28. 真夜中の襲撃
なんだなんだと小道を駆けて、往還に出てみると、キルコタンクの周りに兵隊がいっぱい。
「何奴かっ! 我らは異世界召喚勇者、ヒダカ・ゲンキ様を筆頭とする、魔王討伐隊だっ!! 責任者出てこい!!」
パットが、嘘八百の名乗りを上げると、五十人ぐらいの兵隊に動揺が走った。
どいつもこいつも悪人面で、松明でてらてらと照らされていて、不気味。
「ああ、この変な車は使役勇者の物か、どおりで不思議なもンだ」
あ、なんだか、一発で悪党と解る奴が出てきた。
話の序盤でヒーローにワンパンされて倒されるタイプの奴だ。
ジャラジャラとチェーンをつけ、勲章をつけた、ひょろっとした悪相の男だ。
パンゲリア世界にうとい僕でも、悪徳貴族って、一目で解る。
「ふは、勇者様は噂通り黒髪だが、貧相な坊主だな。それに、メス餓鬼二人と、女騎士か、なんだこの組み合わせは?」
「我が君に、名を名乗れ下衆めっ!!」
「俺の名は、リガンテン子爵だ、この土地の領主さまだぜ。領主として命ずる、この車を俺に譲れっ!」
なるほどなるほど。
こんな領主だから、この領は、こんなに寂れているのね。
ダディとは大違いだ。
「俺の領には異世界人が来た事ないんだよ、坊主、お前の不思議な力で、俺の領地を豊かにしてくれよ、一生こき使ってやるぜ。嬉しいだろ」
「お断りだ」
「へへ、お前、頭が悪いな、こっちの兵力って物がわからないのか、それとも、異世界の坊主は不思議な力で、こんだけの人数をなんとかできるのかよっ、ギャーハハハハ」
何というか、知らないというのは悲しい事だなあ。
バリバリドッキャーンと轟音がして、パットの抜いた大剣に雷が落ちる。
「え、雷の、魔法剣、お、お前まさかっ」
「我が主への、貴様の暴言、万死に値するっ!!」
「ケンリントンのじゃじゃ馬英雄、パトリシアかぁっ!!」
おてんば令嬢がセットアップされちゃったよ。
どうすんのこれ。
「パットどきなさい、こんなやつら、私一人で大丈夫よ」
「え、な、なんだ? オッドに、私の事を愛称で呼んで良いとは、一言も言っていないぞ」
「み、みんなが呼んでるんだから、いいじゃないのよっ!! 何よ、駄目なの、私だけ駄目なのっ!!」
「え、あ、いや、べつに、いいのだけれどな、うむ」
あ、また、駄目人間さんたちが、斜め上の発想の喧嘩を始めた。
ほんとにもー。
異世界人の自分たちでも、よくわからない不思議な力でなんとかしてやんよっ!!
僕はあやめちゃんにアイコンタクト、あやめちゃんは咄嗟に理解してくれたようでサムズアップ。
「げんきくん、がんばれ~」
【応援】の効果が入った上で、僕は柔道を起動する。
背をまるめて、すり足で、滑るように地を駆ける。
普通に僕が走るより、すり足の方が速いというから嫌になる。
咄嗟に剣を抜いて斬りかかろうとした兵士の手の甲をおさえるようにして掴んで、すいっと送り足払い。
ステーンと転ぶ兵士。
「げんきく~ん、さらに頑張って~」
【応援】の効果がまたかかる。何度か二人で練習してるのでタイミングはバッチリだ。
兵士を、ステン、ステン、ステテンと転ばせながら、子爵に近づく。
「げんきくーん、もっとがんばって~」
「な、なんだ、貴様、その気持ち悪い動きはっ!!」
愕然として青ざめる子爵の胸ぐらをつかんで、そして、僕は言う。
「リガンテン子爵、あんたはこの領地を豊かにしたくないのかっ!」
「え? な、何言ってるんだ、お、おまえ、そりゃあ、俺だってさ、領地は豊かにしたいよ、そりゃさあ」
「じゃあ、何故、努力をしないっ!」
「おまえ、ちょっとまてよ、お前、なあ、そんなお前、努力ったってさあ、俺が領地を親から分けて貰った当初はな、頑張ろうとしたんだぜ、だけどさ、な、世の中ってのはだな、そんなに上手くいく事ばっかりじゃなくてさ」
「やる気はあるのか?」
「え、いや、そりゃまあ、その、領地が良くなれば、俺も嬉しいよ、お金があれば、贅沢もできるしよ。だけどさあ、現実って奴があってさ。なあ、坊主も解るだろ、子爵領として恥ずかしく無い軍備を揃えてだよ、その上で領地の経営、往還の整備、とかなあ、やることが一杯でさ、お金も足りないんだよ。それに、ここの領民はみんな怠け者で、働かねーしよ、俺がなんか言うとすぐ逆らうんだよ、やってられねーってもんだよ」
「領民に逆らわれるのは、お前に威厳が足りないからだ、馬鹿めが」
いや、パット、君は黙ってろな。
「ケンリントンの、お前は、お前の所の領民がどんなに良いかわかってんのかよ。そりゃあ、良い領民に恵まれていれば、そりゃ経営は楽だろうよ、こっちの領民はみんな馬鹿で、屑で、すぐ逃げるしよお、なあ、俺は悪くねえ、領民が悪いんだよ」
「ゲンキが何をやってるかちっとも解らないわ」
オッドちゃんもどっか行けよな。
「わかった、リガンテン子爵、僕が、この、異世界から来たこの僕が、不思議な力で、あんたの領地を何とかしてやろう!」
「え、本当か、坊主、良いのか?」
僕は、決めのカッコイイポーズを取る。
「僕に、頼れっ!!」
パットとオッドちゃんが解せん、という顔で僕を見ているが、放っておいて、僕はあやめちゃんを手招きする。
「げんきくん~ がんばれー」
「いや、【応援】はもう良いから、魔法紙と魔法ペン持ってきて」
説明しよう、魔法ペンとは、魔力を注入することにより、インクいらずで、魔法紙に字が書けるペンの事である。
余談だが、オッドちゃんぐらいになると、ペンも使わず、魔力の流れで魔法紙に自在に字が書けるのだった。
行くぜ、これが、僕の、異世界領地内政コンサルタントだっ!
【次回予告】
ロックアウトされた子爵領に、げんきのアーキテクチャが炸裂する。
内政をイノベーションし、鋭くプロダクトマネジメントをアジェンダするのだ!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第29話
初めての異世界領地内政コンサルタント




