29. 初めての異世界領地内政コンサルタント
「だから、結局、年間で一番の出費は、治水工事なんですね」
「そうそう、シダリナ河は、結構な暴れ川でさあ、毎年、結構かかるなあ。かといって流域の領主達の手前、手を抜くわけにはいかないしよお」
僕は子爵に聞いた領地の問題点を紙にピックアップしていく。
問題解決は考えないで、どんどん、困ってる所、改善したいと思っている所、こうしたいと思っている所を書いていく。
あやめちゃんがキルコタンクから、小型の机と折りたたみ椅子を持ってきてくれて、僕らはそれに座って議論を重ねていく。
兵士さん達は暇そうにあくびをしている。
オッドちゃんはとっととタンクに戻って、寝こけているっぽい。
「やっぱり、思うに産業なんだよ、子爵さんの所の名産品を伸ばして、販売益をあげるんだよ」
「名産ってもよ、何にも……。そういや東の村で絹の生産に成功したって聞いたけど、資金援助を断っちまったんだよな。あれは金出した方が、いいのかアヤメ?」
「首都での絹製品の需要しだいかなあ。でも贅沢品は単価が高いから利益が大きいし、有りと言えば有りよね。子爵さんが自ら視察に行って判断するべきだよ」
あやめちゃんがロクロを回す手つきでイノベーションでアーキテクチャを主張する。
彼女も異世界転生、内政物のWEB小説は大好きなので、子爵を唸らせるような良いアイデアがぽんぽん出る。
転移日本人に内政Tueeをやられすぎた世界とはいえ、ちゃんと腰をすえて話を聞くと、改善すべき点は結構出てくる。
「あと、領地の人が、子爵に懐かないのも無理はないと思うんだ、やっぱ、上に立つ物は結果を出してナンボじゃない、結果も出してない奴に威張られたら、それは、むかつくと思うな」
「ああ、ゲンキの言うとおりかもしれねえ。どっか俺は平民に甘えた部分があったのかもなあ。上がやらなきゃ、下もやらないか、良い言葉だな」
そう言うと子爵は素直に頭を掻いた。
なんだ、普通に話したら、そんなに悪い奴じゃないじゃん。
子爵と僕とあやめちゃんで、朝まで生コンサルをやった。
肩にずっしりと疲労感が残るが、なにかをやり遂げたという達成感で心は爽快だ。
問題を洗い出し、それに対する答えを探し、提案する。
全部の問題に対して答えは出なかったけど、それでも子爵は晴れ晴れとした顔をしていた。
「ゲンキ、ありがとうな、ほんとうに。これだけあれば、なんとか俺でも領地を立て直せそうだよ」
「全部の答えが出せなかったのが、くやしいね」
「いやいや、大丈夫だ、問題が解れば、時間を掛けてゆっくり対応すれば何とかなりそうだ。本当に嬉しいよ。こんなに真面目に俺の話を聞いてくれた奴は初めてだ」
「奉行とか代官とか居ないのかい? 宰相的な爺さん家臣とか」
「親父から付けて貰った文官が居たんだけどさ、やっぱ俺の事を子供の頃から知ってる爺さんじゃん、本家のやり方を守らせようとするばっかりでなあ。うるせえ小言ばっか言うんで喧嘩しちまって」
「それは仲直りしようよ」
「そうだな、俺の了見が小さかったって今になると解るよ。爺さんにも協力してもらわないとな」
「領地の全部の人の力を集めると、きっと良い土地になると思うんだよ。頑張って子爵さん」
「おう、ゲンキとアヤメが教えてくれた方法で、頑張ってやって見るよ。ありがとうな」
ピエール・リガンテン子爵はそう言って、僕とあやめちゃんの手を取った。
がっしりと三人で握手を交わす。
東のリンケン山に太陽が昇り始めた。
「というか、なんでお前は、我が父の庇護に入らんのだ、隣の領地なのに」
眠そうなパットが、子爵へ、ぼそりとつぶやいた。
「え、ああ、派閥が違うし、なにより、お前の父ちゃん怖いじゃんよ」
「そんな馬鹿な事で、授爵後の挨拶にも来なかったのか」
「あ、うん、まあ、ケンリントン城に敵対派閥の人間が泊まると、暗殺されるって噂もあったしさ。事実、最近二回あった訳だしな」
百年に二回の暗殺を行ったのは、ダディ本人かよっ!
