろう。
人種も違えば、服装も違う私が、いきなり現れたのだ。
おかしいと思わないはずがない。
この世界の役人に捕まってしまうかもしれぬ。
だが、我が君のような若人たちは、役人を呼ぶでもなく、ただただ、私を見つめていた。
そこには、なにやら、推賞の眼差しも混じっているような……。
「ものすげえコスプレ、あれはなんだろ、○モンナイトかな?」
「金属甲冑だよ、すげえ、金かかってそうだなあ」
「凄い縫製だわ。すてき、○ェイトのセイ○ーかしら」
な、なにやら褒められているような気がするのだが、うむむ。
しかし、これからどうすれば良いのか。
困った。
どうやら、人体を消滅させるような罠ではなかったようだ。
転移の陣だったのか。
しかし、見るからに異世界に飛ばす程の魔力とは、いったい。
うむむ、生きているのであれば、一刻も早く、我が君の元にはせ参じねばなるまいっ。
早くパンゲリアに戻らねば。
私が居なくなった隙を突いて、アヤメが我が君に行動を起こすやもしれぬ。
うむむ、それはいかんぞ!
ここは我が君の世界なのか?
ずっと我が君の事ばかり考えていたから、我が君の世界に飛ばされたのであろうか。
我が君の世界は、ニホンという平和な世界のはずだ。
美味しいグルメがあふれ、マンガやゲームという素晴らしい娯楽がある世界なのか?
うむむむ。
「あの、どいて下さい」
「む?」
考え込んでいたら、通行の邪魔をしてしまったらしい。
「すまぬ」
そう言って、私は、柱の横にどいた。
「いえ」
そう言って、黒髪でおかっぱ、メガネを掛けた、真面目そうな黒い服の陰気な感じの娘は立ち去ろうとした。
「もし」
「はい?」
思わず呼び止めてしまったのは、その娘が、なんとなく、我が友アヤメから華やかさを消して、陰気にした感じだったからだろうか。
「とても馬鹿な事を聞くと呆れるかもしれぬが、ここは、どこであるか?」
「ビックサイトですけど」
「巨大な敷地か、言い得て妙であるな。ここは、チキュウのニホンで合っているか?」
陰気な黒いアヤメ似の娘は、ぷっと吹きだした。
「ロールプレイですかー? それに日本語お上手ですね。そうです、ここが、ニホンです。今、ビックサイトでは、コミ○クマーケットという、世界一の規模の同人誌の即売会が開催されている最中ですよ」
そうか、まごうこと無き、我が君の故郷の世界なのであるな!
そして、ドウジンシという書籍を販売する市が開かれているのだな。
「私はパトリシアと言う、貴殿は?」
「坂上夏美と申します。パトリシアさん、ヨーロッパの方ですか? すごい甲冑ですね」
「ナツミさんか、宜しく。時に貴殿は、ヒダカ・ゲンキという方を知らないだろうか?」
「ヒダカさん? はぐれちゃったんですか?」
「まあ、そうだな、生き別れとなった。なんとしても合流を急ぎたいのだ」
「まあ、大変、スタッフに言って、館内放送をして探してもらいましょう」
「いや、別れたのは向こうの地で、ここの場所で探してもおらぬはずだ」
「ああ、ヨーロッパで知り合ったんですか。それで彼に会いに日本まで、素敵ですねー」
「いや、そうではないのだが、その……」
「おいお前、パンゲリア人か?」
む、何やつ!?
