26. パットの居場所、ライサンダーの居場所
さあ、出発だ!
と、思ったのだが、実はまだ出れていない。
ケンリンバーグの東城門前で、僕たちはまだ、うだうだして出発できてない。
沢山のお見送りの人も、飽きてしまったのか、だんだんに散って帰ってしまった。
実は、パットとライサンダーをキルコタンクのどこに乗せるかで揉めているのだ。
パンゲリアの馬は、地球産の馬よりも、一回りほど馬体が大きい、けっこうゴツイ馬なんだな。
パンゲリア馬の最高速度は、八十キロとも七十キロとも言われる。
本気をだすと、彼らは結構速い生きものなのだ。
だけど、それは最高速度であって、ずっと走り続ける巡航速度はもっと低い。
だいたい、巡航速度で二十キロから二十五キロというところ。
キルコタンクは路面にもよるけれども、巡航速度で、だいたい三十キロから四十キロほどの速度が出せる。
ちなみに、キルコゲールの中の人が、地球式の速度メーターを表示出来るようにしてくれた。
優秀だぜ、中の人。
タンクと馬で、十キロ近く速度が違うので、馬に速度をあわせるよりも、ライサンダーをキルコタンクに乗せちゃいたい、と思うのは当然の話だ。
なのだが、馬を乗せる丁度良い場所がなかなか見つからない。
「もー、馬なんか置いていけば良いじゃないの」
「そうはいかない、馬の無い騎士なんか、ただの士だ、馬に乗ってこそ騎士なのだ!」
「ライサンダーさんは癒やしキャラだから、つれて行きたいよね」
最初はキャタピラカバーの上にライサンダーを立たせてみた。
キャタピラカバーはわりと面積があるし、水平な感じだったからだ。
そしてタンクを走らせてみる。
操縦席にはほとんど振動がこないので、ショックアブソノーバーの魔法は全体に掛かってるのだとばっかり思っていたのだが、違いました、キャタピラの部分には魔法がかかっていなかった。
びりびりとした細かい揺れで、ライサンダーさんが振動して、どんどんどんどんキャタピラカバーの上を後ろに下がっていく。
危なーい!
僕は、タンクを停止させて、ライサンダーさんの命を救った。
まあ、よく考えたら、馬の足には蹄鉄があるんだもんな、それは滑るだろう。
この場所は駄目だなあ。
ライサンダーさんの居場所も困るが、パットの居場所も困る。
彼女は超でっかい大剣を背中にしょってるし、結構上背がある。
「ふむ、これは後部座席に私がまず座り、オッドを私がだっこするというのはいかがだろうか」
「絶対に嫌」
「ふーむ、では、アヤメの席に相席するのはどうか」
やってみた。
結果。
横に二人は、狭くて無理。
お尻が座席からはみ出して、二人とも痛い、との事だった。
あやめちゃんをだっこする手もあったのだが、座席を思い切り後ろに下げても、すごく狭くて窮屈らしい。
ためしに、後部座席の後ろ、荷物とか置くスペースに入ってもらったのだが、荷物もあるので、凄く狭そうで、仕舞われた感が強い。
「オッドは小さいのだから、後ろの荷物スペースに、ぎゅうぎゅうになって入るべきだ」
「狭いところなんか嫌よ。もう、諦めなさい、あんたなんか、キャタピラカバーの上で、お馬と一緒に滑っていくのがお似合いよ」
「ぐぬぬ」
パットが僕をだっこするという案が提案されたのだが、操縦の関係と、風紀が乱れるので、満場の一致で却下された。
発案者のパット一人が、ぐぬぬと唸る。
結局、解決してくれたのは、キルコゲールの中の人だった。
タンクの操縦席の後ろには、バスターランチャー発射装置、というか畳まれた腕があるのだが、その間を若干ずらした。
肩関節は照準のため少し動くのだ。
するとどうでしょう、操縦席の後ろの人型でいうと胸の辺りに、四メートル平米ぐらいの場所が出来るのです。
ちょうど、二本のミサイル発射管があったので、発射口を気持ち下げると、馬が座れるぐらいのくぼみが二つできたのです。
パットとあやめちゃんが城下街に行き、クッションとシートと絨毯を買い込んで、匠の手をいれると、
なんということでしょう。
無骨なロボットの胸の上が、素敵なくつろぎ空間に。
愛馬は藁を敷きつめた、くぼみにしゃがんで嬉しそう。
もう一つのくぼみは、素敵なクッションとゴージャスな絨毯で、ご令嬢もご満悦な素敵な寝椅子に早変わり。
頭上には突然の雨も大丈夫なように、シートが張りめぐらされ、きつい日差しも柔らかな木陰のように快適に。
まあ、変形時にはシート類を急いで畳んで、ミサイル発射管に詰め込まないといけないんだけどね。
ミサイルの暴発には気をつけなくて大丈夫、元から残弾はありませんので。
このミサイルはロボの時に使うものじゃあなくて、マリン状態で浮上した時とか、ジェット状態で空中迎撃時に使うものらしい。残弾無いけどね。
とりあえず、ありがとう、ありがとう、キルコゲールの中の匠。
というわけで出発。
大丈夫かなと後ろを振り返るけど、本体部分にはショックアブソノーバー魔法が、かかっているので、問題無いようだ。
癒やしキャラのライサンダーが滑って落ちていかなくてよかった。
なによりだ。
ちなみに、騎馬としてライサンダーが出る時には、パットが背中にのって、キルコタンクの上をぽんぽんと跳んで駆け下りる。
結構な落差を軽々と跳んでいて、ライサンダーさんの運動能力は半端ない。
オッドちゃんはなにが気に入らないのか、ふくれっ面で、ちらちらとくつろぎ空間の中のパットとライサンダーを見ております。
なんか人が快適そうに暮らしてるのが、妬ましくてしょうがないのかな。
なんという心の小ささだ。
座席のリクライニングを思いっきり後ろに倒して、ぐいんぐいんしている。
オッドちゃん、あんた、タンクの中で特に仕事とかしてないでしょ。
タンクで忙しいのは、運転手の僕と、管制員のあやめちゃんだけだよ。
「地図を出しますよ」
あやめちゃんが、画面に地図をだしてくれる。
「もう、三時近いけど、夕方までにどこまていけるかな」
「ん~、そうね、一時間ぐらいで、ハタケ村を通過、その次はリンサン村だよ」
セグリア街道はケンリントンの領都で終わって、ここからはシダリナ河にそっていく、ミッシー往還という街道らしい。
ミッシー往還は、聖堂都市ミシンガルドの街まで続く。その後、国境越えをして、メイリン街道に乗り換えたら、メイリンの街だ。
馬車で二週間ぐらいかかるというから、キルコタンクだと二三日で着くかな。
【次回予告】
往還路を行くげんきたち、だがその道は荒れはて悲惨な物へとなって行く。
姿を見せぬ悪に苛立ちながら、げんきたちは美しい泉へと足を踏み入れる。
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第27話
街道を行く、ミッシー往還




