343. ガーリング印璽(いんじ)店で勇者二人の印璽指輪を作る
図書館の裏手に、ひっそりとガーリング印璽店はあった。
薄暗い店内に入ると、頑固そうなドワーフの親父さんがこちらをジロリと睨んだ。
「ここは、高級店だ、おめえさんたちにお似合いな印璽は上廻り横路でも行きな」
僕は無言で、コロンダインのおばさんが書いてくれた紹介状を出した。
「なになに、え? 勇者? まさか、あんたら、勇者ゲンキと勇者アヤメなのかいっ!!」
「そうです」
「そうなんだよ」
「こいつは失礼した、駆け出しの冒険者が迷い込んで来たと思っちまってよ。かんべんしてくれ」
「印璽作って貰えますか?」
「おう、勇者ってんなら、お偉いさんにも手紙を出す機会が多いだろうさ。喜んで作らせてもらうぜ」
というか、ドワーフさんは、おやっさん互換で、キャラが一緒だよなあ。
巻き毛のおやっさん17号だ。
「印璽屋のガーリングだ、メイリン一の印璽師だぜ。よろしくな」
「勇者げんきです」
「勇者あやめです」
ガーリングのおやっさんは、カウンターに、棒のような物と、大ぶりの指輪のような物を出した。
「まずは、シーリグスタンプか、シグネットリングか、どっちか選びな。印璽の台になるもんだ」
「どんな特徴があるんですか」
「シーリングスタンプは棒だ。棒だからしっかりと押せる。シグネットリングは指輪だ、指輪だから指にはめて携帯が便利だ」
うーん、どっちにしようかな。
「わたしはリングなんだよ」
「僕もリングにしようかな」
「ちょっと、押すのが難しいが、まあ慣れればどうってこたあねえよ。印章は?」
「僕らは異世界人なので、家紋みたいな物は無いんですよ」
「ふむ、あんたらの名前はどういう意味なんだい?」
「げんきは快活で活気があるという意味です」
「あやめはお花の名前だよ」
「ねえちゃんの方の印章は決まった、その花描けるかい?」
「描けるんだよ」
あやめちゃんは、魔法紙の上に、くるくると達者な菖蒲の花の絵を描いた。
「うめえな、これでいこう。兄ちゃんの名前は抽象的だな、名字の意味は?」
「飛高、高く飛ぶって意味ですね」
「じゃ、鳥だ、ここから好きな印章を選びな」
ガーリングさんは、分厚い意匠集の本を渡して来た。
開くと、中には鳥の意匠がいっぱい載っていた。
これは、ペリカンみたいな水鳥だなあ、ちがうなあ、カモメっぽい鳥も違う気がする。
あ、これだ、なんかトンビみたいな、猛禽っぽい鳥が空を飛んでる絵。
「おう、縁起が良い意匠を選ぶな、タタラン鳥って言って、諸王国の山の方にいる吉鳥だぜ」
あやめちゃんが、ほうほう言いながら、意匠集を見ていた。
「一刻ぐらいで彫ってやるから、買い物でもしてこい」
そう言うと、ガーリングさんはリングを彫刻し始めた。
カンカンとリズミカルな音が店に鳴り響いた。
僕らは店を出た。
「ドワーフの人は、みんなキャラが一緒なんだよ」
「うふふ、そうですよねー」
「晩ご飯のお買い物に行こう」
僕らは上廻り横路をぐるっと一周して、お買い物をした。
とはいえ、三人なので、そんなに沢山はいらない。
だいたい一刻ぐらいたった。
だんだん夕暮れになってきたな。
ガーリングさんのお店に行くと、おやっさんが満面の笑みで出迎えた。
「おう、出来たぜ、大事にしてくんな」
金の大ぶりなリングのヘッドに赤い宝石がはまっていて、そこに、タタラン鳥が羽ばたいていた。
おー、凄い。
「ヘッドはガーネットだ。王様に出しても恥ずかしくねえ出来だよ」
「お幾らですか?」
「一本、十万グースだが、まあ、勘違いして失礼な口をきいちまったから、五万でいいぜ」
「悪いですよ、十万払います」
「ええー、だめだめっ、男が一度値段を口にしたら、上げられねえのっ、姉ちゃんの分と合わせて十万」
「わるいんだよー」
「気にするねえっ、勇者なんだからよう。おっちゃんの気持ち気持ち」
すいませんと、頭を下げながら、僕はお財布から金貨を十枚、十万グースを払った。
なんか悪いね。
「大事にしてくれよ、そして、王様とか、皇帝に、せっせと手紙を書いてくれ」
