344. 眠れない夜は星を見る
行水をしてサッパリしてから、ダディへの手紙の続きを書いた。
だいたいの概要を書いたら、魔法用紙に十枚ぐらいになったよ。
綺麗な便箋に緊張しながら万年筆を滑らせていく。
誤字は許されない。
ハアハア言いつつ書く。
ちょっと字もよれる。
二三枚書き直したが、やっと手紙が完成した。
封筒に入れて、封蝋と垂らす。
たらーり。
ある程度の量が落ちたら、シグネットリングのヘッドを押しつけて、封蝋する。
「できたー」
「おめでとう、げんきくん!」
手書きは、心にきつい。
すごく緊張するのであるよ。
「もう一通書かねばならない」
「どこ宛ての手紙?」
「獣人連合国、ライオン大統領あて」
「たしか、ライオン大統領という名前じゃなかったんだよ」
「ゲーリングとか、ゲゲリアンとか、なんか、そんな名前だったね」
「何を書くの?」
「オッドちゃんが、そちらの国に逃げ込みましたので、諜報網を駆使して見つけてくださいって」
「書こうぞ、げんきくんっ!」
あやめちゃんの全面協力で、ライオン大統領宛の手紙を書き終わった。
やれやれ、つかれました。
これも、封筒に入れて、蝋を垂らして、封蝋!
よし、よし、綺麗に印璽できた。
まったくすばらしい。
日本にもシグネットリングを持ち帰り、ときどき、あやめちゃんと文通をしよう。
そうしよう。
パンゲリアに日本から郵便が送れればなあ。
帰ってからも、いろいろ楽しいのに。
さて、ずいぶんな時間になったので寝よう寝よう。
僕はソファーをベットに変形させて、パジャマに着替えた。
あやめちゃんが、毛布と枕を持って来てくれた。
「おやすみ、あやめちゃん」
「おやすみ、げんきくん」
「おやすみなさーい」
魔法灯が消されると、あたりはシンと静寂に包まれる。
今日は風が強いのか、馬車溜まりの木がざわざわと鳴る音がする。
遠くで犬が鳴いている。
ワンワン。
ワンワン。
ソファーベットで、ごろりごろりと寝返りをうつ。
体を起こして、ぽんぽんと枕をはたいて形を整える。
うーむうーむ。
寝苦しい。
結局オッドちゃんは帰ってこなかった。
新聞を読んでないという事は無かろう。
という事は、帰る気が無いという事だ。
もう、僕ら二人は、オッドちゃんに見捨てられたという事だ。
認めたく無いけど、確定のようだ。
勝手にパンゲリアに連れてきて、そして、帰るすべも無い僕らを見捨てて逃げたんだ。
街を守るとか、僕らを危険から離しておきたいとか、言い訳は考えられるけど、本当の所は……。
オッドちゃんは、リーフに真っ直ぐ向き合えなかっただけなんだろう。
子どもみたいな人だからなあ。
悲しいな。
目を閉じて、鬱々と考えて行くと、どんどん考えが暗い方に向かう。
悲しくて苦しい方へと、考えが流れていく。
どんどんオッドちゃんが嫌いになっていく。
オッドちゃんの駄目な所、嫌なところを、一つ一つ頭の中であげていく。
彼女は、とにかく考えるという事をしない、思いついた事をそのままやらかしてしまう。
オッドちゃんの属性は、静止なのかもしれないな。
どれだけ経験を積んでも、どうも、欠点が治ったようには見えない。
僕といると、ある程度良い選択ができるようになったのは、どうも、僕との付き合い方を学習しただけの話で、成長したわけでは無い気がする。
オッドちゃんは知識を増やせる。
でも、心も体も成長しない。
毒が効かないのも,物理攻撃を受け付けないのも、肉体に変化を起こさないという原則のような気がする。
いくらお菓子を食べても太らない。
たぶん、まったく食べなくても、痩せない気がする。
これは、まともな生き物では無いよなあ。
生物の基本は、変化することだ。
オッドちゃんは、肉体が変化しない。
心も変化しない。
知識だけは増える。
記憶は魂に刻まれるからなのかな。
そんな生き物はいない。
そんな事が出来る存在は、ただ一つ。
神だろう。
基本的に精神体なのか、肉体が保護されているのか。
神さま達は、魔導王とその妹へ、上の世界へ来なさいと誘ったらしい。
魔導王は断ったそうだ。
地上に神がいて、ふやけたメンタルでうろうろして、面倒を引き起こしまくる。
それが、オッドちゃんと、魔王なんだろう。
魔導王と妹は、たぶん、バスターランチャーの爆発に巻き込まれて塵になったんだろう。
そして、一万年の時間をかけて、肉体が再生されて、時間が凍結された。
記憶は飛んだんだよな。
バスターランチャーの破壊力なら、魂ごと神を破壊できるのか?
