27. 街道を行く、ミッシー往還
快適にキルコタンクを走らせる。
ミッシー往還は交通量が多いのか、馬車二車線の太い道路で、タンクのキャタピラもはみ出す事無く走れる。
とはいえ、馬車が対面に来るとすれ違うために、タンクを路肩に寄せなければならないし、前方に馬車がいると、追い越すのが大変。
ぬおう、なんじゃあれは、と徒歩の旅の人の声も聞こえる。
ハタケ村を飛び越すのに、初めてのジェットモード。
「チェェンジキルコッジェェェット!」
の、かけ声も勇ましく、スイッチを押せば、軽快なBGMと共に、ガッシャンガッシャンと各部が展開し、色々な物が畳まれて申し訳程度の羽が生え、ジェットモードにチェンジ、空中をホバリングして高度を稼ぎ、バシュウッとジェット一発。
一瞬で村を飛び越え、ホバーで着陸して、チェンジキルコタンクでまたタンクモードへ。
くつろぎ空間の材料を抱えて村の中を横切ってきた、パットとライサンダーと合流、オッドちゃんを除いたみんなでくつろぎ空間を再び設置。
なんといいますか、一瞬の空の旅でありました。
ちなみに、オッドちゃんはコクピットの中で、あくびをしておりました。
あんたっていう人は。
ミッシー往還を進み、ケンリントン伯爵領を出て、リガンテン子爵領に入る。
領地の境界線を越えると、目に見えて雰囲気が変わる。
貧しい家とか、朽ちた家が点々と見えるようになる。
手入れの悪いボーボーな森や、濁った池とかも、ケンリントン伯爵領では、見なかったものだ。
人々の姿も、すすけた感じで、なんか荒んだ空気が漂う。
こんなに領主さんが変わるだけで、雰囲気が違う物なのか。
一応、同じステイル王国の一地方なんだけどね。
ステイル王国というのは、僕たちが異世界に来てから旅をしていた国で、東方諸王国連邦の一つ、上から三つ目ぐらいに大きい国だ。現国王は若いながら結構善政を引いているとダディが言っていた。
東方諸王国連邦というのは、ステイル王国みたいな中小の王国が五十ぐらい集まって緩い連邦を形成しているのだ。
沢山の国がある分、いざこざも絶えず、いつもどこかで小戦争が起こっているらしい。
ダディの領地も独立すれば豊かな小国にもなれるらしいのだが、行政が面倒なので、ステイル王国に属していると言っていた。
だんだんと太陽が西に傾いて、世界がだんだんと赤く染まっていく。
夕暮れ時のもの悲しい感じは、パンゲリアでも日本でも変わらないみたいだ。
子爵領に入ってから、風景も人も寂れているから、なおのこと、もの悲しい。
こんな所に住むのはやめて、ダディの領地に引っ越せばいいんだよ、とか思うのだが、そうは簡単にいかないらしい、同じ国の中でも、戸籍の関係で、勝手に別の領地に引っ越す事はできないらしいんだ。
農家の次男、三男の人だと、新天地を求めて、開拓村に行ったりできるけど、長男の人は家を継がなければならない。
それに、開拓村といっても、最初の時期は、貧乏で、家も掘っ立て小屋で、しかも魔物も沢山でるので軌道に乗るまでは塗炭の苦しみらしいんだ。
どこでも、いろいろと人生は大変なんだなあとか思う。
「リンサン村、到着だよ」
目の前にあるリンサン村は、はじまりの村と同じぐらいの小村落であった。
「往還沿いの街道村だから、宿屋はあるだろうけど、どうしようかしらね」
「リンサン村の先だと、夜の十時頃に、デリダの町に着く感じだね」
「夜間走行も試して見たい所だけど」
ダディに食べ物を、いっぱいもらったので、とりあえずリンサン村はパスをして、先を急ぐ事にした。
パットとライサンダーに降りてもらい、
「チェェンジ、キルコォォジェェェットッ!!」
一瞬の空の旅。村を飛び越し、パット達と合流。
発進。
ゴトゴト。
だんだんと辺りが暗くなる。
視界が悪くなったので、あやめちゃんにライトを点けてもらう。
うん、結構走れるな。
「あ、リンサン村で晩ご飯だけ済ませてから、夜間走行すればよかった」
「それもそうだったわね、今から戻る?」
「どこか開けた場所で、晩ご飯を作れば良いと思うんだよ」
「まあ、六時まで進んで、どこか水場を探そう」
ちなみにキルコゲールの地図は、なにげに高性能で、地球のグーグルマップぐらいの精度がある。
地名なんかは、キルコゲールの中の人が、旅人の会話を集音マイクで拾って、随時更新なので、遠くの方だと、地名とか国の名前とかが古かったりするらしい。
ときどき、オッドちゃんが「ちがーう」とドヤ顔で突っ込んでいた。
これは、どうやって測量したのかなあと、思っていたら、魔力ソナーで随時測量とのこと、なんと高度で便利。
あやめちゃんがぐりぐりと空中を撫でると、オレンジ色のグリッド式3D立体地図になって回転もする。
敵性の獣とかは、森の中で赤い光点として表示される。
今も遠くに三匹ぐらいの熊っぽい動物がマップの中を山の方に移動している。
伝説ロボは便利の塊だなあ。
チートロボだ。
六時前ぐらいに、往還からちょっと奥まった所に泉を発見した。
わりと名のある銘水らしく、コルトの泉という看板も立っている。
食材などの荷物をタンクから降ろし、ライサンダーに乗っけて、みんなで泉への小道へ分け入る。
オッドちゃんが魔法で光の球を宙に浮かべて道を照らしている。
ちょっと森の中に入ると、チョロチョロと水音がして、澄んだ水を生み出している泉があった。
なんか光る羽虫が飛んでると、思ったら、人間ぽい体がついていて、小さなフェアリーだと気がつく。
ファンタジー!
