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345. ミルコゲールの飛来、だが、言ってる事が変

 朝である。

 昨晩は、あやめちゃんと、とても良い雰囲気だったのに、チューの一つも出来なかったのは、僕がヘタレであるからでは、断然無い。

 こんな、夢のような、おファンタジー世界で、二人の関係を進めるのに抵抗があったからである。

 チューしちゃおうかなとか、思って手の平にびっちり汗をかいたり、それをあやめちゃんに気取られて、苦笑いされたりは、断じてされていないっ、されていないんだっ! 本当だ。


 まあ、とにかく朝である。


 とにかく、服を着替えて、日課のランニングをわっせわっせとやっていたのである。


「あ」


 ランニングも終わり際、二回目に塔路に上がりかけた時、北の空を見上げて、あやめちゃんがつぶやいた。

 光り輝く光球が、地平線から凄い速度で天宮を駆け上がってくるのが見えた。


「ミルコゲール!! なんて早起きなっ!!」

「そこっ?!」


 光球は一つだ。

 ミルコゲールは一機だけのようだ。

 塔路に居た冒険者さんたちが、空を見て騒ぎ出した。


「ミルコゲールか?」

「ついに、メイリンにも飛来したのかっ」

「戦場では、ゲンキに一度破れているのだろう、なぜ一機で来るのだ?」

「ギルマスにお知らせしてこいっ、俺は議会に行く!」

「こんな早朝に議員はいないぞっ。騎士団と軍部に連絡してこいっ!」


「あやめちゃんっ」

「あいようっ! ギルドの馬車溜まりに降ろすよ!」


 あやめちゃんが、キルコゲールの遠隔操作を覚えたので、わざわざ街の外まで乗りに行かなくてすむのは、正直助かる。

 彼女は目をつぶって、空中でコンソールを操作する。


「よし、そこを曲がってと、ホバー、チェンジキルコジェット!」


 街の東の方から轟音が聞こえて、キルコジェットが飛んでくる。

 冒険者ギルドの上でジェットは速度を落とした。


「チェーンジ、キルコゲール!」


 空中でBGMを慣らしながら、キルコジェットは人型に変形していく。

 ずしん、と、地面を響かせて、キルコゲールは馬車溜まりに立った。


 パカリとコックピットが開き、シュワンッと、搭乗用ワイヤーが降りて来た。


 ミルコゲールの光球はどんどん大きくなって、天頂を目指し上昇しているようだ。


 ワイヤーに靴のつま先をのせて、コクピットまで引き上げられる。

 ハッチに乗ってコクピットの中に入る。


「計器正常、魔導値、規定範囲内、キルコゲール、起動しますっ!」


 僕は、オレンジの感覚球に手を置いて、魔力を注ぎ込んだ。


「キルコゲール、リフトオフ!」


 キルコゲールは、かっこいいポーズを取り、ゴワーーンと叫んだ。

 後光のように、魔導力が魔力に変換された光の輪がきらめく。


 とにかく、メイリンから離れないと。


「ミルコゲールの到達推定地点は?」

「共和国側の草原地帯と言ってるよ」

「キルコゲール、ジェットジャンプだ!」


 僕は、感覚球にぐいっと魔力を叩き込み、バックパックからジェットを噴出させて、空中に飛び上がった。

 そのまま放物線を描いて、メイリンの国境の壁を飛び越えて、共和国側に入った。

 ホバリングするように、共和国側のスラム地帯を抜けて、草原に着陸する。


 ドドドドドと音が近づいて、ミルコゲールの接近を伝える。


飛高ひだか~!!』


 ポッピンと通信音がして、ウインドウが開いた。

 川島君からの通信だ。


「おはよう、川島君、朝早いね」

『うるさいっ、飛高ひだか、おはよう、杜若かきつばたさん』

「おはようだよ」


 通信画面から見る限り、美浜さんも、ミルコちゃんもいないようだ。


『今日こそは、お前を倒して、パトリシアさんの洗脳を解く!!』

「「は?」」

『パトリシアさんをお前なんかに預けておけないって言ってるんだっ!』

「新聞読んでない?」

『え、この世界、新聞あるのか? 魔王城にはなかったぞ』

「と、とりあえず、パットは、その、居ない、どっか行った」

『ついに、お前に愛想をつかしたのかっ! それは吉報だっ!』

「いや、迷宮の罠で、異世界に飛ばされて……」