バスターランチャーってさ、核だよね。
あまり、あやめちゃんも、そっちの方に突っ込まないようにしてるけど。
魔術核というべき物だね。
物質をエネルギーに変える魔術式なんだろう。
魂と肉体。
神と人間。
神さまが、肉体を持って、地上をふらふら歩いて、なんだかワガママな事を言いつつ、馬鹿な事件を引き起こしまくったら、当然、浮くよね。
オッドちゃんが世界一のボッチなのは、そのせいなんだろう。
超高い能力を持っていたら、人格も超高くないと、人々は納得しないのだろう。
ふう。
眠れない。
とりとめも無い考えが、あぶくのように浮かんでは消える。
僕はため息をついて起き上がり、魔法袋を持って馬車の外に出た。
魔法袋から、外用の椅子を出して座った。
空を見上げる。
満天の星空が広がる。
地球の星座とは違う星々。
この星達の中に、居住可能な惑星があって、他の人々、他の世界もあるのかな。
というか、地球がどこかにあるのかもしれない。
上を向いて、ずっと星を眺めていた。
馬車のドアが開いて、あやめちゃんが出て来た。
「げんきくん、眠れないの?」
「うん、あやめちゃんも?」
「うん、オッドちゃんと、パットの事ばかり考えるんだ」
「僕も」
僕は魔法袋から、椅子をもう一脚出して、地面においた。
あやめちゃんが、静かにそこへ座った。
「星をみていたの?」
「うん、凄く綺麗だから。どこかに地球があるのかも、とか考えたんだ」
「ここが、太古の地球じゃないのかな?」
「パラレルワールドじゃなくて、時間旅行だったと思うの?」
「証拠は何もないから、なんとなくだけどね」
何時か、地球の太古の地層から、僕らがいた証拠が見つかるのかもね。
猫兜とか。
あやめちゃんが、椅子を動かして、そっと僕によりそってきた。
僕は黙って、あやめちゃんの手の平に、僕の手の平をのせた。
星が綺麗だなあ。
「あれがベガ、アルタイル~♪」
「ベガもアルタイルも無いですからっ、白鳥座も、サソリ座もありません」
「いや、なんとなくなんだよ」
あやめちゃんが、はにかむように微笑んだ。
ああ、そういえば、その歌のアニメでも、草原で主人公とヒロインが星を見上げるシーンがあったな。
「また、旅が始まるね、げんきくん」
「うん、今度は、オッドちゃん捜しの旅だ」
「二人きりなんだよ……」
「うん」
「獣人連合国に行って、博物館で聖護拳を借りて、猫装備を探して……、でも、やっぱり、みんなで旅したほうが楽しそうだよ」
「僕も、そう、思うよ……」
僕らの旅には、オッドちゃんが居るべきで、パットが居るべきだ、そして、エルザさんも、リターナーさんも必要なんだ。
僕らは、わいわい騒いだり喧嘩したりして、旅をすべきだ。
夜がふけていく。
僕らは、手をつないで、お互いの体温を感じあいながら、いつまでも星を見上げていた。
で、眠くなったので、馬車に戻って寝たのである。
【次回予告】
そして、ついに奴が飛来する。
オッドの居ない今、げんきは川島に勝つことができるのか?
そして、彼のつじつまの合わない言動とは?
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第345話
ミルコゲールの飛来、だが、言ってる事が変




