30. 初めての居眠り運転
眠い~、ちっきしょ~、眠い~。
眠さ全開のまま、タンクを走らせる。
ゴトゴト。
眠い~
「我が君、少しタンクを止めて、仮眠してはいかがか」
パットが頭上のくつろぎ空間から身を乗り出して、僕に声を掛けてきた。
『そうもいかないよ』
僕は、早く日本に帰りたいんだよっ!
「あ、うんうん……。げんきくん、キル君が運転替わるって言ってるよ」
「え、何それ、自動運転?」
「何かあったら警報で起こすから、寝てて良いって言ってるんだよ」
なんだよっ! そんな良い機能があるなら早く使ってよ、キルコの中の人っ!
「助かります、おねがいしますね、キルコさん」
「……、解りました、って言ってる。おやすみなさい、げんきさん、ですって」
キルコさんは気配りするなあ。
頭が下がります。
もう、限界……。
ぐう……。
…。
……。
…………。
夢を見ていた。
なんか凄く怖い夢だ。
夢の中で僕は誰にも負けない凄い男の子になっていた。
凄く強くて、魔法も使えて、この世界で勝負になるのは、同じ存在の妹だけだった。
軍を指揮して、街を富ませ、みんなの笑顔を見ながら、僕はがんばった。
がんばってがんばって、国は大きくなり、大陸統一も目前だった。
そんな快進撃が、千年にわたって続き、僕はついに飽きてしまった。
なんだかどうでもよくなった。
誰に勝っても当たり前だし、誰かの笑顔を見ても、心が浮きたつ事も無くなっていた。
妹だけが、僕に優しい言葉を掛けてくれる。
他の人間は、みんな、僕を恐れて、おべんちゃらを言ってるだけだって、なんとなく解った。
信頼する将軍も、宰相も、心の底では、僕を恐れている。
好きになった女の子は、女の人に成長し、おばさんになる前に、いつまでも子供姿の僕の前から姿を消した。
「いいんだ、死ぬまで君のことが好きなんだから、老いる事を恥じなくていいんだよ」
涙をこぼしながらの僕の言葉は、誰も居なくなった豪華な部屋に虚ろに響いた。
ああ、何もすることがない。
何をしても嬉しく無い。
僕は、僕は……。
…………。
……。
…。
バンバンと頭を叩かれて目が覚めた。
「ゲンキ、起きなさい」
さらにバンバンと頭が叩かれる。
「んー、もー、叩かないでよオッドちゃん、どうしたの?」
「お昼よ」
ふう、三時間ほど寝て、結構すっきりした。
なんか変な夢を見ていたみたいだけど、オッドちゃんに、はたかれてすっかり忘れた。
窓の外を見ると、どこかの街だ。
キルコの地図ウインドウを見てみると、あれ、デリダの街じゃなくて、その先のプーシン村だ。
「あれ、デリダの街は、迂回したの?」
「勝手にジェットになって、飛び越してたわよ」
「ジェットに変形したの? パットたちは?」
「街の近くで警報がなったので、察してライサンダーに乗って飛び降りたのですよ、我が君」
くつろぎ空間から、パットが顔を出してそう言った。
「それはそれは、キルコさんありがとう」
どういたしまして、とばかりに、トラックボール的なデバイスがピカピカと点滅した。
いつもすいませんねえ。
あやめちゃんも操縦パネルに突っ伏して寝ていた。
寝顔が可愛い。
顔がにへらとなって眺めていると、駄大魔導に頬をつねられた。
痛いです。
プーシン村でお昼休憩。
みんなでタンクを降りて、村に入る。
村の真ん中を往還が突っ切っている感じの宿場の村で、村門は無く、ギルドカードの出番もまた無かった。
村の宿屋でお昼ご飯を食べる。
この村の特産は、目の前の池でとれるナマズっぽい魚らしい。
その魚とマカロニっぽい物を入れて、チーズを乗せて熱々に焼いたグラタンが、今日のお昼ご飯だ。
熱々。
ナマズっぽいので泥臭いのかと思ったら、そんな事は無くて、白身魚というよりも、ああ、これはウナギっぽい味で、油も乗っていて凄く美味しい。
というか、この世界、どこも料理が美味しいなあ。
僕は、食いしん坊バンザイの世界に転移してきたのではあるまいな。
食後は、ちょっとかび臭いような味のお茶を飲みながら休憩。
プーアール茶っぽいな。
「今日の予定はどんな感じ」
「夕方までには、聖堂都市ミシンガルドにつくけれど、どうしましょうね」
「なにか問題でもあるのかな?」
「ふむ、ある宗教の大本山の街なのだ、いろいろと小うるさい。特に大罪人が仲間にいるとなると」
「大罪人じゃないわよっ、失敬ね。あんな偏屈都市とばしても良いけれど、夜に国境越えは避けたいわね」
「国境って、諸王国連邦を抜けるの?」
「いえ、連邦内で、ステイル王国を抜けて、タリス公国に入るのよ。連邦内だから通貨も共通よ」
ふむ、諸国連邦ってEUみたいな感じになってるのかな。
「他国って訳じゃ無いけど、一応、国境の関所で審査があるわ。ま、ギルドカード見せれば通れるのだけどね」
「タンクの大きさの物、通れるの?」
「い、行ってみないとわからないわ」
まあ、門が通れなくても、ジェットで飛び越せるしね。
お茶を飲みながら、進行方向の遠くの山を見つめる。
なんか、アルプスみたいな、やみくもに大きい山脈があるな。
「タリス公国は山国なんですよ、結構な難所であるルベル峠を抜けて、降りるとメイリン街道に接続します」
まあ、難所の峠もキルコタンクならば、なんの問題も無いでしょう。
ずずず。
これは後引くお茶の味だな。
結局ミシンガルドで一泊することになり、僕らはタンクに乗り込んだ。
村を突っ切っている街道の幅が広かったので、そのままタンクを乗り入れる。
途中、あやめちゃんにタンクの操縦を替わってもらって、パットに馬の乗り方を教えて貰ったりした。
ライサンダーは大人しくて乗りやすい。
パカランパカランとキルコタンクと併走してみたり、追い越してみたり。
乗馬、超楽しい。
「なかなか筋がいいですよ、我が君」
「あはは、そうかいー」
『次は私もライサンダーさんに乗りたいよ。パットちゃん教えてね』
「解った、後で我が主と替わってもらってくれ」
『わたしも乗りたいわ』
「おめーは駄目だ、オッド」
パットとオッドちゃんは、仲悪いなあ。
余談だが、ライサンダーを走らせるのは、彼の健康の為でもあるのだ。
馬というのは自重が重いので、寝転んだままだと、鬱血して立てなくなってしまうらしい。
だいたい、四時間に一回ぐらいは立って運動をしないといけないらしい。
ちなみに、馬は立ったままでも眠れる模様。
そんなこんなで夕暮れ近くに、僕らはミシンガルドについた。
そして、東門の前で、大きな槍を持った銀色に輝く搭乗型ゴーレム三機に、キルコタンクが囲まれた。
「教皇様の名の下に、神妙にお縄につけっ! 不可触の大魔女め!!」
「くそ、聖堂騎士団の魔導機隊かっ!」
あれっ、この世界、キルコゲールの他にもロボが居るじゃん。
【次回予告】
意外! この世界には、キルコゲール以外にもロボが有った!
小型搭乗ゴーレム魔導機、三機の猛襲に、抗え、げんきっ、勇気を燃やせっ!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第31話
ミシンガルドの魔導機騎士