『な、なにーっ!!! 貴様、パトリシアさんになんて事をっ!!』

「……、いや、川島くん、あの、なんでパットの事をそんなに言うの? アリアちゃんは?」


 川島君は、アリアさんの名前を聞いて、いぶかしげな顔をした。


『アリアって、誰だ?』

「戦線で、川島君に告白してた、あの子だよ、忘れちゃったの、川島君、薄情なんだよ」

「僕は隊長として、そんな不実な奴にアリア少尉を任せられないよ」

『告白? 戦場? 何を言ってるんだ、飛高ひだかも、杜若かきつばたさんも』


 川島君は首をひねりながら、こう言った。


『俺は、戦場とかには行ってないぞ』


 なにか、おかしい。


「戦場であったことを覚えて無いのかい? 僕と闘って負けた事も?」

『え、お前と闘って負けた事は無いぞ、オッドがキルコゲールを持って暴れたので、ミルコが逆上して……』

「そんな所から……。ミルコちゃんのオートマタ体が爆発したのも?」

『……、ミルコは、ミルコは、元々、声だけ……、だぞ……。爆発とか、さよならとか、言われて、はいない』

「じゃあ、なんで泣いてるんだ?」

『え? 俺、泣いてる、あれ? これは、その、ドライアイかな? え? なんで悲しい? ミルコ、そうだよな、お前は元から声だけだよな、うん、そうだろうそうだろう』


 川島君……。

 記憶を消されてるのか?

 魔王軍、というか、鳥だな。

 鳥は、なんてひどい事を……。


「未来ちゃんの事は覚えているの? 川島くんっ!!」

『ミライ? 誰……』

「ミルコゲールのコパイロットだよ」

『ミ、ミルコゲールは、元々、俺一人で乗っていた機体だ、お前ら、怪しいことを言うのはよせよ。お、俺を担いで精神的な動揺を誘うつもりなんだな、その手は喰わないぞ、オッドが居ない今、お前達に、ミルコゲールに勝てる可能性は無いんだからなっ!』


 美浜さんの事まで、記憶を消されているのか……。

 そんなにしてまで、ミルコゲールのパイロットが欲しいのかっ。

 僕の胸に怒りが燃え上がった。

 日本人はゲールの燃料庫じゃないんだぞ。

 ふざけるなよっ。


「川島君、ミルコゲールが僕に勝てる可能性は全く無い、すぐ魔王城に帰れ」

『なんだよ、スポーツもやってないお前が、スポーツマンの俺に勝てるとでも思ってるのか?』

「だったらやってみろ」

『キルコゲールは装備がないんだろう、ミルコゲールには、ミサイルもビームも、え? ミサイル無い? ビームは性能の半分も出せない? な、なんで、前はそんな事なかったのに、なんで急に?』


 ミルコゲールは、僕らの前に着陸した。

 赤い威圧的な機体デザインだ。

 僕がもいだ左腕の接合部がおかしい。

 修理が上手くいってないのかもしれないな。


「かかってくればいい、それで解るよ」

『か、杜若かきつばたさんが乗ってると、本気が出せないよ、降ろしてこいよ、飛高ひだか、待っててやるからさ』

「ゲールシリーズは複座の機体だ、搭乗者が二人だと二倍の魔力が使える」

「川島くん、気にしなくて良いよ、あなたは、絶対にげんきくんには勝てないから」

『な、なんだよ、ちょっと傷ついちゃうよ、杜若かきつばたさん。そんなにラブラブなのかあ』

「げんきくんの事、愛してるけど、それは関係無いんだよ、少なくとも二回、川島くんはげんきくんに負けて、逃げているんだよ。そして、その時から、もっとげんきくんは強くなってるんだ」

『な、なんで、二人とも、そんなに気合い入ってるんだい? た、単なるロボ戦じゃないか、気楽に……』

「うるさい、黙れよ」


 その遊び半分の気持ちで戦場に出て、セレナさんのお兄さんを殺したのは君だ。

 そして、それもすっぱり忘れて、アリアさんの求愛も忘れて、ミルコちゃんの献身や、メリッサに堕落させられたことも、こいつはすっぱり忘れてやがる。


『な、なんだよっ、後悔するなよーっ!!』


 ミルコゲールは、足の格納部分から、ミルコソードを取り出して、切りつけてきた。

 ふぬけた動きだ。

 まったくの素人だ。


 僕は、キルコゲールの重心を下げて、一歩踏み込み、ミルコソードを持つミルコの右手を左手で押さえた。

 そのまま、右拳を固めて、思い切りのフックをミルコゲールの頭部に打ち込んだ。


 ドギャアアアアアアン!!