ふり返ると、黒い装束を着込んだ盗賊のような痩せた男が、私を睨んでいた。
「あ、カ○シ先生だ、すごい、似てる」
「ナツミの知り合いか?」
「ううん、コスプレの元を知ってるの。有名な漫画なんですよ」
「パンゲリア世界のコ○ケの入場割り当ては、今回は無いはずだ、貴様、違法転移者だな」
「? 私は、罠に掛かって転移してきた、違法とはなんだ?」
「上手い言い訳だが、異世界コ○ケスタッフの俺の目は騙されないぞ」
そう言うと、盗賊っぽい男は、腰から小刀を抜いた。
「な、なんのロールプレイですか? フェ○トとナ○トの夢のコラボ寸劇ですかっ?」
いや、ナツミ嬢、これは本物の重い殺気だ。
私は背負った大剣を抜いた。
バリバリと、雷を剣に這わせる。
かなり出来る。
こやつ、エルザクラスの腕前だ。
「我は、諸王国連邦国所属、聖騎士、パトリシア・ケンリントン。難癖を付けるならば相手になるぞっ!」
おおっ!! と、あたりの我が君似の野次馬がどよめいた。
「くっ! こういうのは苦手なんだが、いいだろう、名乗りを受けて無視するわけにはいくまい。我はアレクシア世界は、ガレンガ王国所属、護法忍者ターケン!! この即売会は、異世界協定で保護されたイベントであり、お主は、その協定を破った!! 成敗させていただく!!」
ターケンと名乗った男は、手で印を切った。
一瞬で、ドーム状の空間が二人を包み、会場の喧噪が退いた。
「え、え、なんですか、これ? 結界とか言う奴? すごい、本物?」
「しまった、一般人も巻き込んだか!! お嬢さん、少しの間我慢をしてください。私が、この暴漢を討ち果たすまで」
「は? そうなんですか、カ○シ先生?」
「そういう事は! 勝ってから言うのだなっ!!」
私は、ターケンに斬りかかる。
彼は、軽く持った短剣で、大剣の斬撃を受け流した。
「くっ!」
ターレンは、顔をしかめた、私が受け流しの瞬間に、軽い雷撃を剣にまとわせのだ。
カンカンと切り結ぶ。
意外に良い腕だな。
「くそ、難剣だなっ! 貴様!!」
「存外良い腕だな、ターレンとやら!」
「ああ、一体なんなのかしら、この戦闘イベントは。なんだかワクワクしてしまうわ」
ターレンの短剣の一撃は鋭い。
足捌き、体捌きに独特のキレがあって、動きにつかみ所がない。
「地球世界で、護法忍法を使う羽目になるとは、思わなかったぜ。悪く思うなよ、パトリシアとやらっ! ルールを破った、お主が悪いのだからなっ!!」
そう言うと、ターレンは、胸の前で指を重ね、複雑な印を切った。
「護法忍法、円心護酷氷陣!!」
おお、何という不思議か!
ターレンの身体を中心に、凍てつく氷の波動が生まれ、放射状に凍らせていくではないか!
魔法では無いようだが。
「さ、寒!」
いかん、ナツミ嬢が危ない。
私は、雷撃を籠の形に編み込み、自分とナツミ嬢を覆うように守った。
魔導誘導体の一種であるなら、発動した魔法を越えて作用はしないはずだ。
だが、何という事か、冷気は雷撃の籠を易々と越え、私と背に庇ったナツミ嬢に押し寄せてくる。
「ははは、魔術では無いのだ、それ、凍り付け!! お嬢さんも、少し我慢してくださいね、後で治しますんで」
「寒いでーす、寒いでーす」
私は、大剣に雷撃の籠をまきつけ、ターレンに投げた。
「なっ!!」
ターレンは驚いて、胸元の印を崩した。
その瞬間、冷気の陣は破れた。
その機を逃さず、私は、ターレンに接敵し、間合いを密着させた。
「ば、馬鹿な、武器を投げ捨ててどうするつもり……」
「投げる」
ターレンの着ていた服は、まことに、ジュードーで投げやすい服であった。
まるでしつらえたかのように、ぴったりとはまる。
そのまま体勢を崩し、体落としで投げる。
「柔道だとーっ!!」
ゴンと、ターレンは地面に頭を打ち付けた。
ウケミも取れないのか、未熟者め。
そのまま、雷撃を食らわせ気絶させる。
「ふう、恐ろしい奴だった」
「……ほへえー」
なんだか、ナツミ嬢は放心したように私を見ていた。
「雷、出してました」
「出せるぞ」
「その剣、本物ですか?」
「ちゃんとしたドワーフが作った業物だ」
「てててて、異世界から転移してきたって、本当ですかっ!!」
「うむ、迷宮で罠に掛かったら、こちらに来ていた」
「うそうそっ!! すっごーいいいいっ!!」
なんだか、すごく、ナツミ嬢に喜ばれてしまった。
【次回予告】
うむ、コ○ケには異世界担当スタッフとかおりませんからね。
なんだか、構想していた話とちがう(^^;




