32. 女教皇エリス猊下
『誰が、お母さんですかっ!』
教皇と呼ばれていた、銀に金ラインの機体が、びゅんと三番機に近づいて、回し蹴りを食らわせた。
『ぎゃふんっ!』
飛んで行って、倒れた三番機を見て、野次馬も僕も大笑い。
ぎゃふんと言って倒れる人を初めて見た。
一番機と二番機が、慌てて助けに行っていた。
『失礼しました、あの手の笑える失敗は突っ込んであげないと、可哀想ですからね』
そう言って、指揮官機は僕に向かって頭を下げる。
指揮官機の頭がどんどん下がって、ばっっふううん、と音がして、頭部と肩が胸の所まで折れ、後ろの割れた所から、人が出てきた。
ああ、魔導機ってそうやって背中から乗り降りするのね。
「聖堂都市ミシンガルドの長であり、ミシリア教の教皇、エリス・レストマンともうします、お見知りおきを、勇者ゲンキ」
「いえ、こちらこそよろしくおねがいします」
僕は日本人らしくお辞儀につぐ、お辞儀。
教皇と言っても、結構若い感じのお姉さんで、体にピチッと張りついたパイロットスーツでオパーイが凄い。
銀色の長い髪を無造作に左右に流していて、なんだか、ジャンヌって感じの人だ。
目の色は青っぽい緑色。なんとなくクール系、おしとやか美人お姉さんだ。
「話に行き違いがあったようですね。粗忽者のビアトーン三兄弟が失礼いたしました。オッドさんと仲間の皆さんを連れてきてください、という連絡が、どこかで、逮捕連行するようにとの事になってしまったようです」
「そうだったのですか、オッド師は、今、この車の中にいるような居ないような、不確定な存在ですが、そちらに害意が無いなら、ほっとしている事でしょう」
「ふふふっ、オッド師は、シュレーディンガーの猫なのですか」
「ご存じですか?」
「異世界から来たお客さんは、そのお話しが好きですね。何人かに聞きましたわ」
まあ、異世界に来るのはオタクな人が多いんだろうなあ。
「われわれ聖堂都市は、あなたがた魔王討伐隊を歓迎いたします。是非、わが大聖堂に御逗留くださいませ」
そう言って、エリス猊下は綺麗にお辞儀をした。
ふう、どうなることかと思ったよ。
「不確定な猫を外に出してもよろしいですか」
「ええ、構いませんよ、オッド師は困りますが、猫さん、ならば何ら問題はありません」
よし、なんとかなりそうだ。
あやめちゃんに、東門前の空き地にキルコタンクを廻してもらって、みんなで降りた。
「にゃあああああ」
「猫さんは、その調子でよろしく」
「嫌よ」
「初めまして、猫さん」
パイロットスーツの上にローブをまとって、なんか神聖な感じになったエリス猊下がオッドちゃんに優しく微笑みかける。
そんなイラッとした顔をするのはやめようよ、オッドちゃん。
「では、こちらへどうぞ」
エリス猊下に先導されて、僕らは聖堂都市ミシンガルドの中に入る。
宗教の都市だからか、どこもかしこもピカピカで、ちり一つ落ちてない感じ。
東門からの大通りは、お土産物屋さんや、軽食の店なんかが並んで、にぎわっている。
大通りをまっすぐ行くと、白い大きなドームがあって、あそこが大聖堂らしい。
綺麗なお花や、街路樹とかも沢山あって、なかなか清々(すがすが)しい雰囲気の街だ。
「ミシリア教の街なんですよね、どんな信仰なんですか」
「そうですね、六千年前に、この地に、慈愛の女神ミシリアさまがご降臨なされて興った宗教ですよ」
「神様が降りてきたんですか? 実際に」
「ええ、そう伝えられています、今でも、ミシリア様はパンゲリア大陸のどこかにいらっしゃると聞きますね」
「神様いるんですか!」
「うふふ、高次の存在が降りてくるのは、この世界ではそんなに珍しいことでは無いのです」
「見た事あるわよ、ミシリア。主にリゾート地を中心にブラブラ遊んでるのよ、あいつ」
「ほほほ、気さくな神様で有名ですの。この猫さんも地方では神様と扱われる事もありますよ」