フェアリー達は、ふふふ、と柔らかく笑いながら光を散らして、森の奥に消えていった。
あやめちゃんが、触らせろー、と言わんばかりに手をさしのべて、ぷるぷる震えていたのである。
「フェアリーさんが、フェアリーさんが、飛んで行ってしまうよ」
「妖精なぞ、森の奥には沢山いるではないか、アヤメはあんな者が欲しいのか?」
「交流したいんだよ。浪漫なんだよ」
「あいつらは頭が悪いので、面白い交流とかは出来ないぞ」
ライサンダーから食材を降ろして、夕食の準備、なかなかアウトドアな感じだ。
くつろぎ空間用のシートを泉近くの平地に敷いてクッションを置く。
オッドちゃんは、枯れ木を集めて魔法で火を付けていた。
パットがフライパンで厚切りのベーコンを炒め、あやめちゃんがなにか大きめのバスケットを開き、中から木のお椀とかお皿をとかを出してシートにならべた。
大きめのバスケットには、他にも木の皿とか、木のカップとかが入っていた。
なかなか、良い感じの食器セットだ。
「えへへ、お城のメイド長さんにもらったんだよ、野遊び用の食器セットだって」
「なんか、良い感じの食器セットだね、あやめちゃん」
バランスの良い木の椀には、伯爵家の紋章が焼き印で押してあった。
アウトドア晩ご飯のメニューは、ベーコンの焼いたもの、溶けたチーズと目玉焼きを乗せたパン、なんかの川魚を入れたコンソメ系のスープであった。
美味い美味い。
熱々のチーズと、目玉焼きが口の中で弾けるように熱くて、旨旨。
さらさらと泉から清水が、魔法光の球の灯りを反射させて流れていく。
頭上の木々をならして過ぎる風が心地よい。
お腹がいっぱいになり、オレンジみたいな良い匂いのお茶を飲みながら、僕はうつらうつらと眠くなる。
「我が君、眠いのですか、今日はここで野営にしますか」
「野営ってどうやるの」
「簡単です、マントにくるまって、横になる、以上です」
脳筋アウトドアだよ。
ふあ、眠い。
僕がころりとシートの上に横たわると、パットが優しげな表情で自分のマントを脱いで掛けてくれた。
パットのマントにつつまれると甘いような花のような匂いがする。
オッドちゃんが、なにやらシートの周りに魔方陣を書いているような気がする。
「結界よ」
小声で彼女はそういうと、クッションを背にして、ころりと横になった。
洗い物を泉ですませて来た、あやめちゃんが、寝ている僕たちを見つけて「あら」と一言を言って、オッドちゃんの隣のクッションに抱きついて寝転んだ。
とろとろと、僕は眠りに落ちていく。
今日は朝から決闘とか、スキル実験とか、ライサンダー問題とか、いろいろあって疲れたよ。
どれくらい寝たのだろうか。
いきなりつんざくような、ファイーンファイーンという大きな音で目が覚めた。
「キルコタンクからみたいだよ、げんきくんっ!」
なんだろう、焦って立ち上がる。
僕の頭の上の天頂には、木々に隠れて、黄色い月と赤い月が輝いていた。
【次回予告】
悪はどこにだって存在する、道にも、山にも、海にも、子爵領にもだ。
反省を知らない悪漢の、恥知らずな物言いに、げんきのジュードーが炸裂する。
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第28話
真夜中の襲撃