「はい、がんばります」
というか、そんなに筆まめではないのだけどね。
シグネットリングを指にはめて……。
「どの指にはめるんですか?」
「薬指だ。あんまキチキチにはめるなよ、外して印を押す関係で、ちょっとゆるめが良い」
おやっさんは、僕とあやめちゃんのシグネットリングを調整してくれた。
なんか、ちょっと格好いいな。
ガーリングさんにお礼を言って、僕らはお店を後にした。
「パンゲリアで郵便を出す時は、どこに行くの?」
「塔路に郵便局がありますよ。竜行便と、陸行便と、船便があって、それぞれお値段が違います」
「切手とか、あるのかな?」
「キッテ? 普通にお金を払うとスタンプを押してくれて、郵送されますよ」
「切手はないようなんだよ。コレクション出来ないんだね」
文具のお店コロンダインに戻ると、おばさんが、沢山のレターセットを出してくれていた。
「印璽は、できたようね、まあ、素晴らしい出来だわ、ガーリングさん気合い入れたわね」
おばさんは、僕らのシグネットリングを見て、ほれぼれとした顔で、そう言った。
パンゲリアのお手紙の常識が解らないので、王族用の特に高級な物と、友達に出す普段使いの物を幾つか買った。
筆記用具は、万年筆を買った。
どうも地球産の技術で出来た物らしく、使い方も同じようだ。
金のペン先の、とても良い物らしい。
ニ万グースぐらいした。
あやめちゃんも、お花の柄の可愛い万年筆を買っていた。
おばさんに、ありがとうと礼を言って、僕らはお店を出た。
「これで、お手紙が書けるんだよ」
「日本語で書いて、ダディは読めるのかな?」
「読める、と、思うんだよ。わたしも、パンゲリアの本は普通に読めるしね」
あ、そうか、共通言語だから、なんか違う文字でも読めるんだよね。
なんとも、おファンタジーな事だね。
僕らは、馬車に戻った。
さっそく、セシリアちゃんは寝かしていたパン生地をオーブンに入れ、買ってきた食材を調理し始めた。
僕は、テーブルで、ダディへの手紙の下書きである。
魔法紙に、事の顛末をきっちりと書いていく。
うーむ、ワープロソフトが欲しい。
誤字脱字が多い。
なかなか手書きで文章を書く習慣がないから、なんか変な感じだ。
それでも、なんか書いているうちに、乗って来て、すらすら文章が出てくるようになった。
うん。
でも、あの事件を脳裏でふり返るのは、なかなかきつい。
なにか、やりようはあったのではないか。
罠の事を知っていたのに、引っかかってしまった。
事態を甘く見ていた僕の責任だよな。
ぐぬぬ、パットも探しに行かないと。
異世界。
僕らの世界に行ってるのだろうか。
でも、どの時代の、どこへ?
江戸時代とかだったら困るな、過去には僕らは飛べない訳だし。
遠未来も困る。
未来世界なんか、異世界とほとんど変わらない上に、元の世界に帰る事が出来なくなってしまう。
あやめちゃんが、よこから文章を見ていて、誤字とか、表現がおかしい所に書き込みをしてくれていた。
「あ、ありがとう」
「いえいえ、ダディとぼんぼんに出す手紙だから、チームの手紙みたいなものでごわす」
「それもそうだね」
「ご飯ですよ-、机の上を片付けてくださいー」
おっと、夢中になって書いていたら、時間がたっていたようだ。
続きはご飯をたべてからにしよう。
今日の献立は、焼きたてのミニパリムに、ビーフステーキ、ポタージュ系のスープにサラダであった。
お肉はハッサンに行ったら、ドランク・ガイのお兄さんに、良い所があるぜと、売りつけられた物だった。
もの凄く美味しいお肉である。
パリムも美味しいし、スープも美味しい。
美味しいご飯を食べるのは幸せだなあ。
オッドちゃん、ご飯、ちゃんと食べているかな……。
【次回予告】
ついにタイムリミットまで、オッドは帰ってこなかった。
げんきは不安で眠れない。
馬車をでて、星をみあげる彼に、あやめは寄り添うのであった。
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第344話
眠れない夜は星を見る