「オッド教徒はウザイので、見つけ次第ぶっとばす事にしてるわ」
まあ、千年も生きていれば、神様扱いも解らなくもないか。
でも、信徒さんはもっと大切にしようよ。
オッド神は、ぼっちの守り神になってしまうよ。
「なんか、今、凄い嫌な信仰心を感じたわ」
しかし、人が多いな、街の掲示板を見ると、毎月のようにお祭りをやっている街のようだ。
獣人の人が多いな、獣人連合国に近いからかな。
お、エルフ発見、あの耳が尖った人はエルフだよね、綺麗だし、うおー。
「あやめちゃん、エルフエルフ」
「おー、人生初エルフだよ、なんかテンションあがるね、げんきくん」
綺麗なエルフのおねえさんは、こちらを見て苦笑いをした。
ごめんなさいね。
ハーフリングとか、ドワーフはどこだーっ。
侵略されかけの亜人共和国にも近いから、亜人さんも沢山いるのだろうなあ。
「亜人の方は、大部分が戦争で避難してきたんですよ、難民キャンプが西門の外にあります。本当に困った事です」
戦争の影響なんだなあ。
故郷を追われて、不自由な生活をしているのだろう。
魔王軍も平和の為に、みんなと仲良くしろよう。
地図を見ると、魔王領は北の方で寒いから、暖かい土地が欲しいんだろうね。
などと考えていたら大聖堂に着いた。
ふわっとした緩い女神さまの聖堂なのに、馬鹿でかい、東京ドームぐらいあるぞ。
儲かっているんだなあ。
ミシリア様は、慈愛の神様だから、地球で言うと、マリア様か、観音様だね。
大聖堂の中に入る。
中は吹き抜けのどでかいホールになっていて、座席が一杯。
ホールの所々に、ありがたい感じの女神像が立っている。
コンサート会場みたいな感じだけど、やるのは説教とか講話なんだろうね。
大聖堂の外周の回廊を歩いていく、信者の人や、尼さんたちが、はんなりとエリス猊下にご挨拶をしていく。
ごきげんよう。
不思議なお香の匂いとともに、勤行だろうか、なにかの聖句を唱える低い声が下の方から聞こえる。
地下祈祷所なのかな?
「大聖堂の北東側は、巡礼の方のための宿坊になっていますのよ。サリア、お客様です、最上階にお部屋をおねがいしますね」
「はい教皇さま、承りました。いらっしゃいませ、ミシリア大聖堂宿坊へようこそ」
うおおおお、サリアさん、狐耳、狐耳仲居さんっ!
尻尾、尻尾、ふわふわ黄色尻尾!
すげえ、すげえ異世界っぽい。
「にゃああっ」
僕が狐耳サリアさんに見とれていると、偽猫大魔導が僕に体当たりしてきおった。
だまれ、パチ物は大人しくしているんだっ。
「あやめ、異世界の殿方は、その、獣人が大好きなのか?」
「わたしも、大好きで、ごわっしょいっ!」
びゅっと、あやめちゃんがサリアさんに飛びかかるように近づいて、もの凄いテンションで話しかけた。
あやめちゃんは、かわいいものとふわふわな物に、目が無いのだ。
「あのあのあのっ」
「はい?」
うわ、それはガン見、狐耳を中心に、耳、尻尾、耳、尻尾、耳、耳と、あやめちゃんはサリアさんを見回している。
「あのあのあの、耳とか尻尾とか、その、モフモフして良いですかっ! 良いですよね! お願いしますっ! お願いします!」
「ひいっ」
サリアさんはどん引きして、ぱっと耳を手で隠した。
教皇猊下が、サリアさんを守るように、あやめちゃんの前に立ち塞がる。
「はいはい、やめて下さいね、アヤメさん、獣人の人は他人に体を触られるのを嫌がるのです、ご遠慮してください」
「えーっ」
「さあ、いくぞ、アヤメ」
「えーっ」
不満そうなあやめちゃんはパットに引きずられていった。
「ふんばるな、アヤメッ!!」
「えーーっ」
【次回予告】
教皇猊下が案内する大聖堂の地下には一体どんな秘密が眠るのかっ!
キルコゲールの武具を求め、ゲンキたちは宝物庫に潜りはじめるっ!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第33話
大聖堂の最上階から、地下宝物庫へ