 会心音がして、ミルコゲールの顎が曲がった。


『なっ!! おまっ!!』


 そのまま、右肘を滑らせるようにして、額のミルコビーム発射装置にぶち当てる。


 ドガシーン!!


 ミルコビーム発射装置が煙を噴いた。


『なにっ! ミルコビーム故障? な、なんだ、飛高ひだか、お前武道をやってたのか、きたねえっ!!』

「パンゲリアに来て、覚えたんだよっ!!」

『な、なんだとっ!!』

「魔王城で引きこもっていた川島君とは、ちがうんだよっ!!」


 草原の真ん中で、キルコゲールは、一方的にミルコゲールを打撃技でぶちのめしていた。

 攻撃の起こりが解りやすいから、何をしても、対処して、反撃して、ミルコゲールを砕いていく。


 キルコゲールの素手の攻撃力が上がってる感じだな。

 これが、武道の技術というものか。


「尻尾を巻いて帰れっ!! 記憶を操作された川島君なんか、何度倒しても、倒した気にならないっ! 君が忘れた、塔に閉じ込められて泣いている女の子の事でも思って悩んでろっ!! 戦場でずっと君を待ってる、君の事が好きな女の子の事を思って悩んでろっ!! 君なんかもう、僕の敵じゃないっ!!」


 ミルコゲールは、ずたぼろになって膝をついた。


『な、なんだよ、なに言ってるんだよ、なんで、なんで、その事を責められると、こ、こんなに胸が苦しいんだよっ!! 何があったんだよっ!! 教えてくれよ、飛高ひだかっ!!』

「君はなあっ……」


 ペッポウッと着信音がして、コクピットにウインドウが開いた。

 やはり、もう一台、ゲールがいた!


『やめてください、勇者ゲンキ』

「ジャンさん」


 懐かしいジャンさんは、青い鳥を肩に乗せたまま、どこかのコクピットにいた。

 遠い地平線近くに、機影がぼんやりと小さく浮かんでいる。


 彼は、秘匿通信のボタンを指さしている。

 僕は、彼と秘匿通信に入った。


『あなたは勘違いをしているよ。洗脳したわけじゃあないんだ』

「どういうことなの、鳥さん、それとも諜報王と呼ぶかい?」

『彼は戦場に行った時点でメリッサに取り付かれていた、そして、メリッサゲールを操縦した。そのダメージを消すために、記憶を消したんだ。操るためじゃあないよ』

「僕が、ああ、そうですかと納得するとでも?」

『記憶を操作して、操れるならば、ミハマミライにやるさ、彼女が出てないという事が証拠にならないかね?』


 遠い機体が近づいてくる。

 飛行型のミルコゲールに比べると、飛行速力が遅いようだ。


『彼は発狂の危険、というよりも魔王城に帰還した時には、もう、発狂していてね。それを何とかするために、やむを得ず魔法で記憶操作したんだ。そして、今日は、僕の前座として、メイリンに進撃を許可したんだけどね、まあ、飛行特化型のゲールの早いこと早いこと、僕の誤算だったよ』

「主役はあなたなのかい?」

『いや、僕じゃない、僕の乗るこの機体……』


 あやめちゃんが、カメラを望遠に切り替えて息を飲んだ。


 真っ黒な機体。

 マントを着ているようなジェット噴射穴。

 僕は、この機体を知っている。

 この機体は、魔導王の搭乗機……。


『ガランゲールが君の相手だ』


 そう言うと、ジャンさんは、にやりと笑った。


【次回予告】

記憶の無い川島などは前座にもならなかった。

そして、現れる、超魔導王朝時代の世界を壊し尽くした最強の機体。

げんきは、凶悪な敵と、どう戦い抜くのか!


なろう連載:オッドちゃん(略

次回 第345話

最凶の機体、その名は、ガランゲール


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