「馬鹿だなあ、早く父上の元に挨拶に行け、秋に失敬な子爵めを攻め滅ぼしてやる、とか言っていたぞ」
「げえっ、マジかよ!!」
ダ、ダディ……。
い、意外に武闘派だったのね。
「まあ、お前は、我が君と友誼を結んだのだから、特別に私から父上に、取りなしの手紙を出してやっても構わないぞ」
「そりゃあ、助かる、お願いでき……。いや、そうじゃねえな。そういうのは俺はやめるって決めたんだな。俺の不始末は俺がけじめを付けないと、ゲンキとアヤメの友達だ、なんて言えねえよな」
「ふむ、少しは見所があるな。我が主に性根をたたき直してもらったようだ」
「ああ、そうだ、ゲンキには頭があがらねえほどの恩を受けちまったよ。だから、これから、俺が直接、ケンリントン伯の元に行って、わびをいれるよ。それで本気で頭を下げて格下として庇護してもらう。そいつがいい」
「我が父とて、鬼では無い、頑張ろうという隣の領主を無碍には扱うまい、誠心誠意謝れば、きっと通ずるだろう」
「ああ、そうするぜ」
なんでこのピエールは一晩ですっきり毒気がぬけちまったのでしょうね。
やはり、プロジェクトマーケティングにおける、イノベーションがアーキテクチャしてアジェンダなのだろうなあ。
いや、言ってる僕も意味はわかんないけど。
なんだか、近所の気の良い、つっぱりな兄貴みたいになったぞ。
あと、あやめちゃんのロクロ手も移ってた。
余談だが、ロクロ手って奴は、ITな論者の人が良くやる、陶芸のロクロを回すような両手のジェスチャーの事だ。
あやめちゃんは夢中になって説明してるとき、よくロクロ手になってる。
僕もだが。
「ゲンキよお、今晩は俺の館に遊びにこないか、まだまだ、話したり無いし、もっともっと領地経営の話もしてえんだ」
「悪いね、先を急いでるんだ、ピエール」
「そうか、残念だ。……なあ、旅が終わったら、俺の領地に宰相としてきてくれねえか、アヤメと共にさあ、そうしたら、俺はここをパンゲリア一の幸せな領地に、出来る気がするんだ」
「馬鹿め、我が主は、魔王討伐が終わったら、ケンリントンにて私と結婚し、幸せな領地を築くのだ」
「かーっ! マジかよ。まあそうだよなあ、こんな有能な漢はどこでも放っておかないよなあ。残念だぜ」
いえ、僕はとっとと日本に帰りますんで。
「というか、じゃじゃ馬、お前も結婚しちゃうのかよっ。結構お前は、俺のタイプだと思ってて、婚姻申込みの使者を出すかな、とか思っていたのによう」
「ば、馬鹿な事を言うな、痴れ者めっ! わ、私は、ゲンキ殿一筋、一生の伴侶と決めている。お前なぞの出番は無いっ!!」
「そうだろうなあ。まったく、世界はままならねえものだな」
そう言うとピエールは、顔をくしゃくしゃにして微笑んだ。
つうか、なんだか普通に眠いっ!!
ピエールに別れを告げて、タンクに上ると、普通にオッドちゃんが座席で、グーグー熟睡していて憎いっ!!
くっそー、なんでこんなことにっ!!
【次回予告】
運転中に眠気を覚えたら、停車して仮眠を取ろう!
交通安全はげんきの願い、機械任せの自動運転など言語道断だっ!!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第30話
初めての居眠り運転




