259. 夢の中で蜘蛛は子どもと話すⅠ
あやめちゃんの片手剣修業が終わった。
「だんだん動きが良くなってきましたね」
「そして、どんどん動きが猫っぽくなってくるにゃっ」
「ありがとうございました。なんかこの盾、動きの補正が付くみたいなんだよ」
「猫の動き補正にゃ、30%ほどにゃ」
「ま、まあ、変な動きでも、効果はあるわけだから」
「ふふふ、これで、わたしも盾マスター」
「キルコゲールでは、猫盾つかえないよ」
「!」
「あと、魔法使う時は、魔法武器は発動の邪魔にゃっ」
「!」
あやめちゃんは、猫盾を構えながら、呪文を唱えた。
ばっしゅーん!
耳障りな音を立てて、魔法は誤発動した。
「ぬぬぬっ」
「魔法戦士の人は、どうしてるの? プレーンな武具だけなの?」
「魔法戦士なんか、滅多にいないにゃ」
「私も見た事がありませんね」
「伝説だと、魔法の杖の効果がある剣を持つと聞きますね」
「まあ、たぶん、魔法杖の剣でも、猫盾と干渉するにゃ」
あやめちゃんが、猫盾を抱きしめて、うるうると涙目だ。
僕は、ビアトーン家の武具目録を出して、そんな剣がないか探して見る。
「魔法杖剣なんて珍品、あるわけ無いにゃっ」
「うーん、それらしいのは無いなあ。お、短剣に魔導効果ありってのがあるね」
「ほんとう、げんきくんっ!」
僕は魔導袋に手を入れた。
出て来ません。
短剣は、クルツに一本、エルザさんに何本か上げたっけ。
あと、コルキスに何本か溶かされた。
「無いみたいね。まあどっちにしろ、短剣では、盾と合わないし」
「メイリンに売ってるかな?」
「どうだろうね、明日探してみる?」
「そういうレアな装備は、特注ですよ」
「ドワーフさんに言えば作ってくれるの?」
「どうかにゃあ」
「どうでしょうねえ」
とりあえず、今日の修行は終わりだね。
「じゃあ、僕たちは帰るよ、また明日ね」
「明日にゃー」
「ありがとうございました」
「ありがとうです」
僕らは頭を下げて、白翼の二人を見送った。
彼らは、クランハウスと言って、パーティで借りている豪邸にみんなで住んでいるのだな。
塔路の近く、連合口主道の、図書館の向かいぐらいに、白翼のクランハウスはある。とても大きいのだ。
猫盾を抱いたままのあやめちゃんと、パットと連れ立って、中庭を出る。
マイカル様は、酒瓶を持ったまま、柔道場で高いびきだ。
神さまは風邪引かないのかな。
馬車溜まりでは、まだ、こうこうと光球が輝き、冒険道具チェックをやっていた。
なんだか太い船用の縄を、リターナーさんが片付けていた。
「おう、終わったか」
「チェックはまだみたいですね」
「オッドのため込んでいたガラクタが多くてな、いらねえものを捨ててる所だ」
「がらくたって何よ!」
「ゲンキさんの道具のチェックはおわりやした、だいたいはそろってやすね」
「よかった、買った方が良い物とかありました?」
「いちおう、メモしておきやした」
「ありがとう、明日買って来ますよ」
僕は、リターナーさんからメモを貰った。
ふむふむ、釘とかトンカチとかいるのか、何かで使うんだろうね。
罠を固めるとか。
本職の言う通り買っておこう。
僕の出した冒険グッズを、魔法袋に入れていく。
と言っても、ロープとか楔とか、鏡とかだけどね。
オッドちゃんの出したイラナイ物が、馬車溜まりの隅に山とつまれている。
謎空間にいくらでも入るから、適当に入れて忘れた物品とかが多いらしい。
年に一度は出して、虫干しとかしようよ。
あやめちゃんが、猫盾を出して、オッドちゃんに見せている。
「うーん、変な魔法が掛かっているわね」
「これを使いながら魔法はつかえないかな?」
「無理ね、私ならともかく、アヤメの腕だと、干渉されちゃうわ」
「魔法の杖効果がある片手剣を持っていても?」
「この変な盾を持って、片手に魔法の杖を持って、掛けてみればいいわ」
「あ」
「魔法杖剣って、剣の形の魔法の杖なんだから、杖で誘導できるなら使えるし、駄目だったら、魔法杖剣でもだめよ」
「やってみるんだよ」
あやめちゃんは、片手に猫盾、片手に魔法のロッドを持って、詠唱をはじめた。
ボッシューーンッ。
あやめちゃんは、くったりと地面に膝をついた。
「魔法使いは、接近戦をしないから、盾なんかいらないのよ」
「だって、だって、使いたいんだよっ」
「普段、猫盾を持って、魔法を使う時だけ、地面に落とせば?」
「意味ないわよ、片手剣を持って前衛に出すの? で、魔法の時だけ、下がって盾を落とすの?」
「うむむ、確かに、あんまり意味が無いね」
今、前衛は、僕と、パットと、リターナーさんがいて、遊撃にエルザさんまで居るしなあ。
あやめちゃんは後衛で、【応援】と魔法を掛けてもらってた方が能率的だ。
「まあ、猫盾はあやめちゃん専用にするから、使う時装備すれば良いと思うよ」
「ありがとう、げんきくん。なにか、使えるようにならないかなあ」
気持ちはわかるけど、職に合わない装備だしね。
でも、きっと、持ってれば何かの役に立つこともあるでしょう。
オッドちゃんがガラクタを謎空間にしまって、僕らは馬車の中に入った。
あー、今日は新聞を持ってくるの忘れた。
シーナさんの記事は、明日読もうかな。
うん、そうしよう。
行水もパスで。
僕は、ソファーをベットに変形させて、寝転がった。
みんなも、それぞれの寝床に行った。
さて、寝よう。
……。
…………。
またベルナデットの夢を見る。
彼女は、森を抜け、草原を走る。
だんだんと人の姿が増えてくる。
そのたびに、彼女は草むらの中に身を隠す。
草が減り、難民キャンプの端に彼女は着いた。
メイリンはもうすぐだけど、身を隠す草も森も近くには無い。
彼女は草むらの中で糸を編み、服を編む。
四本ある手を変形させ、四本の足を変形させ、胴体を身体の中に隠し、人化する。
彼女はあまり、人の姿が好きでは無いようだ。
なんとなく窮屈そうな表情をして、彼女は歩く。
大きな街だ。
この前行ったキルークも大きな街だった。
メイリンも一回り小さい感じだが、ぽっこりと丘があって、高低差がありそうだ。
街を取り巻く外道をぶらぶらとベルナデットは歩く。
人でいっぱいな場所だ。
彼女は小さくつぶやく。
入り口はあるのだが、入るには書類と、何かのカードが必要なようだ。
彼女の運動能力ならば、壁を乗り越える事も出来る。
出来るが、壁の中だと逃げる事も難しくなる。
ゆるゆると、外道を歩いて行く。
橋を渡り、歩く。
壁の近くに、墓地があった。
人の残骸を埋める場所だ。
石が沢山立っていて、不思議で静かな場所だ。
鐘が鳴っている。
尖塔がある。
糸を繰り出して、壁を駆け上がる。
天辺まで昇ると、メイリンの街の中がよく見える。
ベルナデットは街を観察する。
複雑に道が繋がっていて、壁の中はみな人家のようだ。
ベルナデットは目が良い、遠くに焦点を当てて、街の中腹に勇者の姿を見つける。
なにかの催しで、沢山の人に囲まれて、勇者は楽しそうに笑っている。
小さな幸せそうな子ども、パンを持った幸せそうな少女。
あそこにいる者たちは、悩みなぞないのだろうな。
ぼそりと、ベルナデットはつぶやく。
女勇者がこちらにふり返った。
みつかった?
まさか、人の目はそこまで良くはなかろう。
女勇者が勇者を呼んだ、ふたりでこちらの方を探るように見ている。
ベルナデットは、見つかったと確信し、尖塔から飛び降りる。
あんな遠くから、なぜ解る。
ベルナデットは、墓に腰を掛けて考える。
なにかの魔法だろうか。
彼女のスタイルは、遠くから潜んでゆっくりと忍び寄り、首を刈るのが得意だ。
こんなに遠くで獲物に気がつかれた事は無い。
ふうと、尖塔を見上げ、ベルナデットは息をはく。
壁を見回す。
飛び越すのは簡単だが、もうすこし、外で情報を集めた方が良さそうだ。
せめて、逃走経路をつかむぐらいは。
なに、ベルナデットには時間が沢山ある。
勇者もしばらくこの街にいるのだろう。
急ぐ事は無い。
ぶらぶらと彼女は墓場を歩く。
納骨堂がある。
中に入る。
雨風は防げそうだ。
人の残骸を置いておく場所らしい。
骨が沢山、おいてある。
静かな場所だ。
アラクネに埋葬の風習はない、死んだ者は、仲間が食べ、血肉にする。
墓場という場所もなく、森の中に巣を糸で作り、雨風で朽ちると、別の場所に移動する。
人はなぜ、石や木で巣を作るのだろう。
弱く、脆い存在だが、沢山居て、色々な物を作り、忙しそうに動き回る。
人は不思議だ。
棺桶の上でベルナデットは横になり、物憂げな目をして、考え込んでいる。
【次回予告】
納骨堂で、ベルナデットは浮浪児と出会う。
彼の境遇を知った彼女は、問題を解決してやろうと思うのだが……。
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第260話
夢の中で蜘蛛は子どもと話すⅡ




